#マーケティング #ビジネスモデル #顧客価値

今回は、飲食店向けファストパスの 「SuiSui (スイスイ) 」 を取り上げます。

SuiSui のビジネスモデルを、マーケティングの観点も入れて紐解きます。

飲食店ファストパス 「SuiSui」 

出典: PR TIMES

SuiSui (スイスイ) は、飲食店向けのスマートファストパスです。

使い方は、飲食店の前に設置された専用 QR コードを使い、利用者は SuiSui のアプリで優先入店チケットを購入します。長い行列が発生していても並んで待つことなく、行列をスキップして先頭に進めるという仕組みです。

平均単価は約 768 円、なかには 6000 円を支払うお客さんもいるほどで、SuiSui をうまく使えば行列を避けることができます。

SuiSui が生まれた背景には、創業者の原体験があります。

飲食店に営業支援として関わるなかで、行列ができるほど人気なのに利益が残らない店を数多く見てきたといいます。「行列が収益につながっていない」 「飲食店が低利益で苦しんでいる」 「日本の外食は魅力的なのに、時間ロスで体験価値が下がっている」 という 3 つの課題を飲食店の現場で痛感していました。

そこで生まれたのが、「行列そのものを収益と体験価値に変える」 という SuiSui のアイデアです。お客さんは待ち時間をなくし、飲食店は新たな収益を得る。SuiSui も成長できる。まさに三方よしのモデルです。

SuiSui は 2025 年末に発表された日経トレンディの 「2026 年ヒット予測ベスト 30」 で第 7 位にランクイン。タイパを求めるトレンドにも合致したサービスとして注目を集めています。

注力顧客

SuiSui はプラットフォームとして、飲食店と来店客という 2 つの顧客を持ちます。

飲食店 (導入店舗) 

SuiSui が注力するのは、あらゆる飲食店というわけではありません。

行列が常態化している人気店、特に 「収益性向上に意欲的な大手・チェーン店」 にフォーカスしています。

  • ブランド認知が高く、国内外にファンを持つチェーン店
  • デパ地下や駅ナカ、大型商業施設、空港、観光地などの集客エリア

SuiSui の導入店舗の具体例として紹介されているのが、名古屋の 「矢場とん」 や 「牛かつ もと村」 のような国内外に濃いファンを持つ有名チェーン店です。

興味深いのは、店舗の姿勢による明確な区分です。「行列は平等であるべき (特定の人を優遇しない) 」 という思想を持つ個店や老舗ではなく、「スタッフに還元できるなら導入したい」 という現実的・収益重視型の店舗に絞り込んでいます。

来店客 (エンドユーザー) 

飲食店に来る人の中で、SuiSui が注力顧客としているのは、「時間を買う」 という行為に価値を見出す、時間価値が購入費用を上回る (時間価値 > 購入費用) 人たちです。

それは時間制約型の富裕層ですが、この層の人たちは時間に制約があります。

高所得者層の人は自分の時給換算で 「30 分並ぶより 1,000 円払う方が合理的」 と判断したりします。

出張中のビジネスパーソンは移動の合間の 1-2 時間で食事を済ませる必要があります。

他には、インバウンド観光客も限られた滞在期間で 「絶対に行きたい店」 があります。彼ら・彼女らにとって、たとえ行きたいと思うお店でも 1 時間も待つ行列は、他の観光地を諦めることに等しく、その機会損失は数千円では済まないでしょう。

富裕層ではなくても、行列という行為そのものに強いストレスを感じる人も SuiSui の注力顧客になります。

暑さ・寒さ・疲労から解放されたい、小さな子ども連れで長時間並ぶのは無理、行列のストレスそのものを回避したいと強く思う人たちです。

こうした注力顧客はお金で 「快適さ」 と 「ストレスフリーな体験」 を買うことに抵抗感はなく、SuiSui の利用者は、時間価値に高いお金を投じる 「優良顧客」 であり、飲食店側にとっても価値の高い顧客層です。

競合

では次に、SuiSui の競合について見ていきましょう。

直接競合

わかりやすい競合は、同じように飲食店に優先的に入れるサービスです。

事前予約サービスや整理券アプリが挙げられますが、例えば TableCheck や EPARK などです。

間接競合

しかし、本当の競合はもっと広い範囲になります。

SuiSui が競争している相手は飲食店向けシステムだけではなく、消費者がお店の前の行列を見た瞬間に 「頭に浮かぶ選択肢」 だからです。

  • そのまま並ぶ (無料だが時間がかかる) 
  • 諦めて別の店に行く
  • 時間をずらして再訪する (ただし実行されないことが多い) 

もっと広く見れば、SuiSui の競合は 「その 1 時間をどう使うか」 という時間の使い方の選択肢全体です。

例えば旅行中の人にとって、行列に並ぶ 1 時間の選択肢 (SuiSui にとっての競合) は、次のようになります。

  • 行列に並ぶ
  • 観光地をもう 1 ヶ所回る
  • ショッピングをする
  • ホテルで休む

こうした広い間接的な競合も含めて、SuiSui はいかにして 「その時間の価値」 を高めるかが、選ばれるためのポイントになるわけです。

顧客価値

では、SuiSui は、注力顧客に対してどのような独自の価値を提供しているのでしょうか。

SuiSui の表面的な価値は、もちろん 「待たずに入れること」 です。これはわかりやすい顧客価値です。

しかし本当の価値はもっと深いところにあります。

確実性と顧客体験アップグレード

SuiSui の顧客価値になるのは 「確実性の担保」 です。

飲食店の行列に並ぶにあたって避けたいのは、「並んだけど売り切れや時間切れで食べられなかった」 という残念な体験です。

SuiSui は店頭の専用 QR コードから優先チケット (飲食店ファストパス) を購入することで、自分が入れるようになったタイミングで通知が来てお店に戻れば、行列に並んで待つことなく入店できます。

SuiSui の仕組みの優れた点は、チケットを買った時点で入店がほぼ確定する心理的安心感です。SuiSui は 「時間の確実性」 を売っているのです。

もうひとつの顧客価値は 「顧客体験のアップグレード」 です。

SuiSui のチケット価格が最高 6,000 円でも払った人がいたという事実が示すのは、SuiSui が 「時短」 にとどまらず 「特別な体験」 になっているということです。

行列を横目に優先的に入店できる 「選ばれた感」 、限られた人だけが使える 「プレミアム体験」 、「賢い選択をした」 という自己肯定感などの心理は、ビジネスクラスや VIP ラウンジと同じ構造です。

価値の非対称性

SuiSui の優れた点は、人によって時間価値が全く異なることを理解し、それを踏まえたサービス設計にしていることです。

地元客なら 30 分並んでも心理的な負担は高くないでしょう。しかし観光客などの時間が貴重な状況にある人にとって、ただ行列に並ぶ 30 分の価値は高いわけです。

同じ 30 分でも、人によって価値認識に差があるという非対称性を捉えて、価値をつくり収益化したのが SuiSui なのです。

収益モデル

では最後のパートでは、SuiSui が顧客価値をどのように事業の利益に変えているのかの収益モデルを見ていきます。

導入店舗とのレベニューシェア

SuiSui の収益モデルの基本構造は、導入店舗と収益を分け合うレベニューシェアです。優先チケット代を SuiSui と店舗で半分ずつ分け合います。

SuiSui が秀逸なのは、店舗側の心理的ハードルの低さにあります。SuiSui の導入にあたって初期投資ゼロで、さらに月額費用の固定費もゼロなので、仮に SuiSui がお客さんに使われなくても金銭的な損をすることはありません。

名古屋を中心に展開する味噌カツのチェーン店の 「矢場とん」 では、SuiSui を導入した結果、月に 70 万円以上の SuiSui チケット売上があるとのことです。この半分がレベニューシェア分として矢場とんのお店の収益になります。

SuiSui 経由で売れた分がそのまま成果報酬になるという仕組みは、「これ以上コストをかけたくない」 という飲食店の心理に沿ったものです。

ダイナミックプライシングが収益の源泉

SuiSui は、客単価、回転数、そして、その時の行列状況 (行列の長さ) に応じて、チケット価格を自動で変動させるダイナミックプライシングを採用しています。

お店への需要が高まれば (行列が長くなれば) SuiSui のチケット価格は自動的に上がり、需要が少なければ価格は下がります。ダイナミックプライシングにより、行列の価値をリアルタイムで最適化し、かつ収益を最大化できるのです。

価値あるユーザーデータ

そしてもうひとつ。SuiSui は、「余分にお金を払ってでも、その店に来店してくれた優良顧客」 というユーザーデータを手に入れています。

どの時間帯に来店が多く、高単価メニューへのニーズがあるか。どの国籍の客が多いか。平均滞在時間との相関、リピート率。これらは店舗にとって、見えなかった需要の可視化となります。

例えば 「月曜の 14 時に意外と SuiSui が利用され需要がありそう」 「台湾人観光客が多い」 といった情報は、シフト調整やメニュー開発にも参考になります。SuiSui のユーザーデータは、店舗にとってチケット売上以上の価値を生む可能性があります。

まとめ

今回は、行列に並ばずに飲食店に入れるチケットサービスの 「SuiSui」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 人や企業によって同じ時間やリソースの価値は全く異なる。この 「非対称性」 を見抜き、価格に反映させることで新しい価値をもたらすビジネスモデルにできる
  • これまで 「無価値」 と思われていた資産 (例: 待ち時間, 空き時間, 遊休資産) に、異なる視点から価値を見出すことで、ビジネスチャンスが生まれる
  • 競合は同業他社だけではなく、本当の競争相手は顧客がその選択をする瞬間に頭に浮かぶすべての選択肢。広い視野で競合を定義することが重要
  • 表面的な価値の奥にある本質的な価値 (例: 確実性, 体験のアップグレード) を設計することにより、その価値がしっかりと刺さる顧客には高単価でも選ばれる商品・サービスになる