投稿日 2024/04/18

ファンケル 「マイクレ」 のリブランディング。ロゴやパッケージ変更の落とし穴と教訓

#マーケティング #リブランディング #顧客価値

ブランドのロゴやパッケージは単なる飾りではなく、お客さんが商品を識別するための重要な 「識別子」 です。

ロゴやパッケージを安易に変更すると、新しいお客さんを獲得できないばかりか、今までのお客さんの離反を招くこともあります。では、どのようにリニューアルをすればお客さんにとって価値あるものになるのでしょうか?

今回は、この論点を具体的なリニューアル事例から考察します。

ファンケル 「マイクレ」 のリブランディング


左から順に09年, 12年, 13年のマイクレのパッケージ (出典: 日経クロストレンド

ファンケルの 「マイルドクレンジングオイル」 (以下マイクレ) は、1997年の発売から今もファンケルの主力商品です。

マイクレはロングセラー商品ですが、かつてはパッケージのデザイン変更をしたものの売上が目標を大きく下回り、わずか1年で再改修するという失敗もありました。

パッケージのリニューアル


マイクレのパッケージの特徴である青いボトルにちなんで、マイクレは 「あの青色のクレンジング」 という強いイメージがあります。

長年愛用するお客さんにとって、パッケージの色はお店の棚で一目見て商品を識別するための大事な要素です。マイクレは青いボトルと認識しているから、お店で迷わず商品を選んで購入できるわけです。

ところが、ファンケルはそれほど強くお客さんから認識されているマイクレのボトルの色を、青から白へかつて変更したことがあります。2012年に 「よりスタイリッシュなブランドになること」 を目指し、売上を3割以上伸ばすという目標のもと、全社的に相当な投資がなされたとのことです (参考記事) 。

しかし、この取り組みはうまくいきませんでした。リブランディングの後、マイクレは予定していた売上を大きく下回ってしまったのです。

リニューアル失敗の原因と影響


この失敗の原因は、顧客視点からのブランドという 「識別子」 の重要性を見誤ったことにあります。

パッケージの色がお客さんにとって馴染みのある青色から白色に突然変わったことで、今までのお客さんがマイクレを見つけられなくなっていたのです。

リブランディングの失敗によって、マイクレだけでなくファンケルのサプリメントなど複数の商品カテゴリーが売上不振に陥りました。結果的に2013年3月期にはファンケルは創業以来初の赤字を計上しました (参考記事) 。

もとに戻す決断


2013年1月には、ファンケルの創業者である池森賢二氏が経営再建のため、急きょ8年ぶりに経営の場へと復帰しました。

マイクレはパッケージデザイン変更後の約1年で、元の青色のボトルに戻すことになりました。

お客さんから商品を見つけられないという声が相次いだこと、商品の中身は変えておらずパッケージのみの刷新だったこともあり、売上低迷の原因がパッケージだと判断したからです。この再改修は功を奏し、その後は売上は回復しました。


学べること


ではマイクレのリブランディング事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

識別子をなくしてしまったリブランディング


ブランドを象徴するロゴやパッケージは、お客さんが商品を見つけたり区別するための 「識別子」 としての役割を持っています。

識別子を安易に変更すると、お客さんがお店の棚や、EC サイト、他には SNS 上でも商品を見つけたり気づけなくなります。識別子が変わることで、お客さんのブランドからの離反を引き起こしてしまいます。

今回のファンケルのマイクレの場合は、お客さんにはマイクレの商品が 「あの青色」 というイメージで定着し、色がマイクレを認識させる役割を果たしていました。

たとえメーカー名や商品ブランド名がパッケージに表示されていても、識別子であった青色がなくなると、お客さんは商品を見つけられなくなってしまうわけです。

そのリニューアルに顧客価値があるか


商品リニューアルでは、特に商品の中身が変わらずにパッケージやロゴなどのデザインのみが変わる場合、新しいデザインがお客さんにとっての価値につながっているかが大事です。

マイクレのケースでは、青から白に大きく変わったデザイン変更がお客さんへの価値を生み出しておらず、むしろ青色がなくなったことで商品が見つからないというマイナスの作用を生んでしまいました。

顧客視点を入れた戦略をつくる


戦略の本質は、目的達成のための 「やること」 と 「やらないこと」 を決めることです。

商品の中身やデザインのリニューアル、リブランディングをするにあたって、何を変えて何を変えないのかを見極めることが重要です。ファンケルのように、1つのブランドの 「やることの決断」 がそのブランドだけでなく、会社全体を揺るがす可能性もあります。

 「変えること」 と 「変えないこと」 を決めるにあたっては、社内の事情や競合他社の動向に目を配る必要はあるでしょう。しかし、それと同じくらい、時にはそれ以上にお客さんの視点で変えることと変えないことを見極めることが大事です。

その戦略には顧客メリットやお客さんにとって本当に価値があるのか、お客さんの立場になって顧客視点を入れた戦略をつくることが重要です。


まとめ


今回はファンケルのマイクレのリブランディング事例から、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ブランド識別子の重要性: ロゴやパッケージはお客さんが商品を見つけたり購入するときの 「識別子」 の役割を果たす。安易な変更すると、顧客の離反を招きかねない

  • リニューアルの顧客価値: パッケージやロゴのリニューアルでは、新しいデザインがお客さんにとって価値につながっていることが大事

  • 顧客視点での戦略策定: 戦略とは 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごと。顧客視点からお客さんの立場も入れた戦略をつくろう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。