投稿日 2024/04/13

未顧客へのマーケティング方法を解説。未顧客の "文脈" を理解し、ブランドを再解釈した顧客価値を提案する

#マーケティング #未顧客 #本

今回はマーケティングでおすすめの本をご紹介します。

 "未" 顧客理解 - なぜ、「買ってくれる人 = 顧客」 しか見ないのか? (芹澤連) です。


この本から、「未顧客」 という新しいお客さんを獲得する秘訣を、ぜひ一緒に紐解いていきましょう。

本書の概要



この本の問題意識は、「ロイヤルティ顧客 (上顧客) ばかりではなく、まだお客さんではない人たち (または企業) にもっと目を向けるべきである」 です。

新しい顧客の獲得、すなわち 「未顧客」 に目を向ける重要性が書かれていて、ビジネスを成長させるためには 「未顧客を理解し、新規顧客をどれだけ獲得できるか」 というのがこの本の主旨です。

他にもマーケティングの基本的なフレーム (枠組み) である STP の使い方、ブランドなど、マーケターが前提として持っている考え方や知識について、土台から揺さぶられる感覚が得られ、読んでいて刺激的でした。

本の構成は、

  • なぜ未顧客が重要なのか [Why]
  • 未顧客に対応するポイント [What]
  • 具体的にどうすればいいかの方法 [How]

となっていて、きれいな流れで読み進めることができます。


前提となる捉え方


この本で前提になっている考え方をいくつか共有します。

  • ブランドの浸透率とロイヤルティの関係
  • 本書での 「未顧客」 の定義
  • 買い手の合理 vs 売り手の合理

順番に見ていきましょう。

ブランドの浸透率とロイヤルティの関係


どんなブランドでも一定数の離反顧客は存在します。

よって、ロイヤル顧客を大切にすることも重要ですが、新しい顧客を獲得し続けることが大事です。

というのは、本書によれば様々な研究によって以下の内容が判明しているからです。

  • ヘビーユーザーの絶対数が少ない
  • ヘビーユーザーにさらに購入してもらうのは難しい
  • 既存顧客の認識や行動を広告で変えることは困難である
  • 既存顧客へのアクティベーション施策の効果期間は短い (効果があるのは一時的) 
  • ROI (投資対効果) を成果指標としても売上のトップラインが増えるわけではない
  • ロイヤルティはロイヤルティ施策によって高まるのではなく、浸透率の増加に伴って高まる

本書での学びの1つは、上記の箇条書きの最後にあった 「ブランドへのロイヤルティと浸透率の関係」 です。すなわち、市場でのブランドの浸透率が高い (買ったり使う人が多い) ほど、そのブランドへのロイヤルティが高いという事実です。

浸透率、つまり商品やサービスを購入・使用する顧客の割合が高まると顧客数が増加します。お客さんの中には購買頻度が多くなる人もいるので、こうした結果として売上が上がるわけです。

顧客数の増加はロイヤルティを高めますが、その逆であるロイヤルティが高まったからといって必ずしも顧客数や市場シェアが増加するわけではないのです。

従って、マーケティング活動では直接的に浸透率を伸ばすことに注力することが重要になります。ブランドを成長させるには、浸透率を高め、ブランドの利用機会を増やし、新規やライトユーザーを獲得する必要があるのです。

未顧客とは


この本のタイトルにも入っている 「未顧客」 とは、本書では商品やサービスをまだ利用していない、あるいは少ない頻度でしか利用していない層のことを指します。商品を全く購入していない 「ノンユーザー層」 だけではなく、年に1, 2回程度しか購入していない 「ライトユーザー層」 も含まれます。

本書での未顧客の捉え方で特徴的なのは、平均的なターゲット像に当てはまらない 「少数派の人たち」 も未顧客に含めていることです。

どんな企業でも、事業の成長にはこのような未顧客の新規獲得が不可欠です。しかし多くの場合、未顧客は企業にとって見えにくい存在となっています。

顧客の合理


売り手からすると、お客さんのことが時には非合理に見える存在かもしれません。

しかしマーケターは 「顧客は合理的である」 と見るべきです。お客さんには売り手には見えていない日常生活、ライフスタイルや習慣、ビジネスシーンがあり、明確な理由がなさそうに見えるお客さんの行動でも、お客さんの文脈を理解すれば背後には行動原理が存在します。

こうした 「お客さんの文脈から生まれる合理性や行動パターン」 を見つけることが、顧客理解では肝になります。

お客さんの合理に合わないコミュニケーションや商品提案は受け入れてもらえません。お客さんの合理を知らないまま、どれだけ社内ミーティングを重ね、アイデアを磨こうとしても、それは売り手による 「企業の合理」 でしかないでしょう。企業の合理は必ずしも顧客の合理と一致するとは限らないのです。

お客さんには 「顧客の合理」 がある。マーケターは、自らの合理を場合によっては捨てるというアンラーニングを行い、顧客の合理に合わせにいくべきなのです。


未顧客へのマーケティング


では、ここまでの未顧客への考え方やスタンスを踏まえ、未顧客へのマーケティングについても詳しく見ていきましょう。

  • セグメンテーションとは市場の再定義
  • 顧客の合理と文脈を理解する 「切り口」 
  • ブランドを再解釈して未顧客にアプローチする
  • カテゴリーエントリーポイントを増やす
  • 文脈をターゲットする

順番に説明していきますね。

セグメンテーションとは市場の再定義


未顧客へのマーケティングにおいて、市場の捉え方でのポイントは次の2つです。

  • 既存市場や既存顧客の “外側” を見据える
  • セグメンテーションの本質は市場の再定義

未顧客へのアプローチにおいて、既存市場や既存顧客の外側を見据えることが重要です。

これが意味するのは、現在の市場の範囲を超えて、より大きな市場の機会を探求するということです。未顧客という視点を通じて市場やカテゴリーの枠を超え、より広い範囲の潜在的な顧客に目を向けるわけです。

セグメンテーションの本質は、単に市場を細分化することではなく、「市場の再定義」 にあります。

たとえば、もともとの市場規模が1000万人だとする場合、「市場には1000万人いる」 「1000万人の中でシェアを拡大しなければいけない」 という "縛り" を外して、日本の総人口1億2000万人に立ち戻るわけです。そこからより多くの人にお客さんとなってもらえるように、ブランドの存在意義や提供価値を再構築することが、未顧客理解におけるセグメンテーションが目指すことです。

顧客の合理と文脈を理解する 「切り口 (状況, 行動, 心理, 報酬)」 


未顧客へのマーケティングでは、まずは相手の理解からです。

未顧客の人の理解では 「文脈」 が重要です。顧客文脈を理解するためには、1人の未顧客の理解を深める方法をとると良いです。

理解する切り口は、

  • 置かれている状況や役割
  • そのときに取っている行動
  • 心理 (欲求と抑制) 
  • 行動をしたことでの結果や得られる報酬 (メリット) 

こうした視点から奥にある法則性、すなわちターゲットとする文脈において他の人々にも当てはまる共通パターンを洞察します。

ブランドを再解釈して未顧客にアプローチする


ノンユーザーやライトユーザーという未顧客を獲得するためには、未顧客の文脈に応じてブランドを再解釈することがポイントです。

ブランドの再解釈


ブランドの再解釈とは、未顧客にアプローチするために、ブランドの意味合いや価値を新たな角度から捉え直すことを指します。

特定の文脈や顧客ニーズに応じてブランドを再定義することで、新たな顧客層にアピールすることを目的とします。

保育園児にとってのお風呂


ブランドの再解釈の説明として、子どもにとってのお風呂の例がわかりやすかったです。保育園での園児と保育士のやりとりでの、ブランドの再解釈のたとえです。

子どもたちにとって保育園でお風呂に入ることは、最初は 「それまでやっていた遊びを中断することになり、楽しかった時間を終わらせてしまう行為」 でした。しかし、お風呂のことを 「水遊びをする場所」 として再解釈し、意味合いを捉えなおすことで、お風呂が嫌いな子どもの興味を引くことができたのです。

このたとえでは、お風呂が嫌いな子どもたちを 「未顧客」 、お風呂を 「ブランド」 、保育士を 「マーケター」 と見立てると未顧客へのアプローチに示唆的です。

子どもたちがお風呂に入りたくなる再解釈


お風呂の機能 (体をきれいにする) を伝えるよりも、子どもの欲求 (遊びたい) を満たすように、お風呂の特徴 (水が豊富にあること) を活かした水遊びとしての体験を新たに提案しています。

具体的には、「お庭で土遊びをしたら、次は、お風呂で水遊びしよう」 「泡で変身しよう」 といった子どもたちへの声掛け (マーケティング) です。

子どもたち (未顧客) にとってのお風呂の位置付けや意味合いを変えて再解釈し、体験価値を効果的に伝えたことがポイントです。

カテゴリーエントリーポイントを増やす


未顧客を増やすためには、いかにカテゴリーエントリーポイント (CEP) を増やせるかが大事になります。カテゴリーエントリーポイントとは、そのカテゴリーを想起したり、商品・サービスを使うきっかけとなる状況のことです。

大きなブランドはそれだけ多くのカテゴリーエントリーポイントを持っています。生活者の文脈とカテゴリー、生活者文脈とブランドをいかに結びつけられるかが重要です。

文脈をターゲットする


マーケティングでは 「ターゲティング」 という言葉がよく使われますが、一般的にはターゲットとする対象は人や企業です。

未顧客を獲得するためにターゲットすべきは 「人」 ではなく 「文脈」 です。文脈とはカテゴリーエントリーポイントとも言えます。

人はその文脈において、頭の中に思い浮かぶ選択肢の中から自分の中での合理的な理由 (顧客の合理) で選びます。マーケティングの STP で言えば、狙う 「ターゲット文脈」 でいかにポジショニングをとるかが大事になります。


まとめ


今回は 「"未" 顧客理解 - なぜ、「買ってくれる人 = 顧客」 しか見ないのか? (芹澤連) 」 を取り上げ、マーケティングへの学びをご紹介しました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ブランドの市場での浸透率が高い (買ったり使う人が多い) ほど、そのブランドへのロイヤルティが高い。ブランドを成長させるには、市場での浸透率を高め、ブランドの利用機会を増やし、新規顧客やライトユーザーを獲得する必要がある

  • ノンユーザーやライトユーザーという未顧客を獲得するためには 「顧客文脈」 をターゲットにするといい。未顧客の文脈に応じて、ブランドの意味合いや価値を新たな角度から捉え直し、ブランドを再解釈する

  • お客さんの文脈から生まれる合理性や行動パターンを見つけ、理解した顧客文脈に沿った課題醸成や価値提案を行う。こういうものの見方や考え方をするなら、こんな言い方をすれば興味を持つのではないかという 「顧客の合理」 に沿った訴求をする

この本からは、事例でわかりやすくマーケティングを学べます。よかったらぜひ読んでみてください! Amazon はこちらです。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。