ドラマや CM 、映画を見ていて、「あ!ここ知っている場所だ」 と気づくことはないでしょうか?
今回は、自社店舗をロケ地として活用し 「聖地化」 を目指すユニークなパルコの取り組み事例から、マーケティングやビジネスモデルに学べることを解説します。
PARCO ロケーション・サービス
消費者ニーズが多様化することを受けて、ファッションのイメージが強いパルコが新たな攻勢に出ています。
その代表例が、映画やドラマの撮影のためにパルコの各店舗の様々な場所を貸し出す 「PARCO ロケーション・サービス」 です。
パルコが2020年4月から開始したこのサービスは、ショッピング施設 「渋谷パルコ」 をはじめ、池袋や調布などパルコが展開する各店舗を映画やドラマ、テレビ CM、ミュージックビデオなどの撮影場所として貸し出すというものです。
パルコには着実にロケの撮影依頼が舞い込み、年間50 ~ 80本を対応しているとのことです (参考記事) 。
サービスをビジネスとして成立させるために
パルコロケーション・サービスの開発の経緯もおもしろかったです。
サービス需要の検証
ロケーションビジネスを思いつきパルコがまず始めたのは、実際に需要があるどうかを確かめるために関係各所へ取材に行くことでした (参考記事) 。
最初はロケのマッチングサイトを運営している会社へ行き、「渋谷や商業施設にはロケ地としての需要があるのか」 、「あるとしたら商業施設ではどのくらいの収入が見込めるのか」 などを聞いてまわりました。
わかってきたのは、「渋谷でロケが行えるのは映像制作者にとってありがたい」 という声でした。ロケで使用される場所は都心から離れたところにあることも多く、パルコが立地するアクセスの良い都心の中心で収録ができることが魅力だとわかりました。
得られた情報を整理して、次にテレビ局を訪ね、裏付け調査を続けました。先行する競合は存在するのかなども調査し、より具体的に事業内容を詰めていきました。
パルコは、撮影クルーの人たちはどのような情報やサービスを求めているのかを徹底的に洗い出し、テレビや映画業界の撮影の実態、現状での困りごとや望みを把握することで、ロケにおける 「顧客ニーズ」 を理解しました。
顧客理解からの価値提供
得られた知見や洞察から、ロケーション・サービスを新規事業として始めるに当たって、「パルコを単に場所を貸し出すのではなく、映像制作者の希望に対してできる限りの対応を心掛け、より良い作品の実現をサポートする」 というスタンスで受け入れ態勢を整えていきました。
パルコのロケーション・サービスの専用サイトでは、撮影シーンへの提案まで踏み込んでいます。
具体的には、パルコでの撮影可能な場所や時間、料金などの基本情報にとどまらず、テレビや映画の撮影は、放送・公開までに時間が限られる中で進むので、ロケーション・サービスのサイトに 「ここでこのようなシーンが撮れます」 という具体的なメリットの紹介です。
どのようなシーンと相性が良いかということも丁寧に伝えています。
たとえば、渋谷パルコの屋上にある広場 「ROOFTOP PARK (ルーフトップパーク) 」 なら、「渋谷全体を一望できる立地にあり、夜景がきれいな他、屋外広場のライトアップは幻想的で、デートシーンなどにお勧め」 という具合です。
また、パルコはテナントとの調整もやっています。たとえば、買い物のシーンを撮りたいという要望があれば、「どこのテナントがそもそも使用できるか」 「撮影シーンを前提にして、映り込んでも問題ない場所か」 などをチェックしていきます。
サービス開始当初は各テナントを一斉に確認しなくてはならず大変だったそうですが、撮影案件を重ねていくにつれて、撮影許可が得やすいショップの把握や撮影シーンごとに適切なスポットを見つける勘所がつかめてきたとのことです。
撮影クルー側からすると、限られた時間内でスムーズに撮影しやすい場所をパルコに選定してもらえるので、ありがたいことでしょう。
パルコの聖地化
パルコのロケーション・サービスは、自社店舗を 「聖地化」 にするための中長期的な取り組みです。
点ではなく線でつなげる布石
単なるロケ地の使用で終わらせず、パルコを新たな特別な場所にするという狙いがあります。パルコに入っている店舗などを "推し" の聖地に昇華させることを期待してのことです。
映画やドラマのロケに使われた場所としてパルコをアピールすれば、ファンが憧れる聖地になり、聖地巡礼を目当てにお客さんが来てくれれば、パルコへの新しい来店のモチベーションにつながることを期待しているわけです。
ロケーション・サービスを 「点」 としてではなく、「線」 としてつなげることを目指しているのです。
ブランディング
パルコロケーション・サービスは、一回きりの来店ではなく、映画やドラマのファンが繰り返し訪れる聖地となる場所をつくろうとしています。
このような中長期的な取り組みは、パルコのブランディングにも貢献するでしょう。パルコが文化的な場所としての地位を築き、映画やドラマ、音楽アーティストのファンにとって特別な意味を持つ空間になることで、ブランドとしての独自資産になります。
ロケーション・サービスは、パルコをただのショッピングスポット以上のものに変え、新たな来店のきっかけを生み出す役割を果たそうとしているのです。
三方よしのビジネスモデル
パルコのロケーション・サービスは、三方よしの視点で優れたビジネスモデルです。
三方よしは、売り手よし、買い手よし、世間よしです。
売り手よし
まず、売り手であるパルコにとって、このサービスは新たな収益源となり得ます。ロケ地としての使用料はもちろん、聖地としての地位が確立されれば、繰り返し訪れるファンによってさらなる収益が見込めます。
また、新しい顧客層を引き付けられれば、パルコのブランド価値も高まります。
買い手よし
次に、買い手である撮影クルーや関係者にとっては、都心のアクセスが良い場所で撮影ができるというメリットがあります。撮影の効率性が高まり、制作コストの削減にもつながるでしょう。
また、パルコがサービスの中で提供するのは、撮影の場所貸しだけでなく、シーンの提案やテナントの調整まで含むため、撮影の準備や進行においてもサポートを得られます。
世間よし
そして、世間にとってのメリットですが、映画やドラマのファンにとっては、お気に入りの作品に関連する聖地 (パルコの撮影場所) を訪れることができるという魅力につながります。ファンにとって特別な体験となり得るでしょう。
さらに、パルコを利用する一般の消費者にとっても、文化的な価値を持つ施設としてのパルコはショッピング以外の魅力も提供されることになります。こうした文化的魅力は、来店の新たな動機となり、消費者にとっての体験価値を生み出します。
このように、パルコのロケーション・サービスは売り手、買い手、そして世間での三方よしがあるビジネスモデルとして機能するでしょう。
サービス開始後の成果
2022年にヒットしたドラマ 「silent (サイレント) 」 のロケ地として浦和パルコのカフェが使われました。
ロケ地として使いやすいパルコの評判は、池袋や調布、吉祥寺など他のパルコの店舗にも広がりつつあるようです。
パルコによれば、ドラマ放映後に多くの来店客が浦和のバルコの店舗に訪れたとのことです。ドラマや映画など作品のファンを各パルコへ呼び込むケースが増えており、ロケーション・サービスが新しい来店機会を創出しているとサービスの貢献を評価しています (参考記事) 。
まとめ
今回は 「PARCO ロケーション・サービス」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- パルコのロケーション・サービスは、映画やドラマの撮影地として店舗を提供する。ドラマに使われたロケ地が聖地化されることが期待でき、ファンがパルコに訪問するという相乗効果と好循環を中長期的につくる狙いがある
- パルコが文化的な聖地としての地位が確立されることで、新しい人のパルコへの来店からブランド価値が高まることが期待できる
- ロケーション・サービスには三方よしのビジネスモデルがある。パルコには新たな収益源が、撮影クルーには効率的な撮影ができ、ファンには聖地化によるパルコでしかできない体験がもたらされる
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