投稿日 2021/03/23

ベビースターラーメンのマーケティングを、抽象化力とイノベーションで解説

今回はマーケティングです。

✓ この記事でわかること
  • ベビースターラーメンの売上を伸ばしたマーケティング事例
  • [So what 1] 具体と抽象からの横展開
  • [So what 2] イノベーションは辺境から生まれる

今回取り上げるのはお菓子のベビースターラーメンです。

Marketing Native に掲載されていたベビースターラーメンのマーケティングの話が興味深く、思ったことを2つ書いています。2つとは抽象化力とイノベーションです。

ぜひ最後まで読んでいただき、お仕事での参考になればうれしいです。

ベビースターラーメンのマーケティング事例


今回の話は Marketing Native のインタビュー記事からです。

おやつカンパニー専務 / マーケティング本部長・髙口裕之が語る 「ベビースターラーメン再活性のポイントと、新規事業創出の戦略と勝算」|Marketing Native


ベビースターラーメンのマーケティング事例を興味深く読みました。

以下はインタビュー記事からの引用です。

ベビースターラーメンの料理への活用ということですか。これはどの辺りからの発想ですか。

もんじゃ焼き屋さんに行くと、ベビースターラーメンを置いている店が多いことに以前から気づいていました。おやつカンパニーにジョインしたとき、メンバーに 「この会社がもんじゃ焼き屋さんに働きかけた結果、店に並ぶようになったのか」 と聞いたところ、「何もしていません」 と言うのです。つまり、もんじゃ焼き屋さんは自分たちで、ベビースターラーメンともんじゃ焼きが合うと感じていたということです。

その話を受けて、料理レシピの検索アプリで調べてみると、ベビースターラーメンを料理に使う例がいくつもあることがわかりました。それは他のスナック菓子にはない特徴です。「ということは、消費者が本能的に “ベビースターラーメンは料理にも使える菓子” という感覚を持っているのだ」 と気づき、料理展開への基礎体温を感じたのがきっかけです。

マーケティングの基本である 3C 、STP 、4P のスタイルでリテンションを検討すると、「料理に使える側面」 を打ち出すことがスナック菓子市場の中で独特のポジショニングとなり、競合ブランドとの意味のある差別化に有効であるという仮説がすぐに見えてきたため、2018年から料理の方向へ舵を切り、レシピ本も発売。結果的に店頭回転は回復し、2年連続で前年越え、総需要量も2014年時を超えるまでになっています。

また、「料理に使える」 というパーセプション付与のコミュニケーションは情報に実用性があるため、広告、宣伝コストを中長期的にセーブしやすいと考えたことも意思決定の重要なポイントでした。

話をまとめると


引用が少し長かったので、整理しますね。

✓ 整理すると
  • 想定外の使われ方
  • ポジショニングの変更
  • マーケティング施策と結果

おやつカンパニーにとって発見だったのは、お菓子として売っていたベビースターラーメンがもんじゃ焼き屋さんで、もんじゃ焼きのトッピングの具として使われていました。 おやつカンパニーにとっては想定外の使われ方です。

他にも料理レシピサイトで調べたところ、ベビースターラーメンが食材として色々な料理に使われていることがわかりました。

ここからベビースターラーメンのポジショニングを、お菓子だけではなく 「ベビースターラーメンは料理にも使える」 と捉え直しマーケティング施策を展開しました

お菓子だけではなく食材に使われることによって利用シーンが増えました。

これまでベビースターラーメンを買っていなかった人たちが買い (新規客の増加) 、今まで買っていた人も食材用に買いました (既存客の購入量の増加) 。新規と既存でダブルで売上の拡大です。

* * *

思ったこと2つ


ベビースターラーメンの話から思ったのは次の2つです。

✓ ベビースターラーメンの事例から思ったこと
  • 具体と抽象からの横展開
  • イノベーションは辺境から生まれる

ではそれぞれについて順番にご説明しますね。

[思ったこと 1] 具体と抽象からの横展開


ベビースターラーメンの事例は、具体の発見を抽象化し、横展開したプロセスとして興味深いです。

抽象化力という観点から捉えることができます。抽象化力とは、具体と抽象を自然に行き来できる思考力です。

プロセスは次のような三段階です。

✓ 具体と抽象からの横展開
  • ものごとを解像度高く具体化する
  • 具体を抽象化する
  • 抽象化した本質を別の具体に落とし込む

図でイメージを共有すると、次のようになります。


ポイントは図で赤字で示しているように具体から本質を見出し、つまり一度抽象化してから別の具体に当てはめます

ベビースターラーメンの話を 「具体と抽象からの横展開」 に当てはめると以下のようになります。

✓ 具体と抽象からの横展開
  • もんじゃ焼きや料理レシピサイトでベビースターラーメンは食材として使われていた [具体]
  • お菓子だけではなく 「料理の食材に幅広く使えるベビースターラーメン」 というコンセプトへ [抽象]
  • 料理の方向へ舵を切り、レシピ本も発売するなどのマーケティング施策を実施 [横展開]

ちなみにベビースターラーメンのレシピ本はこちらです。


[思ったこと 2] イノベーションは辺境から生まれる


ベビースターラーメンの事例は、イノベーションを起こしたという捉え方もできます。

イノベーションとは辺境から生まれます。本流ではなく隅っこからです。

ベビースターラーメンの本流はお菓子やお酒のおつまみでした。それに対してもんじゃ焼きのトッピングや料理の食材で使われたことは辺境です。メーカーはそのような使い方は想定していませんでした。辺境の地で起こっていたことに気づかなかったわけです。

この状況を異端として見逃さず排除せずに、むしろユーザーニーズと捉え積極的に取り入れマーケティングに活用したのです。

イノベーションになるような従来とは非連続なシフトやジャンプは、主流ではない辺境で密かに兆しが生まれます。先見の明のある人が辺境の地の事象を発見し意味合いを見出し、本流に変えていきイノベーションが起こります

ベビースターラーメンの 「食材に幅広く使える」 というコンセプトは、イノベーションのプロセスに当てはまる興味深い事例でした。


まとめ


今回はベビースターラーメンのマーケティング事例を、抽象化力とイノベーションの視点で掘り下げました。

最後にまとめです。

具体と抽象からの横展開
  • ものごとを解像度高く具体化する
  • 具体を抽象化する
  • 抽象化した本質を別の具体に落とし込む

ベビースターラーメンの 「具体と抽象からの横展開」
  • もんじゃ焼きや料理レシピサイトでベビースターラーメンは食材として使われていた [具体]
  • お菓子だけではなく 「料理の食材に幅広く使えるベビースターラーメン」 というコンセプトへ [抽象]
  • 料理の方向へ舵を切り、レシピ本も発売するなどのマーケティング施策を実施 [横展開]

イノベーションは辺境から生まれる
  • ベビースターラーメンの本流はお菓子やお酒のおつまみ。もんじゃ焼きのトッピングや料理の食材で使われたことは辺境
  • この状況を見逃さず、むしろユーザーニーズと捉え積極的に取り入れマーケティングに活用
  • 先見の明のある人が辺境の地の事象を発見し意味合いを見出し、本流に変えていきイノベーションが起こる

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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。