投稿日 2024/07/24

【顧客心理マスターガイド】人の心理を知る!マーケティング用語10個を徹底解説

#マーケティング #顧客心理 #言語化

マーケティングには、お客さんの心理や欲求を表す言葉が複数あります。

一番よく使われるのは 「ニーズ」 です。ほかに思いつくものを挙げると、ウォンツ、ジョブ、インサイト、ペインポイント、ゲインポイント、ホープ、ドライバー、バリアです。派生してモーメントという用語もあります。

これらは10個のマーケティング用語は、もともとは英語の専門用語をそのままカタカナにして日本では使われていることもあってか、ニュアンスや意味することが人によって同じではないという印象です。

そこで今回は、先ほどの10個の人の心理や欲求を表すマーケティングの用語について、私なりの言語化をして、顧客心理の解像度を上げるという内容です。

ニーズとウォンツ


まずは 「ニーズ」 から見てみましょう。

ニーズはマーケティングだけにかぎらずビジネスの世界、そして日常生活でも普通に聞く言葉です。10個の専門用語のうち唯一、市民権を得ている用語と言っていいでしょう。

ニーズとは

もともと英語でのマーケティング用語の 「Needs」 とは、人が持つ基本的な欲求や必要性のことです。生活の中で欠かせないもの、たとえば水分を飲む、食べものを食べる、安全にすごすなどです。

英語圏での Needs という言葉のニュアンスは 「人間が生きていくために欠かせない欲求」 です。必要度合いが高いことが特徴です。

一方、日本語でのビジネス文脈でのニーズは、たとえば 「顧客ニーズ」 と言うように、Needs よりもかなり広い範囲での欲求を指します。場合によっては、このあとに見ていくウォンツやインサイトなども全て含まれているような、英語の Needs とは明らかに違う使われ方がされます。

ウォンツ

ニーズとセットになる概念が 「ウォンツ」 です。

ウォンツとは、ニーズを満たすための具体的な手段や方法を指します。たとえば、お腹が空いたので何か食べたいというニーズに対して、ウォンツはコンビニに売っているお弁当やおにぎり、食品、レストランやカフェ、フードデリバリーサービスなどです。

抽象度が高いのがニーズ、具体的なものがウォンツです。心理的な流れとしては 「ニーズ (食べたい) → ウォンツ (飲食店) 」 です。

ただしマーケティングの実務面では、厳密にはウォンツのこともひとくくりにニーズと呼んでいることは普通にあります。

ジョブ


では次に、「ジョブ」 を解説します。

もともとはクリステンセンが提唱した 「ジョブ理論」 からです。ジョブは "Jobs to be Done (JTBD) " で、日本語に直訳すれば 「片付けたい用事」 や 「済ませたい仕事」 という意味です。

 ”済ませたいこと” 

クリステンセンのジョブの定義は 「ある特定の状況で人が遂げようとする進歩」 で、次のように表現しました。

    the progress that the customer is trying to make in a given circumstance — what the customer hopes to accomplish. This is what we’ve come to call the job to be done.

    ある状況において顧客が行おうとしている進歩、つまり顧客が達成したいと考えていること。これが、私たちが 「やるべき仕事 (job to be done) 」 と呼ぶようになったものだ。


ジョブにもう少し意訳を入れると、ジョブとは人が特定の商品やサービスを使って、達成したい目的、解決したい問題、対処したい課題を指します。

ジョブ理論で特徴的なのは、商品やサービスはジョブを終わらせるために 「雇うもの」 ととらえることです。人 (雇用者) は商品を “被雇用者” や "ワーカー" として雇い、ワーカーに働いてもらうことでジョブが完了するという考え方です。

ジョブの具体例

ジョブの例は、家の部屋を手間をかけずに掃除したい、時間を節約したい、きれいな家に住みたい、自宅で気持ちよく過ごしたい、家族との時間を増やしたいなどです。

こうしたジョブに対して雇うワーカーが自動掃除ロボット、お掃除代行サービスなどです。

ジョブは、日本のマーケティングの中では、ニーズほどは頻繁には出てきませんが、個人的には私はジョブの概念は考えやすく使いやすいと思っています。

というのは、商品・サービスを手段とし 「ワーカー」 と位置づけることで、本当のお客さんの望み (ジョブ) を把握しようという意識が高まるからです。

インサイト


インサイトは、10個の中でも人の心理として最も見出しにくく、だからこそ重要性の高い概念です。

人を動かす隠れた気持ち

インサイトとは、もともとの意味は 「データや情報、観察を通じて得られる対象への深い理解や洞察のこと」 です。

たとえばお客さんの行動、動機、感情の背後にある本当の心理や本音を明らかにしたものです。お客さんが特定の商品を選んだり、ふと買おうと思ったり、見せられて思わずほしいと思ってポチッと注文する購買行動の背景には、インサイトが隠されています。

インサイトに 「顧客」 をつける 「顧客インサイト」 があります。顧客インサイトの私自身の定義は、お客さんを動かす隠れた気持ちです。

インサイトは、お客さんの表面的な言動からはうかがい知れない、深層心理や潜在的な奥にある心理です。普段はお客さん本人も意識することはありませんが、何かのきっかけで、たとえば見せられたり言われれば "心のスイッチボタン" をグサッと刺され、思わず買いたくなったりする行動につながる気持ちが顧客インサイトです。

インサイトの具体例と見出し方

インサイトは建前と本音における本音のほうです。

たとえば、普段は食事は健康的なメニューばかりで、まわりから見てもお手本のような食べ方をしている人でも、1ヶ月に1回くらいはラーメンに白米 (糖質, 脂質, 塩分) 、甘いケーキやアイスなどのお菓子 (砂糖) 、ポテトチップスなどのスナック菓子 (糖質, 脂質, 塩) 、野菜とかいらないからがっつり焼肉やステーキを食べたくなるチートデイをやっていることです。

こうした行動に本能的に向かわせるのがインサイトです。インサイトは生々しい本音なので、人には決して言わないでおこうと隠したくなったり、他人から指摘されても 「ちがう」 とつい言ってしまう心理もインサイトです。

顧客インサイトはお客さんが言葉にすることはないので、マーケターがお客さんのことを理解する過程において自ら発掘するものです。だからこそ、発見できればマーケティングへの恩恵は計り知れません。

ペインポイントとゲインポイント


これら2つはセットで解説します。

ペインポイント

ペインポイントとは、直訳すれば痛みの点ですが、人が経験している問題や不便さ、不都合、困難なことです。ペインポイントが発生していることで、不満やストレス、フラストレーションを引き起こします。

たとえば、家で自炊をしたほうが健康にもお財布にもいいとわかってはいるものの、料理に時間がかかることや、洗い物が面倒なことがペインポイントです。

ゲインポイント

ゲインポイントは、人が商品・サービスを使うときに求める喜び、プラスの結果や利益です。顧客体験や生活を向上させることにつながります。

先ほどのペインポイントはネガティブな側面だったのに対し、ゲインポイントはポジティブな要素です。

料理に当てはめれば、ゲインポイントは自分で作ったことによる達成感や満足感、健康的な食生活になることです。

ドライバーとバリア


ドライバーとバリアは、お客さんの行動に影響を与える要素です。矢印の向きは正反対になりますが、まずはドライバーから見てみましょう。

ドライバー

何を買うシチュエーションに当てはめると、購入ドライバーは、人が商品やサービスを購入する主な理由や動機です。

たとえば、商品が自分向けだと感じる、こんな価値がありそう (期待価値) 、あの人がおすすめしていた、タイミングよくセールをしていていつもより安いといったことが購入への背中を押し、ドライバーになります。購入ドライバーはお客さんの、商品・サービスへの関心を高め、最終的には購入につながる要因となります。

バリア

バリアの意味は 「障壁」 というニュアンスです。

購入におけるバリアは、人が商品やサービスを今買わない要因、購入プロセスを遅らせたり意図せず止めてしまう障害となることです。

障壁とはたとえば、ほしい商品が高価格なので手が出せない価格です。他には、もう少し商品情報や使っている人の感想 (口コミ) を知りたいがどこにも載っていない情報不足、SNS でネガティブな投稿を見てその商品へのマイナスのイメージを持ってしまったというブランドイメージの悪化、他にもっといい商品が見つかったという代替品の存在もバリアです。

こうした購入バリアがあることで人は買うという気持ちにはならず、売り手にとっては販売機会を失う要因になります。

ドライバーとバリアは、たとえバリアを取り除いたとしても、もう一押しとなるドライバーがないと、結局は買われないということもあるわけです。

その他


10個のマーケティング用語のうち、残り2つです。

ホープ

ホープは Hope からですが、人が望む姿や理想的な状態を指します。お客さんは商品やサービスを買って使うことで、自分の描くホープに近づきたいと考えてます。

たとえば、新しいスキンケア製品によって肌の状態を改善し、いつまでも若々しくいたいという希望です。

ホープという用語は、今回取り上げている8つの中では最も使用頻度が低い言葉です。

モーメント

モーメントとは瞬間を意味しますが、お客さんが商品やサービスに関与する重要な瞬間や体験を指します。

お客さんが商品やサービスのことを知ったり、思い出す瞬間、買う場面、商品を使う具体的な状況やシーンがモーメントです。この意味で、ここまで見てきた7つの用語は顧客心理なのに対し、モーメントは顧客心理が生まれたり、表に出てくる、あるいは心理が変化する瞬間です。

モーメントの例は、大きなものでは結婚や出産、入学・卒業、就職や転職など人生におけるイベント、季節のイベント (クリスマスや夏休み, 新年度シーズンなど) 、日常生活でのよくあるシチュエーションです。

たとえば、一年間で最も健康意識がモーメントは、健康診断の結果が返ってきていくつかの項目に 「C」 や 「D」 をあるのを見て、ちょっとこれは食生活や生活習慣を見直さないとやばいかもと思った瞬間です。こうしたモーメントに健康食品メーカーが的確に訴求できれば、普段よりも意識を向けてもらいやすいでしょう。

生活者は常に商品やサービスのことを四六時中で考えていることはありません (売り手はいつも考えてます) 。知ったり思い出すには何かしらのきっかけがあり、その瞬間がモーメントです。売り手の視点では、お客さんが商品の広告などのメッセージを受け取りやすく、購入する可能性が高い特定の瞬間や機会になります。

各マーケティング用語の全体俯瞰


ここまで、マーケティング用語の中で、人の心理に関する10個を見てきました。

  • ニーズ
  • ウォンツ
  • ジョブ
  • インサイト
  • ペインポイント
  • ゲインポイント
  • ドライバー
  • バリア
  • ホープ
  • モーメント


最後のパートでは、10個を俯瞰することで、関係性や生じる流れを整理してみます。

近い概念のもの

日本語のカタカナの10個のマーケティング用語において、概念の意味合いが似ているものを探すと、大きくは2つのグループに分けられます。

ひとつはニーズ、ジョブ、ホープです。日本語ではニュアンスが近い概念です。

もうひとつは、ペインポイントとゲインポイント、ドライバーとバリアです。

それぞれ2つの組み合わせは、ネガティブとポジティブな正反対な関係ですが、欲求の階層としては近い深さに位置するものです。ペインポイントは解決すべき問題でゲインポイントは解決することで得られる利益、ドライバーは動機でバリアは障壁であるため、表裏一体の関係にあると言えるでしょう。

深いものと浅いもの

深さの観点で整理をすると、10個の中で最も深いところにある深層心理は 「インサイト」 です。


一方で、浅いところ、つまりより具体的で表出化している心理は 「ウォンツ」 です。そして、心理がつくられたり、無意識下にあったものに自分で気づく、心理が変わる瞬間が 「モーメント」 になります。

全体の流れ

これらの整理を前提に、今回取り上げたマーケティングでの人の欲求や心理に関係する8つの概念について、発生から表出化し具体化されていく全体の流れを整理してみましょう。

インサイトを起点とする流れ

2つありますが、1つ目が、

    インサイト → ニーズ / ジョブ / ホープ → ウォンツ → モーメント → ドライバー / バリア

最も奥にあるインサイトは、普段は隠れている深層心理です。日常生活では意識されることはなく、無意識下に眠っています。

何かのきっかけで 「心のスイッチボタン」 が押されると、インサイトはニーズとして顕在化します。ニーズと近い概念であるジョブ (済ませたいこと) 、ホープ (実現してほしいとのぞむこと) が生じると捉えてもいいでしょう。

ニーズが具体的なものへと意識の対象が移るとウォンツとなります。その起こる瞬間がモーメントという構図です。そして、バリアを乗り越えドライバーによって購入に至ります。

インサイトからウォンツとなるモーメントを具体なシーンに当てはめると、

  1. いつもは食事は節制しているので、知らず知らずのうちにフラストレーションがたまっている。実は爆発寸前だが本人はそこまでとは感じていない [インサイト]

  2. なんだか今日は無性に甘いものを食べたい。家に帰った夜に食べてしまいたい [ニーズ / ジョブ / ホープ]

  3. いつもコンビニで気になってたあのプレミアムスイーツを3個全種類を一気食いしたい [ウォンツ]

  4. 午後の仕事の時間で、ずっと進めていた企画提案がボツになり、心が折れた瞬間 [モーメント]

  5. コンビニのチルド商品棚の前で3つのスイーツが全てそろっている。今日は買ってほしいことを主張しているように見え、いつもの買うのをためらう気持ちが起こらない [購入ドライバー / 購入バリア]


このように、インサイトが潜在意識として存在し、何かのきっかけでニーズ (ジョブ, ホープ) という欲求が表に出てきて、欲求への対象がより具体的なウォンツになり、ドライバーに押されるというのが心理変化の流れです。

ペインポイントやゲインポイントを起点とする流れ

もう1つ、ペインポイントやゲインポイントを使って流れを整理すると、

    ペインポイント / ゲインポイント → ニーズ / ジョブ / ホープ → ウォンツ → モーメント → ドライバー / バリア

ペインポイントは人が抱える問題や不便さ、ゲインポイントはその逆で得られる喜びやプラスのことを指します。

ペインを解消したい、ゲインを得たいという欲求がニーズになり、あるいはジョブやホープが発生し、それがウォンツに向かうというプロセスです。

言語化と整理をしてみて


最後に編集後記的なことを少し。

あらためて思うのは、今回の10個のマーケティング用語を言語化すると、ニーズという言葉だけが知名度や利用頻度が、他とくらべて群を抜いて高いことに気づきます。

ニーズ以外にもウォンツやジョブ、インサイトがありますが、ニーズという用語が広く使われれ、ニーズ以外の今回の全ての用語をカバーしていることもあります。たとえばインサイトのことを 「顧客がはっきりとは言葉にできていない “潜在ニーズ" 」 と説明され、ニーズのなかの1つと位置づけられることもあります (マーケティングの本で見たことがあります) 。

日本語でのカタカナでの 「ニーズ」 は多様であり、人の欲求におけるさまざまな心理を表す概念です。しかし意味が広すぎるがゆえに、お互いに言ってることがずれてしまうことが起こります。

私自身もビジネスの場では、相手はニーズと言っているが厳密にはウォンツのことだったり、インサイトと称するものがそんなに深いものではなく本来の意味でのニーズにすぎないと思うことはしばしばあります。

とはいえ、アカデミックな世界でなければ、使う言葉を 100% 正しくしていくことは現実的ではないでしょう。現場ごとに臨機応変に対応するというのが正解です。

だからこそというか、自分の中では今回言語化した10個のマーケティング用語については、解像度を高く意味合いを捉えておきたいです。

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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。