#マーケティング #顧客価値の再定義 #利用シーン
顧客価値そのものを再定義することによって、商品の利用シーンを広げることができます。
それにより、新たな顧客接点をつくり、今まで届かなかった未顧客層にリーチし、さらには市場そのものを拡大させることが期待できます。
今回は、サントリーの飲食店向けのノンアルコール飲料 「ゼロッパ」 の事例から、学べることを解説します。
サントリー 「ゼロッパ」
出典: サントリー
サントリーが仕掛けた新しいノンアルコール飲料商品の 「ゼロッパ」 は、従来のノンアル飲料の限界を打ち破る一手です。
ゼロッパとは
ゼロッパは、サントリーが飲食店向けに展開を始めたノンアルコールベース飲料です。
清涼飲料と割ってノンアルコールサワーなどをつくる 「素の飲料」 です。アルコールの風味を凝縮させたノンアルエキスの清涼飲料です。
ゼロッパはウイスキーや焼酎のアルコールを取り除いたエキスを使用しており、割り材と組み合わせることにより、お酒のような複雑な味わいや余韻を楽しめます。
内容量は 500ml で税別 400 円。ゼロッパ 1 本でおよそ 15 杯のドリンクがつくれます。
ゼロッパの特徴は、炭酸水やコーラ、ジュースなどさまざまな割材と組み合わせることで、お酒のような複雑な風味を楽しめる点です。推奨比率はゼロッパ 1 に対して割材 4 。炭酸水割りでは甘味や酸味が出て、コーラ割りでは余韻に苦味が残るなど、割材によって異なる味わいを楽しめます。
開発の背景と課題感
サントリーの調査によれば、居酒屋でドリンクでアルコールだけを頼む人は来店客全体の 4 割とのことです (参考情報) 。
ノンアルを飲みたい人はもっといたり、今後も増えるであろうという見立てがサントリーにはあることでしょう。サントリーがゼロッパを開発した背景には、居酒屋におけるノンアル需要の拡大と、その一方での選択肢の少なさにあります。
居酒屋で提供されるノンアルはオールフリーなどのビールテイストが大半。健康志向や二日酔いを避けたいといったニーズに応えるには不十分でした。
居酒屋の料理には味が濃いものも多いので料理に合わせて苦味や酸味が欲しい場面でも、ジュースやお茶では甘すぎたり物足りなかったりします。
こうしたギャップを解消するため、サントリーはウイスキーや焼酎から熱をかけずにアルコールを除去して風味だけを抽出し、ブレンドするという新しい発想で、ゼロッパを生み出しました。
「お酒の代替」 から 「飲用シーンの拡大」 へ
ゼロッパがユニークなのは、ノンアルコール飲料の役割を 「お酒の代替」 から 「飲用シーンを広げるための積極的な選択肢」 へと変えようとしている点にあります。
従来のシーン (代替品としてのノンアル)
これまでのノンアルは、消極的な理由で選ばれるものでした。
- 車を運転するからビールは飲めないので、仕方なくノンアルビールを頼む
- 体質的に飲めないけれど場を壊さないためにノンアルを選ぶ
- 健康診断前だから我慢してノンアルで済ます
こうしたシーンに共通するのは 「制約」 です。
お酒が飲めない人のための妥協案という位置づけから脱却できていなかったのです。ノンアルを頼むことは、どこか我慢や諦めの選択だったといえます。
ゼロッパが創出する新しい飲用シーン (積極的な選択肢に)
ゼロッパは従来のノンアルの飲用シーンを変えようとしています。
料理とのペアリングを楽しむ積極的なドリンクとして、酒席の雰囲気を壊さない社交的なものとして、あるいは体調や気分に合わせて選ぶライフスタイル商品として、新たな選択肢を提示しているのです。
料理を引き立てるシーン
居酒屋料理は味が濃いものが多く、口をさっぱりさせたいときがあります。炭酸割りのゼロッパはそのニーズに応え、食中ドリンクとしての価値を示します。
これはジュースやお茶では得られない味わいです。
酔いをコントロールするシーン
新しい飲用シーンで象徴的なのは、サントリーが提案する 「ゼブラ飲み」 です。
ゼブラ飲みは、アルコールとゼロッパを交互に飲むというものです。1 杯目はビール、2 杯目はゼロッパ、3 杯目にまたアルコールといった形で、自分の酔い具合を調整しながら楽しめます。翌日に影響を残さず、飲み会の雰囲気も壊しません。
自分好みの味をつくるシーン
ゼロッパは何かと混ぜることを想定されている 「素」 であるため、割材や果物を加えることでアレンジが自由自在です。
梅干しを入れて和食に合わせたり、ジュースでカジュアルに楽しんだりなど、飲用者が自分の工夫やアイデアで新しい味をつくる余地が残されています。
今の気分や体調に合わせて、誰もが自分のペースで飲み会の場を楽しめる。ゼロッパはそんな優しい時間を提供してくれます。
飲食店へのメリット
利用シーンが広がることは飲食店の収益にも貢献します。
今まではウーロン茶で済ませていた人がゼロッパを頼めば客単価は上がります。チェイサー代わりにもなるし、レモンや梅干しを加えたアレンジメニューの展開も可能です。店にとってはメニューの幅が広がり、新しい収益機会につながります。
飲食店にとって重要なのは、ゼロッパが場の雰囲気を損なわない商品であることです。ゼロッパを使ったドリンクは、見た目も味わいもお酒に近いため、飲んでいる本人も、周りも違和感がありません。
サントリーのゼロッパは、飲食店にとって、顧客満足度の向上と追加収益の両立が期待できる商品です。
利用シーンを広げることの意味
ゼロッパの戦略的な意義は、利用シーンを広げることにあります。
これはマーケティングにおいて、顧客価値を再定義することで顧客接点を増やし、新しい顧客を獲得し、市場を拡げるという挑戦です。
新たな顧客接点の創出
商品やサービスの利用シーンを広げるとは、商品を思い出す文脈を増やすことです。
例えば、コーヒーが 「一息つきたいとき」 や 「友人と会話したいとき」 に思い浮かぶように、ゼロッパも、これまでにはないノンアルコールの飲用シーンを多様に打ち出すことによって、「酔いを調整したいとき」 「料理を楽しみたいとき」 「翌日の体調を考慮して」 「場の雰囲気を壊したくないとき」 といった文脈で想起されます。
これは商品と顧客を結ぶきっかけを増やすことに直結します。
新規顧客の獲得
利用シーンが拡大することにより、これまでノンアルコール飲料を飲むことがなかった新しい顧客層にアプローチできます。
具体的には、お酒は飲めるが健康を気遣う層が新たなターゲットになります。翌日の仕事を考える働き盛りの 40 代から 50 代、健康診断の数値を気にする中高年、カロリーを意識する健康志向層です。
こうした人たちはアルコール飲料を飲めないのではなく、あえて飲まない、または量を控える選択をしています。ゼロッパのゼブラ飲みは、この層に響く提案です。我慢ではなくスマートな選択として、ノンアルを手に取るきっかけになることでしょう。
また、場の雰囲気を楽しみたい層も取り込めます。お酒は飲めないが居酒屋料理は好きな人、飲み会の雰囲気は楽しみたい下戸の人、チェイサー代わりに注文する人などです。
ノンアルだと場が白けるのではと気にする人は少なくありません。しかし、ゼロッパを用いたドリンク名を 「ゼロ酔いサワー」 としたりカクテルのような見た目は、お酒の席の雰囲気を壊しません。
他には、新しい体験を求める層も獲得できるでしょう。SNS 映えするオリジナルドリンクを求める若年層、自分好みにカスタマイズしたい人、トレンドに敏感な消費者などです。ノンアルはビール味だから嫌だと敬遠していた人に、炭酸水割りやコーラ割りを通して新しい体験をゼロッパは提示できます。
そして、食へのこだわりが強い人たちにとっても、ゼロッパは魅力的です。彼ら・彼女らにとってゼロッパは、アルコールの有無を超えて、食事の味を引き立てる食中ドリンクという新しい価値になります。従来のノンアルにはなかった魅力です。
顧客価値の再定義による市場拡大
サントリーの 「ゼロッパ」 のおもしろいところは、ノンアルコール飲料の持つ価値を根本から再定義した点にあります。
それは、「アルコールの代替品」 から 「食や場の体験を豊かにする、自由度の高い風味付けツール」 への転換です。
この価値の再定義によって、消費者がノンアルコール飲料を選ぶ理由は 「飲めない時の妥協」 から、「食事や健康、雰囲気を考えて積極的に選ぶ」 へと変わります。そして注力顧客は 「アルコールが飲めない人」 から 「飲める人も含めた、すべての人」 へと拡大します。
そして、利用シーンは我慢から自由へと変わります。
ゼロッパはただの新商品ではなく、ノンアルコール飲料の概念そのものを再構築する試みです。飲めない時の妥協案から、積極的に選ぶライフスタイル商品へと転換することで、市場規模を拡大する可能性を秘めています。
まとめ
今回は、サントリーの 「ゼロッパ」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 新たな顧客接点の創出。商品の利用シーンを広げることは、顧客が思い出す文脈や接点を増やし、ブランドの存在感を高めることにつながる
- 新規顧客層の獲得。新しいシーンを提案することにより、これまで利用していなかった層やノンユーザー層にもアプローチでき、新規顧客獲得の機会を生み出す
- 顧客価値の再定義による市場拡大。商品の役割を限定的なもの (例: 仕方なく使う代替品) から、積極的に選びたくなるもの (例: 体験を豊かにするツール) へと再定義することで、既存の競争軸ではなく、市場全体のパイを大きくする可能性を秘める
