#マーケティング #トレードマーケティング #ショッパーインサイトとバイヤーインサイト
なぜ、その提案は小売のバイヤーに刺さらないのでしょうか。価格を下げても、販促を強化しても、なかなか棚を獲得できない。そんな悩みを抱えていないでしょうか。
売上を左右するのは、買い手である 「ショッパー」 と、売り場を司る 「バイヤー」 の双方の隠れたインサイトです。
今回はドラッグストア業界の変化を事例に、ショッパーとバイヤーのそれぞれのインサイトを読み解き、ショッパーの 「買いたい」 とバイヤーの 「売りたい」 を同時に満たす 「トレードマーケティング」 を解説します。
ドラッグストアの変貌
いつものようにシャンプーや風邪薬を買いに行ったはずが、気づけばカゴの中には牛乳や卵、新鮮な野菜まで入っている。そんな光景が、今や当たり前になりつつあります。
もはやドラッグストアは、薬や化粧品だけを売る場所ではなくなりました。その変化を象徴するのが、北海道を中心に展開するサツドラです。
例えば札幌市内のサツドラ北8条店。売場面積445坪の店内には、約2万もの SKU の商品がずらりと並んでいます。
化粧品、医薬品、日用品はもちろんのこと、店舗の奥に進むと野菜、魚、肉の生鮮3品が冷蔵ケースに整然と陳列され、弁当や総菜を扱う 「むすんでひらいて」 コーナーも設置されています。ビール類に至っては24本入りケースが山積みされ、小型スーパーと見分けがつきません。
数字がこの変化を裏付けています (参考情報) 。サツドラの売上構成比を見ると、フード部門が 36.8% と最大カテゴリーになっています。これは、ヘルスケア 17.7% 、ビューティケア 18.2% 、ホームケア 21.6% を上回る数字です。
この流れは業界全体に広がっています。
ウエルシア HD とツルハ HD は経営統合し 「ドラッグ & フード」 を掲げました。ドラッグストアはスーパーの領域に進出し成長を目指す姿は、メーカーにとっても新しいチャンスと同時に課題を投げかけています。
トレードマーケティング
この大きな地殻変動を理解する上で、カギとなるのが 「トレードマーケティング」 という考え方です。
トレードマーケティングとは、小売とショッパー (お店への来店客) をつなぐ取り組みです。商品を見つけやすく、買いやすい売場を実現することで、売上拡大を狙います。
営業活動や販促活動の裏側には 「誰に」 「どんな価値を」 「どう届けるか」 という視点があります。トレードマーケティングはそれを流通と店頭という現場で体現する仕組みです。
トレードマーケティングが目指すこと
トレードマーケティングのゴールは、ショッパーにとっての買いやすさを最大化することにあります。
配荷、棚割り、価格、店頭販促という4つの領域を戦略的に組み合わせ、ショッパーが自然に商品を手に取れる環境を整えるのです。
トレードマーケティングによって、小売業からの仕入れ需要を促進したり、来店したショッパーの店頭需要を喚起します。トレードマーケティングは 「商品とショッパーをつなげる架け橋となる」 という捉え方ができます。
トレードマーケティングで重要なインサイトの発掘
トレードマーケティングでは、バイヤーが抱えているカテゴリー課題に向き合います。
バイヤーの課題感に対し、メーカー側は 「自社ブランドが持つカテゴリー全体の売上や成長への貢献要素を見出し、ショッパーの課題感を解消するための戦略・アイデア」 を提供していきます。
ここで重要になるのが 「インサイト」 です。インサイトとは購入しようと意思決定するにあたっての無意識での判断軸のことです。
優秀なトレードマーケターは 「経験則的なプランニング」 から脱却し、バイヤーの隠れた無意識的な判断軸である 「バイヤーインサイト」 や、ショッパーの欲しいと思えるトリガーとなる 「ショッパーインサイト」 の変化を的確に捉えます。
バイヤーインサイトとショッパーインサイトの両方を理解し、柔軟に流通戦略や新しいアイデアを構築する 「インサイトベースプランニング」 を実行できる人が優れたトレードマーケターなのです。
ドラッグストアの事例への当てはめ
それでは、このトレードマーケティングの視点を使って、ドラッグストアで起きている変化を読み解いていきましょう。
ドラッグストアのショッパーインサイト
消費者の頭の中には、長らくこんな役割分担がありました。
ドラッグストアは医薬品や日用品を買う場所。
スーパーは食品や生鮮品を買う場所。
しかし今、新たなショッパーインサイトが生まれています。
それは 「ワンストップで生活必需品を揃えたい」 という無意識の欲求です。仕事帰りに立ち寄る店を1軒にしたい、週末の買い物をまとめて済ませたい、そんな時短ニーズが根底にあります。
実際のデータにもはっきりと表れています。マクロミルの調査によれば、ドラッグストアでの購入頻度は年々上昇し (前年比 102-104%) 、一人あたりの購入金額はこの4年で約1.3倍にまで増加しました (参考情報) 。
バイヤーの頭の中 (バイヤーインサイト)
ショッパーの変化を敏感に感じ取っているのが、小売の最前線にいるバイヤーです。
バイヤーは、ただ漠然と売上を追いかけているわけではありません。バイヤーの頭の中では、売上は常に 「客数」 と 「客単価」 に分解されます。
バイヤーが本当に対処したい課題は、「カテゴリー全体の客数をどう増やすか」 「カテゴリー全体の客単価をどう上げるか」 という、より解像度の高い問いなのです。
こうした状況にあるバイヤーにとってのインサイトは、大きくふたつの軸で考えることができます。「売りたいか」 と 「売れるのか」 です。
前者の 「売りたいか」 とは、その商品が、バイヤー自身が抱える課題やお店の目標達成に貢献してくれるか、という期待です。
一方の 「売れるのか」 は、その商品がショッパーの心を掴み、実際に手に取ってもらえると信じるに足る理由があるか、ということです。この 「売れるのか」 を証明するためには、商品力はもちろん、データや調査に基づいた事実、そしてショッパーインサイトの的確な言語化が不可欠になります。
バイヤーインサイトは、市場環境の変化とともに常に揺れ動き続けるものです。
ドラッグストアのバイヤーインサイト
ドラッグストアのバイヤーが抱えるインサイトのひとつが、「スーパーに勝てるカテゴリー拡大策は何か」 という問いへの答えです。
スーパーからさらにショッパーを獲得し、食料品というドラッグストアの新しい領域を収益の柱に育てたい。食品を買いに来る 「カテゴリー客数」 を増やし、医薬品や日用品との合わせ買いで 「客単価」 を引き上げたい。
バイヤーが求めているのは、単品のヒット商品ではありません。食品も含めた 「生活総合ストア」 として、カテゴリーを成長させ、ひいてはドラッグストア全体の魅力を高めるためのアイデアです。
ワンストップショッピングの利便性を高めることで、来店客を増やし、買い物点数を増やし、そして全体の売上を向上させる。これが、ドラッグストアのバイヤーの描く勝利へのシナリオなのです。
トレードマーケティングの実践
では、インサイトにもとづきどのようにトレードマーケティングを実践していけばいいのでしょうか?
メーカーの営業担当者の役割
メーカーのドラッグストアへの営業に求められる役割は変わりました。もはや価格条件の交渉だけでは通用しないでしょう。
営業は価格条件ではなくカテゴリー全体を伸ばすストーリーをバイヤーに提示する必要があります。ショッパーインサイトに刺さり 「なぜ売れるのか (買いたいか) 」 を証明し、バイヤーが 「売りたいか」 とも思える提案です。
メーカーは自社商品の売上増ではなく、バイヤーが担当するカテゴリー全体の客数・客単価アップを実現することが、バイヤーの 「売りたいか」 に直結します。
そのためには、ショッパーの無意識的なニーズ (例: 便利・時短・健康・価格・安心) も捉えた売場提案が必要です。同時に、小売の収益構造や現場課題である人手不足への対処、SKU 管理の限界を踏まえた効率的施策を提案することも大事です。
例えば、食品メーカーがドラッグストアに提案する際、単に 「うちの商品を置いてください」 では話になりません。
そうではなく、このようなイメージです。「この商品を置くと、スーパーから流れてきたショッパーの購買単価が上がります。なぜなら、日用品とのまとめ買いやついで買いを促すからです。さらに、簡単な陳列で済む商品パッケージになっているので、現場の人手が限られる状況でも大丈夫です」 といった総合的な提案が求められます。
三方良しの実現
トレードマーケティングの真髄は、メーカー・小売・ショッパーの三方良しを実現することにあります。
現在進行で今起きているドラッグストアの変化にも当てはまります。
バイヤーの Win は明確です。スーパーなどの異業態と店舗との競争に勝つための差異化提案を得られ、人手不足を補う効率的なオペレーションを実現し、カテゴリー売上全体の向上を達成できます。
来店するショッパーの Win も大きなものです。買い物の利便性が向上し、一店だけで日常の買いものが済むというワンストップショッピングが可能になりました。時間の節約はもちろん、ドラッグストアとスーパーの価格競争によるメリットも享受できます。
そしてメーカー営業の Win は、新たな成長機会の獲得です。新たな販売チャネルの開拓により取引が拡大します。データからのショッパー理解にもとづく提案により小売との信頼関係が構築され、売上拡大が実現します。
この三方良しの関係こそが、トレードマーケティングが目指したい姿なのです。
まとめ
今回は、ドラッグストアの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- トレードマーケティングとは、小売業者とショッパーのニーズを理解し、商品配荷や棚割り、価格設定、店頭販促などの施策により商品とショッパーをつなげる取り組み。売場全体の価値を高めることを目指す
- 売上を増加するためには、ショッパーの視点に立ち、商品を見つけやすく 「買いやすさ」 を最大化させる。ショッパーの行動と心理にもとづいて店頭での棚割りや売り方を小売に提案する
- 魅力的な提案のために、顧客文脈や無意識的な購買心理 (ショッパーインサイト) 、小売のバイヤーの課題感や判断軸 (バイヤーインサイト) ことも深く理解する
- トレードマーケティングで求められるのは、バイヤーが 「売りたい」 と思えるようなカテゴリー全体の成長を目指す施策と、ショッパーの 「買いたい」 という気持ちを同時に満たす提案
- メーカーは自社の利益だけでなく、カテゴリー全体の成長を目指す視点が重要。バイヤーとショッパーの Win-Win を実現することでバイヤーや小売店との信頼関係を構築する。ひいては自社の Win にもつながる三方良しを目指す
マーケティングレターのご紹介
マーケティングのニュースレターを配信しています。
気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。
マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。レターの文字数はこのブログの 2 ~ 3 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。
ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。
こちらから登録して、ぜひレターも読んでみてください!

