ChatGPT などの AI を活用すれば、ビジネスに革新をもたらすことは可能なのでしょうか?
たとえば、AI に自分たちにはない知見を持つ 「専門家」 の役割を与えることで、全く新しいアイデアが生まれるかもしれません。
今回は AI を活用したユニークなプリンの開発事例から、アイデア創出のプロセスと、人と AI がどのように協力して新しい商品を生み出せるかを考察します。
ChatGPT と開発した 「食べ歩きプリン」
食べ歩き用プリンの 「山村ぷりんバー」 (出典: PR TIMES)
乳製品メーカーの山村乳業 (三重県伊勢市) が、生成 AI の ChatGPT を有効活用し、食べ歩き用プリンを開発しました。ChatGPT の使い方としておもしろかったのでご紹介します。
新たに開発されたプリンの商品名は 「山村ぷりんバー」 です。見た目はアイス、でも中身はプリンという、新感覚の食べ歩きができるプリンです。
困難だった開発
写真を見ればプリンを棒に刺しただけではと思うかもしれませんが、開発は困難なものだったそうです。
というのは、そのままプリンを刺すだけでは棒からプリンが落ちてしまい、かといって安定させるためにゲル化剤を加えて硬くすると、プリンの滑らかな食感が損なわれてしまうからでした。
ChatGPT を 「物理学アドバイザー」 に
この問題を解決するために役に立ったのが ChatGPT でした。
なめらかな食感を担保しつつプリンを棒に挿しても安定させるには、棒の形や材質、棒に刺すプリンの形・硬さなどを検証する物理の視点が必要になります。そこで ChatGPT に 「物理学のアドバイザー」 という役割を与え、物理学の専門家からのアドバイスを得て商品開発を行いました。
具体的には、まずは ChatGPT に 「物体の中央を貫く形で棒を刺します。刺した状態で、その棒を地面に対して45度の角度で静止させる」 などと設定しました。AI に前提条件を与えた上で、「棒が物体を貫かない硬さを教えてほしいです」 のような質問を重ね、最適解を作り上げていきました。
ChatGPT からの示唆と価値
生成 AI への入力と出力を何度も繰り返し ChatGPT と試行錯誤を続けていくと、ChatGPT からは当初は開発メンバーが気づいていなかった視点が提示されました。
たとえば 「食べ歩き環境下での振動によりプリンが変形し、棒との摩擦が少なくなる瞬間がある」 という指摘です。これによってプリンが棒から抜けてしまう可能性もあり、ケアするためにもプリンには一定の硬さがどうしても必要という示唆が得られました。
最終的に ChatGPT が出した意見は、プリンと棒の接触面積、プリンと棒の支持面積 (重さを支える面積) 、プリン本体の形状、プリンの剛性 (物体が変形しない力) でした。これらを参考に、プリン本体の形状 (縦 × 横 × 高さ) や棒の形状 (縦 × 横 × 高さ) を決定しました。半年の開発期間を経て 「山村ぷりんバー」 が誕生したのです。
新しいプリンの商品開発に ChatGPT を活用したことへの評価として、「商品開発の際には、大きさの違う6種類のアイスの木の棒を試したり、プリンの大きさも変えたり、十数回試験を繰り返した。逆を言うと十数回で済んだのは ChatGPT で物理学の視点を特定できていたので、無意味な検証をしなくて済んだ」 とのことです。
AI を活用するアイデアのつくり方
この事例からは、ChatGPT のような AI をいかに活用するかに示唆があります。
AI に専門家の役割を担ってもらう
おもしろいと思うのは、ChatGPT を自分たちにはない専門性、今回の場合で言えば物理学の視点を得るために使ったことです。
ChatGPT に 「物理学者」 という役割を与え、AI と対話を重ねながら今までになかった全く新しい新商品を開発しました。
AI を活用する方法として、ChatGPT に特定の役割を持たせるというアプローチは興味深いです。
山村乳業が持っていたプリンへの知識に、ChatGPT からの、つまり AI が学習した世の中で一般的に言われる物理学の知見を結びつけました。AI を特定の専門家として活用することで、既存のアイデアや概念を再構築し、それまでになかった新しいプリンの商品を開発することができたのです。
アイデアのつくり方
アイデアは既存のもの同士の組み合わせ次第で、斬新なものが生まれます。
アイデアのつくり方 という本には、次のことが書かれています。
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✓ アイデアのつくり方
- アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない
- 新しい組み合わせを作り出す才能は、物事の奥にある関連性を見つけ出す才能に依存する
- アイデアがつくられるプロセスは、「情報収集 → 情報の消化 → 寝かせる (孵化して熟成する) → アイデアの誕生 → 検証と発展」
ChatGPT に自分たちにはない特定の役割をもたせ、3つ目のプロセスを人と AI が協力し合うという方法は、アプローチとして参考になります。
まとめ
今回は、食べ歩き用プリンの 「山村ぷりんバー」 の開発事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ChatGPT などの AI を活用することで、自分たちにない専門性を取り入れた商品やサービスの開発ができる
- 食べ歩き用プリン 「山村ぷりんバー」 の事例では、ChatGPT に物理学者という専門家の役割を担ってもらい、異なる視点をかけ合わせて全く新しいプリンを開発した
- アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせから生まれる。アイデア創発のプロセスである 「情報収集 → 情報の消化 → 寝かせる (孵化して熟成する) → アイデアの誕生 → 検証と発展」 において、人と AI の協同から新しいアイデアをつくれることが期待できる
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