投稿日 2024/04/07

アサヒホワイトビール。お客さんを 「主人公」 にする顧客起点での商品開発とマーケティング

#マーケティング #商品開発 #顧客起点

今回は、アサヒビールの 「アサヒホワイトビール」 を取り上げ、商品開発やマーケティングで成功するための秘訣を探ります。

アサヒ ホワイトビール



アサヒホワイトビールの商品開発とマーケティング展開がおもしろかったです。

ビールが苦手な人の心理


アサヒホワイトビールのターゲット顧客は、ビールをあまり飲まない、または苦手とする若年層です。

ホワイトビールの開発では、ビールが苦手な消費者へのインタビューが重要な役割を果たしました。

調査からわかったのは、ビールが苦手な人たちはビールの苦味や特有の味が自分に合わないと感じ、ビールを 「自分向けではない」 と捉えていたことでした。従来のビールの広告が訴求してきた 「コク」 「キレ」 「のどごし」 などの表現が彼ら・彼女らには響かないことを示唆しています。

ビールは 「心がほどける」 という訴求


そこで、アサヒビールはビールを自分向けと感じてもらえるためにはどうすればいいかを模索しました。

ヒントになったのは、あるインタビュー対象者がビールを飲むことに対して表現した 「心がほどける」 という感覚でした。ここから、朝の日の出や夕方の日の入りなどの淡い瞬間を 「マジックアワー」 と定義しました。その光景をモチーフにしたデザインや広告を採用しました。


アサヒホワイトビールの公式サイトでは、キービジュアルの次にコピーと動画が表示されますが、冒頭に商品情報はありません。ホワイトビールの世界に振りきった構成です。

ホワイトビールでは商品説明よりも 「共有したい感覚」 に重点を置いており、ブランドサイトや Instagram のストーリーでも同様のアプローチを取っています。パッケージデザインもマジックアワーをイメージしたもので、味や機能よりも世界観を前面に出しました。

お客さんを主人公にする


興味深かったのは、アサヒビールは顧客目線になるために 「お客さんを主人公にする」 と位置づけたことです。

ビールをあまり飲んでこなかった若者をブランディングというストーリー展開の舞台の主人公とし、彼ら・彼女らの価値観や感情を重視してのマーケティングを進めているのです。


顧客起点での商品開発とマーケティング


では、アサヒホワイトビールの事例からの学びを掘り下げていきましょう。

学びとして一般化すると、商品開発からマーケティングにおいて、次の流れで進めることが成功につながるということです。

✓ マーケティングの流れ
  • ターゲット顧客を決める
  • お客さんのことを深く理解する
  • 見出した顧客理解から、顧客文脈において 「自分向け」 だと思われる価値を発掘する (価値定義) 
  • 商品の魅力をお客さんを主人公にし価値を伝える
  • お客さんに他ではなく自社商品を選んでもらえる状態をつくる

商品開発からマーケティングへの展開は、顧客中心のアプローチになることが大事です。

ターゲット顧客の設定から始まり、顧客の深い理解、顧客価値の発掘、そしてお客さんを主人公にした顧客目線での魅力の訴求、その結果として選ばれる理由の創出に至る一連のステップです。

では、この流れを順番にもう少し詳しくみていきましょう。

ターゲット顧客を決める


まず、ターゲット顧客の決定は全ての基盤となります。

ここで重要なのは、単に市場が大きい、または競合が少ないセグメントというだけではなく、自社の強みやブランドの個性に合致する顧客層を選ぶことです。この選択がマーケティング戦略の方向性を定めます。

顧客理解


次に、ターゲット顧客について深く理解していきます。

お客さんの置かれた環境や状況、習慣や行動パターン、心理状態、価値観、そして何よりもお客さんが本当に求めているものは何かまでを把握します。

アサヒホワイトビールの事例では、ビールを普段飲まなかったり苦手だと感じている若者層に対する深い理解が、商品開発とマーケティング戦略の土台となりました。

価値定義


顧客理解を深めた後は、その理解をもとに想定するお客さんが 「自分向け」 と感じる価値を発掘します。これは商品の魅力の再解釈や顧客価値をあらためて定義することであり、お客さんのニーズや望みに沿った顧客文脈での価値を生み出すことを目指します。

アサヒホワイトビールでは、ビール特有の味が苦手な人のために、新しいビール体験を提供すること、具体的にはビールを飲むことで 「心がほどける時間になること」 をお客さんの体験価値と捉え直しました。

 「主人公」 へのストーリーテリング


顧客文脈において再解釈した商品の魅力を、お客さんを主人公にして伝えていきます。

ここで重要なのは、商品やサービスの機能や特徴をただ伝えるのではなく、お客さんの日常や生活シーンの中にどのように商品・サービスが入り込むかを示すことにあります。役に立ったりうれしいなどの体験価値があるか、お客さんの時間をいかに彩る存在になるかを見せるわけです。

商品や提供価値はお客さんが自分の物語の中で輝くための要素 (手段) にすぎません。アサヒホワイトビールのマーケティングでは 「マジックアワー」 というコンセプトを用いて、ビールを飲んだ人の心がほどけるさまざまな瞬間を共有し、日常を豊かにする存在として描きました。

選ばれる状況をつくる


マーケティングでは最終的には、お客さんから自社商品を選んでもらえる状況をつくり出すことを目指します。

マーケティングは、お客さんから選ばれる理由をつくる活動なのです。

お客さんにとって自分が主人公となれる存在であることを伝え、お客さんごとのそのシチュエーションにおいて、商品のことを思い出してもらえたり、必要なときに買える状態にしておくのです。

このように、ターゲット顧客の明確化から始まり、顧客理解、価値の発掘、そしてお客さんを主人公にしたストーリーテリングを通じた価値訴求によって 「選ばれる理由をつくっていくこと」 が、商品開発からマーケティング展開への成功の秘訣です。


まとめ


今回はアサヒホワイトビールを取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントとして、マーケティングの全体の流れをまとめておきます。

  • ターゲット顧客を決める
  • お客さんのことを深く理解する (置かれた環境や状況、とっている行動、心理、価値観、奥にある本当の望み) 
  • 見出した顧客理解から、顧客文脈において自分向けだと思われる価値を発掘する (価値定義) 
  • 商品の魅力をお客さんが主人公になるように価値を伝える。商品や提供価値をお客さんが物語の中で輝くための手段とする
  • 最終的にお客さんに他ではなく自社商品を選んでもらえる状態をつくる。マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 のこと


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。