#マーケティング #顧客理解 #ビジネス機会の創出
自分の会社の商品は、意図した通りにお客さんに使われているでしょうか?
もしかしたら、売り手の思い込みと、お客さんの実際の使い方との間には、想像以上のギャップが存在するかもしれません。そして、その気づいていないギャップにこそ、ビジネスを急成長させる大きなヒントが眠っています。
今回は、家電レンタルサービス 「レンティオ」 での意外なヒット商品事例を紐解きながら、お客さんの利用シーンを深く理解することの重要性を解説します。
顧客理解の解像度を上げ、新たなビジネスチャンスを発見する方法に迫ります。
レンティオ
家電やカメラのレンタルサービスを展開するレンティオ (Rentio) という会社があります。7000種類以上の商品を扱うサブスクリプションサービスを展開しています。
そんなレンティオで、意外な商品が人気を集めています。
それは防振双眼鏡。手ブレ補正機能を搭載した高性能な双眼鏡です。
もともとバードウォッチングや天体観測用として作られた防振双眼鏡ですが、20代から30代の女性に人気になりました。その多くが音楽ライブでの 「推し活」 に使っているというのです。
人気アーティスト・アイドルのライブともなれば、東京ドームや K アリーナ横浜といった数万人規模の会場で開催されます。東京ドームなどのような大型会場では、後方席からだとアーティストが豆粒のようにしか見えません。
そこで役立つのが防振双眼鏡です。防振双眼鏡を使えば、ステージ上でパフォーマンスを繰り広げるアーティストの表情まで鮮明に見えるわけです。
この 「推し活」 需要を的確に捉えたレンティオは、X (旧 Twitter) で 「レンティオ推し活部」 という専門アカウントを運営。会場ごとの最適な双眼鏡の倍率情報を発信するなど、ユーザーに寄り添った取り組みで人気を集めました。防振双眼鏡はレンティオの主力商品のひとつに成長しました。
では、レンティオの事例から学べることを掘り下げていきましょう。
顧客の利用シーンの理解
お客さんがなぜ、いつ、どこで、どのように商品を使ったのか。お客さんの利用シーンの解像度・粒度を上げることが、売り手が気づいていない潜在的なニーズの発見につながります。
レンティオの防振双眼鏡の事例は、まさにその好例です。
認識のギャップが教えてくれたこと
レンティオは当初、防振双眼鏡の主な利用者をバードウォッチング愛好家や天体観測マニア、中高年男性を中心としたアウトドア層だと想定していました。
ところが実際の防振双眼鏡のお客さんの利用実態を見てみると、20代から30代の女性が 90% を占め、その大半が音楽ライブでの推し活に使っていたのです。しかも特定のアイドル事務所の SMILE-UP. 系アイドルのファン (例: 男性アイドルグループ NEWS) に利用が集中していました (参考情報) 。
この認識ギャップの発見こそが、新しい市場開拓の第一歩となりました。
解像度を上げて見えてきた顧客ニーズ
ライブで防振双眼鏡を使うという表面的な理解から一歩踏み込むと、もっと具体的なニーズが見えてきます。
まず会場と座席によって最適な倍率が違うことがわかりました。東京ドームなら1階席は14倍から16倍、2階席なら16倍以上が必要です。各会場、各座席に応じた細かなニーズがありました。
ファンの属性によっても違いがあります。SMILE-UP. 系アイドルのファンは激しいダンスパフォーマンスを追いかける需要が高く、LDH 系アーティストのファンはまた異なる観覧スタイルを持っています。利用頻度や借りる時期にも特徴があります。
そして心理的ニーズです。推しの表情を見逃したくない、一生に一度のライブを最高の思い出にしたい、SNS で感動を共有したい。こうした感情が防振双眼鏡をレンタルしたお客さんの中にあったのです。
新たなビジネス機会の創出
顧客理解は、既存事業の成長だけでなく、全く新しいビジネスを生み出す源泉にもなります。
レンティオは当初想定していなかった 「推し活女子」 というビジネス機会を発見し、特化したサービス展開を行うことで、防振双眼鏡を主力商品に成長させました。
さらに 「レンティオ推し活部」 という X 公式アカウントで商品紹介にとどまらず、座席別の最適倍率情報という実用的な価値を提供できるようになりました。
商品やサービス開発への応用は他にも可能性があります。
東京ドームでのライブという防振双眼鏡の利用シーンが分かれば、それに適した14倍から16倍の双眼鏡の需要が高まることが予測できます。
勘に頼らないデータにもとづいた在庫最適化が可能になり、機会損失を防ぎながら収益性を高めることができます。ライブスケジュールと連動した在庫配置は、顧客理解あってこその施策です。
他には、「花火撮影セット」 や、今後考えられる 「七五三セット」 のように、顧客の特定のイベントを丸ごとサポートするセット商品にもビジネス機会が生まれるでしょう。
七五三でビデオカメラを借りる人は、着物もレンタルしたいはずです。ビデオカメラと着物をセットにした商品を提案することにより、顧客の体験価値を高めるコト売りへのシフトができ、顧客単価の向上にもつながります。
レンティオは収集した利用シーンのデータを自社のためだけに使うのではなく、メーカーの商品開発を支援するという新しいサービスとなる Rentio Survey (レンティオサーベイ) へと昇華させました。
例えば、Rentio Survey を活用したシャープの 「ヘルシオ ホットクック」 の事例では、平日の帰宅後に短時間で調理したい、手入れが面倒といった、実際の利用者ならではのリアルな声をシャープに提供しました。
メーカーであるシャープにとって価値のある情報です。顧客理解そのものがレンティオ収益を生む資産に変わったのです。
利用シーンで訴求するマーケティング
利用シーンの理解は、マーケティングのあり方も変えます。
利用用途ごとの打ち手
レンティオは顧客アンケートにより、レンティオサービスの利用用途を3つに分類しました。① 購入前に試したい、② 一度の出費を避けて分割払いで利用したい、③ イベントや行事の際に一時的に利用したいという3つです。
分類をもとに、レンティオは商品カテゴリーごとに最適な訴求方法を組み立てています。
1つ目の 「購入前に試したい」 という用途の例が食洗機です。
食洗機は高額で設置も必要なので、いきなり購入するのではなく、実際に使ってみてから判断したいという慎重派の人は少なくないでしょう。
レンティオの食洗機へのレンタルでは、家庭内で意見が割れたときの解決策として使われるケースがあります。妻は皿洗いの手間を減らしたくて食洗機が欲しい、でも夫は手で洗えばいいと考えるなどの考え方の違いが生じ、そんなときレンタルで実際に使ってみることで、お互いが納得できる結論を出せるわけです。
レンティオはこうした人たちに向けて、水道工事不要のタンク式モデルをアピールします。初めての食洗機でも気軽に試せることを伝えるわけです。
2つ目の利用用途である 「一度の出費を避けたい」 では、ドラム式洗濯機がこのニーズの代表例です。
結婚して新生活を始めるシチュエーションでは、ドラム式洗濯機など便利な家電製品がそろえば、新しい生活への期待も高まります。しかし、現実はさまざまな家電や家具を一度に全て買うには高すぎます。そんなときに月々定額で利用できるレンティオが選ばれるわけです。
分割払いには借金のようなイメージを持つ人がいるのに対し、レンティオにはそうしたネガティブなイメージを持つ人が少ないそうです。こうした人たちには月々の料金のお手頃感を前面に出してレンティオのことをアピールします。満了期間まで使えば商品が自分のものになる仕組みもあるため、払い損にならないことも伝えます。
3つ目の用途は 「イベントで一時的に利用したい」 でした。カメラがまさにこのパターンです。
子どもや孫の運動会、卒業式、家族旅行。年に数回の特別な日だけいいカメラを使いたい。普段はスマホで十分だけど、大切な思い出はきれいに残したい。でも高価なカメラを買うほどではない。
こうしたスポット利用のニーズに対して、レンティオは季節のイベントに合わせた提案をします。使用頻度は高くないけれど、そのときだけは妥協したくないという消費者心理を捉えてのことです。
利用シーンに刺さるメッセージ
利用シーンは、マーケティングのメッセージに反映すると効果的です。
従来のモノ起点なら、「高性能な防振双眼鏡、3泊4日でレンタル可能!」 といった機能訴求になります。
しかし、利用シーンを打ち出すなら、「ドームの天井席でも推しの汗まで見える!ライブの感動を最大化する防振双眼鏡。座席に合わせた最適倍率もご紹介!」 と変わります。
こうしたメッセージはお客さんの具体的なシチュエーションと、解決策や利用価値まで提示しているので、訴求力が高まることでしょう。お客さんは自分のことを言われていると感じ、商品への関心が高まることが期待できます。
クロスセル
お客さんの具体的な利用シーンが解像度高く分かると、効果的な関連提案が可能になります。的を射たクロスセルへの可能性です。
七五三のケースでは、子どもや孫の七五三の時期にビデオカメラを借りたお客さんに対し、レンティオでは着物もレンタルできることを提案するというふうにです。これは七五三の準備という顧客文脈をしっかりと理解しているからこそできる提案です。
機械的に商品を薦めるのではなく、お客さんの置かれた状況とそのときの心理状態までを深く理解することで、お客さんのやることリストを先回りして解決する提案となります。
他には、スノーボードウエアとカメラのセット提案も同じ発想です。旅行やレジャーという顧客文脈の中で、必要なものをまとめて提供することで、お客さんの手間を省きながらレンティオは売上を伸ばすことができます。
レンティオの事例は、お客さんの利用シーンを徹底的に理解することの重要性を教えてくれます。
売り手の思い込みを超えて、実際のひとりのリアルなお客さんがどのように商品を使っているのかを知る。利用シーンへの解像度を上げていく。そこから新たな市場が見つかり、商品開発のヒントが生まれ、マーケティングが進化し、さらには新しいビジネス機会まで生まれる。
起点になるのは顧客理解です。
まとめ
今回は、商品レンタルサービスのレンティオの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 利用シーンの解像度を高める重要性。当初想定していた顧客層や用途と実際の利用実態には大きなギャップがあることが多く、ギャップの発見が新たな市場開拓の可能性を秘める
- 利用シーンの解像度を上げると具体的な打ち手が見える。お客さんが、なぜ・いつ・どこで・どのように使うかを詳細に理解することで、在庫最適化、商品開発、マーケティングなど具体的な施策に落とし込める
- 利用シーンを伴った訴求で共感を生む。お客さんが直面する具体的なシチュエーション、困りごと、問題への解決策を提示することにより、自分ごととして受け止められる提案になる
- お客さんの 「次の行動」 を先回りして提案する。お客さんの行動やイベントの文脈を理解し、次に必要となるであろう商品を先回りして提案することで、顧客の信頼を獲得しクロスセルから客単価を向上させられることが期待できる
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