2018/06/06

書評: ブランドらしさのつくり方 (博報堂ブランドデザイン) 。五感での体験から感情移入が起こりブランドはつくられる


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ブランドらしさのつくり方 という本をご紹介します。



エントリー内容です。

  • 本書の内容
  • ブランドへの誤解。望ましいブランディングとは
  • 五感ブランディング


本書の内容


以下は、本書の内容紹介からの引用です。

五感を活用したマーケティングアプローチと聞くと、においがでる広告だとか、手触りのよい商品だとか、耳に残るエキセントリックな店内放送などを連想するかもしれない。

しかし、本書で取り上げるのは、あくまでもその企業ならではの 「らしさ」 を明確にするために五感を活用する方法であって、人を驚かせる奇抜なアイデアではない。

そもそもブランディングとは、短期的なインパクトを求めるものではなく、中長期的な 「らしさ」 を創造する活動だ。この中長期視点を持つブランディングのアプローチに、感性に繊細に訴求する五感アプローチを組み合わせたのが、本書で提示する 「五感ブランディング」 というコンセプトである。


ブランドへの4つの誤解


ブランドと聞いて、どのようなイメージをお持ちでしょうか?本書には、ブランドに対する4つの誤解が書かれています。


ブランドへの誤解

  • ブランドは高級なもの
  • ブランドとはマークや名称のこと
  • ブランドは広告でつくるもの
  • ブランドは顧客のためにつくるもの


以下、それぞれの補足です。ブランドは、本来はこうあるべきという書き方をしています。


1. ブランドは高級品だけではない


ブランドはファッションなどの高級ブランドのことが連想されがちですが、ブランドの対象は高級品だけではありません。ブランドは、顧客が価値を感じるものの全てが対象になります。


2. ブランドはロゴだけではない


ブランドをつくるとは、シンボルとなるロゴやマークをつくることだけではありません。ブランドとは、頭に思い浮かんだ価値の全てです。提供される価値、イメージなどの記憶の集合体です。


3. ブランドはあらゆる活動からつくられる


ブランドは単に広告でつくられるものではありません。ブランドと生活者の接する機会である 「タッチポイント (接点) 」 によって、あらゆるブランドからの活動を通してブランドはつくられます。


4. ブランドはステークホルダーのためにつくる


ブランドの対象は消費者だけではありません。顧客、自社の従業員、株主というステークホルダーと幅広い対象者がいます。顧客には 「このブランドを使ってみたい」 、従業員には 「このブランドに誇りを持って働きたい」 、株主にとっては 「このブランドに投資したい」 と思ってもらえるかです。


ブランドとブランディング


では、望ましいブランドとは、どのようなものなのでしょうか?

本書では、ブランドとブランディングを次のように説明します。

  • ブランド:全ての関係者にとっての 「記憶の総体」 。他にはない独自の存在価値を持つ。その商品やサービス、企業の 「らしさ」 がある
  • ブランディング:中長期的な 「らしさ」 を創造する活動。意思を持って設計し戦略的につくる


五感ブランディング


商品やサービスならでは 「らしさ」 を創造し、維持、発展させるために、本書で提案するアプローチが 「五感ブランディング」 です。


五感の体験からブランドをつくる


五感ブランディングでは、以下の5つに訴え、豊かな体験を通してブランドをつくります。

  • 色 (視覚)
  • 音 (聴覚)
  • 香り (嗅覚)
  • 素材 (触覚)
  • 味 (味覚)


ポップコーンを使った五感ブランディングの事例


本書の例でおもしろいと思ったのは、アメリカのあるビデオレンタルショップの事例でした。

このお店では、店内でポップコーンを無料で提供します。来店客は、自由にポップコーンを取り、食べながら借りたいビデオを見て回ります。

なぜポップコーンなのかは、映画館の映画視聴体験を再現するためです。

アメリカでは、映画を観るときの定番アイテムはポップコーンとコーラです。バケツのような入れ物に入ったポップコーンと、コーラを買って映画を見ます。ポップコーンの香りや味によって、ビデオレンタルショップでもあたかも映画館にいるような体験をつくっているのです。

このレンタルショップに行けば、ポップコーンを食べながら選ぶという 「視覚」 「聴覚」 「嗅覚」 「触覚」 「味覚」 からの五感で楽しみながら、他のレンタルショップではできない顧客体験ができます。


五感ブランディングについて思ったこと


ここからは思ったことです。3つあります。

  • 「らしさ」 をつくるという発想
  • 五感ブランディングの意味すること
  • 言うは易く行うは難し


1. 「らしさ」 をつくるという発想


おもしろいと思ったのは、ブランドのことを、商品やサービスならではの 「らしさ」 をつくるとと位置づけていることです。

ブランドをつくるとは、顧客から自分たちが選ばれる理由をつくることです。固い表現をすれば、競合優位性、競合に対する差別化、強みなどです。

これを一言で 「らしさ」 と言っているのがユニークです。本書のテーマである 「五感によってどうブランディングをするか」 にうまくフィットする表現です。


2. 五感ブランディングの意味すること


本書と表現が同じではありませんが、私自身のブランドとブランディングの定義は以下です。

  • ブランド:好き・満足・憧れ・共感などの感情が伴った商品やサービス
  • ブランディング:商品・サービスに感情移入を起こしてもらうための働きかけ

満足感や好きという感情を伴ってもらうのは、ブランドが提供する価値を体験することによってです。体験を通して商品やサービスへのポジティブな感情が生まれ、顧客の頭の中にブランドイメージが形成されます。イメージとして持つ価値を 「知覚価値」 と言います。

まとめると、ブランドができるプロセスは以下です。

体験 → 感情移入 → 知覚価値

五感ブランディングの視点で見れば、五感によって体験がされるということです。ブランディングとは、ブランド体験を五感という切り口でどう設計するかです。

本書の最後のほうに書かれていた、「視覚や聴覚などの五感は相互に作用し、5個それぞれを別々にするのではなく "互換" として統合して考えるべき」 は興味深い考え方です。

五感を全体で設計し (互換) 、どのようにブランド体験をするか、体験から感情移入を起こしてもらい、中長期でのブランドをどうつくるかです。


3. 言うは易く行うは難し


本書の全体の構成は、前半で五感ブランディングの説明があり、後半で架空のケースに当てはめる内容です。

前半の説明を読んで思ったのは、五感ブランディングを実際に行なうことの難しさでした。

色や素材は商品であればイメージできます。しかし、香りや味がないような商品やサービスに対して、ブランドを形成するためにどのような香りと味のイメージを持ってもらうかです。理論を知っただけでは、具体的な方法が検討がつきにくいです。

本書の後半には架空のケースとして、五感ブランディングの事例が説明されます。新宿駅のブランド化という仮想プロジェクトです。ここでは、詳細にどのような進め方で五感ブランディングをするのかが1つ1つ追っていけるように書かれています。


新宿駅のブランド化 (仮想プロジェクト)


新宿駅を五感という切り口でブランド化する仮想プロジェクトは、興味深く読みました。

おもしろいと思ったのは、新宿と渋谷を比較した実際の調査結果でした。2つを単純なアンケート調査回答で見比べても、特徴の違いは出ませんでした。

しかし、新宿と渋谷に対して五感の視点で、色のイメージ、音、におい、さわり心地、味を聞いた結果は、興味深い違いが見られました。5つを統合して見たときに、新宿駅の目指すべきコンセプトができあがります。

詳細は本書に譲りますが、コンセプトは言われてみれば確かにそうですが、その視点で新宿を俯瞰したことはなかったので、おもしろい設定でした。

本書では最後に、新宿駅のブランド設計として 「五感設計図」 が提示されます。


最後に


本書の特徴は、ブランドを人間の 「五感」 という切り口でつくるというアプローチです。

ブランドは一連のユーザー体験からつくられ、体験を設計する際に五感という5つの切り口でつくる方法は、興味深い考え方です。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 合同会社の代表 (会社概要はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身、学生時代は京都。現在は東京23区内に在住。気分転換は毎朝の1時間のランニング。