#マーケティング #ブランディング #BGCとUGC
デジタル環境が生活の中に当たり前のように溶け込み、SNS での口コミなどの UGC (ユーザーが生成するコンテンツ) がブランドの認知や購買行動に影響しています。
一方で、企業主導のブランドからの情報発信である BGC (Brand Generated Content) も欠かせない存在です。
今回は 「BGC × UGC」 によるクロスメディア展開が、どのように相乗効果を生むのか、実際の事例とともに解説します。
BGC と UGC を組み合わせる意義
まず、BGC と UGC それぞれの役割と、組み合わせることで生まれる効果を見ていきましょう。
BGC (Brand Generated Content) とは
BGC とは、Brand Generated Content の略です。Brand とあるように企業やブランドが主体となって制作・発信するコンテンツのことです。例えば、テレビ CM やブランド広告、公式サイトの情報などが該当します。
企業が伝えたいメッセージやブランドイメージを明確に、そして統制された形で届けることを目指します。ブランド認知度の向上や、新商品のコンセプトを広く知らせる役割を果たします。
UGC (User Generated Content) とは
UGC は User Generated Content です。一般ユーザーによって作られ、SNS 等で発信されるコンテンツを指します。SNS での口コミやレビュー以外にも、ブログ記事、個人の YouTube 動画などが代表例です。
UGC には企業発信ではない、第三者のリアルな声として受け止められやすいという特徴があります。商品やブランドを身近に感じたり親近感を抱き、購買意欲に影響を与えます。消費者は購入前に UGC を参考にすることが普通になりました。
BGC と UGC を組み合わせる効果
BGC と UGC は、それぞれ異なる役割と特徴を持っています。2つを戦略的に組み合わせることで、マーケティング効果を高めることが期待できます。
- 認知と信頼の両立: BGC でブランドや商品の存在を広く知ってもらい、UGC でユーザーからのリアルな評価や共感を得る。「知っている」 から 「信頼できる」 「買ってみたい」 へと消費者の心理的ハードルを下げる
- メッセージの多様化: BGC でブランドの世界観やコンセプトメッセージを伝え、UGC では多様なユーザー視点からの具体的な使用感やメリットが語られ、情報に広がりと深みが生まれる
- 情報接触機会の増加: 複数のチャネルで BGC と UGC が展開されることにより、消費者がブランド情報に触れる機会が増え、記憶に残りやすくなる (メンタルアベイラビリティの向上)
花王エッセンシャルの BGC と UGC の活用事例
では、BGC と UGC の活用を具体的な事例で詳しく見てみましょう。
花王のヘアケアブランド 「エッセンシャル」 のリブランディング事例は、BGC と UGC の連携が成功したお手本例です。
背景や取り組み
発売から長年愛されてきたエッセンシャルですが、若年層の間では 「実家にあるシャンプー」 という古いイメージが定着していました (参考情報) 。
若年層からの認識を変える (パーセプションチェンジ) という課題に対し、花王は 「ブランドイメージの刷新と若年層へのアプローチ強化」 を目的としたリブランディングを実施しました。その中心になったのが、BGC と UGC を戦略的に組み合わせたクロスメディア施策です。
ブランド広告 (BGC) で 「若年層の心をつかむ」 土台づくり
BGC においては、花王は若年に人気を誇るグローバルグループ NewJeans を起用したテレビ CM やデジタル広告を展開しました。
BGC により、エッセンシャルが変わったという新鮮さと話題性を生み出し、若年層の注目を集めることに成功。ブランドイメージを刷新し、新しいエッセンシャルへの興味関心を喚起する土台を築きました。
SNS × インフルエンサー施策 (UGC) で 「自分ごと化」 を促進
BGC でつくった土台の上に、花王は UGC 施策を展開しました。インフルエンサーに商品を紹介してもらうだけでなく、各 SNS プラットフォームの特性とターゲット層に合わせた情報発信を行いました。
具体的には TikTok では Z 世代に人気のクリエイターを起用。エッセンシャルのコスパの良さや等身大の実際の使用感をクリエイター自身の言葉で語ってもらえ、若い消費者が 「これなら自分にも合っているかも」 「試してみたい」 と感じられる自分ごと化を促進しました。
Instagram でも Z 世代に人気のインフルエンサーによる使用感の発信に加え、美容レビューを得意とするインフルエンサーによる詳細な商品レビューを展開しました。
また、BGC 広告を見て商品を検索したユーザーへの受け皿としても機能させました。
例えば YouTube では美容への関心が高い層に向けて、成分解析を得意とするクリエイターを起用。長尺動画の特性を活かし、商品の特徴やこだわりを深く、じっくりと伝えることを狙いました。
これらの UGC 施策は、インフルエンサーマーケティングに強みを持つウィングリット社が中心となり、花王、スパイスボックス (デジタル施策の進行管理) 、博報堂 (BGC 担当) との 4 社が連携する 「ワンチーム体制」 で推進されました。各社が専門性を持ち寄り、BGC と UGC が有機的に連動するよう戦略を練り上げたのです。
クロスメディア施策で生まれるシナジー
花王のエッセンシャルの事例では、BGC と UGC が連携し、相乗効果を生み出しました。
NewJeans を起用した BGC 広告で大きな話題と注目を集め (認知・興味喚起) 、その熱量を引き継ぐ形で各 SNS 上での UGC が広がっていきました。
消費者は、広告で見たエッセンシャルの商品を、インフルエンサーが実際に使っている様子や、詳細なレビューを目にすることによって、「本当に良さそう」 「自分も使ってみたい」 という気持ちが高まったことでしょう (評判形成・購入促進) 。
BGC と UGC の相乗効果の結果として、SNS での反響も大きく、X での発話は4月単月で前年比の約60倍、Instagram でも前年比の約4倍となりました (参考情報) 。
定性面では、エッセンシャルの 「実家にあるシャンプー」 というイメージから脱却し、若年層からも 「エッセンシャルのイメージが変わった。シャンプー買いに行く」 という声が多く聞かれたとのことです。
リブランディング後の2024年4 ~ 5月の売上が約1.2倍に伸長し、最も重視していた10 ~ 20代のブランドシェアで1位を獲得しました。売上への効果が一時的なものではなく、それ以降もシェアを維持できている点は注目に値します。
BGC と UGC から相乗効果を起こすポイント
花王エッセンシャルの事例から、BGC と UGC を活用するためのポイントを整理してみます。
BGC と UGC の役割分担と連携を明確にする
BGC と UGC のそれぞれの施策で 「何を達成したいのか」 という目的を明確にし、BGC と UGC の役割分担を決めることが重要です。
BGC はブランドイメージの構築や大規模な認知獲得、UGC は信頼性の担保や購買意欲の向上など、それぞれの得意領域は異なります。BGC と UGC の2つが分断されるのではなく、一貫したメッセージのもとで連動するようにコミュニケーション戦略を設計します。
ターゲット層に合わせたプラットフォームとインフルエンサー選定
コミュニケーション施策では、誰に、何を、どうやって、どのプラットフォームで伝えるかが成功のカギを握ります。
届けたい相手が普段利用しているメディアや SNS は何か、どういう状況でどんな心理的モードから、どのような情報を求めているか。UGC を想定した場合はどんなインフルエンサーに影響を受けているかを理解し、最適なプラットフォームと発信者を選定する必要があります。
特に UGC では、エッセンシャルのように、TikTok 、Instagram 、YouTube それぞれの特性に合わせて人選や訴求内容を変える工夫が必要です。
熱量のある UGC を生み出す関係性構築
UGC の効果を高めるには、インフルエンサーやユーザーが商品やブランドのことを本当に良いと思って発信してくれるような、熱量のあるコンテンツが消費者からの共感を呼びます。
そのためには、企業 (ブランド側) は日頃からインフルエンサーと良好な関係を築き、商品への理解を深めてもらう努力が求められます。単に報酬を払っての PR 投稿だけでなく、インフルエンサー自身の言葉や感性を活かした、正直で熱意のこもった発信内容が、ユーザーの共感と信頼につながります。
効果測定と継続的な改善による PDCA
BGC と UGC による施策を実行したら終わりではなく、効果を測定し、継続的に改善していく PDCA サイクルを回すことも大事です。
各プラットフォームでの反響 (エンゲージメント率, コメント内容) 、売上への貢献度などを分析し、何がうまくいき、何が課題だったのかを把握します。
そして検証の結果をもとに、次の施策の改善点を見つけ、コミュニケーション方針と中身を柔軟にアップデートしていくことが、持続的な成果を生み出します。エッセンシャルの事例でも、定例会議で常に状況を確認し、対応をアップデートしていました。
ワンチームでの推進体制
BGC と UGC 、さらに他の施策 (例: 店頭販促) も含めて、全体としての一貫性を保ち、相乗効果を生むためには、関係部署やパートナー企業が一体となって推進する体制が理想的です。
花王のエッセンシャルの事例のように、各分野のプロフェッショナルが企業の枠を超えて連携し、共通の目標に向かって強みを活かした役割分担と実行、情報交換を密に行うことで、より効果的でスピーディーな意思決定と実行ができます。
BGC と UGC は決して対立するものではありません。2つは互いを補完し合い、マーケティング効果を高める関係にあります。花王エッセンシャルの事例は、BGC と UGC の組み合わせることの重要性と具体的な実践方法を教えてくれます。
まとめ
今回は、BGC と UGC の相乗効果について、花王のエッセンシャルの事例から、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- BGC (企業発信) で広く話題づくりを行い、UGC (ユーザー発信) でリアルな評価を補完する。BGC からブランド認知・イメージ構築、UGC により信頼性・購買意欲向上を狙う
- 注力顧客が利用するプラットフォームやメディア、影響を受けるインフルエンサーを見極め、情報・コンテンツの内容や発信方法を最適化する
- インフルエンサーやユーザーとの良好な関係を築き、商品・ブランドへの深い理解を促すことで、信頼性の高い正直で熱意のこもった UGC を生み出すことを目指す
- 関係部署やパートナー企業が一体となるワンチーム体制を築き、情報共有を密に行う。推進体制の構築により効果的かつすみやかな意思決定と施策実行ができる
- 施策実行後は効果を測定・分析し、評価にもとづいてアップデートする PDCA サイクルを回し、持続的な成果につなげる
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