#マーケティング #パーセプションチェンジ #独自ブランド資産
良い商品なのに、なぜか売れない…。
その原因は、商品の性能ではなく、お客さんの頭の中にある 「これはこういうモノだ」 という思い込みにあるのかもしれません。
ロッテと TOPPAN が進めているのは、お菓子のガムのイメージを変え、仕事のパフォーマンスを支えるビジネスツールへと再定義する挑戦です。
この事例から、消費者やお客さんの認識を書き換える 「パーセプションチェンジ」 へのマーケティングを紐解きます。
「ビジネスツール」 としてのガムへ
お菓子としてのイメージが強いガムですが、ロッテと TOPPAN はオフィスワーカーの生産性向上に活用する実証実験を始めました。
背景には、2004年をピークに縮小を続ける日本のガム市場があります。代替品の登場や禁煙の広がりで、かつての勢いはありません。
一方で、働き方に目を向けると、オフィスワーカーの多くが 「仕事中に集中できない」 という課題を抱えています。
現在、日本のオフィスワーカーで年1回以上ガムを購入するのは 30% 弱にとどまります。もし、全オフィスワーカーが年1度購入すれば約130億円の市場拡大が見込めるという試算もあり、潜在的な成長可能性は大きいわけです。
ロッテと TOPPAN の両社は、「噛むこと」 が持つ集中力アップやコミュニケーション円滑化の効果に着目しました。
ロッテはまず、これまでに積み上げてきた噛む効果のエビデンスを示し、それをもとに TOPPAN と繰り返し協議したり、TOPPAN 社員にインタビューを重ねながら具体的なアクションを共同で考えていきました。
方向性として定まったのは、ガムのことを、「菓子」 から仕事のパフォーマンスを高める 「ビジネスツール」 へと価値を再定義するという大きな方針でした。新たな市場を開拓しようという試みです。
では、ロッテと TOPPAN のガムの事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
この事例からはマーケティングにおける 「パーセプションチェンジ」 に示唆があります。
パーセプションチェンジ
パーセプションは、日本語に訳すと認識や知覚を意味しますが、マーケティングの文脈では 「お客さんが商品やサービスに対して抱く価値イメージ」 のことです。
価値イメージの書き換え
商品への価値イメージをお客さんにとってどんな価値があるのかという切り口で再定義し、打ち出していくことが 「パーセプションチェンジ」 です。価値イメージをより良い方向へ書き換えていくわけです。
お客さんにとって魅力的なイメージを持ってもらうには、機能説明で終わらせず、商品・サービスがお客さんの生活やビジネスにどんな意味があるのかを具体的に伝えることが大事です。意味合いや価値を伝えるにあたって、顧客目線での価値提案が重要になります。
マーケティングの役割は、お客さんが持つカテゴリーや自社商品への価値イメージをより良いものに変え、「お客さんから選ばれる理由」 をつくり出すことです。
お菓子からビジネスツールへ
では、ガムにパーセプションチェンジを当てはめてみましょう。
従来のお菓子のガムのイメージは、 「お菓子・嗜好品」 としての位置づけでした。職場では適さないもの、喫煙者のエチケット用品、虫歯予防などの健康機能といったものでした。
そこでロッテと TOPPAN は目指すガムのパーセプションとして 「ビジネスツール」 「パフォーマンスギア」 という新しいカテゴリーイメージを打ち出しました。
ビジネスシーンでのガムの新しい価値イメージとして、仕事での集中力向上ツール、チームの協業を促進するコミュニケーション円滑化ツール、アイスブレークツールといった新しいパーセプションです。
パーセプションチェンジ施策の具体的アクション
新しい価値イメージを伝えるために、具体的なアクションが考えられました。
例えば 「ガム集中力 Up」 の施策では、オフィスのデスクにボトルタイプのガムを置き、ワーカーが自由に噛める環境を用意しました。
ただ設置するだけでなく、「ガム噛むと仕事がはかどるってほんと?」 という意図を伝える POP を添えています。ガムがただの嗜好品ではなく、「いつでも集中力を取り戻すためのツール」 であるという価値を提案するものです。
機能を並べるのではなく、「仕事がはかどる」 という消費者が求める具体的な成果 (ベネフィット) を示すことにより、ガムが仕事の文脈で持つ新しい意味を伝えます。
もうひとつの 「ガム会議」 では、会議室に 「ガムガチャ」 という遊び心のある装置を置きました。
会議の参加者はガチャを回してガムを取り、それをきっかけに会話が生まれることを狙った施策です。ガムを会議前の緊張をほぐし、「場の一体感」 や 「コミュニケーションの活性化」 を生み出すための演出の役割も果たします。
ガムが会議の始まりを告げる一種の儀式のようになり、参加者はガムに対して新たな価値イメージを抱いてもらうことを目指しました。
このように、ロッテと TOPPAN は 「ガムは集中力に良い」 という機能性を伝え、「オフィスワーカーの生産性を上げる」 という、想定する注力顧客が直面する問題解決に貢献する 「ビジネスツール」 という新しい意味合いを与えようとしています。
これは、商品への価値イメージを再定義する 「パーセプションチェンジ」 そのものです。
選択基準と選ぶ理由の変化
ロッテは 「ガムを噛む」 という行為を、「ガム集中力 Up」 「ガム会議」 というネーミングにしました。そして、ガムがオフィスでの活動にどんな意味をもたらすかを具体的に示しながら顧客価値の提案をしました。
パーセプションチェンジは一度の施策で終わるものではありません。継続的なコミュニケーションへのアプローチが、パーセプションチェンジでは重要です。
消費者やお客さんの持つ価値イメージが変わると、購買基準もアップデートされます。つまり、お客さんにとっての 「良い商品とは何か」 という定義が変わるわけです。
ガムで言えば、これまでのガムの購買基準には、「味」 「価格」 「特定の成分 (キシリトールなど) 」 といったものが代表的でした。
ここに新たな購買基準となる 「仕事のパフォーマンス向上に役立つか」 「会議の雰囲気を良くできるか」 「職場で使いやすい容器か (ボトルタイプなど) 」 が加わるというのが、今回の話です。
ガムは他の菓子やミントだけでなく、コーヒーやエナジードリンクといった 「集中力を高めるための他の選択肢」 と同じ土俵で比較されるようになります。
パーセプションチェンジから独自ブランド資産へ
今回のロッテと TOPPAN の事例からは、パーセプションチェンジの試みの先への考察も深められます。
すなわち、「パーセプションチェンジ」 と 「独自ブランド資産」 が相互に作用し、ブランドを強化していくプロセスを見て取れます。
新しい認識がブランド資産に新たな意味を宿す
パーセプションチェンジと独自ブランド資産は、お互いに影響を与え合いながらブランドを形成します。
独自ブランド資産 (Distinctive Brand Assets (DBA) ) とは、ブランドを他のブランドと区別し、消費者が容易に識別・想起できるような、ブランド固有の要素のことです。ロゴ、色、フォント、キャラクター、パッケージデザイン、音楽、スローガンなどが含まれます。
「パーセプションチェンジ」 と 「独自ブランド資産」 は、別々に存在するものではなく、密接に連携し、相互に影響し合いながらブランドを育てていきます。
パーセプションチェンジが実現することにより、新しい認識がブランド資産に新たな意味を宿します。それはあたかも、書き換えられた認識の "受け皿" の役割をロゴなどのブランド資産が果たすわけです。
今回の事例におけるボトル容器やガムガチャが、受け皿になります。
デスクに置かれたガムボトルは、もはや単なる容器ではありません。「集中モードへのスイッチ」 という新しい意味を持ちます。会議室のガムガチャも、ただの楽しい装置ではなく、「円滑なコミュニケーションの起爆剤」 というビジネスツールとしての役割を帯びます。
独自ブランド資産がパーセプションをさらに強化する
そして、新しい意味を宿したブランド資産は、人々の認識をさらに強固なものにしていきます。
一度ポジティブな意味を帯びたブランド資産は、今度は人々のパーセプションをさらに強化・定着させる役割を担います。
独自ブランド資産が新しいパーセプション (認識) と結びつくことによって、独自ブランド資産を目にすれば、ブランドイメージが思い起こされるトリガーとなるでしょう。
オフィスのデスクでガムボトルが目に入るたびに、「よし、集中しよう」 という意識が自然と喚起される。会議室でガムガチャを見れば、「この会議はオープンな雰囲気で進みそうだ」 と期待感が高まる。
このように、ブランド資産が人々の認識を思い起こさせるトリガーとなり、「ガム = ビジネスツール」 という新しいパーセプションを、繰り返し強化・定着させていくわけです。
自社の商品やサービスが、消費者や顧客に 「どのように認識されているか? (既存のブランドイメージ) 」 、そしてそれを 「どう変えていきたいか? (パーセプションチェンジ) 」 、そのために 「どのようなブランドに育てていくか? (独自ブランド資産構築) 」 。
ブランディングにおいて重要な論点です。
まとめ
今回は、ロッテと TOPPAN のガムの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 価値イメージの再定義。商品の機能説明で終わらず、消費者や顧客の生活やビジネスにおける具体的な意味と価値を伝えることで、新しいカテゴリーでの競争優位をつくりだせる
- パーセプションチェンジという価値イメージの書き換えにより、消費者・顧客の 「良い商品とは何か」 という定義が変わる。従来とは異なる評価軸で商品が選ばれるようになる
- パーセプションチェンジには、継続的なコミュニケーションが不可欠。一度の施策では終わらず、新しい価値イメージを定着させるために長期的で一貫したメッセージ発信が重要
- 新しい価値認識がブランド資産に新たな意味を宿す。パッケージ、ロゴ、デザインなどのブランド資産が、書き換えられた価値イメージを象徴する新たな意味を帯びるようになる
- 独自ブランド資産がパーセプションをさらに強化する。新しい意味を宿したブランド資産が顧客接点のたびにパーセプションを想起させるトリガーとなり、認識の強化と定着を促進する好循環を生み出す
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