投稿日 2021/03/30

人気テレビ番組プロデューサーに学ぶ、n1 分析の有効活用の方法


今回はマーケティングです。n1 分析の有効な活用方法を考えます。

✓ この記事でわかること
  • 人気テレビ番組プロデューサーの番組ネタ集めの方法
  • インタビュー調査で超具体のエピソードを知る
  • マーケターがやる 「個客から顧客へ」 という抽象化

記事では最初に、ある人気番組のプロデューサーの方がやっている番組ネタ集めの方法をご紹介します。

この方法はマーケティングでのユーザーインタビューに参考になります。記事の後半では n1 分析の有効活用の方法として掘り下げています

ぜひ最後まで読んでいただき、お仕事での参考になればうれしいです。

人気テレビ番組プロデューサーの番組ネタ集め



この話は Marketing Native の記事からです。

テレビ朝日人気プロデューサー・芦田太郎が語る 「『あざとくて何が悪いの?』が国境を越えて愛される理由と新規視聴者獲得への取り組み」|Marketing Native

テレビ番組プロデューサーの芦田さんが説明していた、番組のネタを集める方法が興味深かったです。

以下は記事から該当箇所の引用です。

細部を取りこぼさずにリアルに描くために、どんな工夫をしていますか。

大事なのはリサーチですね。新型コロナウイルス感染症の拡大後は Zoom を使って、最初は友人、そこから友人の友人と広げて、最終的にはほぼ面識のない女性と合計100人くらい話しました。

初めは知り合いに 「お酒を飲みながらでもいいから、友達を呼んで話を聞かせてくれない?」 と頼んで、「飲み会でこんな人がいた」 というフリートークから始めます。さらに 「~ なシチュエーションだったらどうする?」 「LINE の場合は?」 「相手を少しでも好きだったら?」 と細かく状況や条件を掘り下げて質問していきます。

そうした座談会を AD が記録を取っているので、印象に残ったエピソードやワードを 「ネタリスト」 にストックしていく作業をひたすらやっています。

超具体のエピソード集め


引用した内容を整理すると、

  • Zoom で合計100の女性にインタビューをした
  • 細かく状況や条件を質問で訊き、対象者から具体的なエピソードを収集した (例: 飲み会の状況、LINE の使い方) 
  • 恋話印象に残ったエピソードやワードを 「ネタリスト」 にストックする

インタビューからやっていることは、マーケティングの言葉で言えば n1 分析です。1人の相手を徹底的に深く理解する方法です。

Marketing Native の記事では 「ニッチな具体性のあるリアリティが視聴者への共感を生む」 とありました。ここで言う具体性のあるリアリティとは、記事では直接は触れられていませんでしたが次のような話です。

✓ ニッチな具体性のあるリアリティ
  • 実際にあった飲み会の話
  • メンバーの決め方, お店の選び方と予約
  • 飲み会に参加したメンバー
  • 注文したドリンクやフードのメニュー
  • 飲み会で盛り上がった会話, 男性陣から出たドン引きしたネタ
  • 女性トイレでの会話
  • 初対面の相手との LINE 交換
  • 当日夜の LINE でのやりとり (女性同士, 気になった男性との) 

* * *

インタビュー調査の有効活用の方法



ここからは考察です。

ご紹介している Marketing Native の記事は、マーケティングでインタビュー調査を有効に使う方法としてヒントがあります。

インタビュー調査をやる意味は、ターゲット対象者からの超具体的なエピソードの収集です。具体的なシチュエーションや、商品・サービスの利用シーンです。

アンケート調査や人からの伝聞ではなく、直接対話をして掘り下げることになって初めてうかがい知ることができます。

これは私の経験からですが、1対1のインタビュー調査では少なくとも30分、できれば1時間をかけて訊いていきます。インタビューテーマや相手とのコミュニケーションの相性にもよりますが、例えば1時間のうち45分ほど経過して、ようやく相手が自ら本音を語りだしてくれたこともありました。

インタビュー対象者から聞けた具体的なエピソードの1つ1つは、マーケターにとって大切なネタです。ターゲット顧客を理解する時、マーケティング戦略や施策をつくるのに役に立つ情報です。


超具体エピソードの先


とはいえ、インタビュー調査は相手の具体的なエピソードを集めることがゴールではありません。

もう1つ次にやることがあり、具体からの抽象化です。インタビュー相手の 「個客」 としての具体エピソードから、他の個客のエピソードとの共通点をグルーピングして一般化します

具体例に当てはめてみましょう。

2人の女性の毎日の楽しみ



例えばのケースで2人の女性にインタビューをしたとします。1人は28才の社会人女性、もう1人は48才の主婦です。

28才の社会人女性が毎日やっているのは、インスタで好きなハッシュタグを使ってファッションコーディネートをモデルの着こなしから見ることです。48才の主婦は毎月送られてくる通販カタログ雑誌のページを毎晩見るのを楽しみにしています。

この2人の共通点は何でしょうか?

一言で言えば、予想外に出会うことがある 「これ欲しい」 と思える瞬間を楽しんでいます。専門用語を使えばセレンディピティです。

背後には日常生活でどこか満たされない、本人もはっきりとは気づいていない悩みがあります。28才の社会人女性は職場での人間関係、48才の主婦は夫や子供との最近のコミュニケーションの少なさです。特に子どもが中学生になり以前とは会話が減りました。

2人の共通点は、満たされない思い (自覚できていない対人関係の悩み) があり、「これいいな」 となる瞬間への偶然との出会いに楽しさを感じ、不満のはけ口になっているのです。

個客から顧客へ


以上のイメージが 「個客から顧客への転換」 です。

n1 分析からは個々の具体的なエピソードを収集し、マーケターに求められるのはその先です。

奥にある背景と気持ちの共通点を見出し、「個客」 から 「顧客像」 に抽象化します。抽象化した本質的な顧客理解を、市場機会、マーケティング戦略立案、施策への落とし込みに活かします。


まとめ


今回はインタビュー調査の有効活用方法についてでした。

最後にまとめです。

人気テレビ番組プロデューサーの番組ネタ集めの方法
  • Zoom で合計100の女性にインタビューをした
  • 細かく状況や条件を質問で訊き、対象者から具体的なエピソードを収集した (例: 飲み会の状況、LINE の使い方) 
  • 印象に残ったエピソードやワードを 「ネタリスト」 にストックする

超具体のエピソードを知る
  • インタビューから具体的なシチュエーションや、商品・サービスの利用シーンを集める
  • 具体的なエピソードの1つ1つはマーケターにとって大切なネタ
  • ターゲット顧客を理解する時、マーケティング戦略や施策をつくるのに役に立つ

マーケターの役割は 「個客から顧客へ」 という抽象化
  • インタビュー調査は具体的なエピソードを集めることがゴールではない。やるのは 「具体からの抽象化」 
  • インタビュー相手の 「個客」 としての具体エピソードから、他の個客エピソードとの共通点をグルーピングして 「顧客」 へ一般化する
  • 奥にある背景と気持ちの共通点から個客から顧客像に抽象化する。本質的な顧客理解を、市場機会、マーケティング戦略と施策立案に活かす


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。