今回は、マーケティングについてです。
- マーケティングの 「引き出し理論」 とは?
- 𠮷野家に当てはめた例
- 引き出し理論からのマーケティング考察 (3つ)
こんな疑問に答える内容を書きました。
マーケティングのものの見方や考え方は、マーケティング業務を直接されていない方にとっても役に立つビジネスで汎用的なものです。
ぜひ記事を最後まで読んでいただき、お仕事での参考にしてみてください。
マーケティングの 「引き出し理論」
Marketing Native のインタビュー記事を読みました。
𠮷野家常務・伊東正明が放つ次の一手 - 「V 字回復」 の先に見据える戦略と戦術とは? (前編) | Marketing Native
興味深かったのは、「引き出し理論」 です。
お客の 「肉を食べたい」 引き出し
以下は、記事からの引用です。
そこで、𠮷野家らしさをあらためて押し出そうと考えました。𠮷野家らしさとは、牛丼屋であるということです。
牛丼に限らず、牛肉を食べることを目的としたとき、消費者の第一想起はおそらく𠮷野家が1位です。ステーキや焼き肉もありますが、それはハレの食事であり、日常食で 「牛肉が食べたい」 「肉が食べたい」 となったときに𠮷野家が最初に来るというリンクを作ることを重視しました。
つまり、それまでは 「𠮷野家に行こう」 と指名買いする方がお客さまの中心だったのを、「肉を食べたい」 という人にも選んでいただけるようになったのが業績回復のひとつの要因だと考えています。
(中略)
私がいつも使う例えがあります。それは、脳みその中には引き出しがあり、人は何か欲しくなったときに、欲しい物の引き出しを開けるという引き出し理論です。
その引き出しの中にある物を選ぶのが、物を買う行為です。例えば、トイレットペーパーがなくなったという引き出しを開けて、一番手前の商品を買うわけです。
飲食の場合、通常は一日3回どこかの引き出しが開きます。朝ご飯を食べたいという引き出しが開いたときは、前日の作り置きを食べる人もいれば、何も食べない人、立ち食いそばを食べる人など、いろいろな可能性があります。
その中で獲得できそうな人の引き出し、つまり 「朝は時間がないし、家で作るのは面倒だけど、温かい朝ご飯をしっかりと食べたい」 と思っている人の引き出しで、𠮷野家がどうすれば一番に来ることができるかをメニューや伝え方を含めてトータルで考えていくわけです。
飲食の引き出しは、利用する人、目的などに応じてたくさんあります。「部活帰りで小腹が空いた高校生」 「ランチタイムに手早く、でもしっかりとご飯を食べたいビジネスパーソン」 「残業に備えて、Uber Eats を頼みたい人」 など人が日常食を食べる可能性は無数に考えられますので、その中でパイが大きく、かつ𠮷野家が一番手前に来られそうな引き出しから徹底的に攻略していくわけです。
引き出し理論とは
ここで言う 「引き出し」 とは、何かをしたい・買いたいと思った時に頭の中にある選択肢です。
人は食べたいなどの何かをしたいと思った時に、それを済ませたり解決するための方法を決めるために頭の中にある引き出しを開けます。
引き出しの中身から、一番手前に入っているものが選ばれます。大事なのは、いかに引き出しの一番前のポジションを取るかです。
引き出し理論からのマーケティング考察
ここからは、引き出し理論について思ったことです。3つあります。
✓ マーケティングの考察
- 引き出しと 「市場と競合」
- マーケティングの役割
- 引き出し理論とジョブ理論
では順番に見ていきましょう。
[考察 1] 引き出しと 「市場と競合」
引き出しの中には、顧客が何かをしたいと思った時に思い浮かぶ選択肢が入っています。
これは何を意味するでしょうか?
引き出しの中身を全て合わせたものが 「市場」 になります。
市場とは、顧客の頭の中にあると捉えます。これは、顧客目線での市場定義です。提供者や売り手側の論理で設定する市場とは考え方が180度異なります。
競合の捉え方も同じです。
引き出しの中身で、自社の商品やサービス以外が顧客目線での競合です。別の表現をすれば、顧客の頭の中に浮かぶ、自社以外の選択肢の全てが競合です。
競合とは、引き出しの一番前のポジションを争っています。
[考察 2] マーケティングの役割
マーケティングの役割を引き出し理論に当てはめると、どのようになるでしょうか?
マーケティングに求められるのは 「市場創造」 です。
引き出しとは、市場そのものでした。つまり引き出し理論につなげると、マーケティングの役割は 「新しい引き出し」 を顧客の頭の中に創ることです。
さらに、マーケティングに求められるのは新たに創られた引き出しの中に自分たちが入ることです。そして、one of them で入っているだけではなく、引き出しの一番手前を目指します。
つまり、選ばれる理由を高め、偶然ではなく意図的に選ばれるための戦略と施策がマーケティングです。
理想は、その引き出しの中に自分たちしかいない状態です。「~ ならこのブランド」 という絶対的なポジションを確立します。
では、選ばれる確率を高めるために、どうすればいいでしょうか?
ヒントは 「ジョブ理論」 にあります。
[考察 3] 引き出し理論とジョブ理論
皆さんは、ジョブ理論をご存知でしょうか?
ジョブ理論は、クリステンセンが提唱したマーケティングの理論です。クリステンセンは、経営理論の 「イノベーションのジレンマ」 や 「破壊的イノベーション」 を提唱したことでも有名です。
ジョブとは、顧客が済ませたい用事です。固い表現をすればその状況で顧客が抱える顧客課題です。
ジョブ理論を引き出し理論に当てはめると、どうなるでしょうか?
引き出しとは、ジョブを済ませたい (完了させたい) と思った時に開けるものです。
ジョブ理論では、ジョブを片付けるために 「商品やサービスは雇うもの」 という捉え方をします。引き出し理論に当てはめると、雇うものが引き出しの中身です。
流れをまとめると、「ジョブ発生 → 引き出しを開ける → 一番目のソリューションを雇って片付ける」 です。
ジョブ理論が教えてくれるのは、商品やサービスはジョブを片付けるための手段だということです。
ポイントを、以下に整理します。
✓ 引き出しの一番目になるために理解すること
- どんな人が、どういう状況で発生しているジョブなのか
- ジョブがどのように解決されるかのプロセス価値
- 解決した先に得られる結果としての価値
まとめ
今回は、マーケティングの 「引き出し理論」 についてでした。
最後にまとめです。
引き出し理論
- 引き出しとは、何かをしたい・買いたいと思った時に頭の中にある選択肢
- 引き出しの中身から、一番手前に入っているものが選ばれる
- 大事なのは、いかに引き出しの一番前のポジションを取るか
引き出しと 「市場と競合」
- 引き出しの中身を全て合わせたものが 「市場」 。引き出しの中身で、自社の商品やサービス以外が顧客から見た競合
- いずれも顧客目線での市場と競合の捉え方
- マーケティングの役割は新しい引き出しを顧客の頭の中に創る。新たに創られた引き出しの中に自分たちが入り、引き出しの一番手前を目指す。理想は引き出しの中に自分たちしかいない状態
引き出し理論とジョブ理論
- ジョブとは、その状況で顧客が抱える顧客課題 (済ませたい用事) 。引き出しはジョブを済ませたいと思った時に開ける
- 引き出しの一番目になるために、以下を深く理解する
- ① どんな人の、どういう状況で発生しているジョブなのか。② ジョブがどのように解決されるかのプロセス。③ 価値解決した先に得られる結果としての価値