#マーケティング #両利きの経営 #新規事業

成功をつくり上げた企業が、自らその成功に安住せず、再び挑戦者になる――

スタジオアリスの実践から、変化の時代を生き抜く経営のヒントが見えてきます。

スタジオアリス

出典: スタジオアリス

スタジオアリスは、全国に 400 店舗以上を展開する子ども向け写真館の最大手です。

1992 年の創業以来、七五三や誕生日などの子どもの晴れ姿を撮影する事業を展開してきました。

同社の特徴は、500 着以上の衣装を何着でも無料で着られるサービスと、カメラマンの 95% を女性が占める独自の体制です。「写真は未来の宝物」 をコーポレートメッセージに掲げ、家族の大切な思い出づくりをサポートします。

現在は牧野俊介社長が率い、少子化という逆風の中で新たな事業展開にも挑戦しています。

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では、スタジオアリスの事例から学べることを掘り下げていきましょう。

この事例は 「両利きの経営」 の観点で示唆に富みます。

両利きの経営とは

両利きの経営は、経営学のイノベーション理論のひとつです。

特徴は 「深化」 と 「探索」 の両方をやっていくことで、あたかも右手と左手の両方の手をうまく使うように経営をするアプローチです。

 「深化」 とは、既存事業の改善と効率化を進め、既存顧客に対して安定した価値を提供する活動です。「探索」 は、新たな事業領域に挑戦し、試行錯誤を重ねる活動で、環境の変化に適応し、未来の成長の柱を築きます。

一般的に、深化に偏りがちです。というのは、今までやってきたことの延長なので続けやすいからです。一方、探索はうまくいくかわからず、成果が出にくいので後回しになります。

しかし、企業は深化だけでは生き残っていけません。外部環境の変化に適応し変わっていくためには、探索が大事だからです。

両利きの経営は、深化と探索のどちらか一方だけでなく、あえて二兎を追う経営です。

スタジオアリスの両利きの構造

ここでスタジオアリスに話をつなげます。

スタジオアリスは、既存の写真館事業を磨き上げながら、同時に新しい領域にも果敢に挑戦するという、「両利きの経営」 のお手本例なのです。

[深化] 既存事業の磨き込み

スタジオアリスの 「深化」 の活動は、30 年以上続けてきた店舗型子ども写真館事業の品質向上に現れています。

同社は創業当時のシンプルな背景から、ナチュラルで柔らかい雰囲気の立体的な背景へと進化させた第 5 世代と呼ばれるスタジオを展開しています。和装や赤ちゃん専用スペースも備え、時代のニーズに合わせた撮影環境を整備してきました。

撮影技術の面では、スタッフのぬいぐるみを使った笑顔を引き出す技術や、赤ちゃん撮影時の素早い身のこなしなど、プロの技を代々受け継ぐ仕組みを構築しています。

牧野社長は新店舗のオープン時には、自ら丸一日かけてスタッフに技術を指導します。感動する写真を撮影し、「写真は未来の宝物」 という理念を現場に浸透させています。

一方で、少子化に伴う人口減少に合わせて、5 店舗あったエリアを 2 ~ 3 店舗に統合するなど、効率化も進めてきました。

[探索] 新事業領域への挑戦

スタジオアリスは既存の店舗撮影の枠を超えた 3 つの探索事業を展開しています。

順番に見ていくと、ひとつめは 2020 年に開始した 「成人式の振袖レンタル」 です。前撮りとセットで約 11 万円と相場の 3 分の 1 の価格を実現し、成人式革命をキャッチコピーに新しい市場を開拓しました。

次に 2022 年 10 月に開始した 「出張撮影サービス」 では、お客さんが希望する神社などの場所にカメラマンが出向きます。料金は約 4 万円から、撮影時間は 1 時間で、これまでのお客さんが店に行くから、スタジオアリスのスタッフがお客さんの元へ行くという新しいサービスです。

そして、2025 年から始めたのが 「子育て応援ヘルパー事業」 です。大阪市の子育て支援事業を請け負うもので、0 ~ 2 歳児家庭の家事・育児を支援します。料金は 1 時間 1500 円で、2 時間から利用可能です。

これらは子どもの写真撮影という既存事業の枠を超え、子どもの成長に関わる企業として新たな価値提供に挑戦するスタジオアリスの試みで、両利きの経営で言えば 「探索」 に当たります。

両利きの経営を成功させるポイント

スタジオアリスの事例からは、両利きの経営を成功させる要素が見えてきます。

ここでは 6 つのポイントから順に見ていきましょう。

既存事業への危機感

先ほども触れたように、企業はこれまでの事業や活動を続けるという 「深化」 に偏り、探索が後回しになりやすいです。

しかし、スタジオアリスが 「探索」 を積極的に進められる背景には、既存事業への明確な危機感があります。

少子化という日本社会の構造的な変化により、出生数は 10 年で 30% 減少し、一年間に生まれる新生児は 100 万人から 70 万人を下回るようになりました。それに伴いスタジオアリスの売上は 2022 年の 406 億円から減少傾向にあり、既存事業だけでは成長が限界なのは明白です。

スタジオアリスの牧野社長の 「もう一回アウトローにならないといけない」 という言葉には、自社が作り上げたスタンダードに安住しない姿勢、過去の成功体験にとらわれず再び変革者になろうとする意志が表れています。

この危機感が、探索事業をやらなければ生き残れないものという原動力になりました。

深化と探索に明確な目的と戦略がある

スタジオアリスの深化には目的があります。

それは感動する写真の追求です。牧野社長は 「我々の商売は接客業でありサービス業でありエンターテインメント企業。お客さんに感動してほしい」 と語ります。

探索事業のひとつである成人式振袖の写真撮影では、子どもだけではなく新成人へと感動してほしいお客さんを増やすことを目指します。また、出張撮影は、思い出の場所で撮りたいという新しいニーズに応えます。ヘルパー事業は子どもの成長に携わる企業として社会問題の解決にも向き合うという明確な目的を持っています。

これらは場当たり的な事業拡大ではなく、少子化という環境変化に対し、既存顧客との接点を増やす、新たな顧客価値を創造するという戦略にもとづいています。

経営層からの理解と支援がある (特に新規の探索事業への) 

牧野社長のリーダーシップが探索事業を後押します。

社長自身が掲げる 「脱常識」 は、探索事業を正当化する強力なメッセージです。

常識の裏に本質がある、業界の常識は世間の非常識という考え方、昨日の続きではなく、現状否定・自己否定から始める姿勢が、新規事業への挑戦を後押ししています。

具体的な支援も明確です。出張撮影を伸びている分野と認識し、全国展開を目標に掲げます。ヘルパー事業も子どもの成長に携わる企業として社会問題解決という文脈で位置づけています。新店舗オープン時に社長自ら丸一日かけて研修を実施する姿勢は、社長が本気で取り組んでいるというメッセージになります。

こうした経営層の理解と支援がなければ、「写真館なのに家事代行?」 という社内外の疑問に対応できず、探索事業は立ち消えになっていたでしょう。

探索には既存事業の資産を活かす

スタジオアリスの探索事業は、既存事業で培った資産を活用しています。

具体的には、成人式振袖では、既存スタジオの設備資産、スタッフの撮影技術を活用する技術資産、かつて七五三で撮影したお客さんが成人式でも利用する長期関係を構築する顧客基盤の活用です。

また、出張撮影では、スタジオで磨いた子どもの笑顔を引き出す技術が、スタジオアリスのスタジオの外でもそのまま活きる技術資産、既存のカメラマンを活用できる人材資産があります。あるカメラマンは引き出したい表情はスタジオでも外でも一緒と語ります。

そしてヘルパー事業でも、子どもの扱いに慣れた女性スタッフのスキル、既存顧客に新サービスを提供できる顧客接点も活用します。加えて、「子どもに優しい」 というスタジオアリスの好意的なイメージが信頼の源泉となるブランド資産が活かされています。ヘルパーの利用者にとっては、スタジオアリスという名前があり安心して利用できます。

スタジオアリスは既存資産の有効活用により、探索事業でもゼロからのスタートではなく、はじめから一定の競争優位性を持ってスタートできています。

深化と探索で緩やかな連携を図る

スタジオアリスでは、深化と探索が完全に分離されるのではなく、適度に連携しています。

例えば人材の面では、出張撮影は既存カメラマンが担当します。同じスタッフが両方を担当することで、出張撮影の経験がスタジオ撮影の質向上につながります。

顧客接点の面では、ヘルパー事業を通じて 0 ~ 2 歳児の家庭との接点が増え、将来の撮影サービス利用が期待できます。また、成人式振袖を通じて七五三のお客さんとの長期関係を構築しています。

技術の面でも相乗効果があります。出張撮影で学んだ屋外での自然な表情の引き出し方がスタジオ撮影にも応用可能です。

なお、ヘルパー事業は写真撮影とは異なるスキルが必要なため、完全統合ではなく緩やかな連携にとどまります。これは探索事業の自由度を保ち、既存事業の論理に縛られないための適切な距離感と言えます。

共通のアイデンティティを持たせる (ビジョンや価値基準などの企業文化) 

スタジオアリスの事例は、深化と探索の両方を支える共通のアイデンティティがはっきりと現れています。

コーポレートメッセージの 「写真は未来の宝物」 は、すべての事業に共通する理念です。牧野社長は 「写真は、その時の思い出が時が経つほど価値が増すもの。10 年後、20 年後に見返した時にあの時は楽しかったねとなる」 と語ります。

スタジオアリスの 「子どもの成長に携わる企業」 というアイデンティティも重要です。

写真撮影だけでなく、ヘルパー事業も子どもの成長に携わる企業として社会問題の解決という文脈で事業の意義が見出せます。孤立する親を支援することも、子どもの健やかな成長につながるという一貫した考え方です。

また、「脱常識」 というスタジオアリスの文化も、創業時から続く DNA です。業界の常識は世間の非常識として革新を続けてきた歴史があり、昔はアウトローだったのが今はスタンダード。もう一回アウトローにならないといけないという継続的変革の姿勢がスタジオアリスにはあります。この文化があるため、探索事業もスタジオアリスらしい挑戦として受け入れられるのでしょう。

サッカー型のような自律的文化もスタジオアリスの特徴です。現場で始まり現場で終わる。自ら考え自ら行動するという組織文化により、新規事業でも現場の創意工夫を促し、柔軟な対応を可能にする土壌があります。

そして感動という品質基準は、スタジオ撮影でも出張撮影でも共通の価値基準です。スタジオアリスはエンターテインメント企業としての価値提供を目指します。

これらのスタジオアリスに共通するアイデンティティにより、一見バラバラに見える事業展開も、スタジオアリスらしさという一本の軸で統合されています。

まとめ

スタジオアリスの事例を取り上げ、「両利きの経営」 という視点から学べることを見てきました。

学びのポイントをまとめておきます。

  • 両利きの経営は 「深化」 と 「探索」 の両立を目指す。環境変化に適応するには、既存事業の深化だけでなく、新領域への探索が重要
  • 探索を推進する原動力は、既存事業への強い危機感、目的意識、経営トップの強いコミットメントや支援
  • 新規事業は既存の資産 (技術・人材・ブランド・顧客基盤) を活かし、自社の強みを新規事業に転用することで成功確率を高められる
  • 深化と探索は完全に分離するのではなく緩やかに連携させ、人材やノウハウを還流させることが相乗効果を生む
  • 一貫したビジョンや企業文化などの共通のアイデンティティが、多様な事業を統合し、組織全体の方向性を揃える