#新規事業 #顧客データ #事業メカニズム

新しい事業のアイデアは、どこから見つければいいのでしょうか?

1990 年代、電話やインターネットを使い、今の音声 SNS や CRM、ターゲティング広告にも通じるサービスを次々と生み出した会社が日本にありました。ハイパーネットです。

今回は、かつてのハイパーネットの 3 つの事業が、どのように生まれたのかを紐解きます。そこから、今の事業の中にある「次の事業の種」を見つけるために、どこに目を向ければいいのかを探ります。

1990 年代に、今につながる 3 つのサービスが生まれていた

ハイパーネットは、板倉雄一郎さんが 1991 年に設立したベンチャー企業です。電話を使ったサービスから事業を始め、マーケティング支援、ネット広告へと領域を広げていきました。

会社は 1997 年に破産しましたが、約 6 年の間に生まれたサービスを今振り返ると驚かされます。音声 SNS、CRM、ターゲティング広告など、現在では身近になった仕組みに通じる発想が 1990 年代にすでに事業化されていたからです。

代表的な 3 つが、ハイパーダイヤル、IMS、ハイパーシステムです。

「ハイパーダイヤル」は、電話の中に人が集まる場をつくった

ハイパーダイヤルは 1992 年に始まった、電話を使ったコミュニケーションサービスです。前身となる電話会議サービスを発展させ、音声の伝言や複数人が参加できるフォーラムなどの機能を備えていました。

利用者は電話をかけてサービスに参加し、声でほかの利用者と交流します。料金の回収には NTT のダイヤル Q2 が使われました。

今の感覚でいえば、音声に特化した SNS に近いサービスです。2020 年に一時大きな話題になった Clubhouse を思い浮かべると、約 30 年前に電話回線を使って「声で人が集まる場」をつくっていた先進性がわかります。

ただ、ダイヤル Q2 への規制が強まり、事業の継続が難しくなります。次の事業を探す中で生まれたのが「IMS」でした。

IMS は、顧客の反応をマーケティングに使える情報へ変えた

IMS は Interactive Marketing System(インタラクティブ・マーケティング・システム)の略で、1992 年に始まった電話によるマーケティングサービスです。

テレビ CM や雑誌広告などを見た人が電話をかけ、音声案内に沿ってアンケートに答えたり、懸賞に応募したり、資料を請求したりします。回答内容や住所などはデータとして蓄積されました。

企業にとって価値があったのは、広告を見た顧客の反応を具体的につかめることです。これは今で言う広告の効果測定です。

たとえば、どの広告から電話が多かったかを比べれば、媒体ごとの反応を測れます。アンケート回答から興味やニーズがわかれば、商品開発や販促の材料になります。資料請求や応募をした人の情報は、見込み顧客への営業にも活用できます。

電話受付にかかる人手を減らしながら、「広告を出した後に誰が、どう反応したのか」をデータとして残せる。現在の CRM やダイレクトマーケティング、広告効果測定にも通じる仕組みです。

IMS は事業として成長し、板倉さんの公式プロフィールによると、1995 年には年間の経常利益が 2 億円に達しました。

ハイパーシステムは、顧客データを広告価値に変えた

そして、次に生まれたのが、1995 年に考案された「ハイパーシステム」です。

利用者がネットに接続すると、ブラウザとは別のウインドウに広告が表示されます。事前に登録された年齢や興味関心などの顧客データに応じて、表示する広告を変える仕組みでした。

現在のウェブサイトやブラウザ上で目にするバナー広告、とりわけユーザーの属性や興味関心に応じて広告を出し分けるターゲティング広告をイメージすると近いでしょう。

さらに画期的だったのが、広告収入をインターネット接続料に充てるビジネスモデルです。ユーザーは広告を見る代わりに、ネット接続を無料で利用できます。

テレビの民放放送や現在の多くのウェブサービスでは、広告主が費用を負担し、ユーザーは無料でコンテンツやサービスを利用します。ハイパーシステムは、インターネット接続にもこの考え方を持ち込みました。

1996 年にはアスキーと提携し、無料インターネット接続サービス (ネットプロバイダー) を開始しています。ユーザーごとに広告を出し分け、広告収入で無料サービスを成立させるモデルを、インターネット黎明期に実際の事業として動かしていました。

3 つの事業は、何を受け継ぎながら生まれたのか

ハイパーダイヤル、IMS、ハイパーシステムは、音声サービス、マーケティング支援、ネット広告と事業内容が変わっています。

3 つを時間の流れでつなぐと、前の事業で得たものが次の事業に受け継がれ、新しい事業につながっていることがわかります。

顧客について見える情報と、お金を払う相手が変わった

まず変わったのが、顧客についての何を捉えるかです。

  • ハイパーダイヤル:会話でのつながり
  • IMS:顧客の反応
  • ハイパーシステム:顧客データ

ハイパーダイヤルでは、電話回線を通じて人が集まり、会話する場を提供しました。サービスを運営する中で、利用者が何に興味を持ち、どんなコミュニティかを捉えられる接点が生まれます。

IMS では、広告を見た人から電話を受け、その反応を記録しました。「広告に誰が反応し、何に興味を示したのか」という情報が蓄積されていきます。

反応が積み重なると、誰が、何を見て、何に興味を示し、どんな回答をしたのかを顧客データとして扱えるようになります。ハイパーシステムでは、顧客登録データを使って、どの広告を誰に表示するかを決めるという仕組みでした。

ユーザーについて得られる情報が変わるにつれて、その情報に価値を感じてお金を払う相手も変わりました。

  • ハイパーダイヤル:利用者が会話の場にお金を払う
  • IMS:企業が顧客の反応を知るためにお金を払う
  • ハイパーシステム:広告主が顧客データを使った広告配信にお金を払う

ハイパーダイヤルでは利用者自身が顧客でした。IMS では生活者の反応を知りたい企業が顧客となり、ハイパーシステムでは広告主が費用を負担します。

顧客について見える情報が深まるにつれて、その情報を価値として買う相手が広がり、収益の取り方も変化していきました。

前の事業で蓄積したものが、次の事業につながった

ハイパーダイヤルを運営すると、電話システムで多数の利用者を処理する技術や運用経験が残ります。IMS を手がけると、企業の広告・マーケティング担当者との取引や、顧客情報を収集・管理するノウハウが蓄積されます。

そこへ 1990 年代半ばのインターネット普及が重なりました。電話で培った通信サービスの経験、IMS で得たマーケティングや顧客データの知見、新しく広がり始めたネットが組み合わさり、ハイパーシステムへとつながります。

ハイパーネットで起きていた連鎖を順番にすると、次のようになります。

  1. 新たな事業の種を見つける
  2. 事業を立ち上げる
  3. 新しい顧客の反応や情報が見える
  4. それを必要とする相手が見つかる
  5. 既に持っている技術や顧客基盤と組み合わせる
  6. 次の事業になる

前の事業を続ける中で得た顧客理解、技術、取引関係が次の事業を生む材料となり、この連鎖がハイパーネットで繰り返されていました。

次の事業の種は、今の事業から見えてくる

ハイパーネットの事例を自分たちの仕事に当てはめるなら、まず今の事業を動かした結果として新しく見えるようになったものを探します。

顧客と接していると、商品を売ったという事実以外にも多くの情報が生まれます。どんな人が反応したのか、何に興味を示したのか、どこで困ったのか、何を繰り返し質問するのか。サービスを使ってもらうほど、顧客について新しくわかることが増えていきます。

次の事業を考えるときは、たとえば次のように問いかけるといいです。

  • 今の事業を始める前には見えていなかった顧客の反応は何か
  • 事業を続ける中で、新しく蓄積されるようになった顧客データは何か
  • その反応やデータを強く欲しがる別の顧客や企業はいないか
  • 今は業務の副産物として扱っている情報を、商品やサービスに変えられないか
  • すでに持っている技術や顧客との関係と組み合わせると、どんな新しい価値をつくれるか

今の事業を続ける中で、以前には見えなかった顧客の反応や顧客データは何か。その情報を誰が欲しがるのか。そこまで追っていくと、次の事業の種が見つかります。

まとめ

今回の内容をまとめておきます。

  • ハイパーネットは 1990 年代に、音声 SNS、CRM、ターゲティング広告にも通じるハイパーダイヤル、IMS、ハイパーシステムを次々と事業化した
  • 3 つをつなぐと、「会話でのつながり → 顧客の反応 → 顧客データ」と、事業を動かす中で顧客について見える情報が深まっていった
  • 顧客について見える情報が変わるにつれて、それを欲しがる相手も変わり、利用者課金から企業向けのマーケティング支援、広告主からの収益へとビジネスモデルも広がった
  • 次の事業を考えるときは、今の事業を続ける中で新しく見えるようになった顧客の反応やデータ、その情報を必要とする相手に目を向けるといい。そこに次の事業の可能性が眠っている