#マーケティング #選ばれる理由 #全社的な活動

いま、マーケティングの世界で静かに、しかし確実に大きな変化が起きています。

それは、アメリカの消費財企業を中心に、CMO (最高マーケティング責任者) という役職が CGO (最高成長責任者) へと移行していることです。

これは名称変更にとどまらず、企業でのマーケティングという活動の役割が根本から問い直されている証です。

今回は、このトレンドからあらためてマーケティングについて考えます。

CMO から CGO へ

最近、コカ・コーラやケロッグなどの特にアメリカ企業を中心に、「CMO (最高マーケティング責任者) 」 から 「CGO (最高成長責任者) 」 へと役職を移行する動きが見られます (参考情報) 。

CMO から CGO の流れは、単なる役職名の変更ではありません。背景には、マーケティングに求められる役割の根本的な変化があります。

ひとつは、デジタル化と AI の進展です。

かつて CMO の大きな役割だった広告運用や販促施策の最適化は、AI が得意とする領域になりました。AI が 「現場の最適化」 を担う一方、人間には AI が出す選択肢を評価し、より上位の意思決定が求められています。

もうひとつは、短期施策の限界です。

マーケティング活動のデジタル化は施策の効果を可視化しましたが、同時に短期的な成果 (売上やクリック数など) への偏重も生み出しました。しかし、短期の販促は 「刈り取り」 と言われるように、いずれは効果が逓減し、やりすぎると時にブランド価値を毀損します。

こうした背景から、マーケティングの責任者には、「短期的な施策の実行監督」 よりも、「中長期の企業成長の設計」 が求められるようになりました。

企業での成長に責任を持つ CGO は、CEO (最高経営責任者) 直下で 「どの市場で勝つか」 「どの事業に資源を集中するか」 といった事業ポートフォリオの再設計や、組織横断での意思統一を担います。

マーケティングの責任範囲も、従来の CMO が担った 「短期の施策」 から、企業全体の 「中長期の成長 (Growth) 」 へと拡大・移行しているのです。

マーケティングの役割の再定義

では、この CMO から CGO への大きなトレンドを、マーケティングの本質に立ち返って考えていきます。

マーケティングの本質

あらためてマーケティングとは、「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 です。活動全般と言っているように、マーケティングを広く捉えています。

お客さんに選ばれるとは、商品を買ってもらえる、使ってもらえる、来店してくれる、指名されることです。

お客さんから自分たちが選ばれるのを偶然に頼るのではなく、ビジネスの文脈では自社商品やサービスが意図的に選ばれる確率を高めるのがマーケティングの役割です。

ではなぜ、この 「選ばれる理由」 をつくることによってのみ、その商品やサービスは市場で生き残り、ひいてはビジネスそのものが存続できます。

偶然にヒット商品が生まれることもあるでしょう。しかし、ビジネスを持続させるためには、運や偶然に頼るわけにはいきません。

自社の商品やサービスが意図的にお客さんから選ばれる確率を高めること、それこそがマーケティングに課せられた役割なのです。

顧客の立場になる

そして、忘れてはならない大前提があります。

選ぶという行為の最終的な決定権は、常にお客さんにあるということです。企業側の論理だけで 「これが良い製品だ」 「この機能が優れている」 と主張しても、それだけではお客さんの心は動きません。

マーケティングの出発点は、常にお客さんです。

 「誰に」 「どんな価値」 を届けたいのか、そしてそのお客さんは 「なぜ」 他の商品ではなく自社の商品を選んでくれるのか (あるいは、選んでくれないのか) 。お客さんの立場に立って、深く、そして具体的に理解することが求められます。

選ぶという行為の主体者はお客さんです。誰に、なぜ選ばれるのかを解像度高く理解することが重要になります。

 「全社的な活動」 としてのマーケティングが意味すること

ここまでの考察を踏まえると、マーケティングは専門化された機能にとどまらず全社的に関わる活動だと言えます。

マーケティングを全社的な活動にすることの意味を掘り下げてみます。

短期施策から中長期の 「選ばれ続ける仕組み」 へ

一般的に、マーケティングは、販促、広告、集客など、短期的な成果を求められる傾向にありました。

しかし今、企業に要求されているのは、短期的な売上づくりだけではなく 「お客さんから選ばれ続ける理由を構築すること」 です。単発的なヒットや施策の最適化ではなく、お客さんとの長期的な関係性を設計し続けることこそが、企業の成長を支える役割へと変わってきているのです。

この視点に立てば、マーケティングは販促部門ではなく、事業成長の設計部門です。それは商品を売ることだけにとどまらず、企業がどう社会と関わり、どのように存在意義を進化させるかを描く活動です。

CMO から CGO へという進化は、「今日お客さんに選ばれる理由」 から、「5 年後、10 年後もお客さんから選ばれ続ける理由」 への転換を意味します。

短期的な販促は、確かに今日の売上を上げます。一方、ブランド資産の育成、顧客生涯価値の最大化、事業ポートフォリオの再設計といった CGO 的な仕事は、「10 年後も選ばれ続けるための土台」 をつくる活動なのです。

マーケティングは専門部署を超えた全社的な活動

先ほどの私のマーケティングの定義とした 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 にもうひとつ込めた意図があります。それは 「活動全般」 という言葉に象徴される、マーケティングの範囲の広さです。

マーケティングと聞くと、マーケティング部といった特定の部署の専門業務だと考えるかもしれません。しかし、本来マーケティングは、会社全体で取り組むべき活動であり、考え方そのものです。

例えば、

  • 商品開発部は、市場のニーズや顧客の声を深く理解し、お客さんから選ばれる魅力を持つ商品を生み出す
  • 製造部や品質管理部は、お客さんの期待に応える品質を安定的に提供し続け、ブランドへの信頼という 「選ばれる理由」 の根幹を支える
  • 人事部も顧客目線を持ち、マーケティングマインドを持って行動できる人材を採用・育成することで、組織全体のマーケティング能力を底上げする
  • 経理部は、適切な価格設定やコスト管理を通じて、顧客が納得できる価値と、企業が持続的に活動できる利益の両立に貢献する

このように 「お客さんから選ばれる理由」 をつくるためには、企業内のあらゆる部門、あらゆる立場の人が、それぞれの持ち場で 「お客さんのために何ができるか」 を考え、実践していくことが大事です。

だからこそ、マーケティングは会社全体に浸透させたい経営思想であり、ビジネスパーソンにとって必須のスキルなのです。

 「選ばれる理由」 を再定義することは、企業進化そのもの

繰り返して強調すると、マーケティングの本質は 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 にあります。

マーケティングとは単なる売上拡大のためだけの手段ではなく、企業の存在意義を再定義し続ける営みです。

お客さんが企業を選ぶ理由は、時代とともに変化します。その変化に応じて、企業は自らの価値のあり方を問い直さなければなりません。

そうなると、マーケティングは市場に合わせる活動という受け身の姿勢ではなく、企業の進化の方向を能動的に決める活動に変わります。

企業の進化を担うというマーケティングの役割においては、より深い領域で機能します。今のお客さんが何を求めているかを知るだけでなく、お客さん自身もまだ気づいていない 「未来のニーズ」 を発見することが求められます。

つまり、マーケティングの時間軸が未来に伸びたということです。

お客さんの未来を見据え、自社の未来を構想し、その 2 つを結びつけて 「10 年後も選ばれ続ける企業」 を設計する。これが企業の進化を担うマーケティングの役割です。

まとめ

今回は、CMO から CGO というトレンドを取り上げ、企業におけるマーケティング活動の本質とは何かを考えました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 
  • お客さんに選ばれるとは、商品を買ってもらえる、使ってもらえる、来店してくれる、指名されること。こうしたことへの 「選ばれる理由」 をつくり、商品やサービスがお客さんから選ばれ続けることによって、商品は生き残っていける
  • マーケティングの出発点はお客さんであり、「誰に」 「どのような価値で」 「なぜ」 選ばれるかを解像度高く理解することが大事
  • マーケティングは特定部署 (マーケティング部) の専門業務ではなく、商品開発、製造、人事、経理など、企業内のあらゆる部門の活動によって、会社全体で取り組むべき経営思想や考え方
  • 中長期の視点でのマーケティングによって、未来の顧客ニーズを先読みし、全社を巻き込んで 「10 年後も選ばれ続ける理由」 を再定義し続ける。この活動が企業を進化させる