#マーケティング #戦略ストーリー #組織開発

優れた戦略は、計画や施策を積み重ねた結果ではなく、全体がひとつの物語として語れるものです。

そして、ストーリーが組織に納得感と実行力を生み出します。

今回は、戦略を物語にすることをクラシコムの事例から紐解いていきます。

クラシコムの社内文化

出典: note

EC サイト 「北欧、暮らしの道具店」 を運営するクラシコム。

クラシコムは、19 期連続の増収・増益を達成しながら、全社平均の残業時間は月 4.2 時間という独自の働き方を実現しています。

株式会社は 「自治領」 である

クラシコムの青木耕平社長は、株式会社のことを 「国家の中にある自治領のようなもの」 と捉えています (参考情報) 。

公序良俗に反していなければ、誰とどんなビジネスをするか、どれくらいもうけるか、どこで活動するかが自由。その自由を確保するために、利益を出し納税するという条件を満たす。つまり、株式会社という形をとることで、自分たちの価値観や倫理観を外部から邪魔されず 「自治領」 として表現できるという考え方です。

ケアの循環

では、株式会社という 「自治領」 をどう運営するのか。

クラシコムが採用したのが、「ケアの循環」 という考え方です。

経営者が執行役員をケアし、執行役員がマネージャーをケアし、マネージャーがスタッフをケアし、スタッフが顧客や取引先をケアする。そして顧客や取引先が事業をケアする。

こうしたケアの循環によって、組織は命令や管理ではなく、お互いに助け合う関係性に支えられた 「自発性」 で動くようになります。

ドライな組織づくり

ここで興味深いのは、クラシコムの組織づくりには、外部から見ると不思議に映る特徴があることです。

それは 「ケアの循環」 を経営の中心に据えながら、実際の運営は徹底して 「ドライ」 にしているということです。

ここで言うドライとは、例えばクラシコムでは懇親会を会社経費としていません。会社として、懇親会の開催は制限もしないものの、業務時間外に行うため自己負担が原則です。

多くの経営者がこの事例を知ったとき、おそらく首をかしげるでしょう。ケアを大切にするなら、温かい人間関係を築くために、社員同士の親睦は会社が積極的に負担してもいいのではないか、と。実際、社員の絆を深めるために飲み会や懇親会を福利厚生費で支援する企業は数多く存在します。

しかしクラシコムは、あえてこれをしません。

懇親会は、業務時間外に参加するなら自己負担が必要になります。また、社員の人事評価においては、数字を一切使わず、かといって 「よくがんばった」 「熱意がある」 などの情緒的な判断も入れません。「在籍何年目だから」 という年功の観点も持ち込みません。

これらは一見すると、ケアとは相反する冷たい施策に見えます。多くの企業が 「社員を大切にする」 という名目で行っている施策を、クラシコムはあえて採用しないのです。

外から見れば矛盾しているように映るこの組織づくりには、どんな意味があるのでしょうか。

非合理を合理にする組織設計

こうした一見すると非合理に見える選択が、クラシコムの戦略における中核をなしています。

なぜ懇親会を会社経費にしないのか。それは、飲み会による関係性づくりが制度化すると、同調圧力が入り込み、理性的な信頼がゆがんでしまうからです。

参加できない人もいる中で、日頃のミーティングや雑談、1on1 で十分なコミュニケーションを確保することこそが、本当のケアであり、ケアの循環を適切につくり出すとクラシコムは考えています。

また、評価に数字を使わない意図も、数字による評価は 「サービスの OS」 を生むからです。

 「サービスの OS」 とは、会社と従業員の間で契約を結び、従業員がサービスを提供する見返りとして対価をもらうという関係性のことです。

そして、契約と対価をベースを軸にする 「サービスの OS」 と対極にあるのが、「ケアの OS」です。

クラシコムが重視する 「ケアの OS」 では、あえてドライに徹し、例えば数字を使わない分、論理の精度を問います。

感覚ではなく、言葉で説明できる厳密さが必要になります。「なぜこのロール (役割) をお願いするのか」 という理由や背景を、ごまかさずに誠実に論理的に説明し、本人が納得できるプロセスを丁寧に踏む。この対話と合意形成のプロセス自体が、組織から個人への大事なケアとなります。

クラシコムは、「理性」 と 「納得」 による関係性をつくるために、あえてドライな仕組みを選んでいるわけです。クラシコムが選んだ 「ケアの OS」 は、ドライな仕組みで支えるものです。

具体的には、半年ごとの従業員へのキャリブレーション (期待値調整) で、ロール (役割) を丁寧に定義し直し、理屈が通るか、納得できるかを重視します。また、マネジメントプレイブックをつくり用語を厳密に定義し、感情論ではなく定義にもとづいた対話を可能にします。人事企画室がマネージャーを孤立させず、常に相談できる環境をつくります。

感情を排除するのではなく、感情に頼らなくても人が動ける仕組みこそがクラシコムが目指す 「ドライな組織」 の本当の意味です。

そうしたドライな仕組みがあるからこそ、クラシコムではケアの循環が持続し、19 期連続増収・増益という成果と、全社で月 4.2 時間という残業時間の少なさを両立できているのです。

競合が簡単にマネできない理由

クラシコムのドライな組織文化は、外部から見ると理解しづらいものでしょう。

企業では、「社員を大切にする」 というと、福利厚生を充実させたり、懇親会を支援したり、成果を数字で評価して報いたりすることを考えます。これらは分かりやすく、実行もしやすい施策です。

一方、クラシコムのアプローチは一見すると逆行します。

 「ケアを重視する」 と言いながら懇親会を支援せず、「社員を評価する」 と言いながら数字を使わず情も挟まない。矛盾にも見える組み合わせは、表面だけを見ても理解できません。

株式会社は 「自治領」 である、「サービスの OS」 ではなく 「ケアの OS」 、「ドライ」 な組織や仕組みを重視する。これらも意味がわからないはずです。

仮に競合がクラシコムの取り組みを知ったとしても、「うちは違う」 と考える可能性が高いでしょう。「評価に数字を使わないなんて非効率だ」 「懇親会も支援しないなんて社員がかわいそうだ」 と判断し、意図的に避けようとするでしょう。

しかし実際には、このドライな仕組みが、クラシコムが重視する 「ケアの循環」 を持続させ、自発性を引き出し、生産性を高めている要因なのです。部分だけを見ると非合理に見えるこの選択が、全体としては極めて合理的な結果を生んでいます。

クラシコムに学べること

クラシコムの事例から、私たちが学べるのは戦略の深さです。

クラシコムの強さは、個々の施策にとどまらず、それらすべてを貫く 「物語 (ストーリー) 」 にあります。

全体を通してひとつの物語になっている戦略

ドライな文化は、クラシコムの戦略全体の物語を支える重要なピースです。

クラシコムの戦略を物語として読み解くと、次のようになります。

まず 「株式会社は、資本主義社会の中で自分たちの価値観や倫理観を表現する "自治領" である」 という独特の思想が根底にあります。

自治領を機能させる組織をつくる必要があり、機能する組織の要件は 「構成員が位置と役割を理解し、主体的に動き続けられる状態」 です。この状態を実現するために、クラシコムは 「ケアの循環」 という考え方を採用します。

ケアを循環させるには、それを仕組み化しなければなりません。情に依存すれば破綻するし、契約に依存すれば自発性が失われるでしょう。

そこで解決策として、クラシコムは 「ドライで論理的な仕組み」 を選んだのです。

  • なぜ懇親会を支援しないのか
  • なぜ評価に数字を使わないのか
  • なぜプレイブックまで作ってマネジメント用語を厳密に定義するのか

これらの 「なぜ」 に対する答えは、クラシコムの全体の物語の中にあります。ひとつひとつの施策を取り出して見れば理解しづらくても、物語として語られたとき、その必然性が見えてくるのです。

戦略を物語にする

クラシコムの事例は教えてくれるのは、「優れた戦略とは、単なる施策の羅列ではなく、戦略全体をひとつの物語として語れるものである」 ということです。

クラシコムの事例では、「ドライな組織文化」 という一見すると非合理な選択も、「株式会社という自治領で価値観を表現する」 という解釈から始まり、「機能する組織をつくる」 「ケアを循環させる」 「それを仕組み化する」 という物語要素がつながり、「19 期連続増収・増益と月 4.2 時間の残業」 という結果に至ります。こうした物語の中で見れば、それらの意味が明確になります。

理念や理想という 「感性の物語」 と、マネジメントや制度という 「構造の物語」 が矛盾なく結びついているからこそ、クラシコムの戦略は一本の物語として整合しています。

全体に物語があるからこそ、社内では皆からの納得感と共感をもたらし、組織に実行力が生まれます。

社員は、自分たちがただの 「ドライな職場」 で働いているのではなく、「理性と納得による新しい関係性」 をつくる実験に参加しているのだと理解できることでしょう。マネージャーは、なぜ各メンバーの期待値調整に時間をかけるのか、なぜマネジメントプレイブックが必要なのかを、全体の文脈の中で捉えられます。

通常、企業が 「社員を大切にする」 という同じ目標を掲げながら、似たような施策 (福利厚生の充実, 評価制度の整備, 親睦会の支援など) に行き着きます。これらは分かりやすく、正しく見えますが、だからこそ他社との差異化にはなりません。

クラシコムは、あえて 「正しく見える選択」 を避けました。その代わりに、「一見すると非合理だが、物語全体では合理」 という、外部から理解しづらい道を選んだのです。この選択が、中長期で持続可能な優位性を生み出しています。

あなたの会社の戦略は、ひとつの物語として語ることができるでしょうか。

ひとつひとつの施策が全体の物語の中でどんな意味を持つのか、あらためて見つめ直してみると、新たな発見につながります。

まとめ

今回は、クラシコムの社内文化を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 優れた戦略は単なる施策の羅列ではなく、全体がひとつの物語として語れる。理念やビジョンという 「なぜやるのか」 と、具体的な施策からの 「どうやるのか」 が、矛盾なく一貫した物語としてつながっている
  • 戦略に物語性があることで、関係者に納得感と共感をもたらし、組織に実行力が生まれる。メンバーは自分たちの活動が全体の文脈の中でどんな意味を持つのかを理解できる
  •  「一見すると非合理、全体のストーリーでは合理」 という外部から理解しづらい選択が差異化や競争力の源泉になる