投稿日 2019/01/21

書評: サブスクリプション - 「顧客の成功」 が収益を生む新時代のビジネスモデル (ティエン・ツォ / ゲイブ・ワイザート) 。点から線へ、サブスクは顧客中心のビジネスモデル変革


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1133回目のブログ更新です。今回は書評です。

ご紹介したい本は、サブスクリプション - 「顧客の成功」 が収益を生む新時代のビジネスモデル です。という本です。



  • どんなことが書かれている本?
  • サブスクリプションのビジネスモデルとは?
  • サブスクをどうすれば実現できる?

こんな疑問に答える内容でブログを書きました。


この記事でわかること


この記事で書いているのは、この本の概要、サブスクリプションのビジネスとは何か、サブスクリプションで成功するためにどう考え方を変え、どう実現すればよいかです。

この記事も参考に、ぜひ読んでみてください。

以下は記事の内容です。

  • 本書の内容
  • サブスクリプションはビジネスモデルの変革
  • マインドセットを変える
  • マーケティングからの考察 (インサイトとブランディング) 
  • サブスクリプションビジネスを成長させる施策


本書の内容


以下は、本書の内容紹介からの引用です。

ビジネスの世界は、いま2つの大きな変化に直面している。

1つは企業視点で、従来のプロダクト販売モデルでは成長し続けるのが難しくなっていること。もう1つは消費者視点で、消費者の関心が「所有」から「利用」へと移行していることだ。

これらの問題に企業はどう対処すべきか?

その解決策として注目を集めているのが、サブスクリプション型のビジネスモデルである。サブスクリプションは古くから新聞の定期購読などで知られており、一定の利用期間に応じて料金を支払う方式。

このモデルがいま注目されている背景には、顧客との取引がデジタルデータで生成されるようになったことがある。企業はサブスクライバーIDをきめ細かく管理し対応することにより、顧客との長期的なリレーションシップを構築することができる。


ビジネスモデルの変革


本書では、サブスクリプションについて、以下のように書かれています。

もう少し大きな枠組みでみると、日本企業の多くはサブスクリプションを単なる 「課金形態の変更」 と捉えている。一方、欧米企業は 「ビジネスモデル変革」 と捉えている。

課金形態の変更というのは、たとえば今まで1000万円で販売していたものを12で割って月額払いに変えただけという考え方だ。サブスクリプションはそれとは明らかに異なる。

顧客 (サブスクライバー) とダイレクトにつながり、個々の顧客のウォンツとニーズの変化を常にきめ細かく把握し、永遠のベータ版としてサービスを進化させ続けながら、その価値に見合った価格やプライシングモデルで提供する。それにより長期にわたる顧客リレーションシップを構築し、その上で収益化を実現するという新しいビジネスモデルである。

 (引用:サブスクリプション - 「顧客の成功」 が収益を生む新時代のビジネスモデル)


マインドセットを変える


サブスクリプションを実現するためには、組織的なマインドセットを変える必要があるとします。


顧客が求めているもの


変えるのは、製品中心から顧客中心への移行です。製品から発想するか、顧客から発想するかです。

製品中心の考え方では、商品やサービスは売れればよしとなります。誰が買ってくれたかよりも、何個がいくらで売れたかです。

一方、顧客中心の考え方は、顧客が望んでいるのは商品・サービスそのものではなく、それを使って何ができるかです。

本書で印象的だった表現は、顧客が求めているのは 「牛ではなくミルク」 です。顧客が買うのは牛ですが、本当に欲しいのは牛そのものではなくミルクです。

重要なのは、どんなユーザー体験ができるかです。体験から得られる価値こそが、顧客が求めているものです。


ズレの解消


顧客にとっては、商品やサービスを買うことは手段です。目的は商品・サービスによって実現されること、得られる価値です。

一方、(サブスクリプションモデルでなければ) 提供者である企業にとって売れることが目的です。顧客が買ってくれさえすれば、収益が得られます。

ここに顧客と提供者で2つのズレが生じます。


買い手と売り手のズレ
  • 顧客の手段が自分たちの目的になっている
  • 提供者は売ることがゴール、顧客は買うことがスタート


サブスクリプションは、ズレを解消します。提供者にとっても買ってもらうこと、つまりサブスクリプション開始が顧客と消費者の両方でスタートになります。顧客の始点が、提供者にとっても始点になります。


点から線へ


サブスクリプションで思ったことは、顧客と提供者の関係が 「点から線」 に変わることです。

商品やサービスを買ってもらえれば終わりという点の関係から、継続利用という線に変わります。1日でも長く関係を続けるビジネスです。

点から線になることによって、顧客にとっては手段であることが企業には目的になってしまっているという 「手段の目的化」 が解消されます。


サブスクリプションとマーケティング


サブスクリプションの本質だと思うのは、顧客を満足させる価値を提供し続けられるかです。

ここでは、サブスクリプションをマーケティングの観点で考えてみます。


顧客接点でインサイトを得る


より良いユーザー体験を継続的に実現し、ユーザー体験によって顧客との関係が構築されます。

顧客との関係が続くので、顧客との接点が 「線」 になります。

顧客接点から顧客のことを知ることができます。顧客が求めている顕在化したニーズだけではなく、顧客自身も普段は気づいていないものの、そうだと気づかされれば時には行動をも変える 「消費者インサイト」 を得ることができるのです。

サブスクリプションによって実現可能なのは、線となる顧客接点によってインサイトという人を動かす隠れた気持ちを見い出せること、インサイトを満たす価値を提供することです。


サブスクリプションとブランド形成


顧客との関係が線になることによってもう1つ期待したいと思うのは、継続的なユーザー体験によるブランド形成です。

ブランドとは、「消費者の望ましい感情が伴っている商品やサービス」 です。望ましい感情とは、例えば好き・満足感・共感・誇り・憧れです。こうした感情移入がされているほど、その商品・サービスへは思い入れが強いブランドになります。

ブランドについて覚えておきたいことは、ブランドとはあくまで消費者や顧客の頭の中でつくられることです。感情移入を起こす主体は顧客であって、提供者である企業ではありません。企業ができるのは、感情移入を起こすきっかけを提供することです。

ブランドが形成が起こるのは、以下のステップからです。


ブランド形成のステップ
  • ユーザー体験
  • 感情移入
  • 知覚価値


商品やサービスを利用しユーザー体験が豊かであれば、顧客の中で商品・サービスに対する望ましい感情が生まれます。感情が伴っていき、その商品やサービスにはこういう価値があるという明確なイメージが形成されます。これが知覚価値です。

従来の売って終わりではないサブスクリプションモデルによって、顧客との関係は点から線になります。顧客とのエンゲージメント期間が長いほど、ユーザー体験は続き感情移入があるブランドが維持、強化されます。

ブランドが顧客の頭の中であり続ける限り、サブスクリプションも続いていくという好循環です。

サブスクリプションでは、いかに魅力的なユーザー体験を提供し続けられるかです。


サブスクリプションビジネスを成長させる施策


では、どうすればサブスクリプションからビジネスを成長させることができるのでしょうか?

ここからは、サブスクリプションの How についてです。どうすればサブスクリプションビジネスを成功できるかを考えます。


成長させる8つの施策


本書では、サブスクリプションモデルで成長するための8つの施策が紹介されています。


サブスクリプションを成長させる施策 (8つ)
  • 最初の顧客グループを獲得する
  • チャーン (解約や離脱) 率を引き下げる
  • 営業チームを拡大する
  • アップセルとクロスセルで顧客価値を高める
  • 新しいセグメントに参入する
  • 海外展開を図る
  • 買収によって最大限の成長機会をつかむ
  • プライシングとパッケージングを最適化する


以下、8つのうちで特に考えさせられたことを3つ取り上げます。


チャーン (解約や離脱) 率を引き下げる


本書が指摘しているのは、サブスクリプションサービスが成功しているかどうかの判断方法は、解約率が抑えられているかです。解約率が低ければ成熟したビジネスになります。

興味深いのは、サブスクリプションモデルで成長するための8つの施策のうち、解約率についてが2つめに挙げられていることです。顧客グループの獲得の次です。

顧客を獲得する施策を進めても、足元で顧客が離脱してしまっては、底に穴が空いたバケツに水を貯めようとするようなものです。

サブスクリプションモデルは中長期で顧客との継続的な関係を築いていきます。解約や離脱が低く抑えられていることは、サブスクリプションモデルとして良好な状態です。


アップセルとクロスセルで顧客価値を高める


アップセルとは、顧客により高額な上位の商品やサービスに乗り換えてもらうことです。クロスセルは、別の商品やサービスも併せて購入してもらうことです。

企業にとって成長を持続するためには、顧客に提供する価値を高め続けることです。

サブスクリプションモデルは、あくまでその結果から定期的な収益を生む方法です。顧客との関係を築き、一過性で終わるのではなく顧客ニーズに寄り添った商品・サービスを提供していきます。

その過程において、顧客への提供価値を量的にも質的にも高め、結果としてアップセルやクロスセルが実現し自社の収益につながります。


プライシングとパッケージングを最適化する


プライシングとは価格設定です。パッケージングとは商品特性の組み合わせです。

サブスクリプションモデルでは、顧客一人ひとりが求めるものに対して継続的に対応していくことが重要です。本書では、サブスクリプションは、プライシングが成長のためのベースとなる役割を果たすことを指摘しています。8つの施策の全ての背後にあるのがプライシングです。


顧客の幸せの上に


サブスクリプションについて、最後に印象的だった箇所を引用します。サブスクリプションのビジネスは、顧客の幸せの上に成り立っているという指摘です。

それは幸せなビジネスだ。なぜなら、サブスクリプション・ビジネスは、顧客の幸せの上に成り立っている唯一のビジネスモデル だからだ。考えてもみてほしい。あなたの顧客が幸せになれば、彼らはあなたのサービスをもっと使ってくれ、友だちに勧めてくれ、あなたは成長することができるのだ。

四半期が始まる時点で、収益もわかっている。顧客行動に関するデータに基づいてスマートな意思決定を行うこともできる。自社の顧客ベースから、計り知れない競争優位につながるカスタマー・インサイトを得ることもできる。

これが "幸せなビジネス" でなければ何なのか。幸せな顧客がいて、サービスを提供する幸せな企業がいる。両者は互いに強め合い、努力を続ける。その関係には始まりも終わりもない。

 (引用:サブスクリプション - 「顧客の成功」 が収益を生む新時代のビジネスモデル)


まとめ


今回は、サブスクリプション - 「顧客の成功」 が収益を生む新時代のビジネスモデル という本を取り上げました。

最後に今回の記事のまとめです。



サブスクリプションを実現するためには、マインドセットを変える必要がある。
  • 製品中心から顧客中心へ
  • 買ってもらうことがスタートに (1回売れれば良しの売って終わりではない)
  • 顧客と提供者の関係が 「点から線」 に。継続利用という線になり、1日でも長く関係を続けるビジネス


顧客との接点が 「線」 になるので、顧客理解を継続的により深くできるようになる。
顧客理解から魅力的なユーザー体験を提供し続け、商品やサービスへのブランドをつくっていく。


サブスクリプションを成長させる施策は8つ
  • 最初の顧客グループを獲得する
  • チャーン (解約や離脱) 率を引き下げる
  • 営業チームを拡大する
  • アップセルとクロスセルで顧客価値を高める
  • 新しいセグメントに参入する
  • 海外展開を図る
  • 買収によって最大限の成長機会をつかむ
  • プライシングとパッケージングを最適化する


サブスクリプションのビジネスは、顧客の幸せの上に成り立っている。
顧客が幸せになっているからこそ、顧客はサービスをもっと使ってくれ、友だちに勧めてくれ、自社の成長させることができる。




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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。