#経営 #会計 #本
売上や利益を把握していても、数字が経営の実態を正しく映していなければ、次の一手を誤る可能性があります。
『稲盛和夫の実学 新装版 経営と会計』は、稲盛和夫さんが京セラで実践してきた会計の考え方を、自身の経営経験とともに語った本です。
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今回は、本書を通して、会計を経営にどう生かすのかを読み解きます。会計を経営のために使うとはどういうことかを、具体的に考えるきっかけになる内容をお届けします。
本書の概要
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本書は、稲盛和夫さんが京セラを経営する中で培ってきた会計の考え方をまとめた内容です。
専門的な会計知識を順番に学ぶ構成ではなく、経営者として会社の実態をどう把握し、数字をどう判断に使ってきたかが、自身の経験を交えて語られています。
帯には「会計がわからんで経営ができるか!」という稲盛さんの心の叫びが書かれていて、本書への問題意識を端的に示しています。
第 1 部では、キャッシュベース経営、一対一対応、筋肉質経営、完璧主義、ダブルチェック、採算向上、ガラス張り経営という 7 つの原則を取り上げます。それぞれについて、京セラでなぜ必要になり、実際の経営でどう運用してきたかが紹介されています。
第 2 部は、経営者の勉強会「盛和塾」で交わされた質疑応答です。投資、資金調達、原価管理、経営目標など、塾生が抱える具体的な経営課題に対し、稲盛さん自身が答えています。
本書から学べるテーマ
本書を読んで印象に残った内容を 3 つのテーマに分けてご紹介します。
稲盛経営の土台
稲盛さんが 27 歳で京セラを創業した頃、経営は手探りの状態でした。一つ判断を誤れば会社が傾きかねない中で、拠りどころにしたのが「人間として何が正しいか」という原理原則です。
公平、公正、誠実といった素朴な倫理観を頼りに、直面する問題を考えてきました。会計の慣行についても「なぜそう処理するのか?」「会社の実態を正しく表しているか?」と、理由まで問い直します。
慣行が成り立つ条件を確かめ、自分自身が納得できるまで考える姿勢から、京セラ独自の会計や管理の方法が生まれています。
たとえば本書には、銀行から借金をして土地を買い、値上がり益を得るよう勧められた話が出てきます。稲盛さんは、自分で汗をかいて稼ぐことを大切にし、不動産への投機を見送りました。
後に不動産の値下がりで他社が苦しむ中、先見性を問われた際にも、稲盛さんの説明は「浮利 (ふり) を追うのが好きではありません」という信念を語るものでした。どんな利益を追求するのかについて、本人の倫理観が判断を支えていたとわかる場面です。
また、経営のベースに置いているのが「人の心」です。仲間との信頼を大切にしながら、人には誘惑に負け、過ちを犯す弱さもあると考えています。人への信頼と弱さへの理解が、会計の仕組みにも反映されている点は、後で触れるダブルチェックの話につながります。
売上を伸ばし、経費を抑え、利益を残す
稲盛さんが繰り返し述べるのが、「売上を最大に、経費を最小に」という原則です。売上から経費を引いた分が利益になるので、両者の差を広げていこうとします。
注目したいのは、売上の増加に伴って経費も増えることを当然としない姿勢です。売上を伸ばしながら経費を同じ水準に保ち、さらに減らす余地を探し続けるためには、日々の仕事で工夫を重ねる必要があります。
経費への向き合い方がよく表れているのが、予算についての話です。稲盛さんは、売上が計画どおりに増えない一方、増員や拠点拡大の経費だけが予定どおり発生する状況を問題にしています。
そこで、必要な支出はその都度稟議を出し、決裁する方法をとりました。資材についても、今必要な分だけを買う「一升 (いっしょう) 買い」を原則にしています。まとめ買いで単価が安くなる場合も、当面必要な量を基準に購入する考え方です。
利益については、「儲かったお金はどこにあるのか?」という問いが印象に残りました。決算上は黒字でも、手元の現金が乏しく、資金繰りに苦しむ場合があるからです。
売掛金の回収を待っていたり、在庫や設備に資金を使っていたりすると、利益と手元の現金には差が生まれます。利益の数字を確認し、お金が何に使われ、どこにあるのかまで確かめる姿勢が、キャッシュベースの経営につながっています。
そして、売上を伸ばすうえで稲盛さんが重視するのが「値決めは経営」です。お客さんが納得し、喜んで買ってくれる最大限の価格を見極めることを求めています。
価格によって販売数量も利幅も変わります。どんな価格で、どれだけ売るかという組み合わせが事業を左右するため、最終的には経営者が責任を持って判断すべき仕事だと位置づけているのです。
売上、支出、利益、価格と扱う話は変わっても、根底には同じ原則があります。日々の判断に何度も原則を当てはめていく様子から、稲盛さんの言う「徹底する」の具体的な意味が伝わってきました。
会計を経営判断と現場の行動につなげる
売上や経費に手を打つためには、会社で何が起きているかを把握する必要があります。稲盛さんは、経営の実態を正しく表す会計を「現代経営の中枢」と位置づけ、決算書の数字を飛行機の操縦席にある計器に例えています。
判断の前提になる数字が実態とずれていたら、進む方向も誤ってしまいます。会計の数字に正確さを求める理由は、経営を担う人が適切に判断するためです。
具体的な原則を見ると、数字の正確さと人の行動への配慮がつながっています。
- 一対一対応:モノやお金の動きと伝票を対応させ、実際の取引と記録を一致させる
- ダブルチェック:複数の人が確認する仕組みによって、ミスや不正を防ぎ、社員を過ちから守る
- ガラス張り経営:経営状況を社員に開示し、数字を共有して信頼関係を築く
たとえばダブルチェックには、人の心の弱さから社員を守りたいという思いがあります。信頼している仲間が誘惑に負けて間違いを起こす状況を減らすために、確認を複数の人で行う方法を採っています。
処理に手間がかかっても、取引と記録の対応や確認を徹底する一方、数字を使う現場には、理解しやすい形で情報を示します。正確に記録することと、必要な情報を簡潔に伝えることの両方を追求している点も印象的でした。
組織を小さな集団に分けて採算を管理する「アメーバ経営」では、各集団が売上や経費、仕事に使った時間を把握します。自分たちで立てた月次や年次の目標と実績を比べ、メンバー全員で状況をつかみ、必要な行動をすぐに取れるようにしています。
会計は社長から現場までをつなぎ、社員一人ひとりが自分たちの仕事と採算を結びつける役割を担っているわけです。数字を理解できれば、どの経費を見直すか、どの作業を改善するかを現場でも考えられます。
さらに稲盛さんは、社員自身が採算を上げようと思うことを重視しています。「魂を注入する」と表現し、経営者が現場で仕事の意義や目標を直接伝えることを求めます。
会社として目指す数字には経営者の意志を込め、社員が「自分たちもやろう」と思えるように働きかけています。数字をつくり、共有した先で、人が実際に動くところまで経営者が関わる姿が描かれています。
本書の読みどころ
私が本書に惹かれたのは、稲盛和夫という経営者が何を信じ、何に疑問を抱き、どんな理由で決めたのかを会計という視点で追えるところでした。
第 1 部で会計の原則を読むと、京セラの仕組みが生まれた背景をたどれます。第 2 部の経営問答では、相談者の事情に向き合い、同じ原理原則からどう答えを導くのかを読むことができます。
たとえば、経営目標についての相談では、目標の高さや決め方を問われて、稲盛さんは経営者の意志と社員の心に話を戻します。質問の形が変わっても、考える基準に一貫性があり、回答を読むたびに稲盛さんの思考を追体験している感覚がありました。
慣行を問い直し、自分が正しいと納得したら、手間がかかる手続きも実務に取り入れて貫いていきます。私は、経営の原理原則に照らして考えた答えを、日々の業務にまで一貫させる姿勢に「稲盛イズム」を感じました。
読後には、普段目にする採算表や経費の承認方法についても、「何を決めるために集めている数字なのか?」「判断する人に、理解できる形で共有されているか?」と問い直せます。方法が生まれた理由をたどる読み方は、自分の仕事で当たり前になっている手順を確かめる際にも使えそうです。
経営の慣行や仕組みが生まれた理由まで語られているからこそ、時代を経た内容にも古さを感じず、自分の仕事に引き寄せて読めました。
本書では、稲盛和夫の経営哲学が、京セラの会計や仕組みにどう落とし込まれていったか、その背後にどんな稲盛さんの思考があったかを本人の言葉で学べます。会計とは何か、経営にどう活かせるかに興味があれば、ぜひ読んでほしいです。
まとめ
- 稲盛和夫さんが京セラで培った会計の考え方を、 7 つの原則と盛和塾での経営問答から学べる
- 「人間として何が正しいか」を判断の基準に置き、常識や慣行も本質までさかのぼって考える
- 「売上を最大に、経費を最小に」を軸に、支出、キャッシュ、値決めまで一貫して考える
- 会計で経営の実態を正確に捉え、その数字を社長から現場まで共有して行動につなげる
- 稲盛和夫さんの経営哲学が京セラの会計や仕組みに落とし込まれる思考や過程と、個別の経営課題への思考と判断を追体験できる
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