投稿日 2024/07/25

五感ブランディング。五感の ”互感” でお客さんの心をつかむ方法を事例から解説

#マーケティング #ブランド #五感ブランディング

ブランドは、人々やお客さんの頭の中に存在する 「良い記憶の総体」 のようなものです。

実はブランドが形成されるのには、五感での体験が深く関わっています。

今回はブランドを 「五感」 という切り口で紐解きます。

ブランドとは


あらためてブランドとは何でしょうか?

ブランドへの誤解

よくあるブランドへの誤解には、次のようなものがあります。「✕」 が誤解、「◯」 はブランドへの正しい認識です。

  • ✕ ブランドは高級なもの → ◯ 消費財や食品でもブランドは存在する
  • ✕ ブランドとはマークや名称のこと → ◯ 記憶の総体。ロゴなども含めたブランド資産から成る
  • ✕ ブランドは広告でつくるもの → ◯ 顧客接点での五感体験からつくられる

ブランドとブランディング

では、マーケティングでのブランドとは、結論から言うと、ブランドとは 「お客さんの好ましい感情が伴った商品やサービス、または企業」 です。

ここで言う好ましい感情とは、好き、共感、満足感、誇り、憧れ、応援したいという気持ちです。こうした気持ちが深いほど強いブランドです。

次に brand に ing がつく 「ブランディング (branding) 」 とは、お客さんから好ましい感情を商品・サービスに持ってもらうための 「働きかけ」 になります。

ブランドが生まれるプロセスは、良いユーザー体験からです。五感からの体験により好ましい感情移入が起こることで、お客さんの頭や心の中で価値イメージが形成され、特別な存在へと昇華されます。

今回のメインテーマである 「五感を活用したブランディング」 とは、五感を活用して、そのブランドならではユーザー体験から感情を呼び起こし、商品・サービスへの 「価値認識」 や 「らしさ」 、こんな価値を提供してくれるという 「約束ごと」 をつくり上げる活動です。

五感ブランディング


ではここからは、五感ブランディングについて見ていきましょう。

五感ブランディングでは、五感の5つに訴え、豊かな顧客体験を通してブランドをつくります。

  • 色 (視覚) 
  • 音 (聴覚) 
  • 香り (嗅覚) 
  • 味 (味覚) 
  • 素材 (触覚) 


五感ブランディングは、実際の例を知るとイメージが理解しやすいので、先に事例を1つご紹介します。

[事例] クレメンタインズノッティー & ナイスアイスクリーム


Clementine's Naughty & Nice Ice Cream (クレメンタインズノッティー & ナイスアイスクリーム) は、アメリカのミズーリ州などで展開する人気のアイスクリーム店です。

創業者であるタマラ・キーフ氏は、25年にわたる大手消費財メーカーでのマーケティング経験を生かし、自身が幼い頃に憧れた手作りアイスクリームの夢を実現させました。

現在、ミズーリ州やイリノイ州に8店舗を展開し、アルコールを含む大人向けアイスクリームやビーガン向けアイスクリームなど、幅広いニーズに応える商品を提供しています。

マーケティングの中心に据えているのは 「五感」 への訴求です。それぞれの感覚へのユニークなアプローチから、お客さんへの記憶に残る体験を提供しています。

味覚の要素から順番に見ていきましょう。

味覚

一般的なアイスクリームでは空気含有量は 50% ですが、クレメンタインズノッティー & ナイスアイスクリームは空気含有量を 30%に抑えることで、より濃厚な味わいを実現しています。

クレメンタインズノッティー & ナイスアイスクリームでは、人工的な香料、着色料、乳化剤を使用していません。また、アルコールを含む大人向けアイスクリームや乳製品を含まないビーガン向けアイスクリームも提供しています。

視覚

クレメンタインズノッティー & ナイスアイスクリームの店舗の内装は、フランス料理のビストロを思わせるデザインになっています。


店内の壁にはアート作品や専用の壁紙が飾られ、手書きのメニューが並びます。このような細部にまでこだわった店舗デザインは、訪れる人々に非日常的な体験をもたらします。

嗅覚

クレメンタインズノッティー & ナイスアイスクリームの店内外には、甘いミルクやワッフルを焼く時の香りを漂わせることで、嗅覚を刺激します。

この香りは人々の食欲をそそり、来店を促す役割を果たすことでしょう。日本のうなぎ屋が 「煙で食わせる」 のと同じように、香りを効果的に使うことでお客さんの足を店へと向かわせます。

聴覚

聴覚では、クレメンタインズノッティー & ナイスアイスクリームは音楽のテンポにこだわっています。

時間帯によって異なるテンポの音楽を流しています。昼間から夕方にかけては、テンポの遅い音楽でリラックスできる空間を提供し、夜7時以降のピークタイムには速いテンポの音楽でお店の回転率を高めるという方法をとっています。

触覚

触覚については、店内には、オリジナル T シャツなどのグッズが置かれています。他には、冷蔵庫を開けての持ち帰りや配送用のアイスクリームを手に取ることができるようにしています。

このように、アイスやそれ以外の商品への直接的な触れ合いを促しています。

来店頻度の多さ

以上のようにクレメンタインズノッティー & ナイスアイスクリームは五感の全てに訴えかけるブランディングを展開しています。

アメリカではアイスクリーム店への来店回数は全米平均で年間2 ~ 4回に対して、クレメンタインズのお客さんは15 ~ 17回も来店するという結果を出しています参考記事

現在、50店舗分の生産体制を整え、さらなる全米展開を目指しています。

五感ブランディングの意義と重要性


では最後のパートでは、五感ブランディングの意義と重要性について整理してみましょう。

ブランディングにおける 「五感」 のアプローチは、製品やサービスから豊かな顧客体験価値をお客さんに与えます。

人間の記憶や感情は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚といった五感によって影響を受けます。このため五感ブランディングは、お客さんにとってのブランド形成において中心的な役割を果たします。

記憶に残る体験の創出

五感を刺激することで、お客さんは一時的な商品やサービスの利用を超えた、忘れがたい体験を得ることができます。

ブランドを独自のものとして記憶に深く刻むことにつながり、お客さんからの親近感や愛着、推しといった心理的な熱量の高さや、通常のお客さんよりも支払いの金額が多い経済的なロイヤルティの向上に寄与します。

感情との強い結びつき

五感を通じて提供される体験は、感情と直接的に結びつきます。

たとえば、ある特定の香りや音楽が懐かしさや幸せ、安心感といった気持ちを呼び起こすことで、その感情がブランドイメージに結びつきます。感情的なつながりは、次にお客さんがブランドを選択する際の動機や後押しになるでしょう。

差異化の促進

一般的には市場には数多くの商品やサービスが存在するので、買い手の注意を引き、印象を残すことは簡単ではありません。

五感ブランディングは、他のブランドとの差異化を促進し、お客さんに独自の価値を伝える手段となります。特に聴覚 (音) や嗅覚 (香り) 、触覚 (手触り) といった、通常のマーケティングではあまり活用されない感覚を豊かな五感での体験から刺激することで、ブランドの独自性を強調できます。

全体的なブランド体験の向上

五感ブランディングは、お客さんがブランドとのあらゆる接点で経験する全体的な顧客体験を向上させます。

五感からのブランディングという働きかけは、5つの感覚が独立するというよりも相互作用の関係にあります。五感での豊かな体験を通して、5つの感覚が相互でつながるわけで、この意味において、五感とは “互感” なのです。

ブランドとは、商品やサービスにまつわるイメージや直接の体験のトータルとして、結果的に 「お客さんの頭の中」 に価値イメージとしてできあがるものです。

五感に訴えかける顧客体験によって、商品の質やサービスの効率さだけでなく、店舗のデザイン、ウェブサイトの使い勝手、パッケージの見た目や感触など、ブランドを体験する際の細部にわたってブランドの世界観をもたらすことができるのです。

まとめ


今回は 「五感ブランディング」 をテーマに、ブランドについて解説しました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • マーケティングにおけるブランドは、お客さんの好ましい感情が伴った商品やサービス、または企業そのもの。好き、共感、満足感、誇り、憧れ、応援したいなどの感情がブランドを強くする

  • ブランディングとは、お客さんから好ましい感情をつくるための働きかけ。良いユーザー体験が起点になり、感情移入が起こり、お客さんの頭の中に価値イメージを形成していく活動

  • 五感ブランディングは、商品やサービスの豊かな顧客価値をお客さんにもたらす。人の五感を刺激することで、ブランドへの深い感情的な結びつきを促す

  • 五感に訴え、お客さんがブランドとのあらゆる接点で経験する顧客体験を向上させる。商品やサービスの質だけでなく、店舗のデザインやウェブサイトの使い勝手 (UI/UX) 、パッケージのデザインまで、ブランドの世界観を総合的に伝える

  • 五感が相乗効果を生み "互感" となって刺激する体験は印象に残り、ブランドを独自のものとして記憶に刻みこむ。結果として他との差異化につながり、他のブランドとの違いをつくる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。