投稿日 2011/02/12

渋滞という視点で見てみる

以下のグラフは、NEXCO東日本が調べた2009年の高速道路の渋滞要因です(図1)。

日本経済新聞 10/12/24より

(どうやって調べたのか・%なので100は何かは個人的に気になりますが)

■サグと渋滞

7割を以上を占めるのが「サグ・上り坂」となっています。日経新聞によれば、次のような説明がされていました。『サグ(sag)は英語で「たるみ」の意味で、緩い下り坂から緩い上り坂に切り替わる地点を指す。上り坂に入ったことをドライバーが認識しづらく、アクセルが遅れて自然と減速してしまう。後続車は前のクルマとの車間距離が縮まるため、ブレーキを踏んで一定の車間を保とうとする。こうしたブレーキが連鎖し、後ろに伝わっていくことで最終的にどこかでクルマが停止し、そこに渋滞が発生する。』(日本経済新聞 10/12/24より)

日本自動車連盟 (JAF)のサイトでは、これを図で説明してくれています(図2)。

引用:日本自動車連盟 (JAF)

■渋滞をASEPモデルで考える

このように、渋滞の発生原因としては、サグ部という物理的な要因と車間距離が短いという人的要因が存在します。車間距離が小さいことで渋滞が起こる様子は、「渋滞学 (新潮選書)」で詳しく書かれていて、次のようなASEP(Asymmetical Simple Exclusion Process、非対称単純排除過程)という確率過程モデル(図3)が使われています。

引用:渋滞学

このモデルでは、丸印が車を表していて、車は一車線の道路を左から右に走っています。一番左の車(図では最後尾)は前の車との車間距離が小さいため、t⇒t+1の時間経過後も、同じ場所にとどまっており、これが渋滞です。もう少しASEPモデルを見てみます(図4)。

引用:渋滞学

左から2番目の車は車間距離を十分に取っていたために、t⇒t+4の間に4マス進んでいます。一方、左から4番目の車は同じ時間で半分の2マスしか進めていないことがわかります。

このASEP(エイセップ)のモデルはとてもシンプルなものです。マスが一次元で並んでおり、マス内には丸印が存在するかどうかの1/0の世界です。そしておもしろいと思うのは、自動車の流れや渋滞という連続的な事象を、1/0という非連続なモデルで表しているところ。すなわち、アナログな世界をデジタルに置き換えているのです。

■渋滞を社会に応用する

書籍「渋滞学」では車の渋滞という現象をシンプルに表現することで、そこから様々なものに渋滞を応用しています。有名なレストランに並ぶという人の渋滞であったり、アリの行列、電車の運行、航空機、エレベーター、などなど。

電車に関しては例えば山手線に乗っていると、「後続の電車が遅れており、時間調整のため当駅に3分ほど停車します」というアナウンスが流れることがあります。なぜこのような措置を取るかについてもその理由が書かれています。後続の電車が遅れているということは、その電車が駅に到着する頃にはその分だけたくさんの乗客がホームで待つことになります。多くの乗客を乗せるにはその分だけ時間がかかり、この状況が重なっていくと、遅れている電車のダイヤがますます乱れてしまいます。よって、あえて駅に電車を停車させることで、全体の電車と電車の車間距離を最適化しているのです(もっとも乗っている乗客からすれば、停車せずに早く出発してくれとついつい部分最適な考えを抱いてしまいますが)。

本書でのここまでの渋滞事例は、渋滞を「悪」として捉えられていますが、一方で渋滞を「善」とする事例も紹介されているのが興味深かったです。具体的な事例は森林火災と伝染病。森林火災の場合は火を車・木を道路に、伝染病の場合は病原菌を車・人を道路に当てはめれば、いかに渋滞させるか、つまり拡散しないかを考えることが重要になります。

「渋滞学」という本は、高速道路では車間距離がおよそ40m以下になると渋滞が発生するという知識が得られるだけではなく、渋滞×○○という感じで様々なものを渋滞と掛け合わせているのが、「なるほど」と思わせてくれます。

ところで著者である西成活裕氏は、なぜ一見異なる事象を渋滞と結ぶ付けられるのでしょうか。そのヒントは日経ビジネスにありました(2010.10.4号)。「渋滞学者、数学で社会救う」記事では、同氏がある遊びを披露しています。『箱にたくさんの単語を書いた紙片を入れておく。毎晩2枚を取り出して、それらを論理的に結びつけるという「紙切れ連想術」だ。3~4年続けるうちに「野良犬と三角関数でも結びつけられるようになった」』。また、次のようにも書かれています。『数学や物理の理論を学んでいると、いくら高度な研究を発表しても社会に成果を還元できているという実感は持ちづらい。西成は専門である流体力学を何らかの社会問題の解決に使えないかと相性の良さそうな対象を実社会の中で探すようになった。』

■ネットと渋滞

渋滞という視点で考えた時に、個人的に今後気になるのはインターネットでの渋滞です。ここ最近、IPv4アドレスの枯渇が話題になっています。何が起こっているかの概要はニュースをマンガで紹介してくれている「漫画の新聞」がわかりやすいですが、簡単に言うと、ネットに接続するPCやモバイルなど1つ1つに割り当てられているIPアドレス(IPv4)が、底をつきそうだというものです。IPv4のアドレス数は約43億個ですが、近年の特にモバイルの世界的な普及により43億では不足するのだそうです。そこで、IPv6という次のバージョンに移行させるとのことで、これは全世界の人にアドレスを1万個割り当てても枯渇しないくらいのアドレス数みたいです。(詳しくは:「ASSIOMA」で解説されています)

自動車で例えるならば、IPv4アドレスは車のナンバーです。車が増えすぎたことで、「あ11-11」というナンバーでは組み合わせの数が足りなくなり、これからは「あ112-112」という新しいナンバーを導入する、と考えればイメージしやすいかもしれません。なお、引き続きIPv4は使用できるなので、今使っている(すでにアドレスが割り当てられている)PCやモバイルへは影響はないようです。ナンバーの例で言えば、「あ11-11」というナンバーの車はこれからも道路を走れるけれど、今後発売される新しい車は「あ112-112」となるということ。

とはいえ、車が増えるということはその分だけ道路が増えないと渋滞が発生してしまいます。これと同じことがネットの世界でも起こる可能性もあります。増大する通信料をまかなえるだけの回線や周波数を広げる必要があるのだと思います。まさに、車の渋滞を緩和するために道路の幅を広げるのと同じなのです。


※参考情報

対談:万物は流れ、渋滞する──創発的ASEPアーバニズムにむけて|10+1 web site

渋滞学者、数学で社会救う|日経ビジネス2010.10.4号

【ニュースの裏】IPv4枯渇問題|漫画の新聞

遂にIPv4アドレスが枯渇。IPv4アドレス枯渇の原因とこれからを解説します。|ASSIOMA


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投稿日 2011/02/11

ブログ書く楽しさは料理に似てる

文章を書くことについて、「知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ」(講談社プラスアルファ文庫)では次のように書かれています。

書くという行為は、もやもやしたアイデアに明確なことばを与えていくことであり、だからこそ、書くことで考える力もついてくるのです。(p.131)

今回のエントリーでは、最近感じているブログを書く楽しさについて書いてみたいと思います。

ブログを書く楽しさ


上記の引用はブログを更新する理由の1つなわけですが、一方でこれだけだと、どうしても書くモチベーションを維持しきれない時も正直出てきます。書いていてなかなか文章がまとまらなかったり、うまくストーリーがつなげなかったりという場合もあれば、書こうという気持ちが起こらない時もあります。

そんな中、こうして更新を続けていられる理由の1つで最近感じているのが、ブログを書こうと思ってから記事にするまでのプロセスです。以下、この前のブログ記事を書いた時の、実際の流れを例にして書いてみます。(該当記事:「facebookで国民の声を聞くデジタル民主主義なインド」

このエントリーをブログで書こうと思ったきっかけは、ツイッターだったか RSS 経由で「Indian Government Asks For Budget Input On Facebook」(インド政府は Facebook で国家予算への意見を募る)というAll Facebookのブログ記事を読んだことでした。ただ、この記事だけの情報でブログにすれば、単に日本語訳にしただけの記事になってしまうので、ブログにするためにはもう少し関連情報が必要です。

そもそも、この記事だけではその情報が正しいかが保障されているわけではありません。そこで、他でも同様の内容を扱ったサイトがないかを調べてみました。

今回の例で言うと、該当するインド政府の専用サイトフェイスブックページ、ニュースサイト、他のブログ記事など。また、今回の場合は前提としてそもそものインドでのフェイスブックユーザー数も気になったので確認しました。

このように複数の情報を当たることで、最初の記事に信憑性が出てくるだけではなく、より詳細な情報を知ることができます(それと英語を読む勉強にもなりました)。同時に、このあたりでブログ記事のストーリーもだんだんと頭の中でできてきます。

他の情報に当たる時には Google 等での検索を利用しますが、加えて、自分がこれまで閲覧したことのあるサイトだったり、読んだ本、あるいは雑誌などの自分のこれまでのストック情報からも関連するネタを持ってくることもあります。

今回のインドの記事で言うと、Evernote から「NYC Mayor Wants Municipal Page On Facebook Site」という、ニューヨークでの今後のフェイスブックへの取り組み可能性という関連する記事を取り出したり、ちょっと前に読んだ「フェイスブック 若き天才の野望」という本や映画「ソーシャル・ネットワーク」も参考情報として使いました。

ここまでの内容を整理すると、ブログで書こうと思うきっかけとなる情報が入ってくると、関連する情報を色々と調べてみたり、自分のストック情報からも参考にします。料理で例えるならば、作りたい献立が思いついたので、料理に必要な食材を買いに行ったり(Google 検索など)、冷蔵庫にある食材を利用したり(Evernote など)するわけです。

個人的に楽しいと感じるのは、食材を探すのもそうですが、おもしろいのはどういうコースで料理を提供するか、つまり、集めてきた情報からどういうストーリーの記事にするか。ここが時に難しくもあり、そしてブログを書く楽しさだなと思っています。

ブログで発信するということ


ブログを書く時に、いつもちょっとだけ意識していることがあります。それは「この内容を記事にする価値があるのかどうか」ということ。こう考えるようになったきっかけは「街場のメディア論」(光文社新書)という本で著者の内田樹氏が次のように述べていたことです。

せめて僕たちにできることは、自分がもし「世論的なこと」を言い出したら、とりあえずいったん口を閉じて、果たしてその言葉があえて語るに値するものなのかどうかを自省することくらいでしょう。自分がこれから言おうとしていることは、もしかすると「誰でも言いそうなこと」ではないのか。
(中略)
 そう問うことはたいせつなことです。どうせ口を開く以上は、自分が言いたいことのうちの「自分が言わなくても誰かが代わりに言いそうなこと」よりは「自分がここで言わないと、たぶん誰も言わないこと」を選んで語るほうがいい。それは個人の場合も、メディアの場合も変わらないのではないかと僕は思います。(p.103)

もちろん、これを実践するのは難しいことだと思います。でもだからこそ、少しだけでも自分の中で意識しておきたいなと思うのです。

一方で、もっと気軽にブログを更新してもいいかなと思うことも時々ありますが、そういうものは基本的にツイッターに流していて、ブログとツイッターの位置づけは違うものだと思っています。(このあたりは以前にブログで書いてました:「ブログとツイッターは異なるベクトルを持つ」




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投稿日 2011/02/05

facebookの理念とこれからを考える

「フェイスブック 若き天才の野望」という本を読みました。早くも2011年の読んだ本ベスト5に入りそうなくらいおもしろく、示唆に富む内容でした。

著者のデビッド・カークパトリックによるマーク・ザッカーバーグ(フェイスブックCEO)本人へのインタビュー取材、その他数多くの関係者への取材内容から書かれたものです。特筆すべきは、その取材量の膨大さで、巻末の著者による謝辞にはインタビューをした関係者の名前一覧が載っており、ざっと数えただけでも100人を超える人数です。

■映画「ソーシャル・ネットワーク」との違い

この本のおもしろさには、2つの切り口があると思いました。1つはフェイスブックの歴史と言っていいほど、ハーバード大学での立上げから規模拡大、5億人のユーザー規模に至るまでの経緯が、その間の人間関係などと併せてとてもリアルに描かれていることです(注.2011年2月現在は6億人を超えている)。これは膨大な取材量だからこそ再現できたのだと思います。

この点は1月に日本でも公開された映画「ソーシャル・ネットワーク」と大きく異なる点だと思いました。余談ですが、映画を見た印象を一言で言えば、フェイスブックの1つの側面を描いているにすぎないというもの。これは、フェイスブックの共同創業者であり後にCEOのマーク・ザッカーバーグを訴えることになるエドゥアルド・サヴェリンからの視点が色濃く出ていること、また、映画作成にあたりザッカーバーグへの取材を断られているためザッカーバーグがフェイスブックを通じて何をしたいか(フェイスブックの本質的な部分)があまり描かれていないこと、ストーリーではユーザー数が100万人突破からの先が省略されていること、などが主な理由です。その点、「フェイスブック 若き天才の野望」にはフェイスブックの歴史が忠実に書かれていると思わされたのが印象的でした。フェイスブックに興味のある方は、この映画だけではなく本書「フェイスブック 若き天才の野望」も読んでみてもおもしろいと思います。一読の価値ありです。

■facebookの理念

2点目のおもしろさは、CEOのザッカーバーグがどう考えていたのか・考えているのか、フェイスブックとグーグルの設計思想の比較、フェイスブックにはどのような価値があるのか、今後の可能性など、これからのネットの世界のあり方を示唆する内容が豊富に書かれている点です。

本書を読んで見えてきたのは、フェイスブックの理念は「オープンな世界・透明な世界をつくること」です。これはCEOであるザッカバーグ個人の核となる思想でもあり、本書では何度もこの表現が出てきます。フェイスブック上ではユーザーが自分の名前を実名で登録し、自分の身元に即したプロフィールを公開することがルールになっています。プロフィールには、顔写真、連絡先、生年月日、出身地、学歴、現在の所属先(勤め先など)、趣味・関心、好きな言葉や本・音楽、宗教、政治観、フェイスブックに何を求めているか(情報共有、出会いなど)、といった内容を一通り読むだけで、その人のことある程度わかるようになっています。このようなフェイスブックの厳格なまでの実名主義は、まさにこのオープンで透明な使命を果たすためのものです。

フェイスブックのコンセプトは、本書に書かれている「フェイスブックの本質はソーシャルグラフに基づいて現実世界をデジタル世界に移し替えるものが」(p.496)というザッカーバーグの言葉に表れていると思いました。順番としてリアルな世界での家族・友人・知人という人間関係があり、それをフェイスブックというデジタルなオンライン上の世界に移すという設計思想です。よって、フェイスブックではリアルに近い友人同士などでの信頼関係に基づいたソーシャルグラフ(人間関係)が築かれるのです。

では、なせフェイスブック、もっと言えばザッカーバーグは「オープンで透明な世界」を目指すのでしょうか。それは、透明な世界では個人がより責任をもって行動するという信念を持っており、フェイスブックを通じてそういう世界をつくりたい、そしてよりよい世界にしたい、世界を変えたいと考えているからです。

■オープンとプライバシー

フェイスブックの理念、そしてザッカーバーグの信念は「オープンで透明な世界」です。この考え方に時として相反するのがプライバシーの問題。「フェイスブック 若き天才の野望」を読むと、フェイスブックにはプライバシー問題が常につきまとっていたことがわかります。例えば、自分の近況やあらゆる更新情報が友達のフェイスブック上に表示されるニュースフィードという機能がリリースされた時は、(当初はニュースフィードのメリットが十分に伝わらず)自分が公開を望まない情報までも送られることに何十万人もの反対グループができました。

ザッカーバーグはプライバシー問題をどのようにとらえているのでしょうか。それは、「オープンで透明な世界」という信念が目的であり、プライバシー問題は手段だということ。すなわち、オープンと透明性に至る方法として、プライバシーを位置づけており、だからフェイスブックではプライバシー設定が細かく制御できると書かれています。制御を細かくできることで安心感を与える、ザッカーバーグが期待するのはそうすることで次第にみんながオープンになることのようです。これに関して、前述のニュースフィード抗議グループを立ち上げたベン・パーはある記事でこのように書いていたようです。自分の生活や考えを親しい人に共有することが快適になってきた、それが新しいテクノロジーの発展とザッカーバーグによって。そしてこうも書いています。プライバシーは消えていない、むしろユーザーにとって容易に制御できるようになっており、共有したいことは誰にでも公開する、秘密にしたいことは公開しない、あるいは自分の頭の中にとどめておけばよい、と。

プライバシーに関して思うのは、自分の情報に対する公開/非公開の判断は、自分自身で判断するしかないということです。上記のようにフェイスブックではプライバシー設定により、確かにある程度の自由度が公開/非公開のききます。ただ、仮に自分のプロフィールや連絡先情報を「友人のみ」と限定した場合でも、ネット上に公開していることには限りなく、その友人から情報が流れる可能性はゼロではありません。であるならば、これを前提として理解した上で、公開のメリットを楽しめばいいのではないかと思います。mixiなどでは匿名のニックネームでの登録・公開も多く見られ、一見すると自分の知っている友達かどうかの判断に迷うことがあります。一方のフェイスブックでは実名や経歴、あるいは写真などのプロフィールから、よりリアルな友達とつながりやすい環境を提供しています。そのためにも、ネット上での自己データ公開リテラシーを各自それぞれが自分の基準で持つべきではないでしょうか。

■facebookのこれから

ユーザーが多ければそれだけ利便性が高まる「ネットワーク効果」。ネットワーク効果により、ナンバー1の位置を確保すれば、ますますユーザーが増えていくという好循環が起こります。この典型がGoogleでしょう。SNSの世界では、フェイスブックでそれが起こりました。ただ、本書を読むとフェイスブックはまだまだいろんな可能性があることを感じさせます。

すでに多数の企業がフェイスブック上に自社のフェイスブックページ(ファンページから名称を変更)を設け、プロモーションやマーケティングに活用しています。広告媒体としての価値も認められつつあります(参照:Nielsen調査)。フェイスブックのある幹部の発言である「モバイルこそ本質的にソーシャルである」からも読み取れるように、2011年の今年はモバイルにも注力していくようです(参照)。

それ以外の大きな動きとしては、独自通貨であるフェイスブッククレジットです。TechCrunchの記事によれば、フェイスブックは2011年7月以降にフェイスブック上のゲーム開発者に対して、フェイスブッククレジットの利用を義務付けるとのこと。ソーシャルゲームの収益構造の特徴にアイテムなどの課金モデルがあり、これにフェイスブッククレジットが利用されることになります。まずはゲームの世界ですが、今後はコンテンツだけでなくモノを買う場合にもこのクレジットが使われるようになるのでしょう。すでに6億人を突破したフェイスブックは、中国とインドに次ぐ第三の国と表現されることもありますが、フェイスブッククレジットに信用が伴えばリアルの通貨と同様の価値が生まれるかもしれません。国を越えた決済に必ず発生する為替が、フェイスブッククレジットでは存在しないことも、旅行やもしかしたら輸出入にも利用されるなんてこともありそうです。もう一つ、現在のフェイスブックの収益へはBtoBビジネスである広告からが最も寄与していると思いますが、ユーザーから直接の収益を上げることができれば、BtoCにもマネタイズ領域を広げられそうです。

フェイスブックが誰でも使うようなインフラ、あるいはザッカーバーグの「公共事業」という表現が現実になれば、国民と政府や国との意見交換の場としても使われることも考えられます。そこでは実名や身元のあるプロフィールに伴う参加者の議論が交わされ、これこそがフェイスブックの理念である「オープンで透明な世界」を体現することになり、ザッカーバーグの描く「よりよい世界」がつくられるのかもしれません。

前述のように、フェイブックはリアル社会での友人知人関係を映した鏡のようなものです。それに加えて、リアルな世界にある時間的・空間的な制約がずっと小さいというネットの特徴を活かせば、それは友人とのつながりは鏡以上の頻度や新密度となり得ます。「フェイスブック 若き天才の野望」という本の原題は「The facebook Effect」です(個人的には「野望」という訳にやや違和感ありますが)。フェイスブックの人間を中心としたソーシャルグラフが引き起こす効果はどんな未来をつくるのでしょうか。


※参考情報

映画「ソーシャル・ネットワーク」 - オフィシャルサイト
http://www.socialnetwork-movie.jp/

Nielsen/Facebook Report: The Value of Social Media Ad Impressions|nielsenwire
http://blog.nielsen.com/nielsenwire/online_mobile/nielsenfacebook-ad-report/

Facebook CTO Bret Taylor: “Mobile Devices Are Inherently Social”|TechCrunch
http://techcrunch.com/2011/01/25/facebook-cto-bret-taylor-mobile-devices-are-inherently-social/

Facebook CTO Bret Taylor: “Mobile is the primary focus for our platform this year.”|Inside Facebook
http://www.insidefacebook.com/2011/01/25/bret-taylor-facebook-platform-mobile/

Facebook、ゲームデベロッパーに独自仮想通貨Facebook Creditsの利用を義務付けへ|TechCrunch JAPAN
http://jp.techcrunch.com/archives/20110124facebook-to-make-facebook-credits-mandatory-for-game-developers/


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。