投稿日 2026/02/25

カテゴリー戦略の理論と実践。顧客の頭の中に新しい世界を創造する

#マーケティング #カテゴリー戦略 #本

今回は、マーケティングの本を取り上げます。

ご紹介したいのは 「急成長企業だけが実践するカテゴリー戦略 - 頭に浮かべば、モノは売れる (田岡凌) 」 です。


こちらの本から、タイトルでもある 「カテゴリー戦略」 について、理論と実践への学びをぜひ一緒に深めていきましょう。

本書の概要



本書は、新規事業やマーケティングを停滞から一気に成長軌道へと乗せるための 「カテゴリー戦略」 を、概念の紹介から具体的な実践方法まで体系的に解説した一冊です。

著者の田岡凌さんが、ネスレ日本や、自身が創業した susworks 社から支援した企業のカテゴリー戦略での実体験を元に導き出した、再現性の高いフレームワークが惜しみなく公開されています。

序章から第 6 章まで、概念の紹介から実践方法までが段階的に展開され、読者が理論を理解してから具体的な行動に移せるよう工夫されています。

カテゴリー戦略の背景となる問題提起から始まり、事例でイメージを共有し、理論フレームを紹介。その後にカテゴリー戦略を実践する方法、実践する企業の担当者との対談という流れになっています。

本書が突きつけるのは、「どんなに魅力的な商品やサービスでも、思い出してもらえなければお客さんからは選ばれない」 という現実です。

その本質的な解決策こそが 「カテゴリー戦略」 であると説きます。

カテゴリー戦略とは


カテゴリー戦略とは、顧客の頭の中にカテゴリーを創造し、そのカテゴリーで真っ先に想起される No.1 ブランドになるための戦略です。新しい市場の創造戦略です。

言い換えれば、既存のレールから外れて新たなレールを敷き、その先頭を駆け抜けることです。

本書で紹介されるカテゴリー戦略の事例で、それまでになかった新しく生み出されたカテゴリー例をいくつかご紹介すると、次のようなものです。

  • ヤマト運輸の 「宅急便」 
  • ブルーライトメガネの 「JINS」 
  • 中古ピアノの 「タケモトピアノ」 
  • サクラクレパスの 「クレパス」 
  • 鼻セレブの 「高級ティッシュ」 
  • フリクションの 「消せるボールペン」 
  • 桃屋の辛そうで辛くない少し辛いラー油の 「食べるラー油」 
  • Sales Marker の 「インテントセールス」 
  • Shokz (ショックス) の 「骨伝導イヤホン」 


本書のサブタイトルにもある 「頭に浮かべば、モノは売れる」 という言葉が、カテゴリー戦略の本質を最もよく表しています。

想定するお客さんがあるニーズを感じたとき、「〇〇 といえば △△ だ」 と、自社のブランドが真っ先に、理想的には唯一の選択肢として頭に思い浮かぶ状態をつくり出すことが、カテゴリー戦略のゴールです。

カテゴリー戦略は、戦う土俵自体を自ら作り出すアプローチです。顧客の頭の中に新しい 「思考の枠組み」 をつくり、そこでのカテゴリーのリーダー、第一想起される存在になることを目指すわけです。

既存カテゴリーでナンバーワンになれないなら、新しいカテゴリーを創造し、ナンバーワンを目指すべきだと本書は強調します。従来の市場でシェア 2 位 3 位を狙うのではなく、自らカテゴリーを定義して先頭に立つという発想の転換です。

カテゴリー戦略では、「なぜ今か」 という問い、すなわち、このタイミングで新たに創出する必然性があるかどうかも重要です。

技術や社会の変化で障壁が崩れた瞬間にこそ、新しいカテゴリーが成立する可能性が高まります。今まで何が阻んでいたのか、今なら何が可能になったのか。この "Why now" を言語化すると、社内外にカテゴリー戦略を推進する必然性が伝わり、推進力が高まります。

[カテゴリー創造の実践] 4C モデル


カテゴリー戦略を実践するには、体系的なアプローチが必要です。

カテゴリー戦略を実践し、第一想起で No.1 ビジネスを実現するための中心的なフレームワークが 「4C モデル」 です。次の 4 つの C の頭文字からなるフレームです。


4C モデルの 4 つの要素は、それぞれが密接に連携しながら、顧客の頭の中に新しいカテゴリーをつくり出します。

Customer Problem

まずは Customer Problem です。注力顧客が抱える 「困りごと」 です。

カテゴリー戦略の起点は、困りごとを見つける徹底した顧客理解です。お客さんが言葉にできずに受け入れている不便や我慢と、速さと品質のようなトレードオフを掘り起こします。

インタビューや観察調査、行動ログから、皆なが無理だと諦めた領域にカテゴリー創出への種があります。ニーズがないところから生まれるというよりも、埋もれていた種を見つけます。

Category Value

次に Category Value で、これは新しくつくり出したいカテゴリーが顧客にとってどんな価値があるかの 「顧客価値」 の言語化です。

見つけた潜在課題を自社だけのやり方で、自社の技術的強みやビジネスモデルなどを組み合わせ、唯一無二の価値提案へと昇華させます。

顧客価値は、お客さんにとって切実であり、かつ実現可能である必要があります。「それが手に入るならぜひ欲しい」 と思わせる魅力と、それを裏付ける現実性が伴って初めて、カテゴリー戦略の要となります。

Category Keyword

3 つ目が Category Keyword です。つくりたい 「新たなカテゴリー名称」 のことです。

お客さんや消費者がパッと理解でき、記憶できるシンプルな言葉に結晶化させるのがカテゴリーキーワードです。

例えば Sales Marker は当初 「セールスインテリジェンス」 という英語圏の英語の専門用語をそのままカタカナにして使用していました。しかし、これでは日本では価値が伝わりにくいと捉え、カテゴリー名として 「インテントセールス」 へと変更しました。

他には 「食べるラー油」 などです。このように新規性があり、直感的に意味が伝わり、ポジティブなイメージを持つ言葉を戦略的に設計することが重要です。

Category Perception

4 つ目の最後は Category Perception (カテゴリーパーセプション) の構築です。

カテゴリーパーセプションとは、新しいカテゴリーから連想できるイメージです。定義したカテゴリーでの顧客価値を、お客さんが直感的に理解できるような視覚的・感覚的なイメージをつくり上げます。

カテゴリーパーセプションをつくるために、実際の製品やサービスの利用シーンを描くと効果的です。

例えば、骨伝導イヤホンの Shokz (ショックス) の事例では、骨伝導イヤホンを付けたランナーが爽快に走るシーンでカテゴリーパーセプションを狙いました。具体的には、自分の周囲の音 (車や自転車が近づく音など) もちゃんと耳に入り、それでいて音楽やラジオ・ポッドキャストもしっかり聞こえるというシーンを効果的に提示することで、顧客価値を言葉以上に雄弁に伝えました。

このように、お客さんへの五感に訴えかけるイメージをつくり上げることがカテゴリーの定着を決定づけます。

[カテゴリー創造の実践] 3つのフェーズ


4C モデルを使ったとしても、新たなカテゴリーを生み出し、世の中に浸透させていく道のりは、決して平坦ではありません。

そこで本書では、いきなり大きな投資をするのではなく、リスクを適切に管理しながら成功確率を高めていくという段階的なアプローチを推奨します。

まず小さな種を蒔き、芽を出して丁寧に育て、やがて市場という大きな木やさらには森へと広げていくというイメージです。

次のような 3 つのフェーズからカテゴリー戦略を実行していきます。

[フェーズ 1] イノベーター向け戦略 (種を蒔く段階) 

第一のフェーズはイノベーター向けの戦略です。

初期段階では、新しいカテゴリーの種を社会に投げかけ、初期浸透と仮説検証に焦点を当てます。

新しい物好きな人たちや特定業界の先進企業を注力対象にします。

大規模な投資を避け、PR (パブリックリレーションズ) 、業界の展示会、オウンドメディア、また、専門メディアへの寄稿でカテゴリー概念を提起したり、小規模ユーザーコミュニティで試験導入をします。こうした実行しやすい施策で新しいカテゴリーへの反応を見ます。

第一段階のこのフェーズでは 「自社を語るのではなく、カテゴリーを語る」 という発想が重要です。

[フェーズ 2] アーリーアダプター向け戦略 (芽を育てる段階) 

次の 2 つ目のフェーズはアーリーアダプター向けの戦略です。

初期段階での浸透を経て、信頼獲得と新たな顧客開拓を加速させます。成功事例や顧客の声・評価をもとに新カテゴリーへの信頼構築に注力します。

具体的には、事例ホワイトペーパーの公開やセミナー開催、先行して導入したり使っている顧客にアンバサダーとしてカテゴリーの推進役を担ってもらうなどです。

第三者の視点も効果的に織り交ぜながら、新しく打ち出すカテゴリーへの関心と信頼を確立していくことを重視するフェーズです。

[フェーズ 3] アーリーマジョリティ向け戦略 (森を広げる段階) 

そして第三フェーズは、アーリーマジョリティ向けの戦略です。

新しい顧客層を最大限に拡げる段階です。例えば、テレビ CM 、屋外広告、そのカテゴリーについて解説するビジネス書籍の出版といった、予算と労力はかかるものの世の中に広くリーチできる施策が中心となります。

これらのマス広告は認知向上にとどまらず、マジョリティ層に向けた新しいカテゴリーの社会的受容性を高める手段として機能することを狙います。

可能なら、新しいカテゴリーのリーダー的な立場を確かなものにするために、GR (Government Relations (ガバメントリレーションズ) の略で政府や行政との関係構築活動全般を指す) や、ルールづくりといった制度設計に参加します。カテゴリーの社会的インフラ化を促進し、揺るぎない地位を築くのです。

3 つのドライバーをまわす

イノベーターからアーリーアダプター、そしてアーリーマジョリティへと広げるプロセスにおいて、意識すべき 3 つのドライバーがあります。

それが 「課題啓蒙」 「信頼獲得」 「接点最大化」 です。

市場の教育により潜在課題を広く認識させニーズを掘り起こし (課題啓蒙) 、データや実績、権威づけによって 「この会社やプロダクトなら解決できる」 と思ってもらい (信頼獲得) 、オンライン・オフライン問わず顧客接点を増やし認知の機会を増大させる (接点最大化) というものです。

イノベーター向け戦略からの各フェーズでこれら 3 つのドライバーを状況を見極めながら注力します。

事業の立ち上げ初期であるフェーズ 1 では 「課題啓蒙」 に力を注ぎます。業界レポートの発行やオウンドメディアでの情報発信、専門メディアへの寄稿を通じて 「なぜ今この課題に向き合うべきなのか」 を市場に問いかけます。

次にアーリーアダプターからの支持を得て迎えるフェーズ 2 では、力点を 「信頼獲得」 に移します。具体的な ROI (投資対効果) データの公開、先行導入企業の成功事例の積極的な活用、業界賞の受賞などから、第三者視点での信頼を構築します。

新カテゴリーの定着を目指すフェーズ 3 で 「接点最大化」 に投資します。接点最大化では、SEO や SEM による検索流入の確保から始まり、SNS での情報拡散、より大規模な展示会への出展、タクシー広告やエレベーター広告といった決裁者層へのピンポイントなリーチまで、顧客の行動導線上に顧客接点を配置します。

このように、カテゴリー戦略の推進状況に応じて、ドライバーのアクセルの踏み方を変えていくことがカテゴリー戦略を成功に導くカギを握ります。

まとめ


今回は、書籍 「急成長企業だけが実践するカテゴリー戦略 - 頭に浮かべば、モノは売れる (田岡凌) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • カテゴリー戦略は、顧客の頭の中に新しいカテゴリー (新市場) を創り出し、「〇〇 といえば △△」 と真っ先に思い浮かぶ No.1 ブランドになることを目指すための戦略

  • 出発点は顧客の潜在課題の発見と理解。カテゴリー戦略は、顧客自身も気づいていない、あるいは諦めてしまっている 「潜在的な課題」 を発見することから始まる

  • 4C モデルで新カテゴリーでの顧客価値を具現化する。見出した顧客課題 (Customer problem) に対し、独自の顧客価値 (Category Value) を定義。覚えやすいカテゴリー名 (Category Keyword) と、直感的なイメージや利用シーン (Category Perception) に落とし込む

  • フェーズに分け段階的に浸透させる。まず先進的な層に問いかけ課題を啓蒙し (フェーズ 1) 、信頼を獲得しながら少しずつ広げ (フェーズ 2) 、最後にマス市場で一気に定着させる (フェーズ 3) という段階的なアプローチで、着実に新カテゴリーを創造していく

  • 各フェーズにおいて 「課題啓蒙」 「信頼獲得」 「接点最大化」 という 3 つのドライバー活動を、状況に応じてバランスを取りながら実行し続けることがカテゴリー創造を成功させるカギ


マーケティングレターのご紹介


マーケティングのニュースレターを配信しています。


気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。

マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。レターの文字数はこのブログの 2 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。

ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。

こちらから登録して、ぜひレターも読んでみてください!

最新記事

Podcast

多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信中。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。