投稿日 2024/04/05

4℃ の顧客設定とリブランディング。「購入者」 だけでなく 「利用者」 にも目を向けよう

#マーケティング #顧客設定 #購入者と利用者

マーケティングでは、お客さんが誰かを明確にすることが成功へのカギを握ります。

お客さんについて、商品の 「購入者」 と 「利用者」 に分け、商品を選ぶ人だけでなく、実際に使う人の望みにも耳を傾けることが大事です。

今回は、4℃ のブランディング事例から、マーケティングに学べることを掘り下げます。

4℃ の取り組み


宝飾品ブランドの 「4℃」 が、ブランドイメージの回復に取り組んでいます。

ブランドイメージ悪化への危機感


背景は、クリスマスシーズンなどの宝飾品のプレゼント需要が大きくなる時期に、SNS での 4℃ へのネガティブな投稿が増加していたことです。消費者の間で 4℃ へのマイナスイメージが形成され、ブランドへの危機感をもたらしていました。

4℃ がブランドイメージの刷新に力を入れている。目指すのは女性が自ら買いたくなるようなブランドだ。

 「プレゼントでもらったけど、うれしくない」 。ここ10年ほどクリスマスが近づくと、4℃ に関する投稿が X (旧ツイッター) をにぎわせる。「悪いのは 4℃ ではなく、相手の好みを考えないで贈る人」 などと擁護派の投稿も相次ぎ、SNS で一大論争となるのが 「風物詩」 と化している。

その影響は SNS 内にとどまらない。ある女性公務員 (33) は 「4℃ に悪いイメージはなかったけど、SNS の影響でダサいのかと思うようになってしまった」 と話す。

こうした状況に 4℃ 側が特に危機感を抱いたのが 「15年のクリスマス」 (瀧口社長 (引用者注: ヨンドシーホールディングス傘下でジュエリー事業を手掛けるエフ・ディ・シィ・プロダクツの瀧口昭弘社長) ) だ。男性から贈られた 4℃ のジュエリーを、女性たちが使わないままフリマアプリに続々と出品。SNS でネタにされていた。「これまでのやり方が間違っていたと気付かされた」 

女性の求めるものとの乖離


なぜこうしたことが起こっているのでしょうか?

要因は、従来は男性客が女性へのギフトとして 4℃ のジュエリーを購入するというニーズに対応してきたわけですが、プレゼントを贈られる側の女性の価値観の変化に対応できていなかったことにあります。

これまで 4℃ の売り上げを支えてきたのは男性客によるギフト需要だった。主力の広告は男性が女性にジュエリーを贈る場面だ。

ジュエリーのデザインも男性が女性への贈り物として選びやすいかどうかが重視され、無難なものが多い傾向に。「ハート形など女性はこういうジュエリーが好きなんだという男性目線のデザインが多い」 と女性会社員 (32) は話す。

 (中略) 

女性の価値観やギフトに求めるものは時と共に変化していた。従来のデザインへの女性の支持は下がり、「『彼女が喜ぶジュエリー』とネットで検索すると、必ずと言っていいほど 4℃ がおすすめに出てくる。ブランドに疎い男だと、そういった情報を頼りにせざるを得ない」 (東京都の26歳男性公務員) という男性との間に溝が広がっていた。

ブランドイメージの再構築


そこで 4℃ は、高額商品の強化、広告デザインの変更、新ブランドの立ち上げなど、多用なアプローチでブランドイメージの再構築に取り組んでいます。

そこで取り組んだのがブランドの再構築。掲げたのは 「大人化・上質化」 だ。「ギフトを強く意識しないと決意した」 と瀧口社長は話す。

17年ごろから高額商品の強化を始め、翌年には社内プロジェクトとして、ブランド再構築に本腰を入れた。外部のコンサルタントの力も借り、ブランド戦略の専属ディレクターもつけた。

広告デザインも変えた。男性が女性にギフトとして贈る場面を使っていたが、現在は女性だけが写っているものに。

これまでの路線とは異なる新ブランドも立ち上げた。21年にジェンダーレスラインの 「4℃ HOMME+ (ヨンドシー オムプラス) 」 が誕生。飾りのないチェーンのネックレスなどを展開し、プラチナ製で10万円を超える商品もある。

23年11月には 「4℃」 を冠さないブランド 「KAKERA」 を立ち上げた。「4℃ とつくブランドはもう十分」 (瀧口社長) 。デザイナーを外部から招き、天然石に合わせてデザインした一点物のジュエリーなどを販売する。7000円台のイヤーカフから8万円台の指輪まで幅広く展開し、30代以上の女性をターゲットとする。

銀座の旗艦店も3月に改装した。ブライダルがメインだったが縮小し、1階でファッションジュエリーを扱うように。女性が日常使いしやすい商品を店の顔に据える。10月に同店で開いた顧客向けパーティーもブランド改革の一環だ。

マーケティングへの教訓


それでは、4℃ の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

マーケティングへの教訓として、「自分たちのターゲット顧客は誰なのか」 という視点で示唆が得られます。

購入者と利用者の違い


ターゲット顧客の選定はマーケティング戦略では核心をなすものです。

今回のケースでは、これまでは 4℃ ではターゲット顧客を女性ではなく男性、別の見立てをすれば 「贈られて商品を使う人 (= 女性) 」 よりも 「商品を買う人 (= 男性) 」 に重きを置いていました。 女性に贈り物をする男性のニーズや好み、選びやすいデザインを重視していたものの、女性の求めるものとは乖離してしまっていたわけです。

贈り物を受ける女性の満足度は上がらず、クリスマスシーズンなどの特定のイベント後に SNS でのネガティブな投稿が生まれてしまい、拡散され、ブランドイメージに悪影響を与えていました。

一般化して捉えると、「購入者」 と 「利用者」 が違う場合に、ターゲット顧客を購入者に過度により過ぎたために招いた事象です。

こうした状況に対処するため、4℃ はターゲット顧客をアクセサリーやジュエリーを身につける女性にシフトしました。

カスタマーサクセスの範囲


マーケティングにおいてカスタマーサクセスという 「顧客の成功」 をどのように捉えるかという点で学びが得られます。お客さんの成功をどこまで捉えようとするかです。

4℃ は、以前は男性が女性向けの商品を選びやすいことを重視していました。つまり、カスタマーサクセスの範囲を女性ではなく男性にフォーカスしていたわけです。

今後の方向性は、女性に愛される、宝飾品を付ける女性から欲しいと思われるブランドになっていくことを目指していくという原点回帰です。

購入者の先にいる本当のお客さん


マーケティングへの学びとして汎用化すると、自分たちのお客さんは誰かを明確にし、そのお客さんにとっての本当の価値は何かを言語化することが重要です。

お客さんが誰かによって求められる価値は変わります。もうひとつ大事なのは、購入者の奥にいる利用者にも目を向けることです。


まとめ


今回は 4℃ の事例から、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 4℃ の事例では購入者 (男性) と利用者 (女性) の間のニーズの乖離が起こる中、男性にフォーカスしすぎた結果、女性からは自分向けではないとネガティブな印象を持たれた。SNS での拡散からブランドへのマイナスイメージを生んでしまった

  • お客さんが誰かを明確にし、商品の購入者だけでなく、その背後にいる利用者の本当の望みにも目を向けカスタマーサクセスの範囲を広げることが大事


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。