今回は、持ち手のグリップをなくした 「手のひらサイズのシェーバー」 を取り上げ、イノベーションという切り口でマーケティングへの学びを考察します。
手のひらシェーバー 「ラムダッシュ パームイン」
出典: Panasonic Store+
パナソニックのユニークなひげ剃り 「ラムダッシュ パームイン ES-PV6A」 は、発売から約2ヶ月間で想定の10倍となる1万5000台以上を販売しました (参考記事) 。
ラムダッシュ パームインの最大の特徴は、ヘッドとグリップが一体となった 「手のひらサイズ」 のシェーバーであることです。
持ち運びが容易でありながら、高性能な剃り心地を実現しています。コンパクトなデザインは、日常生活の中で場所を取らない調和するデザインも特徴的です。
開発のきっかけ
パームインの開発は、2020年の新型コロナウイルスの流行期間中に始まりました。在宅勤務の普及や外出自粛により長時間自宅にいることが多くなった開発担当者は、これを機にシェーバーを使い込み、気付きを掘り起こそうと考えたそうです。
シェーバーに関する過去の社内資料を見返していたところ、ある調査結果が目に留まりました。シェーバーのグリップを握らず、ヘッド部分をつかんで使用する人が国内にも海外にも一定数いるという内容でした。
そこで、自分でも実際にシェーバーのヘッドを取り外し、肌に当ててひげを剃る動作を再現してみたところ、これまでの形状では得られない、新しい使い心地に可能性を感じたそうです。あごの下や首まわりは剃り残しが多い部分になりますが、ヘッドを直接握れるようにすることで、剃りやすくなるという気づきを得たのです。
調和するデザインの追求
ラムダッシュ パームインは、洗面空間やインテリアとの調和を目指したデザインになっています。
シェーバーを洗面空間に置いたときの違和感をなくすために、樹脂成形でありながら石のような質感や、ひんやりとした触感を持つ素材の NAGORI を採用しました。この素材は、海水から抽出したミネラル成分を含んでおり、大理石のような模様を再現しています。
髭剃りの持ち手となるグリップを省略したことで生まれた手のひらサイズのフォルム、そして素材へのこだわりによって、パームインは日常の生活空間に自然と溶け込む美しさを持っています。
学べること
では、パナソニック手のひらサイズの 「ラムダッシュ パームイン」 から、学べることを掘り下げていきましょう。
想定外の使い方から
マーケティング視点で注目したいのは、売り手にとって 「想定外の使い方」 から新しい商品が生まれたことです。
髭剃りの開発担当者といえど、シェーバーのグリップが付いてるのにあえて使わず、ヘッド部分をつかんでひげを剃る人が国内にも海外にも一定数いるとは思ってもいなかったわけです。
これを一般化して捉えると、エクストリームユーザーという極端な人・尖った使い方をしている人のやり方にビジネス機会を見出したということです。
辺境にあるイノベーションの種
少し大げさかもしれませんが、手のひらシェーバーがやったことはイノベーションです。今回の事例はイノベーションを起こす方法に示唆があります。
イノベーションは 「辺境の地」 で生まれます。
辺境の地とは中央や本流ではなく、会社や業界、世の中の隅っこです。多くの人が関心を持たず、それどころか気づいてすらいない辺境の世界で、一部のマニアとも言えるような人たちだけが人知れず熱狂的にやっていることが、やがてはイノベーションになります。
今回の手のひらシェーバー 「ラムダッシュ パームイン」 に当てはめれば、本流というのは普通にグリップ部分を持ってひげを剃る方法です。それに対して一部の人がやっていたのは、ヘッドを直接手に持って剃るという使い方でした。これが髭剃りの 「辺境で起こっている事象」 だったのです。
イノベーションの種を見つける方法
想定していない使い方を邪道なものと切り捨てず見逃さずに、むしろ自分たちが知らなかったユーザーニーズと捉え積極的に取り入れ、今までになかった全く新しいデザインとして開発されたのが 「手のひらシェーバー」 なのです。
イノベーションになる従来とは非連続な大きな変化は、本流ではない辺境の地で密かに兆しが生まれます。
辺境の事象を発見した時に 「ふーん」 とか 「そういうこともあるのか」 程度で終わらせず、意味合いを見出し本質を捉え、本流に変えていくことでイノベーションが起こるのです。
下の図で示すように、辺境の具体を抽象化し、横展開し具体化、さらにアクションアイデアまで落とし込むことで新しいチャンスが生まれます。
まとめ
今回は、持ち手のグリップをなくし手のひらサイズのシェーバーにした 「ラムダッシュ パームイン」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- イノベーションは 「辺境の地」 で生まれる。多くの人が関心を持たず、それどころか気づいてすらいない辺境の世界で、一部の人たちだけが人知れず熱狂的にやっていることがイノベーションになる
- 新しいビジネス機会を発見するために、エクストリームユーザーという極端な人・尖った使い方をしている人のやり方に注目することで新しい着想が得られる
- 辺境の事象の意味合いを見出し、辺境の具体を一度抽象化し本質を捉え、横展開し具体化し本流に変えていく
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