ビジネスの世界では、大きな資本やリソースを持っているからといって、必ずしも成功が約束されるわけではありません。
賢明な戦略と緻密な実行があれば、限られた条件の中でも大企業に勝ることは可能なんです。
今回は、駐車場シェアリングサービスのアキッパの事例から、「小が大を制す戦略」 を解説します。アキッパはどのようにして、市場をリードし一人勝ちの状況をつくるに至ったのでしょうか?
実際の成功事例から学べる 「弱者の戦略」 の秘訣を紐解きます。
一人勝ちのアキッパ
駐車場シェアリングサービス市場は、空きスペースを持つオーナーと駐車場を探すドライバーをマッチングするサービスとして人気を集めています。
大手が相次いで参入も撤退
この市場には楽天や NTT ドコモなどの大企業が参入していましたが、多くが撤退を余儀なくされました。
- 楽天*: 2017年2月参入、2018年5月終了 * 当時の社名 (2021年に楽天グループに変更)
- リクルート: 2017年3月参入、2018年6月終了
- NTT ドコモ: 2018年8月参入 (他社からの事業譲渡) 、2024年5月に終了
- ソフトバンク: 2018年10月参入、2020年1月にグループ会社へ事業譲渡 (2024年1月にサービス終了)
このように、駐車場シェアリングサービスには名だたる企業の参入が続いだものの、いずれもその後にサービスを終了しています。
そんな中、一人勝ちとも言える状況をつくっているのが、大阪市に本社を置くスタートアップ企業 akippa (アキッパ) です。アキッパは2014年4月のサービス開始から着実に市場を開拓し、現在では市場をリードするポジションにあります。
アキッパの勝ち筋
アキッパが他の大手企業と差異化ができた理由には、サービス立ち上げの初期段階からの市場での 「勝ち筋」 の理解と独自の戦略があります。
具体的には、特定エリアにおける駐車場数の集中的な増加を図る 「ドミナント戦略」 です。
アキッパは 「ドライバーは目的地に一番近い駐車場を利用したいはずで、そのニーズに応えるには、1つのエリアを集中的に開拓したほうがいい」 という見立てのもと、2015年に大阪での実証実験を通じてその有効性を見出しました。この戦略をもとに、アキッパは東京や福岡など大都市圏へと事業を拡大し、大手企業との差を拡げていきました。
さらに、エンドユーザーの拡大を目指して、プロサッカーチームや B リーグチームとのパートナーシップを積極的に開拓。これにより、スタジアム周辺の駐車場不足という問題に対応し、アキッパのサービス利用者を増加させることにつながりました。
このようにしてアキッパは、大手企業が撤退を余儀なくされる中、市場での独自のポジションを確立し、成長を遂げたのです。2024年3月時点での累計会員数は約370万人、対応する駐車場の数は3万5000カ所以上にも上ります (参考記事) 。
長年にわたる努力が実を結び、アキッパは2023年12月期には創業以来初の黒字化を達成するなど、そのビジネスモデルの成功を証明しています。
小が大を制す戦略
駐車場シェアリングサービスのアキッパは、「小が大を制す」 という鮮やかな勝ちぷりです。
アキッパの戦略と実行には、大手企業のような大資本を持たない小さなプレイヤーによる 「弱者の戦い方」 が体現されています。大手ほど人やモノ、予算などのリソースが限られるという意味でここでは弱者と表現しています。
弱者の戦略のポイントは、一点集中、局地戦、接近戦にあります。
ではそれぞれについてアキッパに当てはめ、資本やリソースが限られた状況下で、アキッパがどのようにして市場で勝ち残り、さらには市場をリードするに至ったのか、その戦略を紐解いていきましょう。
一点集中
大資本を持たない企業が大手に勝つための戦略の核心は 「一点集中」 にあります。
これは、限られたリソースを散漫にせず、これだと見極めた勝ち筋を徹底的に追求していくことです。
アキッパの場合、その一点は駐車場スペースの確保にありました。サービス開始初期から駐車場のスペースと数量を増やすことに重点を置きました。
この集中的なアプローチによって、アキッパは利用者にとって利
便性の高い魅力的な選択肢となり、そのエリアで使いやすい駐車場として選ばれる存在になっていったのです。
局地戦
次に局地戦です。
アキッパはサービスを立ち上げた当初、全国各地に広く目を向けるのではなく、特定のエリアに絞り込みました。
地域限定のドミナント戦略により、大阪の環状線内など限られたエリア内で駐車場スペースを集中的に増やすことで、その地域内でアキッパの駐車場をよく見かける高い存在感を示すことに成功しました。
こうした 「局地戦」 により、利用者が目的地から近い駐車場を求めるニーズに応えられ、そのエリア内での利用者数を伸ばしました。
接近戦
そして接近戦です。
アキッパは、エンドユーザーを獲得するための協力パートナーを見つけました。
プロサッカーチームや B リーグのプロチームに白羽の矢を立てたわけですが、こうしたプロチームの中でも、スタジアムへの集客で近隣に駐車場がないことによる、来場者の利便性が良くないことに悩みを持つチームとの協業です。
アキッパは協力パートナーとのお互いの Win-Win となる提携を図り、プロチームからはアキッパのサービスを使うことを紹介してもらいました。
プロチームにとっては、サポーターがスタジアムに行きやすくなるアクセスの利便性が向上し、アキッパにとってはこれまでは接点のなかったお客さんが増えるという新規顧客の獲得ができました。
アキッパから学び
アキッパの成功は、大手企業に対する"弱者"の立場からの戦略、すなわち、一点集中、局地戦、接近戦の効果的な選択と実行によるものです。
これらの戦略を通じて、アキッパは市場ニーズに応え、利用者基盤を拡大し、最終的には業界での独自の地位を築き上げることにつながりました。
アキッパの事例は、リソースが限られている状況でも、市場で成功を収めることが可能であることを示しています。「一点集中」 による絞り込み、「局地戦」 での地域を絞り込んでの高密度でのサービス提供、そして 「接近戦」 による協力パートナーとの Win-Win の連携は、ベンチャー企業や中小規模の事業者にとっては示唆に富む教訓となります。
アキッパの例から学べるのは、市場においてたとえ 「弱者」 であったとしても、市場のニーズと自身の特徴や強みを正確に理解し、それにもとづいた戦略を緻密に実行すれば、大きな成功を収めることができるという点です。
市場にいる大手企業に対抗するためには、見出した自分たちの勝ち筋から大手のプレーヤーとは異なるアプローチを取ることです。そして何より、その違いからお客さんにとっての価値を生み出すことが重要なのです。
まとめ
今回は、駐車場シェアリングサービスの 「アキッパ」 を取り上げ、戦略の観点から学べることを考察しました。
最後にポイントをまとめておきます。
- アキッパは 「小が大を制す戦略」 を体現し、限られたリソースの中で駐車場シェアリングサービス市場をリード。その戦略の核心には 「一点集中」 があり、初期段階から駐車スペースの確保に注力した
- 最初のころは地域限定の 「局地戦」 を展開し、アキッパはサービス密度を高めることで、利用者のニーズに応えることに成功。特定エリア内で駐車場を集中的に増やし、そのエリアでの高い存在感と利用者数の増加を達成した
- 「接近戦」 では、エンドユーザーを獲得するためにプロサッカーチームなどの協力パートナーと提携。これが新規顧客の獲得へとつながり、アキッパが市場で独自の地位を築くことに貢献した
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