#マーケティング #差別化の罠 #普通という王道
競合の商品やサービスとの差別化を追い求めるあまり、かえってお客さんが離れてしまう…。そんな 「差別化の罠」 に、知らず知らずのうちに陥ってはいないでしょうか。
首都圏で400店舗以上を展開する中華チェーン 「日高屋」 は、業界の常識とは逆のアプローチで成功を収めています。創業者が掲げたのは 「普通でどこでも好かれる味」 という、一見地味に思える戦略でした。
今回は日高屋の事例から、過度な差別化がもたらす弊害と、万人受けを狙う王道戦略の威力について考えます。
日高屋
日高屋は、シンプルな中華料理やラーメンを低価格で提供し、首都圏を中心に駅前など利便性の高い立地で展開しているチェーン店です。
1973年に創業者の神田正会長が5坪ほどの中華料理店 「来々軒」 を開店したのがはじまりでした。現在では400店舗以上 (2025年2月期時点で455店) 、2025年2月期に過去最高の売上高556億円、営業利益55億円を計上するまでに成長しました (参考情報) 。
日高屋は、ラーメン、ギョーザ、チャーハンなどの中華料理を手頃な価格で提供します。セントラルキッチンを導入することで、調理の手間を減らして多店舗展開から、品質の安定と効率化を実現しています。
日高屋は昼はランチ、夜はちょい飲みという使い方ができるのも特徴で、ビジネスパーソンや学生など幅広い層に支持されています。
日高屋が目指したのは 「普通でどこでも好かれる味」 を徹底すること。個性を求める傾向が強い飲食業界では逆張りとも言えますが、これが成功を生み出しているのです。
では、日高屋の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
「普通でどこでも好かれる味」 の追求
日高屋の創業者である神田会長は、自社のラーメンについて 「日高屋のラーメンの味って普通でしょう?特にこれといった個性があるわけではない。だけれど、どこにいっても好かれる味なの。これで、店が増え続けているんです」 と語っています (参考情報) 。
多くの飲食店が独自性や強烈な個性を追求する中で、日高屋はあえて 「普通であること」 、そしてそれが 「どこでも好かれる」 という最大公約数的な味であることを強みとしているのです。
普通を突き詰める姿勢は、味付けが平凡であるという意味ではありません。多くの人々が日常的に求める味の基準を満たし、いつ食べても期待を裏切らない品質を提供するということです。
日高屋ならではの安定感と安心感が、リピーターを生み出し、口コミを通じて新規顧客を獲得する原動力となっているのでしょう。
過度な差別化の罠
日高屋の普通を追求するアプローチは、ビジネスにおける 「過度な差別化の罠」 に対するアンチテーゼとして捉えられます。
差別化は競争優位を築く上で重要な要素ですが、差別化に固執しすぎると弊害が生じます。
顧客不在の差別化
差別化自体が目的化してしまうと、お客さんが本当に求めている価値から離れてしまいます。
日高屋もかつて 「ラーメン館」 という業態で全国のご当地ラーメンを提供しようとしましたが、味が伴わず客足が遠のいた経験があります。多様な個性を追求したものの、お客さんを置き去りにしてしまったのです。
奇抜さや目新しさだけを追い求め、顧客の基本的なニーズ (おいしい, 安心できる味, 手頃な価格など) を満たせなければ、一時的な興味関心を消費者から引けても持続的な支持は得られません。
売り手が 「他社と違うこと」 にばかり目を向けると、その違いが 「お客さんにとって意味のある価値なのか」 という視点が抜け落ちてしまいます。結果として、消費者やお客さんから受け入れられず、独りよがりな商品やサービスを生み出してしまうわけです。
競合との消耗戦
競合との違いを際立たせることに注力しすぎると、本質的でない部分での競争に陥り、経営資源を浪費してしまいかねません。また、競合を意識しすぎるあまり、自社の強みや本来提供すべき価値を見失うこともあるでしょう。
日高屋は、大手チェーンとは異なる 「屋台のように気楽に立ち寄れる店構えで、安く一杯飲んで食べられる中華料理店」 という駅前戦略に集中し、価格競争や奇をてらったメニュー開発といった消耗戦とは一線を画しました。
競合他社が新しい特徴を打ち出せば、それに対抗するためにさらに新しい特徴をといったことを続けるだけでは、終わりのない競争に巻き込まれます。
マーケティングの示唆
日高屋の事例から、マーケティングへの示唆が得られます。
差別化を目的化しない
差別化は、あくまでお客さんや世の中に価値を提供するための手段に過ぎません。
なぜ差異化を図るのか、その違いはお客さんが本当に望む便益と結びついているのかを自問自答することが大事です。
大切なのは、顧客ニーズや利用シーンにどれだけ即しているかを常に考えることです。お客さんが抱える困りごとを解決したり、望みを満たすことを独自にできるという差異化でなければ、結局のところはお客さんにとっては意味がないのです。
顧客視点・現場視点を失わない
日高屋の創業者の神田会長が、「仕事のあと駅前に立って、毎日終電の時間まで駅前の様子を見ていた」 、「たまに店舗で社員と飲むことがあるけれど、半分は話に没頭して、半分は、必ずお客さんや店内の様子を見ています」 と言うように、現場に足を運んでお客さんの様子を観察した姿勢は、過度な差別化の罠に陥らないために有効です。
お客さんが本当に喜ぶポイントを見つけ続けるためには、現場でのお客さんの声や行動観察から得られる顧客理解が欠かせません。机上の論理だけではなく、実際の消費者・顧客の反応を見ながら戦略や施策を修正していく柔軟性が大事になります。
万人受けを狙う "王道" も戦略のひとつ
日高屋のように、多くの人々に受け入れられる 「平均点の高さ」 を狙う戦略も有効です。
たとえば外食や日用消費財など、リピート利用が前提となる業種では、一部の熱狂的なファンを獲得するような尖った差別化よりも、広い客層を取り込み、飽きさせない一定水準の品質や安心感からの無難さを目指すというようにです。収益の安定化、ひいては持続的な成長につながります。
売り手が 「他社との差別化」 という言葉にとらわれ、奇をてらった施策に走りすぎてしまうと、お客さんを置き去りにしてしまいます。
そうなると、企業が本来提供すべきお客さんへの価値提供が成り立たなくなります。差別化が目的化し、顧客不在の自己満足に陥ってしまうのです。
一方、普通を突き詰めれば、日高屋のように 「どこでも好まれる味」 と 「大衆が利用しやすい価格・サービス」 が実現されます。
これは妥協や特徴がないことを意味するのではありません。大きいマーケットを捉え、幅広い客層にアプローチし、かつオペレーションの効率化を図るという合理的なビジネスとなり得ます。
もちろん、高級志向や専門特化のビジネスもあり得ますが、それが本当にお客さんが求めているかを見極めることが重要です。日高屋の成功物語は、あらためて 「尖った差別化だけが正解とは限らない」 ことを教えてくれます。
まとめ
今回は、中華チェーン店の日高屋を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 差別化の追求が目的化されると、消費者やお客さんが本当に求める本質的な価値からズレてしまい、独りよがりな商品やサービスに陥る危険性がある
- 競合他社との違いを意識しすぎるあまり、本質的でない部分での消耗戦に陥り、自社の強みや限られたリソースを浪費してしまう可能性もある
- 多くの人に受け入れられる 「普通の良さ」 や 「平均点の高さ」 を徹底的に追求することは、特に日常的に利用される商品やサービス分野において、安定した成長と幅広い顧客基盤を築くための有効な 「王道の戦略」 となり得る
- どのような戦略を取るにせよ、その根底には常に顧客目線を持つことが重要。お客さんが何を本当に求めているのかを理解する
- 現場の状況や顧客の声を継続的に観察し、戦略に反映させる。独りよがりな差別化を避け、お客さんにとって価値あるものを提供し続けることが重要
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