今回は、小説の 「成瀬あかりシリーズ」 を取り上げます。
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主人公の成瀬あかりは、見つけた自分のやりたいことに一直線という行動派で、かなり変わった天才肌です。
そんな成瀬あかりの姿は読む者を惹きつけますが、この本の魅力はそれだけではありません。小説がもらたしてくれるのは、同じ出来事を違った視点で見ることのおもしろさです。
これはマーケティングを学ぶ立場からすると、異なる視点から人や価値を捉え直すことの重要性を教えてくれます。
では、成瀬あかりの物語をぜひ一緒に見に行きましょう。
本書の概要
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この本は 「2024年本屋大賞」 を受賞した作品です。
滋賀県大津市を舞台に、ローカルの日常を描いた小説で、主人公は成瀬あかりという女の子です。
一作目の 「成瀬は天下を取りにいく」 は、成瀬あかりが中学2年生の夏から高校2年生の夏まで、シリーズ二作目の 「成瀬は信じた道をいく」 は高校3年から大学1年生 (1回生) までの話です。
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成瀬あかりとは
成瀬あかりは、自分のやりたいことが見つかると、ブレることなく自分の興味の赴くままに我が道を突き進む少女です。200才まで生きることを本気で目指し、天才肌という感じのキャラクターです。
周囲からは成瀬あかりのことを変な子と見られることもあり、周りの人たちはハラハラすることもありますが、本人は全く意に介さず気にしません。
我道をいく破天荒な行動派
たとえば成瀬あかりの興味・やりたいことは、どんなことがあるかというと、小学5年生のときにはシャボン玉を極めると突然宣言し、シャボン玉を突き詰めていった結果、地元のメディアに取り上げられるほどの名人になります。
他には、けん玉の腕前を上げ、地域のけん玉大会では4時間もぶっ続けでミスすることなく技を披露し優勝しました。
ちなみに小説の1作目の第1章では、1ヶ月後に閉店することが発表された地元の百貨店の西武大津店に、夏休みの間は毎日通うと決め、成瀬あかりは実際に最後まで実行します。プロ野球の西武ライオンズのユニフォームを着て通い続けました。
西武大津店への挑戦が終われば、お笑いの M-1 で優勝したいと言い出します。幼なじみの同級生の女の子と漫才コンビを強引に組み、練習に励み予選に出場しました (この話は小説でのカギになる出来事の1つになります) 。
これら以外に成瀬あかりが次々に取り組んでいったのは、
- 髪の毛の伸びの検証
- 地域パトロール
- スーパーのバイト
- 大津観光大使
ちなみに1つ目の 「髪の毛の伸びの検証」 とは、人の髪はどれくらい伸びるのかを検証するというものです。
検証のために、高校入学時に成瀬あかりは自ら頭を丸坊主にし、高校の3年間で髪を切らずに伸ばし続けて、実際に何センチ伸びるかを自分の髪で検証するというプロジェクトでした。丸坊主の女子高生となったことで、高校の入学初日からクラスメイトをざわつかましたが、成瀬本人は意に介しません。
このように成瀬あかりという天真爛漫な女の子は、「自分はどうありたいのか」 よりも、「自分は何をしたいのか」 を重視します。彼女はやりたいことが次々に出てきて、思い立ったら行動せずにはいられないタイプなのです。
小説での描かれ方
シリーズを通しての物語の描かれ方は、成瀬あかりの周りの人たちや関係者からの描写です。
章ごとにそれぞれの登場人物を章の主役にし、成瀬の関係者の目で話が展開されます。
- 同学年の幼馴染の女の子
- 同級生の女の子や男の子
- 成瀬あかりの父親
- 40代の男性
- 30代の主婦
- 小学5年生の女の子
このような成瀬あかりに関わる様々な人物から見た、成瀬あかりの姿が描かれていきます。
読者は多様な登場人物の視点から、成瀬あかりという小説全体の主人公の人物像が次第にわかってきます。
全編を通して成瀬あかりの立場から描かれることはなく、実際に成瀬がどう思い何を考えているかの行動の奥にある心情はわかりません。あくまで他者の目から映る成瀬あかりの言動の描写です。
おもしろかった読みどころ
点と点がつながる
この小説では1つの出来事や同じシーンについて、異なる人物の立場で描かれることもあります。
伏線が回収され、1つ1つの点がつながっていきます。点と点がつながり線へ、線から面、そして立体になっていくことで、小説物語を多面的な視点で読めます。
1つのものに対して様々な切り口で捉える視点は、マーケティングにおいても商品の魅力や顧客価値を多角的に見出すことに示唆があります。
普通の人たちの価値観
成瀬あかり以外の様々な登場人物は、どの人もごく普通の人たちです。
こうした普通の人の 「価値観」 に触れることができるのもおもしろく読めたポイントです。マーケティングへの学びにもつながりました。
価値観とはたとえば、
- 周りの人を気にする (学校のクラスや SNS)
- 自分のキャラクター設定、居場所、クラスでのグループの所属先、世間体を常に意識する
- 親や家族の期待に応えようとして、自分自身を見失ってしまう葛藤
- 本当に自分のやりたいことがわからない。そのこと自体に悩み自己嫌悪に陥ってしまう
- 自分のこと・やっていることを認められたいという承認欲求
一方の成瀬あかりは、いずれも真逆と言っていいほど対極にいる人物として描かれます。
成瀬あかりの人物像について、普通の人たちの価値観というレンズを通すことで、成瀬あかりのユニークさが明確に浮かび上がります。成瀬あかりとの対比も相まって人間心理を学べます。
色々な価値観に触れ、登場人物の葛藤や成瀬あかりの行動力から、読者として自分の大切なことは何かを考えさせられる小説でした。
まとめ
今回は、小説 「成瀬は天下を取りにいく (宮島未奈) 」 と、 「成瀬は信じた道をいく (宮島未奈) 」 を取り上げ、おもしろく読めたポイントをご紹介しました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 本書の概要: 成瀬あかりシリーズ作品は、滋賀県大津市を舞台にローカルな日常を描く小説。主人公・成瀬あかりを取り巻く登場人物の視点で、成瀬の中学2年生から大学1年生までの成長を追う
- 成瀬あかりとは: 成瀬あかりは、自分のやりたいことを見つけると、それに全力を尽くすタイプ。彼女の行動は周囲を驚かせることが多いが、本人は全く気に留めない。読み進めるうちに成瀬あかりの魅力に引き込まれる
- おもしろかった読みどころ 1: 小説は複数の人物の視点から、同じ出来事も異なる角度から描かれる。1つのものに対して様々な切り口で捉える視点は、マーケティングにおいても商品の魅力や顧客価値を多面的に見出すことに示唆的
- おもしろかった読みどころ 2: 成瀬あかり以外の様々な登場人物は、どの人もごく普通の人たち。普通の人の 「価値観」 に触れることができる。成瀬あかりの行動や価値観との対比も相まって人間心理を学べる
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