#マーケティング #4P #顧客起点

今回は、MTG (エムティージー) のリカバリーウェア 「ReD」 (レッド) の事例から、「顧客中心のマーケティング」 とは何かを考えます。

MTG のリカバリーウェア 「ReD」 

出典: MTG

高価格帯ブランドを展開する MTG が、初のマス市場への挑戦として立ち上げたブランドが 「ReD」 です。

ReD は、着用すると血行を促進するとうたうリカバリーウェアブランドです。

MTG が約 8 年かけて開発した独自繊維技術 VITAL TECH を採用し、薄手のインナーでも高い効果が見込めることを特徴としています。

ReD の製品ラインアップは、インナーウェア (3,960 円から) 、T シャツ (6,600 円から) 、パジャマ (13,200 円から) があります。通常のリカバリーウェアの製品価格が 2 ~ 3 万円の高価格帯中心であることと比べると、ReD は低 ~ 中価格帯に位置づけられます。

美容家電 「リファ」 やトレーニング機器 「シックスパッド」 など高価格帯ブランド中心だった MTG にとって、ReD はより広い消費者層に向けたブランドです。

そのマーケティングには顧客が中心にいるか

マーケティングの基本のフレームワークに 「マーケティング 4P」 があります。

4P とは 4 つの英語の頭文字からで、Product, Price, Place, Promotion です。製品、価格、販売場所、広告・販促の 4 つです。

マーケティング 4P を理解するには、その本質を押さえる必要があります。

マーケティング 4P の本質

マーケティング 4P (Product, Price, Place, Promotion) を単に 「製品を作り、価格を決め、流通に乗せ、広告する」 と理解していては、4P の真価を発揮できません。

マーケティング 4P の中心には、常に明確な顧客像が存在すべきです。

大切にする注力顧客が明確だからこそ、4 つの P は連動し、一貫した戦略ストーリーを形成します。しかし、もし顧客像が曖昧なまま各 P を決定すると、製品と価格が合わない、流通チャネルと顧客接点がずれる、といった問題が生じます。

MTG の ReD の事例をマーケティングの観点で紐解く鍵は、この 「顧客設定」 にあります。

ReD の注力顧客像

MTG が ReD が選んだのは、病院・クリニックを最初の最重要チャネルとするという方針でした。この判断は、明確な顧客セグメントの選定そのものです。

ReD の顧客像は、使用者と購入者という二層構造で設計されています。

前者の使用者とは 「健康課題を抱える患者」 です。

実際に ReD のリカバリーウェアを着用するのは、入院患者、通院患者、または療養中の人々です。

重要なのは、こうした使用者のニーズは抽象的な 「健康意識」 ではなく、具体的な健康課題の改善だという点です。予防的な健康維持ではなく治療・療養の補助を求めており、効果の有無が重要でエビデンスが購買決定の決め手になります。

一方の購入者は 「患者の家族」 です。

実際、ReD の購入者の多くは女性ですが、実際に売れているのは男性向けの商品が中心で、夫の健康を気遣う配偶者が購入するケースとのことです。患者の配偶者や子どもという購入者像が浮かび上がります。

患者の家族、患者である自分の大切な家族の健康に具体的な不安を抱え、「何か少しでも回復に役立つことをしてあげたい」 という思いを持つ一方で、医療費負担もある中で高額出費は避けたいという心理もあることでしょう。また、病院の中のお店という医療現場で販売されているという 「お墨付き」 が、医療機関が認めたという安心感を与えます。

病院という 「場」 が持つ意味

病院・クリニックは、ReD の注力顧客層のニーズが最も顕在化している場所です。

健康課題がはっきりと認識され、「何とかしたい」 という動機が高まっているからです。同時に 「病院で売っている」 ということ自体が商品への信頼を生み出し、低価格でも 「安かろう悪かろう」 と思われにくい環境なのです。

顧客中心に設計されたマーケティング 4P

では、注力顧客像が、ReD のマーケティング 4P をいかに実現していったのかを順に見ていきましょう。

[Product] リカバリーインナーウェア

リカバリーウェアの多くは厚手のパジャマです。MTG 社内でも ReD の開発にあたって 「パジャマのほうが売れる」 という意見が強かったといいます。

しかし MTG は、注力顧客である患者の使用シーンを徹底的に考えました。

入院中の患者は病院支給のパジャマを着ており、その下に着られるインナーこそ必要とされる。薄手で着ぶくれせず、洗濯しやすく衛生的。退院後も日常生活で普段着の下に着続けられます。さらにパジャマは 1 ~ 2 着で十分ですが、インナーは複数枚を着回してローテーションする買い替え需要があります。

判断の決め手は、注力顧客がどのような状況で、どのように使うのかという具体的な使用シーンの理解からでした。

[Price] 低価格

ReD の開発では、MTG の社長からは 「5,000 円以下」 という絶対条件が下されました (参考情報) 。

この価格設定も、注力顧客のおサイフ事情や購買心理を深く理解してのものです。

入院患者やその家族には医療費負担がある中で、インナーウェアに 2 ~ 3 万円という価格は躊躇してしまう。しかし 5,000 円を下回るなら試してみることができるはず。効果を実感すれば追加購入やパジャマなど他のカテゴリーのリカバリーウェアの追加購入も期待できます。

低価格の意図は初回購入のハードルを下げるだけでなく、複数枚購入を前提とした LTV (顧客生涯価値) の最大化を見据えたものでした。

こうした徹底したコスト設計の結果、ReD のインナーウェアは税込みで 3,960 円での発売にこぎ着けました。

[Place] 病院

MTG が病院チャネルに注力した理由は、そこに注力顧客が実際にいて、ニーズが最も高まっているタイミングで接触できるからです。

とはいえ、病院の開拓は容易ではありませんでした。

当初は医療機器販売ディーラーに協力を求めましたが、半年間にわたって苦戦し続けました。そこで MTG は専任営業担当者による直接営業に切り替えました。

ReD のマーケティング 4P で興味深いのは、MTG が最初に選んだ販売チャネルが最難関の病院だったことです。

一見すると矛盾する 「低価格」 と 「信頼」 というふたつの要素を成立させるために、病院という信用されたチャネルで信頼できる低価格ウェアとして打ち出したわけです。

病院という場所で販売することで 「医療の現場が認めたウェア」 「低価格なのに信頼できる」 という価値イメージに変わりました。

病院という販売チャネル獲得の決定打となったのは、病院での採用実績を新聞広告などで公表したことです。病院側から問い合わせが殺到し、最もハードルの高かった病院チャネルを最初に攻略したことで実績が信頼の証しとなり、家電量販店やスポーツ用品店、調剤薬局など他チャネルへの提案も通りやすくなりました。

[Promotion] 低価格訴求

ReD で、MTG としては異例のプロモーション戦略が採られました。

従来のリファやシックスパッドでは機能性やブランドイメージを前面に出していましたが、ReD では機能性よりも低価格であることを大々的に訴求しました。

マーケティングへの学び

では最後のパートでは、ReD の事例からマーケティングに学べることを掘り下げていきます。

戦略の要諦は 「矛盾の統合」 にある

ReD のマーケティング 4P を俯瞰すると、「低価格」 と 「信頼」 という一見矛盾する要素の統合という洞察が浮かび上がります。

消費者は、低価格の製品やサービスには 「安かろう悪かろう」 という品質への疑念を招くものです。しかし MTG は、病院で売っているという状況を戦略的につくり出したことで、「低価格なのに信頼できる」 という独自ポジションを狙いました。

これを可能にしたのが、明確な顧客設定です。一般的なリカバリーウェアは健康意識の高い層への予防的な位置づけと捉えられ、購買動機は 「あったらいいな」 というものでしょう。それに対して ReD は、健康課題を抱える層への治療・療養の補助で、購買動機は 「必要だ」 というものです。

このように想定する顧客が異なれば、価値の定義も、価格の意味も、求められる信頼の形も変わるのです。

マーケティング 4P は顧客という 「中心」 があって初めて機能する

4 つの P は個別に決定されるものではなく、注力顧客像を中心に据えて初めて一貫性を持ちます。

マーケティング 4P は、「顧客は誰で、どんな顧客課題を抱え、どのような状況で製品を使うのか」 という問いに答える形で設計すべきです。

ReD の場合、「健康課題を抱える患者とその家族」 という明確な顧客設定があったからこそ、まずはインナーウェア、低価格、病院、低価格訴求という 4 つの P がつながって連動しました。

おわりに

MTG の ReD の事例からの学びは、マーケティング 4P の  4 つの P をうまく組み合わせたという話にとどまりません。

明確な注力顧客像を中心に据え、注力顧客の課題感、使用シーン、購買心理を深く理解し、そこから逆算して 4 つの P を設計したという点にあります。

マーケティングとは、お客さんのことを理解することから始まります。この基本原則を、MTG の事例はあらためて教えてくれます。

あなたの会社の製品やサービスのマーケティング 4P は、お客さんを中心に設計されているでしょうか。そして、4 つの P は互いに連動し、一貫したストーリーを形成しているでしょうか。

まとめ

今回は、MTG のリカバリーウェア 「ReD」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • マーケティング 4P の 4 つの P は個別に決定するのではなく、明確な注力顧客像を中心に据えることで初めて連動し、一貫した戦略ストーリーを形成する
  • 顧客理解が 4P 設計の起点となる。注力顧客の課題や状況、心理を深く理解することで、価格の意味、チャネル、求められる信頼の形、価値、どう伝えるかが導かれる
  • 顧客中心のマーケティング 4P は矛盾のない顧客体験をもたらす。一貫したストーリーがブランドとして信頼をつくる