#マーケティング #顧客理解 #ジョブダイナミクス
今のお客さんのことを理解できたとしても、そのお客さんの次の状況や何を求めるかまで捉えられているでしょうか?
今回は、顧客を時間の流れの中で捉える「ジョブダイナミクス」という考え方を解説します。
今の顧客理解から、次に生じるジョブを捉え、マーケティングを動的に考えるための視点を紐解きます。
固定的なジョブの限界
マーケティングで顧客を理解するときに役立つのが、ジョブという考え方です。
ジョブは「状況の中で成し遂げたい進歩」
ジョブとは、その人が置かれた状況で成し遂げたい進歩を指します。
たとえば、子どもの誕生日を家族で祝っている場面を想像してみてください。ろうそくを吹き消す表情や、プレゼントを開けたときの笑顔は、目の前を過ぎていきます。後から振り返れるように「大切な瞬間を写真として残す」が、その場面でのジョブになります。実際に写真を残せた段階が「進歩達成」です。
ジョブを遂行するために選ぶ商品やサービス、具体的な手段を、ここでは「ワーカー」と呼びます。
ある時点のジョブだけでは、その後の顧客変化を捉えきれない
お客さんのことをジョブ起点で理解する際には、「いま、どんな状況で、何を成し遂げようとしているか」を捉えます。
ただし、顧客理解を固定的にそのままにしておくと、その後になって変わり、いま相手の置かれた状況からずれてしまう可能性があります。写真の例で続けると、日々の出来事を撮影しているうちに、スマホにはたくさんの写真がたまっていきます。家族から「あのときの写真を見せて」と言われても、すぐに見つけられないかもしれません。
このように、お客さんの置かれた状況と、その状況下で生じるジョブは変わり得ます。よって、一度把握した状況とジョブは、その後も確かめ直す必要があります。
ジョブを動的に捉える
ここで提唱したいのが、ジョブを動的に捉える「ジョブダイナミクス」という考え方です。
進歩達成と周囲との相互作用が、次の状況とジョブを生む
状況を変える要因には、本人の進歩達成と、周囲の人や環境から受ける影響が重なります。写真を撮りためる人なら、撮影に慣れて写真の枚数が増える一方で、家族から送られてくる写真も手元に加わるでしょう。
そこに、離れて暮らす祖父母から「小さかった頃の写真も見せて」と連絡が来たとします。大量の写真を持っているという本人の状況に、祖父母の働きかけが重なり、「見たい写真をすぐ見つける」というジョブが具体的になります。
さらに、写真を送ると祖父母から思い出話が返ってきて、別の写真を探すきっかけになるかもしれません。本人が何かを成し遂げる過程と、周囲の人がそれに反応する過程は、互いに関わっています。
新しいサービスで写真を探しやすくなる、家族が遠方へ引っ越すなど、使える手段や生活環境の変化も加わります。顧客の変化を追うときには、本人に何が起きたかと、周囲で何が起きたかを一緒に捉えることが大切です。
状況が変われば、そこで生じるジョブも変わります。ジョブが変わると、それを遂行するワーカーも変わり、競合する商品の顔ぶれも入れ替わります。
時間展開で状況とジョブの変化を追う
では、こうした連続した変化をどう追えばいいのでしょうか。写真の例を、時間に沿って具体化してみましょう。
ここでは顧客の変化をいくつかの段階に区切り、最初の段階を t1、次を t2、その次を t3 と表します。「t1 → t2 → t3」と時間を進めながら、それぞれの段階で顧客がどんな状況にいて、どのようなジョブが生じ、何をワーカーとして使うのかを追います。
大切な瞬間を写真として残す
最初の t1 では、家族の記念日や外出先で、後から振り返れる記録を残せていない状況です。ジョブは「大切な瞬間を写真として残す」で、次のような方法がワーカーの候補になります。
- 自分の iPhone や Android スマホで撮る
- デジタルカメラで撮る
- 家族や友人のスマホで撮ってもらう
大切な瞬間を写真に残せれば、進歩達成です。撮影を繰り返し、周囲の人からも写真が集まると、今度は大量の写真データが手元にあるという状況へ移っていきます。
増えた写真から見たい写真をすぐ見つける
次の t2 では、スマホに写真はたまっているものの、友人や家族から見せてほしい頼まれたり、自分から懐かしい写真を見せたいときに、あのときの一枚がなかなか見つからないという状況になります。そこで「増えた写真から見たい写真をすぐ見つける」というジョブが生じます。
- Google フォトで人物や撮影場所から検索する
- iPhone の「写真」アプリで日付やキーワードから探す
- 自分でアルバムを作り、行事ごとに整理しておく
- よく見返す写真を「お気に入り」に入れておく
- LINE のトーク履歴に残っている写真を探す
写真検索サービスから見れば、自分で整理する行動や、メッセージアプリの履歴も、同じジョブを遂行する選択肢として競合します。
見たい写真をすぐに取り出せるようになれば、進歩達成です。探す手間が減り、友人や家族と昔の写真を見ながら、あのとき思い出を振り返る準備が整います。
写真を使って家族や友人と思い出を共有する
さらに t3 では、見せる写真は用意できました。ただ、相手が遠方にいるのか、目の前にいるのか、普段どのアプリを使っているのかで、適した共有方法は変わります。
「写真を使って家族や友人と思い出を共有する」というジョブには、次のようなワーカーが考えられます。
- LINE のグループ内で写真を送る
- Instagram に投稿して共有する
- Google フォトなど、スマホの写真アプリで共有する
- AirDrop で、その場にいる相手の iPhone へ直接送る
- その場でスマホの画面を見せる
写真を通じて当時の出来事や思い出を一緒に振り返れれば、進歩達成と捉えられます。写真共有サービスを考える企業にとっては、別のアプリに加え、「その場で画面を見せる」という行動も競合に入ってくるわけです。
なお、写真を撮ってすぐに共有する人もいるし、送った写真への反応から、再び別の写真を探すこともあるでしょう。実際の変化には、順番の入れ替わりや繰り返しが含まれます。
追いたいのは、どんな出来事や相手の反応が状況を変え、そこで次にどのようなジョブが生じるかです。時間を進めながら、その連動性を確かめていきます。
「ジョブダイナミクス」で次のジョブと競争まで考える
マーケティングで考えたいのは、お客さんが自社商品を使った後の変化まで含めた、次の問いです。
- 進歩達成によって、顧客は次にどんな状況へ進むか?
- 周囲の人の行動や環境の変化は、その状況にどう関わるか?
- その状況で次にどのようなジョブが生じるか?
- どんなワーカーが適切で、顧客は何と比較して選ぶか?
まずは、実際の顧客を 1 人思い浮かべ、利用前、利用後、現在の状況を書き出してみましょう。それぞれにジョブと使った手段を添えます。
顧客には「使って何ができるようになり、その後は何に困りましたか?」と訊いてみます。家族や同僚の言葉で行動を変えた場面も尋ね、本人の進歩達成と周囲からの影響を確かめましょう。
聞き取った事実をもとに、次に起こりそうな状況とジョブを考えます。実際に起きたことと、これからの仮説は分けて記録すると、確認すべき点がはっきりします。
たとえば、写真を探せるようになった顧客が、見つけた写真をいつも友人に送っていると分かったら、検索サービスの次の提案も考えられます。共有機能を追加するのか、普段使われている共有手段につなぎやすくするのか、検索の使いやすさに注力するのかを検討できるでしょう。
どこに取り組むかは、次のジョブで顧客が困っている点や、既存のワーカーで十分に進歩を達成できているかを確かめて決めます。顧客の状況が変わった先まで追えば、商品を改善する場所や、比較すべき競合も具体的になるはずです。
提案する「ジョブダイナミクス」とは、顧客の状況とジョブが、進歩達成や周囲との相互作用によって時間とともにどう変化していくか、そのメカニズムを捉える考え方です。
まとめ
- ジョブとは、その人が置かれた状況で成し遂げたい進歩であり、その時点の状況とセットで捉える
- 進歩が達成されると顧客の状況が変わり、周囲の人や環境との相互作用も次の状況に影響する
- 状況が変わって新しいジョブが生じると、適したワーカーや競合する商品も入れ替わる
- こうした変化を時間軸で t1、t2、t3 と区切って追うと、状況、ジョブ、ワーカー、競争環境がどう移り変わるかを捉えやすくなる
- 「ジョブダイナミクス」は、顧客の状況とジョブが時間とともにどう変化するか、そのメカニズムを捉え、次のジョブや競争を考えるための視点になる
