投稿日 2025/11/25

梱包資材を 「コスト」 から 「ブランド体験」 に変える shizai 。顧客価値の再定義

#マーケティング #価値の再定義 #ブランド体験

自社のビジネスにおいて 「これは単なるコスト」 と割り切っているものはないでしょうか?

もしかしたら、その 「当たり前」 が、お客さんを魅了するチャンスに変わるかもしれません。

今回は、ネット通販の配送に使われる 「梱包資材」 の事例を取り上げます。コスト削減の対象でしかなかった資材を、「お客さんへのブランド体験を伝えるツール」 へと昇華させた shizai という会社の取り組みです。

常識を疑い、新たな顧客価値を生み出すヒントを探ります。

資材を "コスト" から "ブランド体験" に変える shizai


ネット通販では、商品が自宅に届いて最初に目にするのは段ボールなどの梱包材です。

売り手にとって梱包資材は長い間、「コスト」 として捉えられてきました。

そんな常識に一石を投じ、資材を 「ブランド体験を伝えるコミュニケーションツール」 へと昇華させているのが株式会社 shizai です。

出典: shizai

shizai は、E コマース事業者が抱える資材調達の課題からスタートしました。

shizai は、事業開始当初、E コマース市場の成長可能性を感じる一方で、事業者が資材選定や工場選定に困っている現状に着目しました (参考情報) 。

同じ仕様のパッケージでも工場によって価格が異なり、コスト構造が不透明であるという問題がありました。そこで shizai は、同じものを得意な工場でより安く提供する取り組みを始め、徐々にサプライチェーン全体の最適化へと提案の幅を広げていったのです。

特に DtoC ブランドの台頭は、資材の役割を大きく変える転換点となりました。

オンラインで丁寧に作り上げられたブランドの世界観も、商品が簡素な茶色い段ボールで届けば、買い手の顧客体験は損なわれてしまいます。この気づきから、shizai は梱包材という 「ただの箱」 を 「ブランドのタッチポイント」 へと再定義し、顧客体験を起点としたパッケージ開発に取り組んでいます。

学べること


では、shizai の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

思い込みや先入観を疑う

従来の固定観念を打ち破ることから、新しい価値は生まれます。

E コマースにおいては、資材は 「できるだけ安く抑えたいコスト」 でした。コスト削減こそが正義という見方が一般的でした。しかし shizai は、資材の機能を見直すことで、実はオペレーション負担が減り、総コストが下がるケースがあることを見出したわけです。

例えばそれはこんなケースでした。あるブランドが事業急成長に伴い、従来のミカン箱型の段ボールでは梱包作業が追いつかず、出荷遅延という機会損失を招いていました。

shizai は、箱の構造そのものを見直し、組み立てが簡単な 「ワンタッチ底」 やテープ不要の 「サイド差し込み + 送り状封緘 (ふうかん) 」 を採用することを提案。物流倉庫の人件費や手間を大幅に削減し、同時に開封時のユーザー体験も向上させました。

資材単価自体は上昇したものの、梱包作業の工数削減や、顧客体験向上による LTV (顧客生涯価値) 向上といったトータルで見ればプラスの効果が期待できます。

安いことが絶対的に正しいという常識を疑い、安い段ボールを使うのが当然という前提を覆しました。資材がブランドや物流にもたらす新しい価値に目を向けたからこそ生まれた発想の転換です。

本質的な顧客価値の再定義

shizai は資材の本質的な価値を再定義しました。

shizai が見出したは、資材は単なる梱包材ではなく、商品が届く瞬間にブランドの世界観を強く伝えるコミュニケーションツールであるということです。

消費者が商品が配送され自宅で受け取った瞬間の印象や期待感を高め、ブランドのストーリーをリアルな形で体験させる媒体としての役割です。箱はただの箱ではなく、お客さんとブランドが初めて物理的に触れ合う 「最初の直接的な顧客接点」 と捉え直したわけです。

shizai によるこの再定義は、DtoC ブランドの成長と関わっています。

オンライン上でブランドの世界観を丹念に作り込んでいる DtoC ブランドにとって、リアルな顧客接点になるパッケージは、ブランドの世界観をお客さんに届けるための重要なメッセンジャーとなります。

shizai はデザインや設計段階からブランド (shizai の顧客企業) と共に考え、コスト削減だけでなくブランドを伝えるためのパッケージを追求しています。

例えば、おもちゃのサブスクリプションサービスを手掛ける企業からは、 「子どもが箱を開ける瞬間にワクワクできるようなデザインにしつつ、輸送にも耐えうる資材」 という要望があったそうです。

shizai は、こうした具体的な顧客体験のイメージをもとに、最適な資材ソリューションを共創しています。資材によってお客さん (エンドユーザー) にどのような感情を抱いてもらいたいか、どのようなブランド体験を提供したいかという、より本質的な価値に焦点を当てているのです。

顧客価値を最大化する 「使い方」 まで提案する

顧客価値を再定義した shizai は、優れた資材を提供するだけにとどまらず、資材が現場でどのように活用され、最終的にどのような価値を生み出すのか、具体的な 「使い方」 にまで踏み込んだ提案を行っています。

例えば、物流現場の問題意識として、資材の種類が増えることによる管理の煩雑さや、組み立てに手間がかかることによる作業効率の低下が挙げられます。

そこで shizai は、物流現場の視点に立ち、「この資材を使えば、組み立て時間が平均 X 秒短縮できます」 や 「テープによる封緘作業が不要になります」 といった、具体的な数値や作業工程の改善を示し、現場の負担軽減という直接的なメリットを提示します。

また、shizai がある大手メーカーから 「自社の健康管理プロダクトを消費者の日常の中で無理なく取り入れられるようになってほしい」 という話を受けた際には、「トイレに置けるスタンド型の薄型段ボール」 という、消費者の生活導線に自然と溶け込む 「使い方」 を提案しました。

資材を通じて製品の利用価値そのものを高めようとする、一歩踏み込んだ価値提案です。

shizai は、顧客企業の課題や理想とする消費者体験を理解し、実現するための具体的な使い方までデザインすることで、資材の提供価値を最大化しているのです。

視座を高めて、視野を広げる

shizai の取り組みで印象的なのは 「四方良し」 という考え方です。

四方とは、ブランド、倉庫、工場、そして shizai 自身という、サプライチェーンに関わる全てのステークホルダーがメリットを享受できる仕組みを目指すというものです。

具体的には、以下のような関係性を理想としています。

  • ブランド: 箱を活用してブランド体験を強化し、顧客ロイヤルティや売上を高める
  • 倉庫: 組み立てやすく、保管しやすい資材によってオペレーションを効率化し、人的負荷を軽減する
  • 工場: 得意領域を活かした製造を行い、利益を確保しながら品質や納期にも対応する
  • shizai: ネットワークを生かして三者を繋ぎ、最適な組み合わせを提供する


このように、誰か一方が利益を得て他方が損をするのではなく、関係者全員が Win-Win となる仕組みを構築するためには、個々の視点だけでなく、サプライチェーン全体を俯瞰する高い視座と広い視野が大事になります。

shizai は、資材業界における 「情報の非対称性」 を課題として挙げます。「この工場が得意な分野」 や 「この倉庫が使いやすい」 といった情報は、なかなか表に出てこないのが実情です。

だからこそ shizai が良い組み合わせを可視化し、プラットフォームとして整理することにより、関わる全員が本来の力を発揮し、より大きな価値を創造できます。

これは資材を提供するというビジネスを超え、業界全体の最適化を目指すという高い視座からのアプローチです。

企業が自社の事業を見つめ直す際、視座を高め、関わる全てのプレイヤーにとっての価値を考えることによって、持続可能な成長と新たなビジネスにつながります。

まとめ


今回は、梱包材の価値を見直したという shizai の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 思い込みや先入観を疑う。従来の常識や固定観念を見直し、例えば 「安いことが正義」 などの前提を疑うことにより、新しい価値や発想の転換が生まれる

  • 本質的な顧客価値の再定義。商品やサービスの機能だけではなく、顧客体験や感情的価値まで含めた本質的な価値を見つめ直し、再定義する

  • 顧客価値を最大化する 「使い方」 まで提案する。商品・サービスの活用方法まで踏み込んだ具体的な提案を行い、顧客価値を最大化させる訴求をする

  • 視座を高めて、視野を広げる。自社や直接の顧客だけでなく、関わるステークホルダーや業界、さらには社会全体にとっての価値を考えることで、より持続可能で大きなインパクトを生むビジネスモデルを構築できる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。