朝日新聞が、テレビの録画再生を含めた視聴率の実態を報じました(2013年1月31日付)。昨日の新聞の1面と、3面の解説記事で取り扱われています。
「ドラマは録画」くっきり 再生率が視聴率上回る例も|朝日新聞
記事の出だしから引用です。
テレビの録画再生を含めた視聴率の実態が、朝日新聞が入手した調査結果で初めて分かった。視聴率は放送時間中に見られた数値しか公表されていないが、視聴実態をより反映した録画を含めた数値をみると、人気ドラマの中には録画再生が放送中を上回る例もあった。
テレビ放送が始まって2月1日で60年、視聴率調査が始まってから半世紀以上がたつが、公表数値が視聴実態と離れつつあることが浮き彫りになった。
いくつかの録画再生率は下図の通りです。
確かにドラマ「ラッキーセブンスペシャル」の1/3放送分については、放送中に見たリアルタイムでの視聴率:12.6%、録画再生率:13.5%と、録画での視聴率が放送中のそれを上回ったようです。なお、今回の録画視聴率の定義は「録画した番組を放送の7日後までに再生した人の割合」とのことです。
出所:
Yahoo!ニュース
■ 驚いたのは朝日新聞の1面に掲載されたこと
この記事を見た時にまず驚いたのは、視聴率のデータ自体よりも、今回のニュースがそもそも報じられたことでした。なぜ朝日はこのニュースを配信したのでしょうか?その意図や裏が非常に気になりました。
その前に少し前置きを書いておきます。
「録画での視聴率を含めない放送中のリアルタイム視聴率だけでは不十分」というのは、業界では昔からある不満です。自分の TV の視聴を考えてみても、録画して後から見るというタイムシフト視聴は当たり前のようにやっています。これが正確に反映されていない今の視聴率では実態が捉えられていないわけです。
背景には、ビデオリサーチが公表している600世帯での視聴率が絶対的な意味を持っていることがあります。
600世帯での視聴率はTV番組の人気のバロメーターに使われ、TVCM の広告費を出すためにも使用されています。テレビ視聴の指標として唯一無二の存在です。「通貨」とも呼ばれるほどです。
しかし、通貨である視聴率には録画再生率が含まれないために、録画視聴率はわかりません。つまり通貨として広く使われているが、価値が正しく付いていない(実態を捉えきれていない)のです。
なお、朝日記事の視聴率は通常の視聴率とは異なるものを使っています。「通常の」というのはビデオリサーチの関東600世帯からなるピープルメーター(PM)という機械を使った調査結果から出る数字です。
朝日の記事で「公表数値が視聴実態と離れつつあることが浮き彫りに」とある公表数値というのが通貨として使われているこの視聴率のことです。一方、同記事にある録画再生率はそれとは全く別の200世帯での調査結果です。両者は単純には比較できないです。
ここまでが前置きです。
今回の朝日の記事について、なぜ驚いたかの理由は、
- 朝日新聞は朝刊の1面と3面に掲載した。国会も始まり、国内外でのニュースも色々ある中、かなりの力の入れようである
- これまで表に出てこなかった「録画再生率」を公然と出してきた
- その録画再生率は「通貨である視聴率」にはなかった指標。記事では単純に比べられないとしているが、通貨視聴率の絶対性を崩しかねない。視聴率が複数あるダブルスタンダードは、業界的にかなりタブーのはず(通貨は1つ)
- データソースはビデオリサーチと書かれているが、そもそもビデオリサーチやバックにいる電通はこのニュース内容を事前認知はしていたのか。記事掲載は許容されていたのか
ビデオリサーチや電通はこのニュース配信にGOを出したとは思えません。朝日のニュース配信には何か強い意図を感じます。
■ なぜ朝日は録画再生率ニュースを流したのか?
なぜ朝日はこのニュースを配信したのでしょうか?その裏にはどんな意図があるのかをいくつか考えられることを書いておきます。
1.TV 番組の人気度を正しく認知してもらうため:人気度とは正確には視聴世帯率の高さ。通常の視聴率では放送中に視聴するリアルタイム視聴だけだが、録画をして後からの視聴も含めるとこんなに高い、というメッセージ。
2.TV 全体で言われる視聴率低下の原因を伝えるため:リアルタイム視聴だけ見ると低下傾向にあるが、録画も含めるとそんなことはない、という反論。
3.現在の「通貨である視聴率」への不満を表している:上記のように、通貨とも呼ばれるにもかかわらず正しく視聴実態を捉えているとは言えない視聴率。別データを具体的に提示することで、事実を反映していない不満を伝えたかった
4.視聴率を新しくするべきとの主張:3の不満への先として、より正しい視聴率を出してほしい意思表示。記事の最後のほうに書かれているのが「米国ではすでに録画も含む視聴率が公表されている。(中略) 実態を正確に測ろうとの試みもあるほどだ」。さらにリサーチ評論家の藤平芳紀氏のコメントが続く。以下は記事から引用。
技術の発展で視聴形態は劇的に変化し、自宅以外のあらゆる場所でテレビは見られている。メディアのあり方に大きな影響を与える基礎データなのだから、録画も含めて実態を正しく反映させた調査結果が世に出されるべきだ
■「通貨」視聴率のそもそもの問題点
民放では、番組の途中や番組と番組の間に CM が放送されます。現状では、A という番組の視聴率をもってして、番組 A の中で流れたCMの視聴率を出しています。
しかし、本来は番組視聴率と CM 視聴率は分けるべきなのです。もっと言うと、CM は数本が連続して流れるのでそれぞれの CM に対して視聴率を出すのが望ましいです。
ここで問題になるのが、番組の視聴率 = CMの視聴率なのか?という点です。多くの人は CM に入れば他のチャンネルに切り替えたり、席を外したりします(中座)。この状況では番組ほど CM は見られません。
録画での再生になると、CM スキップはもっと起こるはずです。リモコン1つで CM を飛ばせ、早送りをすれば CM は見られません。リアルタイム視聴での視聴率以上に録画視聴率においては CM の視聴率を正しく測れていないことになります。
以上から、個人的に思う視聴率の問題は以下です。
- 「TV 番組視聴率 = CM 視聴率」が成り立たないのが実情。よって、TV 番組視聴率と CM 視聴率は本来は分けるべきだが、現状は1つの視聴率が使われている。これでは CM 視聴率が正しく測られていない
- 民放のビジネスは CM から得られる広告費で成り立っている。にもかかわらず、その広告費を出すための CM 視聴率が正しくないという構造。広告費算出に使われている GRP には CM 視聴率を用いるべき
- 視聴率に録画再生率を含めたとしても、依然として CM 視聴率が実態を正しく捉えていない現状は変わらない
藤平 芳紀
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