#マーケティング #そのうち顧客と顧客育成 #体験設計
コメダ珈琲店が、小学生を対象にしたコーヒー体験イベントを開催しました。コーヒーを普段はあまり飲まない、買ったりするわけではない子どもたちに、なぜこうした取り組みをするのでしょうか。
コメダ珈琲店の事例からは、すぐに自社商品を購入するわけではない 「未来のお客さん」 への種まきの重要性と、その方法を学べます。
コメダ珈琲店の 「ファーストコーヒー」 イベント
出典: PR TIMES
2025 年 9 月、コメダ珈琲店が子ども向けのユニークなイベントを開催しました。その名も 「ファーストコーヒー」 。子どもが初めてコーヒーに触れることをテーマにした、親子参加型の企画です。
小学生が初めてのコーヒーを体験するイベント
「ファーストコーヒー」 は、小学生とその保護者を対象にしたコーヒー体験イベントです。コメダのファンコミュニティ 「さんかく屋根の下」 の会員とその子どもに向けて企画・実施されました。
会場は東京・渋谷にあるコメダの東京事務所で、午前と午後の 2 回制で開催されました。参加費は無料で、合計 11 組の家族が参加しました (参考情報) 。
豆を挽いて、淹れて、自分だけの一杯をつくる
イベントでは、コーヒーができるまでを動画で学ぶところからスタートします。続いて、実際にコーヒーの木に触れたり、豆の挽き方の違いを指で確かめたりと、五感を使った体験ができるプログラムが用意されていました。
出典: PR TIMES
子どもたちが、自分の手で豆をミルで挽き、お湯を注いでコーヒーを淹れます。最後にホイップなどで飲みやすくアレンジし、自分だけの一杯を完成させるという流れです。
参加した保護者からは、子どもが 「全部楽しかった!」 と喜んでいたという声もありました。
背景にある若者のコーヒー離れ
コメダの 「ファーストコーヒー」 のイベント開催の背景には、若年層のコーヒー離れというコメダにとっては解決すべき問題があります。2025 年の 「コーヒーに関する調査 (20 歳 ~ 69 歳の男女が対象) 」 によると、20 代でコーヒーは好きではないと回答した人は約 37% にのぼり、全世代の中で最も高い数字です (参考情報) 。
コーヒーはオレンジジュースなどと違い、子どもが自然に飲む機会が少ない飲み物です。カフェインを含むこともあり、子どものうちに口にする機会がほとんどないまま大人になる人も少なくありません。
コメダの狙いは、子どもの初めての楽しく忘れられないコーヒー体験を提供することで、将来のコーヒーファンやコメダファンの種をまくことにあります。
ではここからは、コメダのファーストコーヒーイベントをマーケティングの視点から掘り下げていきましょう。
「今すぐ顧客」 と 「そのうち顧客」 の違い
ビジネスには、すぐに商品を買ってくれるお客さんと、まだその段階ではないお客さんがいます。この 2 つのお客さんの違いを理解することが、コメダの取り組みの本質を読み解くカギになります。
成果が出やすいのは 「今すぐ顧客」 への施策
ビジネスにおいて成果が出やすいのは、ニーズがすでに顕在化した層へのアプローチです。
購入意欲があり、課題も明確で、どの商品にするかを検討している段階にいるお客さんです。たとえば、今コーヒーメーカーを買おうとしている人に広告を出せば、比較検討の候補に入りやすく、そのまま購入につながる可能性が高いでしょう。
こうした層を 「今すぐ顧客」 と呼びます。
まだ買う理由が成立していない 「そのうち顧客」
一方で 「そのうち顧客」 は、まだニーズが顕在化していない、あるいは関心はあるものの優先度が低く、今すぐ買う理由がない状態にいる人たちです。
この層に対して 「今だけ期間限定の割引があります」 「すぐに買いましょう」 といった直接的な販促をしても、反応は限定的です。なぜなら、本人の中でまだ買う理由が成立していないからです。
しかし、商品やサービスが必要になるタイミングは、ある日突然立ち上がります。ライフステージが変わったり、新しい役割や仕事を任されたり、環境や状況が変わったりしたタイミングで、顕在化する瞬間がやってきます。
そのとき、どの商品やブランドを最初に思い出すかが勝負になるのです。
つまり 「そのうち顧客」 に対しては、今すぐ売ることではなく、いざというときに最初に思い出してもらえる存在になるために、今のうちから関係の土台を築いておくことが大切です。
これをコメダのファーストコーヒーに当てはめてみましょう。小学生はまだコーヒーを日常的に飲みません。いわば 「そのうち顧客」 です。しかし数年後、コーヒーを飲む年齢になったときに、最初に思い出す味やお店がコメダであれば、それはコメダにとって大きな資産になります。
顕在顧客だけを追い続けるリスク
すでにニーズが生まれている顕在顧客だけを追い続けると、いずれは狙える顧客を取り切ってしまいます。
取り切った先では、限られたパイを競合と奪い合う消耗戦になりやすくなります。コメダの場合であれば、既存のコーヒーファンを他のカフェチェーンと取り合うだけの状態です。
だからこそ未来のお客さんである 「そのうち顧客」 への種まきは、将来の顧客をつくるとともに、市場そのものを広げる意味も持ちます。コメダのファーストコーヒーというイベントは、若者のコーヒー離れへの対応であり、コーヒーを飲む人口そのものを増やす取り組みなのです。
「そのうち顧客」 へのアプローチを成功させるポイント
では 「そのうち顧客」 に対しては、具体的に何をすればいいのでしょうか。コメダの事例を手がかりに、4 つのポイントから考えていきます。
最初の体験を取りにいく
人の好みや基準は、最初の体験に影響されやすいという特徴があります。
初めて使ったスマホ、最初に導入した業務ツール、最初に飲んだコーヒー。こうした最初の体験がその後の基準になり、将来の選択に影響を与えます。最初に触れたものに慣れ親しむことにより、それが自分にとっての当たり前になるからです。
だからこそコメダは 「ファーストコーヒー」 という形で、子どもにとっての最初の一杯のコーヒーを自社で提供することに価値を見出しているわけです。最初においしいコーヒーを飲んだ記憶が残れば、それが将来のコーヒー選びの基準になる可能性があります。
これはコーヒーに限った話ではありません。「そのうち顧客」 の中でも、まだそのカテゴリーを一度も体験していない層を見つけ、最初の体験を自社で提供するという発想は、さまざまな業種に応用できます。
モノではなく体験を提供する
まだ買う気がない相手に、商品のスペックや価格を訴求しても響きにくいでしょう。そこで大切になるのが、モノの購入ではなく体験を提案したり提供するという発想です。
コメダのファーストコーヒーでは、コーヒーを売るというよりも、初めてコーヒーを淹れて飲むという体験そのものを提供しています。この体験を通じて、コーヒーっておいしい、コメダって楽しい、ここでの時間が心地いいという感覚が記憶に残ります。そして、その記憶が将来の選択に影響を与えるのです。
ここで注目したいのは、体験の中にコメダならではの強みが自然に組み込まれている点です。
イベントでは、コーヒーのおいしさや、くつろぎの空間というブランドの本質に触れる仕掛けになっています。ただ楽しいイベントで終わるのではなく、体験そのものがブランド体験になっているわけです。
BtoB であれば、自社の専門性が自然に伝わる製品デモやワークショップ、業界の知見を共有するセミナーなどが、同じ発想に当てはまります。
継続的な関係をつくる
一度きりの体験では、時間とともに記憶が薄れてしまいます。「楽しかったね」 で終わってしまえば、それは単なるイベントです。大切なのは、その後も関係が続くことです。
コメダの場合、ファンコミュニティ 「さんかく屋根の下」 がこの継続接点の役割を果たしています。
イベント参加者は、もともとこのコミュニティの会員です。イベント後もコミュニティを通じて、コメダとの日常的な接触が続きます。イベントへの参加がゴールではなく、コミュニティでの日常接点を経て、また次のイベントや来店につながるという循環がつくられているのです。
単発のイベントではなく、つながり続ける設計になっている点が重要です。
BtoB であれば、定期的なニュースレターやユーザーコミュニティ、勉強会の継続開催などが、この役割を果たします。
中長期で腰を据えて取り組む
「そのうち顧客」 への施策は、すぐに売上にはつながりません。ここが難しいポイントです。
コメダの場合、小学生がコーヒーを日常的に飲むようになるまでには数年の期間がかかります。ファーストコーヒーは、そのタイムスパンを前提にした取り組みです。
とはいえ、数年後に 「そういえばコメダで飲んだコーヒーがおいしかった」 「最初に飲んだのがあそこだった」 と記憶が呼び起こされるかどうかは、長い時間をかけた継続的な積み重ねにかかっています。一朝一夕でできるものではなく、地道な体験提供や関係づくりを続ける中で育まれるものです。
こうした施策を続けるうえで大切なのは、社内での 「そのうち顧客への施策の位置づけ」 です。
短期の売上で効果を評価してしまうと、成果が見えにくいために続けにくくなります。中長期の顧客育成のための投資として捉え、評価の物差し自体を短期売上とは分けて設計することが、取り組みを継続するための条件になります。
まとめ
コメダ珈琲店の 「ファーストコーヒー」 イベントを取り上げ、「そのうち顧客」 へのアプローチについて考えました。
学びのポイントをまとめておきます。
- 今すぐ買わない 「そのうち顧客」 にも、あらかじめ接点をつくっておき、将来ニーズが生まれたときに最初に思い出される存在を目指す
- いきなり購入を促すのではなく、気軽に参加できる接点 (体験イベントや教室など) から段階的に関係を築いていく。そこでは自社の強みが自然に伝わる設計にする
- 一度きりで終わらせず、接点を重ねながら関係を維持し、少しずつ深めていく。継続的な接触で記憶に残る存在になることを狙う
- 「そのうち顧客」 への取り組みは短期ではなく中長期の視点で実施する。すぐに成果が出なくても、未来への種まきと捉えてコツコツと続けていく

