投稿日 2026/01/16

小学生向けスキンケア CLEAR UP 。新規事業を成功に導く4つのステップ

#マーケティング #事業領域 #事業インサイトと事業能力

競合がひしめく市場で戦うより、まだ誰も気づいていない潜在ニーズを掘り起こすほうが成功の可能性を秘めています。

では、どうやってそんな 「宝の山」 を見つけるか。

今回は、ファンケルの事例から市場の空白地帯を発見し、事業化する4つのステップを詳しく解説します。

小学生向けスキンケアシリーズ 「CLEAR UP」 


出典: FANCL

ファンケルから登場した小学生のための本格スキンケアシリーズが 「CLEAR UP (クリアアップ) 」 です。これまで見過ごされてきた、子どものデリケートな肌を守るために開発された化粧品です。

子どもの肌は丈夫というイメージがあるかもしれません。しかしファンケルの調査によると、小学生の肌は大人の3分の1以下の水分量しかなく、紫外線などのダメージから肌を守る力も弱い、非常にデリケートな状態です。

CLEAR UP は、そんなアンバランスで無防備な小学生の肌を優しく守り、未来の健やかな肌を育むことを目指して誕生しました。

特徴は、徹底した子ども目線の商品というところです。実際の小学生たちの声を元に、洗顔料はすすぎ残しがないよう泡切れのよい 「ふわふわ泡」 に、乳液は子どもが嫌がるベタつきを抑えながらもしっかり保湿できるよう工夫されています。

容器も小さな手で押しやすく倒れにくいポンプ式を採用。学校でも安心して使える無香料なのも子どもや親にもポイントです。

CLEAR UP のラインナップは、泡洗顔料、ジェルミルク、UV カットスティックの3種類です。子どもの 「自分でスキンケアをやりたい」 という気持ちを引き出す使い心地と、親も安心して与えられるファンケルならではの品質を両立したスキンケアです。

* * *

では、ファンケルの 「CLEAR UP」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

新しい事業をどのように立ち上げるかに示唆があります。

新規事業の創出プロセス


新規事業を生み出すプロセスは、大きく次のように進みます。

  1. 事業領域の選定
  2. 事業インサイトの発見
  3. 事業能力の獲得
  4. 事業の拡大


このフレームが今回の骨子です。

では順番に CLEAR UP に当てはめて、具体的に詳しく見ていきましょう。

事業領域の選定


新規事業の成否を分けるのが、どこで戦うかという 「事業領域の選定」 です。

今回のファンケルの場合、既存の強みである化粧品スキンケア領域から事業を構想しました。その中で、これまで明確なプレイヤーが存在しなかった 「小学生向けスキンケア」 という市場に目を付けたのです。

従来のスキンケア市場は、主に大人向け、あるいは中高生向けの思春期のニキビケアが中心でした。しかしファンケルは、幼児期と中高生の間に挟まれた小学生という世代に着目します。

小学生世代は、親が手厚くスキンケアをする幼児期を卒業し、かといって自分で肌悩みに気づきケアを始めるにはまだ早いという 「スキンケアの空白地帯」 でした。

ファンケルは、入社2年目の社員が抱いた 「子どもの頃にちゃんとスキンケアをしておけば今の大人になった肌の悩みを減らせたかもしれない」 という原体験をきっかけに、見過ごされてきた小学生世代の 「隠れた困りごと」 に光を当てたわけです (リリース) 。

事業インサイトの発見


インサイトとは 「背景知識に基づいた現象解釈による戦略」 を指します。

勝利のカギとなる洞察

客観的な市場データだけではなく、自分たちが持つビジネスの経験や業界の歴史、顧客心理などの 「背景知識」 と照らし合わせます。

そこから 「この戦い方なら勝てるはずだ」 という戦略のカギを発見できるかが、新規事業の成否を分けます。

事業インサイトとは、例えば、顧客の行動や本音から新たな事業アイデアを導く洞察、既に成功している事業者が使っている能力やノウハウから、自社の得意分野や勝ち筋を再構成するための洞察です。

既に伸びている企業のビジネスモデルや購買決定要因 (その企業が顧客から選ばれている理由) を分析して得られる洞察も重要です。先行者プレイヤーを理解することでインサイトを手に入れ、自社ならもっと高い水準やうまい方法で対応できることを見出します。

インサイトにもとづき、既存プレイヤーが十分に応えられていない 「能力や提供商品・サービスにおける需給ギャップ」 を、自社なら埋められるという確信を得ることを目指します。

ただし、インサイトは簡単に手に入るわけではありません。インサイトの発掘は偶発性に支配されることも多いものです。

偶発性の確率を高めるには事業領域の 「背景知識」 を増やし、現場の一次情報を直接拾うことが近道です。インサイトを 「背景知識に基づいた現象解釈による戦略」 としたように、目の前に起こっている事象と背景知識を結びつけられるかがカギを握ります。

ファンケルが発見したインサイト

ファンケルの成功は、事業インサイトの発見にありました。

つかんだ顧客インサイトは 「子どもの頃にちゃんとスキンケアをしておけば肌の悩みを減らせたかもしれない」 という入社2年目の社員たちの実体験から生まれました。この着想は、小学生の肌ケア問題という未解決の潜在課題の発見につながります。

さらに、保護者が手厚くスキンケアをする幼児期とは対照的に、小学生では放置されがちでスキンケアの空白地帯となっていることも発見。このホワイトスペースは、消費者にニーズがないのではなく、誰もその存在に気づいていなかったという洞察でした。

また、「日本では子どもの頃に歯磨きを学ぶ習慣はあるが、スキンケアをちゃんと学ぶ機会はない」 という業界の常識への疑問も、ファンケルにとってはインサイトでした。

これらのひとつひとつのインサイトは既存の常識を覆す 「現象解釈による戦略」 であり、ファンケルが新たに事業を推し進める原動力となりました。

事業能力の獲得


いかにインサイトを的確につかんでも、実行する能力がなければインサイトは宝の持ち腐れです。

企業には強みと弱みがあります。例えば 「営業やマーケティングが強い」 、「製品企画と開発は得意だが、拡大しスケールする生産能力が追いついていない」 、「マネジメント能力が足りない」 など、企業や組織によって持っている強みのカードは異なります。

自社が何を得意としているのか、どの領域ならば自分たちは強さを発揮できるのかを見誤ってしまうと、せっかく見つけたインサイトがあっても実力不足で自滅してしまいます。

そこで、成長市場や儲かっている領域を模倣という形でもいいので小さく試し、そこで徐々に能力を獲得するというアプローチが有効です。

新規事業においてはいきなり大きな収益を求めすぎず、あくまで業界の慣習や顧客の声、競合他社のサービス内容などのリアルな経験値を得る段階と捉えるわけです。

ファンケルの事業は、他社が容易に真似できない3つのコアな能力によって支えられています。それは、研究開発力、顧客理解力、商品設計力です。

具体的には、横浜市の私立小学校と協力して生徒たちから直接意見を聞き、それを容器やデザインに反映させる顧客理解力と、洗顔料はふわふわの泡ですすぎやすく、乳液は保湿力を維持しつつべたつきを抑え、容器は小型のポンプ式で押しやすく倒れにくいという小学生に特化した商品設計力です。

もちろん、ファンケルは最初からこれらの能力が完璧だったわけではありません。

12歳未満の75人を対象に肌を分析し、大人との違いを科学的に証明するという地道な研究開発や、実際の小学校での調査など、着実に事業能力獲得フェーズを経たことが、その後の成功の礎となりました。

無臭で刺激が非常に少ないという商品特性も、学校生活に配慮した設計であり、顧客の生活文脈を深く理解した結果です。

事業の拡大


ここまで来て、さらなる成長が見込めるならアクセルを踏み込み、事業を拡大させます。

理念にもとづく 「やる・やらない」 の判断

ファンケルの CLEAR UP は販売開始から2ヶ月で当初計画の2.5倍という好調な滑り出しを見せています (リリース) 。

ファンケルが目指しているのは、歯磨きのようにスキンケアも子どもの頃から学ぶ習慣として定着する世界観です。まだスタートラインという認識でしょう。

事業拡大においては、企業のビジョンや理念などが判断軸のひとつとなります。得意領域やリソース保有の有無だけでなく、「自分たちがやるべき事業か」 という視点が重要です。

ファンケルにとって CLEAR UP は、ただの新商品にとどまりません。開発担当者が語るように 「子どもに合ったスキンケア方法を広めることで、大きくなってから肌トラブルで悩む人を減らしたい」 という想いが込められています。

土台があってこその事業拡大

CLEAR UP が新商品として立ち上がったのは、「事業領域の選定」 「事業インサイトの発見」 「事業能力の獲得」 という下地を整え、しっかりとした土台があったからです。

しっかりとした土台と、ブレない判断軸。この両輪があってこそ、事業は健全に拡大していくわけです。

今後の事業拡大フェーズでは、ニーズの顕在化がテーマとなります。

小学生向けのスキンケア商品は市場での 「空白地帯」 であっただけに、親や子どもたちに小学生の年齢からのスキンケアの重要性を伝え、習慣として根付かせるための啓発活動が求められることでしょう。それとともに、お店での効果的な陳列や、メディアを通じた情報発信が次の成長ステージへのカギを握ります。

まとめ


今回は、ファンケルの小学生向けスキンケアの 「CLEAR UP」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 事業領域の選定: 大きな市場を漠然と狙うのではなく、特定の顧客が抱える具体的な課題や、まだ解決されていないニッチな領域を見極め、戦う場所を戦略的に決める

  • 事業インサイトの発見: 顧客自身も気づいていない本音(顧客インサイト)を洞察し、既存プレイヤーが応えきれていない需給ギャップから、新しい価値提供の方法を見出す。業界の常識や否定的な意見を鵜呑みにせず、新しい価値の解釈をする

  • 事業能力の獲得: インサイトにもとづく事業アイデアを実現するためには、事業を支える専門的な能力 (技術力, 企画力, オペレーション) が不可欠。事業拡大を急がず、まずはサービス品質を担保できる組織能力を着実に構築し、磨き上げる

  • 事業の拡大: 判断軸から 「やる・やらない」 を決め、目先の利益や得意領域だけでなく、自社が提供すべき価値に合致するかで拡張を判断する


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。