投稿日 2025/05/27

飲むコーヒー 「YOINED (ヨインド) 」 。常識を疑い、新しい価値を創る商品開発

#マーケティング #新商品開発 #顧客価値

新しい商品を開発する際、今まで当たり前だと思っていた常識を疑い、これまでにはない価値を見出すことによって、新たなビジネスが生まれる可能性を秘めています。

今回は、飲むことが当たり前だったコーヒーに対して、UCC 上島珈琲が 「食べるコーヒー」 という発想の転換によって誕生させた 「YOINED (ヨインド) 」 を取り上げます。

ヨインドの事例から、新しい顧客体験を創出する新商品開発をテーマに、得られる示唆を考えます。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

食べるコーヒー 「ヨインド」 


出典: UCC

 "飲まないコーヒー" という新発想

まず目を引くのは、ヨインドが 「飲むコーヒーではない」 という点です。

UCC 上島珈琲が独自に開発し特許を取得した製法によって、コーヒー豆をまるごと粉砕し、油脂でコーティングしています。コーヒー豆本来の香りや味わいを閉じ込めた "食べるコーヒー" という新しいスタイルを実現しました。

一般的にコーヒーは抽出された液体を飲むため、焙煎したコーヒー豆をお湯で煮出し、不要になった粉は廃棄します。一方のヨインドの場合は -196℃ の環境下で豆を粉砕し、圧搾 (あっさく) 工程で得られたコーヒーオイルも使って油脂で固めます。この方法により、コーヒーの成分を余すところなく摂取することができます。

豆本来の甘み・酸味・苦味をダイレクトに味わえる

コーヒー豆の甘みや酸味、苦味は、コーヒー豆の中に複雑に同居しています。通常のドリップコーヒーでは、豆に含まれるこれらの要素が抽出過程で若干変化し、最終的には液体となって飲みます。

一方、ヨインドは抽出すること自体を行わないので、豆そのものの風味をダイレクトに感じられる点が特徴です。コーヒーオイルも一緒に味わえるので、口に含んだ瞬間から後に残る余韻まで連続して豊かなコーヒーのフレーバーが広がります。

2種類のラインナップとおつまみ提案

ヨインドは、コーヒー豆の配合率に違いをつくった2種類のラインナップを用意しています。

ひとつはコーヒー豆の使用量 40% の 「クレイジーブラック」 です。苦味や濃厚な香りが際立ち、コーヒー豆の力強さを存分に堪能できるタイプです。もうひとつは豆の使用量 15% の 「メロウブラウン」 で、まろやかな甘みが加わり、カフェオレのような味わいを楽しめます。

2種類のヨインドを 「おつまみコーヒー」 として位置づけ、お酒とのマリアージュを提案しているのも新しい試みです。クレイジーブラックはラム酒やウイスキーの香りを引き立て、メロウブラウンは甘味やフルーティーな日本酒とも合うとのことです。こうした 「新しい食べ方の提案」 がコーヒー体験に新たな彩りを与えます。

新商品開発への学び


ヨインドの事例は、新商品を開発する場合に、どのように新しい顧客体験をつくるかという点で参考になります。

ではここからは、ヨインドからのビジネスへの汎用的な示唆を掘り下げていきましょう。

既存の常識を疑ってみる

これまでは 「コーヒーは飲むもの」 という常識が長年にわたって存在してきました。しかし UCC は 「食べるコーヒー」 という発想の転換により、コーヒーの世界にまったく新しいカテゴリーを切り開きました。

新商品開発の最初の一歩として、「今当たり前だと思い込んでいることは、本当にこれからも常識であり続けるのか?」 という問いを立ててみることが大切です。特に市場が成熟しているジャンルほど、既存概念というバイアスを疑い、アップデートできれば新しいビジネスの可能性につながります。

自社が持つ独自資源を活かす

ヨインドは、UCC が20年以上の研究を経て取得した特許技術が活用されました。コーヒー豆の持つ成分をフルに活かし、油脂コーティングで香りを閉じ込めるという UCC の独自製法は、他社が容易に真似できない 「独自資源」 です。

新商品の開発を成功させるには、「自社が持っている優位性やリソースは何か」 を見極め、その独自資源をコアに据えて、新しい価値を生み出すことが大事です。技術やノウハウだけでなく、開発ストーリーやブランドが打ち出す世界観、他には顧客コミュニティも独自資源になり得ます。

こうした独自資源を活用した商品開発ができれば、他にはない存在の商品やサービスになれます。

新しい切り口を顧客価値につなげる

とはいえ、独自資源を活かすたけでは商品開発が成功するとは限りません。重要なのは独自資源が最終的に顧客価値を生み出していることです。

ヨインドの 「食べるコーヒー」 という切り口は、今までになかった目新しい商品をつくっただけでは終わっていません。「コーヒー豆を丸ごと味わう」 「コーヒーオイルの芳醇 (ほうじゅん) さを体感する」 という顧客価値がともなっていました。

新商品開発において大事なのは、おもしろい発想を形にしたということでとどまらず、その発想がお客さんにとって魅力的な体験やメリット (便益) をもたらすことです。

利用シーンやライフスタイルを変える提案から顧客訴求する

ヨインドが "おつまみコーヒー" として、ラム酒や日本酒とのペアリングを提案しているように、新しい商品は既存の楽しみ方や使用シーンを広げることによって、一段と魅力が増します。

コーヒーは通常、朝食や仕事の合間、食後に飲まれるイメージが強いですが、ヨインドは 「晩酌のおつまみ」 という全く異なるコーヒーを楽しむシチュエーションを提案することによって、コーヒーのポテンシャルをさらに解き放ちました。

このように、自社の商品やサービスを 「どんなシーンでお客さんに使ってもらえるか」 や 「新しいライフスタイルとして提案できるか」 までを意識することによって、新しい顧客体験をつくりだし、その結果として市場開拓が実現するのです。

まとめ


今回は、UCC 上島珈琲の食べるコーヒー 「ヨインド」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 既存の常識を疑う: 成熟した市場やジャンルなど、既存概念を見直し、新たな発想で顧客価値を創出する可能性が広がる。思い込みやとらわれへの再考や再解釈が新たなビジネスチャンスを生む

  • 独自資源を活かす: 自社独自の能力やリソース (技術, ノウハウ, ブランド力など) を活かすことで、他社が真似できない商品開発、マーケティングが可能となる

  • 新しい切り口を顧客価値につなげる: 新しい発想や切り口は目新しさで終わらせず、お客さんにとっての魅力的な体験やメリットにつなげることが大事

  • 顧客価値をシーンやライフスタイルに結びつける: 商品を新たな利用シーンやライフスタイルに関連付けることによって、市場創造への可能性を広げられる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。