#マーケティング #コンセプト #一貫性と連動

サントリーの清涼飲料水の新しいブランド 「ギルティ炭酸 NOPE」 が、発売 1 週間で 2000 万本を出荷しました。

テレビ CM 、交通広告、店頭の大量陳列が同時多発的に目に入り、SNS では 「 (サントリーは) 過去最大級の宣伝費を投じたのでは」 という臆測まで広がりました。

ところが、実際の予算規模はサントリーの他ブランドと同程度でした。では、何が違ったのか。答えは広告の強さではなく、商品、売り場、営業が連動する流れの設計にありました。

サントリー 「ギルティ炭酸 NOPE」 

出典: サントリー

まずはギルティ炭酸飲料の NOPE で、何が起きていたのかを押さえておきましょう。

異例の立ち上がり

NOPE は 2026 年 3 月に発売された炭酸飲料です。

発売後 1 週間で出荷本数が 2000 万本を突破し、これはサントリーの炭酸ブランドとして令和に入ってから初の数字でした。SNS での言及数もサントリーの既存ブランドと比べて 20 倍を超えています (参考情報) 。

予算ではなく知恵と工数をかけた

NOPE のブランドマネジャーによれば、NOPE の予算規模はテレビ CM を行うサントリーの他ブランドと同程度とのことです。予算というよりは、知恵と工数をかけたと。

同じ予算で、なぜ消費者の話題と購買を同時に獲得できたのか。その答えは、商品開発から店頭までを貫く一貫性と連動にありました。

一貫性と連動

NOPE の本質は、点の施策の集まりではなく、流れとしてつなげたことにあります。商品開発、広告、SNS 、店頭、営業が一本の線でつながり、それぞれが他を後押しする構造になっているのです。

ここからは、その連動を 4 つの視点から見ていきます。

商品開発の起点となった 「ギルティー消費」 というコンセプト

連動の出発点は、商品コンセプトです。コンセプトがあいまいだと、どれだけ後の施策を磨いても全体がばらけてしまいます。

サントリーが NOPE の開発で行ったのは、発想の起点を切り替えることでした。コーラや果汁炭酸といった味のカテゴリーで考えるのをやめて、消費者の飲用シーンを起点に発想したのです。

サントリーが独自に実施した 20 代から 30 代を対象にした調査で見えてきたのが、若年層が炭酸飲料に求める 「ストレスを発散したいとき」 というシーンでした。

ふだんは理性的に節制して過ごしているからこそ、背徳に価値がある。ここから生まれたのが 「ギルティー消費」 というコンセプトです。ギルティーとは罪深い、後ろめたいという意味です。NOPE は 「人生をさぼる余暇時間のお供」 という存在になるものとして開発されました。

思わず語りたくなる仕掛けを生むコミュニケーション

コンセプトが決まったら、次はそれを消費者に伝えるコミュニケーションです。NOPE は意図的に、語りどころを複数にわたって仕込みました。

商品の見た目ではブラックとマゼンタという強烈なカラーリング、特徴的なフェースアイコン、そして 「ギルティー」 というコンセプトそのものです。これらは見た人が思わず誰かに伝えたくなる要素としても設計されています。

NOPE のテレビ CM もコンセプトをわかりやすく可視化したものでした。

 「ギルティ監獄」 を舞台に、囚人服の登場人物たちが制約だらけの環境で高カロリーな食事と NOPE を遠慮なく楽しむ様子を CM で描きました。理性と背徳の対比を見せ、NOPE をそのお供として印象づける狙いです。

ポイントは、語りどころをひとつに絞らず、あえて複数仕込んだことです。色、アイコン、コンセプト、CM の世界観のどこかに引っかかれば、消費者は自分の言葉で SNS に投稿してくれます。結果として、UGC (ユーザー生成コンテンツ) が自発的に生まれる状態をつくり出しました。

流通の課題と重ねた 「合わせ買い提案」 で実現した店頭の連動

商品が SNS で話題になっても、店頭で商品が売られていなければ消費者からは買ってはもらえません。

NOPE は新ブランドとして、発売初日からサントリーの定番商品と比べて 1.4 倍という配荷率を実現しました。

ここで効いたのが、流通への提案の仕方です。通常、飲料の新商品はドリンク単体で訴求します。NOPE はそうではなく、サントリーは NOPE と一緒に食べてほしい揚げ物やスナック菓子といった 「ギルティーフード (カロリーなどが高く背徳感のある食べ物) 」 と一緒に購入してもらう売り方を提案しました。

炭酸市場の停滞は、小売側にとっても長年の悩みです。「このカテゴリーをなんとかしないと」 という小売側の課題に、サントリーは 「飲料棚だけでなく、売り場全体の客単価向上につながります」 という提案で応えたのです。

結果として、発売直後から店頭では NOPE が大量に陳列されました。

出典: 日経クロストレンド

その売り場の写真が SNS に投稿され、「本当にどこにでもある」 という印象がさらに別の消費者の興味を刺激していきます。地上 (店頭) からデジタル (SNS) への還流が起こり、好循環が生まれたのです。

現場を実行部隊ではなく、企画の担い手に変える

流通への提案を全国の商談で実現するためには、現場の営業の動きが欠かせません。サントリーがここで行ったのは、現場の実行部隊を企画の担い手に変えることでした。

従来は新商品の説明会では、ブランド側が商品情報や CM のプロモーション予定を現場の営業メンバーに共有し、その後は各営業に委ねるのが一般的でした。

NOPE では、このやり方を根本から変えています。2025 年 9 月下旬に全国の営業拠点から若手を中心に総勢約 40 人を選抜して 「NOPE プロジェクト」 を発足。月に 1 回、対面で集まり、各自が担当チェーンに合わせた提案を磨き上げて商談に持ち込んだのです。

同じ発想は、自動販売機を担当するルートマンにも広がっています。コーヒーブランド 「BOSS」 の自販機に NOPE のステッカーを貼るゲリラ的なプロモーションでは、本部はステッカーを準備して配るだけでした。貼る場所の選定は 「ここは繁華街で相性がいい」 「電車から見えるかもしれない」 と、街を熟知している現場のルートマンに任せました。

営業もルートマンも、本部が決めた施策をそのまま実行するのではなく、自分の担当領域でいかに NOPE を魅せるかを企画する立場になっていたのです。

NOPE の事例から学べること

では最後のパートでは、ここまで見てきた NOPE の事例から、汎用的に学べる視点を 3 つに整理しておきます。

点ではなく流れを設計する

単独で強い施策を並べても、それは点の集合に過ぎません。流れとして全体がストーリー性を持って設計されたとき、施策同士が他の施策を後押しするようになります。

NOPE で起きていたのは、こうした循環でした。CM が興味と検索を生み、検索が店頭での発見を生み、店頭の大量陳列が SNS 投稿を生み、その投稿がさらに別の消費者の注目を集める。互いの要素が連動する設計です。

こうした好循環があるからこそ、認知で止まらず、興味、行動、購買、さらに拡散と話題化まで到達できました。

軸となるコンセプトが連動を生む

連動を生むには、すべての施策を貫く軸が必要です。NOPE の場合は 「ギルティー消費」 という一語で、商品も広告も売り場も社内も串刺しになっていました。

コンセプトが弱いと、せっかく多くの施策を打っても、それぞれがバラバラに行われるだけで連動になりません。コンセプトという中心に通る一本の軸があるからこそ、商品開発の担当者、CM をつくるクリエイター、店頭の交渉をする営業、現場のルートマンが同じ方向に動けるのです。

消費者だけでなく、流通と社内も 「選んでくれる存在」 にする

3 つ目に得られる学びは、「選ばれる理由」 を消費者にだけ用意するのでは足りないということです。

NOPE では、消費者から選ばれる理由 (背徳の解放) と、流通から選ばれる理由 (カテゴリーの活性化) を設計し、それを 「ギルティーフード」 というハブで結びつけました。さらに営業やルートマンが自分ごととして動ける状態をつくることで、商談の現場や売り場での提案力に変わっていきました。

商品が消費者に届くまでには、流通や社内の人たちという多くの中間の 「顧客」 がいます。それぞれのお客さんにとっての価値を翻訳し、選んでもらえる存在になるという姿勢が、消費者への到達力を強めていくのです。

まとめ

サントリー NOPE の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

学びのポイントをまとめておきます。

  • マーケティングは点の施策ではなく、流れの設計でつくる。施策同士が他を後押しする循環があるからこそ、認知が購買に変わる
  • すべての施策を貫く軸となるコンセプトを持つ。コンセプトがあるから、商品開発から現場の営業まで同じ方向に動ける
  • 顧客文脈 (どんなシーンで使うか) を起点にコンセプト、商品開発、マーケティングを発想する
  • 現場を実行部隊ではなく、企画の担い手に変える。本部が決めた施策をそのまま流すのではなく、現場が自分ごととして動ける状態が連動を支える
  • 消費者だけでなく、流通や社内の人にも 「選ばれる理由」 を用意する。中間にいる人たちにとっての価値を翻訳することにより、最終的な消費者への到達力が強まる