#地政学 #解像度 #本

海外の国際情勢を知っても、背景にある 「なぜ」 が見えないと、どこか表面的な理解にとどまってしまいます。

なぜロシアはウクライナに侵攻したのか、なぜ中国は台湾や尖閣諸島にこだわるのか、なぜアメリカは日本の沖縄の米軍基地を重視し続けるのか――

そんな疑問に答えてくれるのが 「地政学が最強の教養である - “圧倒的教養” が身につく、たった 1 つの学問 (田村耕太郎) 」 という本です。

この本は、地政学をビジネスや人生の意思決定にも活かせる 「実践的な思考法」 として提示しています。

本書の概要

本書は、地政学こそが現代を生きるビジネスパーソンにとって必須の視点だとします。

地政学を通じて、世界の国々が置かれた地理的条件や歴史、民族性など、動かしがたい要因から、各国の取る行動や国際情勢の動きを立体的に理解することを目指します。

鍵となるメッセージは、ニュースや国際情勢を受け身で見るのではなく、その背後にある地理的・構造的な条件を理解することです。これにより長期的な予測力と判断力を飛躍的に高められます。

特に、地政学を 「その国の元首になるロールプレイング」 と捉え、知識の詰め込みではない思考訓練こそが重要だと強調します。

地政学とは

地政学とは、価値判断や感情論をいったん横に置き、科学的観察のアプローチで地理的な条件に注目し、国家の行動を予測する学問です。

地政学において、国家や人々が影響を受ける要素は大きく 6 つあります。

  • 気候
  • 周辺国
  • 民族性
  • 産業
  • 歴史
  • 統治体系

こうした要素を持つ地政学は、国際情勢の動向がビジネスや経済に大きなインパクトを与え続ける現代に、私たちが必要とする構造的な理解を与えてくれます。

シーパワーとランドパワー

地政学を理解する上で欠かせないのが、「シーパワー」 と 「ランドパワー」 という概念です。

シーパワーとは海洋を支配する 「海洋国家」 です。アメリカ、日本、イギリスなどが該当します。

海を制することで世界の物流を押さえ、貿易ルートやチョークポイント (詳細は後述) を支配することで経済的・軍事的優位を保ちます。

一方、ランドパワーとは大陸に根ざす 「大陸国家」 です。中国やロシア、ドイツ、フランスが代表例です。広大な領土と豊富な資源を持ち、陸路での影響力拡大を目指します。

歴史的に、シーパワーとランドパワーのふたつの勢力のせめぎ合いが世界の覇権争いの構図を形作ってきました。

興味深いのは、シーパワーがランドパワーになろうとしてもうまくいかず、その逆であるランドパワーがシーパワーになることも失敗してきたという、歴史的なパターンです。ふたつが両立しないのは、シーパワーとランドパワーには矛盾する概念が存在するからです。

近年は中国が海洋進出を進めていますが、ランドパワーである中国はランドパワー的なやり方をしていて、各国との関係構築がうまくいっていないように見えます。

チョークポイント

海を制するものが世界を制するという原理は、今も変わりません。

デジタルが幅を利かせる現代でも、世界の物流の 95 %以上は海路が使われます。そして、インターネット上の通信の 99 %以上は海底ケーブルを通じて行われます。

物流が集積する海上の重要な航路のことを 「チョークポイント」 と呼びます (英語の choke には 「詰まらせる」 という意味があります) 。

チョークポイントは世界に 10 個ほどあり、この重要航路を支配できることがシーパワーの力の源です。

日本にとってのチョークポイントはホルムズ海峡とマラッカ海峡です。日本が安定的に貿易ができる背景には、アメリカが日本のシーレーンを防衛してくれ、日本の物流が安定的にチョークポイントを通過できるからです。

アメリカは世界中のチョークポイントに海軍を配置することにより、自国や同盟国の物流を守り、覇権国家としての影響力を確保しています。世界の貿易の 8 割はアメリカドルで行われていますが、その背景には、アメリカが世界の海路を押さえているという理由もあるのです。

ハートランドとリムランド

地政学には 「ハートランド」 と 「リムランド」 という重要な概念があります。

ハートランドとは、ユーラシア大陸の中心部、主にロシアや中央アジアを指す内陸の心臓部です。一方、リムランドはハートランドを取り囲む沿岸地域で、ヨーロッパ、中東、南アジア、東アジアなどが含まれます。

リムランドが世界の覇権を左右する重要地帯となります。

例えば、ロシアとウクライナの関係がまさにハートランドとリムランドです。ハートランドのロシアがウクライナというリムランドに侵略し、リムランドへの支配を強めようとする動きと見ることができます。

地理による影響

地理は国家を規定します。これは本書で繰り返し強調されているポイントです。

まず自国の周りにある地理的障害、例えば山や川や谷や海が国家の国土や形を決めます。

地理によって気候が変わり、どの程度の緯度にあるのか、寒冷なのか温暖なのか暑いのかによって、農作物の生育具合が変わり、食糧生産力が左右されます。

地理的な場所によって、石油、石炭、ガス、鉱物資源、レアメタルなどの資源の獲得量も変わります。食糧生産力や保有資源量は国力に直結します。

気候により民族の性質も変わります。社会や国民性は、地理や天候が長年にわたってもたらす環境に大きく左右されます。生まれる宗教やその信仰も影響を受けます。

オクシモロン (対立概念の共存) 

本書には、「オクシモロン」 という考え方が登場します。

オクシモロンとは、矛盾する概念や言葉をあえて組み合わせる技法です。この本では 「対立概念の共存」 だと捉えます。

あらゆる観察対象には、白も黒も同時に存在します。光と影があることで立体的に物事が見えるわけです。白か黒か、竹で割ったような見方は絶対にしてはいけないと本書は言います。

オクシモロンの考え方は、国際情勢を理解する上で重要です。

ある国の行動を 「正義」 か 「悪」 かという単純な二元論で判断するのは適切ではありません。その国が置かれた地政学的条件、歴史的背景、周辺国との関係、国家リーダーの立場など、複数の要因を総合的に考慮することで、初めて立体的な理解ができます。

これは後述する 「ロールプレイング」 にも通じます。

地政学を実践するポイント

では、得た地政学の知見を、実際にどう活かせばいいのでしょうか。

ここでは 3 つの実践ポイントをご紹介します。

視座を高く持つ

重要なのは、国際情勢への解像度を上げ、世界をメタ的 (俯瞰的) に捉える視座を身につけることです。

地政学というレンズがあることによって、日々のニュースを見る際に、「なぜこの国がこのタイミングでこのような動きをするのか」 「その国の地理的条件、民族構成、近隣国との関係がどう作用しているのか」 を考えられるようになります。

例えば日本が日米関係やインド太平洋地域を重視する背景には、「日本の島国・資源に乏しい、海運・貿易に依存、米中の対立関係の進行」 のような地政学的な要素があることがわかります。

ただのニュースが洞察の読み解きに変わる。これが地政学という知識を持つことの価値です。

ニュースを出来事として見ることにとどまらず、背後にある地理的・歴史的な構造を読むことで、将来起こり得る事態をある程度予測しながら日常の意思決定に活かせるようになります。

相手の立場でロールプレイングをする

本書の特徴は、地政学を 「その国の元首 (大統領や首相など) になるロールプレイ」 と捉えていることです。

あなたがその国のトップだったらどう考えるか――

これが地政学の本質だと著者は言います。

様々な国際情勢に関するニュースを他人事のように消費するのではなく、もっと主体的に踏み込み、「自分がその国のリーダーだったとしたら」 とその国の置かれた状況に自らを置いて考えてみる思考です。

例えば、「もし自分がロシアのプーチンだったら?」 「もし自分が習近平だったら?」 と仮定してみると、その国がなぜそのような行動を取っているのかのストーリーが見えてきます。

自分の常識や感情をいったんは横に置き、相手の立場に立って考える力は、ビジネスの現場でも現状を理解するうえで大事です。

本書で紹介される各国の思惑や歴史を読み解くプロセスは、例えば、マーケティングでの 「顧客目線」 になることと本質は共通します。

未来予測のツールとして活用する

本書は 「地政学を知ることは、未来予測のツールとして最適だ」 と述べます。

地政学的に予測できることは事前に手を打てます。予測できれば準備や対策が見えてきます。

例えば企業であれば地政学リスクを踏まえた事業戦略やサプライチェーンの見直し、個人であれば海外情勢を考慮した資産運用やキャリアプランといった形で具体的な行動計画を立てる指針となるでしょう。

将来確実に起こると予測される出来事に対して、「では今何をすべきか」 を高い解像度で考えるツールとして、地政学は有用なツールです。

世界は常に変化し続けています。だからこそ、その変化の背後にある 「地理」 という不変の要素に注目することで、未来への確かな視座を得ることができます。本書は、そんな視座を与えてくれる一冊です。

まとめ

今回は、書籍 「地政学が最強の教養である - “圧倒的教養” が身につく、たった 1 つの学問 (田村耕太郎) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 地理・気候・資源・民族性などの自然条件が、国民性、国家の特徴や政策や、リーダーシップのあり方を規定する
  • 地政学は、国際情勢の表層的な出来事ではなく、地理的な条件にもとづく出来事の背後にある 「歴史・民族・構造」 を読み解くために有効
  • 国際関係を理解するには、善悪や感情ではなく、相手国の状況や条件をロールプレイをしてその国の目線 (例: 大統領, 首相, 国家主席) で想像することが重要。相手国の立場に立って考えることで、国際政治やビジネスにおける戦略的な思考力を養える
  • 地政学の実践のポイントは、① 視座を高く持ちニュースを洞察する、② ロールプレイングによって相手国のトップの立場で考える訓練をする、③ 未来予測ツールとして活用し地政学的な予測にもとづいて事前に対策を立てる