#マーケティング #ゲーミフィケーション
ゲームに夢中になった経験は、誰にでもあるはずです。
気づけば何時間も経っていた、あの感覚――。この 「ハマる」 メカニズムを教育や研修に応用すれば、難しいテーマも楽しく学べるのではないか。そんな可能性を証明しているスタートアップがあります。
今回は、人を動かす 「ゲーミフィケーション」 について考えます。
情報リテラシー教育ゲーム
誰もがスマートフォンを持つ時代、インターネット上の偽情報や 「闇バイト」 といった危険が、私たちの日常に潜んでいます。
これらは深刻な社会問題ですが、その対策を学ぶ 「研修」 と聞くと、どうしても堅苦しく、退屈なものを想像してしまわないでしょうか。しかし、そんな常識を覆し、大手企業さえも即導入を決めたソリューションが登場しました。
Classroom Adventure
その解決策を生み出したのは、2024 年 9 月に創業したばかりのスタートアップ、Classroom Adventure です。
Classroom Adventure は慶応義塾大学の現役生らによって立ち上げられました。
創業からわずか 1 年で、Google や三菱 UFJ ニコスといった名だたる大企業が社員研修ツールとして採用し、世界 100 以上の教育機関にも導入されています。
2 つのゲーム
Classroom Adventure が提供するのは 2 つのゲームです。
1 つ目は偽情報を見極める力を養う 「レイのブログ」 です。
出典: PR TIMES
真実と偽情報が混在するブログをヒントに、内容を見極めながらクラスメートのレイを探し出すというストーリーです。
2 つ目は 2024 年 12 月にリリースされた 「レイの失踪」 です。
出典: BuzzFeed
ゲームを通して闇バイトに加担する様子を追体験することで、その危険性と手口を学べます。
Classroom Adventure の事例の本質は、単にデジタルツールを使ったことではありません。本質は、ゲーミフィケーションを活用し、情報リテラシー向上というテーマに適用したことにあります。
ゲーミフィケーションとは
ゲーミフィケーションとは、ゲーム的思考やゲームメカニズムを使って、問題を解決したりユーザーが自然と熱中できる仕掛けのことです。
冒頭で触れたように、子どもの頃に時間を忘れてゲームに夢中になった、あのハマるというメカニズムを、様々な分野に応用しようという考え方がゲーミフィケーションです。
ここで重要なのは、Gamification という単語を単にゲーム化と日本語に当てはめてしまうと、理解が表面的なものにとどまってしまうという点です。ポイントを付与すれば、バッジを配布すれば、ランキングを表示すればゲーミフィケーションだ。そうした発想では、本質を捉えられません。
大事なのは、ゲーミフィケーションの背後にあるメカニズムの理解です。
ゲームには、プレイヤーを夢中にさせる基本的なサイクルがありますが、次の 3 つの要素を繰り返すことです。
目的と目標を設定する
ゲームには目的が設定されます。
わかりやすい目的の例は、ゲームをクリアすることです。「魔王を倒す」 「世界を救う」 などです。
大きな目的を達成するために、「アイテムを手に入れる」 「レベルを上げる」 といった、今の自分にも手が届きそうな具体的な目標が設定されています。
この 「遠くの大きな目的」 と 「近くの具体的な目標」 のバランスが、プレイヤーがゲームにハマる動機をつくります。
行動を選択する
目的達成のための各目標に到達するために、ユーザーに行動の選択をしてもらいます。例えば、アイテムを探して手に入れることです。
ここで重要なのは、アイテム獲得が難しくなりすぎず、簡単になりすぎない行動選択の難易度設計です。簡単すぎれば退屈し、難しすぎれば挫折します。プレイヤーのスキルレベルに応じた適切な難易度設定が、ゲームにハマるための鍵となります。
達成する
試練を乗り越え、目標を達成したとき、脳は快感を感じます。
目標を果たせば 1 つのサイクルが完了しますが、通常、達成すると何かしらの褒美がプレイヤーにもたらされます。
ポイントの付与、ストーリーが進む、新しいエリアが解放されるなどです。そしてまた次の試練が訪れる。初めてプレイする初心者のプレイサイクルから始まり、中級者・上級者それぞれのサイクルが途切れることなく用意されている。
このサイクルが途切れることなく続くことで、飽きることなく熱中し続けられるのです。
Classroom Adventure が実践する 3 つのサイクル
では、Classroom Adventure の 2 つのゲームは、ゲーミフィケーションの基本サイクルをどのように実装しているのでしょうか。
[目的と目標の設定] 「レイを探す」 という明確な目的
「レイのブログ」 では、消えたクラスメートのレイを探し出すことが大きな目的です。
また、「レイの失踪」 では、闇バイトの全容を理解し、レイに何が起きたのかを明らかにすることが目的となります。
そして大きな目的を達成するために、小さな目標が階層的に設定されています。「レイのブログ」 であれば、この記事の情報は本当か、この写真は加工されていないか、この証言は信頼できるかといった個別の判断が、レイを見つけるための手がかりとなります。
Classroom Adventure は 「レイを見つける」 という具体的で取り組みやすい目的を設定することで、学習者のモチベーションを引き出します。
[行動の選択] 操作のしやすさと適切な難易度設計
ゲームの中で、プレイヤーは情報の真偽を判断し、次に進むべき道を選択します。
この 「行動の選択」 において、Classroom Adventure は 2 つの工夫をしています。
ひとつは、操作がシンプルで迷わないこと、ふたつめは、リアルな難易度です。
判断の難易度では、「情報をうのみにしない心構え」 「真偽を見極めるコツ」 というリテラシーが身につくように、明らかな偽情報から、大人でも騙されそうになる巧妙に作られた偽情報まであります。
簡単すぎず、難しすぎないという原則が守られているため、プレイヤーは 「自分の頭で考えないと進めない」 という適度な緊張感を持ち続けます。だからこそ、クリアした時の喜びもひとしおなのです。
[達成] 謎が明らかになる没入感とスキル向上
目標を達成すると、ストーリーが進展し、謎が少しずつ明らかになっていきます。
Classroom Adventure が重視しているのは、謎が次第に明らかになっていく没入感のあるストーリー性です。
これは、ポイントやバッジといったわかりやすい褒美ではありません。「レイの居場所がわかった」 「闇バイトの手口が理解できた」 という、ストーリーの進展そのものが報酬となる設計です。
具体的には 「レイの居場所がわかった」 「なぜ闇バイトに手を出したのかわかった」 などの知的好奇心が満たされる快感 (内発的動機づけ) こそが、ゲーミフィケーションの神髄です。
そして最大の達成は、ゲームを終えた時、プレイヤー自身の中に 「騙されないスキル」 が確実に残っていることです。「勉強させられた」 という感覚なしに、いつの間にか最強の武器を手に入れているという、自然とスキルが身につく点が、Classroom Adventure のゲーミフィケーション設計の巧みさです。
レベルごとのサイクル設計 - 初心者から上級者まで
優れたゲーミフィケーション設計には、プレイヤーのレベルに応じたサイクル設定が不可欠です。
Classroom Adventure のゲームも、この原則がうまく取り入れられています。
最初は明らかに怪しいことや簡単に見破れる情報に気づくところからスタートし (初心者サイクル) 、徐々に情報の裏取りが必要になり (中級者サイクル) ます。
最後は限られた情報から真実を推理する、複数の可能性を比較検討する、バイアスを認識して判断するようになります (上級者サイクル) 。
このように段階的に難易度が上がる設計により、プレイヤーは自分の成長を実感しながら、飽きることなく学習を継続できることでしょう。
汎用化できる学び
Classroom Adventure の事例が教えてくれるのは、ゲーミフィケーションは単なるゲーム風の仕掛けではないということです。
ポイント制度を導入する、ランキングを表示する、バッジを配るなどのこうした表面的な要素だけでは、持続的なモチベーションは生まれません。
大事なのは、「目的 - 行動 - 達成」 という基本サイクルをうまく設計し、プレイヤーのレベルに応じた適切な難易度設定を行い、好奇心や主体的なやりたい気持ちといった本人の内側からの 「内発的動機づけ」 を生み出すことです。
グラフィックが簡素でも、機能が多彩でなくても、この基本メカニズムが正しく機能していれば、人は夢中になれます。逆に、どれだけ豪華なグラフィックや複雑な機能を用意しても、ゲーミフィケーションのメカニズムが欠けていれば、ユーザーは離れていきます。
ゲーミフィケーションは、教育分野だけでなく、従業員の研修、顧客エンゲージメント、健康促進プログラムなど、多くの領域に応用可能です。
Classroom Adventure の事例は、ゲーミフィケーションというメカニズムを正しく理解し実装すれば、難しい社会問題さえも解決の糸口が見出せることを示しています。
まとめ
今回は、Classroom Adventure の事例を取り上げ、ゲーミフィケーションについて見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ゲーミフィケーションとは、ゲーム的な思考やゲームのメカニズムを使って、問題を解決したり、ユーザーが熱中する仕組みや仕掛けのこと
- ゲームの基本サイクルである 「目的 - 行動 - 達成」 を設計することで、ユーザーを夢中にさせるメカニズムが生まれる
- プレイヤーのレベルに応じた簡単すぎず難しすぎない段階的な難易度設計により、初心者から上級者まで途切れることなく継続できる
- 外からのポイント付与などの外発的動機づけだけではなく、自発的な好奇心や達成感などの内発的動機づけを生むことで、持続的なモチベーションを生む
- 人がゲームにハマるメカニズムを理解し活用すれば、退屈な課題や社会問題も解決への糸口が見つかる

