#マーケティング #バイアスブレイク #価値創出
私たちは知らず知らずのうちに 「業界の常識」 という見えない檻に閉じ込められています。この固定観念が、新しいビジネスチャンスを見逃す原因になっていないでしょうか?
今回は、東京・池袋の異色のブックカフェ 「梟書茶房 (ふくろうしょさぼう) 」 を取り上げます。
固定観念をあえて壊し、逆転の発想から新たな価値を生み出す――。梟書茶房の事例をケーススタディに、「バイアスブレイク」 という手法を掘り下げます。
異色の本屋 「本と珈琲 梟書茶房」
東京・池袋駅直結の商業施設 Esola (エソラ) 池袋の4階に、連日行列ができる不思議な空間があります。ドトールコーヒーが2017年に開業した 「本と珈琲 梟書茶房 (ふくろうしょさぼう) 」 です。
約100坪の店内は、シャンデリアが輝く洋館のような雰囲気。オープン当初は最大4時間待ちの行列ができ、8年たった最近でも土日は約2時間近い待ち時間が発生するほどの人気ぶりです。
梟書茶房という書店が誕生した背景には、2015年のブルーボトルコーヒー日本上陸がありました。サードウェーブコーヒーと呼ばれる高品質なスペシャルティコーヒーの波が押し寄せる中、低価格路線のドトールは新たな挑戦を迫られていました。
そこでドトールが選んだのは書店と融合した全く新しい業態でした。東京・神楽坂の書店 「かもめブックス」 と協業し、コーヒーと本、そして空間体験を組み合わせた独自のコンセプトを生み出したのです。
梟書茶房の特徴は 「ふくろう文庫」 と呼ばれる、カバーで表紙を隠した本の販売です。
購入するまで中身がわからないふくろう文庫は、月平均4000冊、多いときは6000冊も売れるそうです (参考情報) 。また、毎月異なるテーマで本とコーヒーをペアリングした 「本と珈琲のセット」 も2週間で売り切れる人気商品です。
土日の待ち時間は1時間50分ほどになるほどの盛況です。
では、「本と珈琲 梟書茶房」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
梟書茶房は、一般的な本屋さんとはさまざまな要素で逆を突くユニークなビジネスモデルです。そこで、この事例を 「バイアスブレイク」 という考え方・手法に沿って、詳しく見ていきます。
バイアスブレイク
バイアスブレイクは、私たちが無意識に持っている固定観念や偏った思考を意図的に壊し、新たな発想を生み出す手法です。
バイアスブレイクの流れを整理すると、次の3つになります。
- 言語化や可視化によってバイアス (偏った思考) に気づく
- その固定観念とは逆を考えバイアスブレイクをする
- バイアスがない状態でアイデアを考え強制的に発想する
3つをそれぞれ補足をすると、1つ目のステップである 「バイアス (偏った思考) を言語化・可視化する」 とは、自分たちの業界や市場における固定観念や先入観を可視化することです。当たり前すぎて今さら考えないようなことに目を向けます。
2つ目が 「固定観念とは逆を考えバイアスブレイクをする」 というステップです。バイアスを可視化できたら、意図的にその逆に振って考えてみたり、今の思考の枠組みの外側に目を向ける (Out of the box) ことにより、新たな視点や発想を得ます。
3つ目のステップが 「バイアスがない状態で強制的にアイデアを発想する」 です。バイアスを取り除いた状態で、具体的なアイデアを考えていきます。
バイアスブレイクからの新たな価値創出
では 「本と珈琲 梟書茶房」 にバイアスブレイクを当てはめて見ていきましょう。
バイアス (偏った思考) を言語化・可視化する
一般的な本屋さんやカフェが持つ当たり前の固定観念を整理してみます。
書店の固定観念として、本は表紙や帯で内容をアピールし、購入前に中身を確認できることが重要だと考えられています。
新刊や話題作を目立つ場所に配置して売上を伸ばし、できるだけ多くの本を陳列して選択肢を増やすことが顧客満足につながるという前提があります。
また、本の選択はお客さんが主体的に行うもので、検索性や分類の明確さが大切だとされています。書店は静かに本を選ぶ場所で、長時間滞在は想定していないのが一般的な認識です。
一方、カフェの固定観念はどうでしょうか。
スペシャルティコーヒーなら単一豆で個性を出すべきという考えが主流です。効率的な回転率を維持することが収益につながり、セルフサービスでコストを抑えることが重要とされています。また、コーヒーは熱いうちに飲むものという暗黙の了解があります。
これらの常識は、長年の成功体験から生まれたものですが、同時に思考を縛る 「バイアス」 にもなっています。
バイアスがない状態で強制的にアイデアを発想する
梟書茶房は、これらの固定観念の逆へのアプローチをとり、ビジネスチャンスを見出しました。
本に関するバイアスブレイクから見ていくと、まず表紙を隠すという大胆な施策です。あえてカバーで中身を見えなくし、「ふくろう文庫」 として展開することで、本の選択を理性から感性へとシフトさせました。
扱う本も既刊本中心です。新刊ではなく既刊本のみを扱い、時間に左右されない価値を提供します。梟書茶房では品揃えも少数精鋭で、約2000冊に絞り込むことで選びやすさを重視しました。
選書方法もユニークです。
推薦文と、読後感に応じた次の本のナビゲーションにより、主体的選択から導かれる体験へと転換しています。長時間滞在を前提とし、読書のための快適な空間設計と、最大8時間滞在する客も想定したサービスを提供します。
カフェに関するバイアスブレイクも興味深いものです。ブレンドへのこだわりを持ち、トレンドの単一豆ではなく、あえてブレンドで日本人好みの味を追求しました。
低回転率も受容し、行列ができても長時間滞在を基本的に許容しています。後に2時間制を部分導入しましたが、基本的なスタンスは変わりません。
サービススタイルはフルサービスにしました。お客さん自身にやってもらうセルフではなく、配膳サービスを提供。後にモバイルオーダーとのハイブリッドへと進化させました。
そして、読書中にコーヒーが冷めることを前提とした味づくりをするという、従来の常識とは真逆の発想も梟書茶房は取り入れています。
このように、梟書茶房は業界のセオリーを一つひとつ覆していくことによって、全く新しいコンセプトの輪郭が浮かび上がってきます。
"逆転の発想" から生まれた新しい体験価値
固定観念を取り払った先に、梟書茶房のユニークな顧客体験が生まれました。
1つ目の特徴は、「ふくろう文庫」 という体験の提供です。
表紙を隠し、推薦文だけを頼りに本を選ぶ 「ふくろう文庫」 は、バイアスブレイクから生まれたアイデアと言えます。
来店客は、何が出るかわからないワクワク感や自分では選ばない本との出会いというエモい体験にお金を払っています。これが月に最大6000冊も売れるという驚異的な結果につながっていることでしょう。
読後の感想に応じて次の本が推薦される仕組みもおもしろいです。気に入ったら X 番の本、気に入らなかったら Y 番の本という具合に、読書体験が連鎖していきます。
2つ目は、空間そのものを商品にするというものです。
梟書茶房は、本やコーヒーだけでなく、心地よく過ごせる時間と空間を価値として提供しています。珈琲と食事を楽しむ、読書と珈琲を楽しむ、物思いに耽る、お喋りするという4つのテーマで設計された空間は、利用客がそれぞれの目的で滞在できる場所となっています。
映える空間は、アニメファンなどの推し活の場としても活用され、想定外の顧客層をも取り込むことにつながります。シャンデリアや本棚を背景に、お気に入りのグッズとの記念写真を撮る客も多いといいます。
3つ目は顧客に寄り添う商品開発です。
スペシャルティコーヒーを日本人の味覚に合わせてブレンドし、冷めても美味しく飲めるように工夫する。絵本に出てくるような素朴なパンケーキを提供する。これらは全て、お客さんが本当に心地よいと感じるものは何かという顧客起点のアイデアから生まれました。
このように梟書茶房は、本屋とカフェの固定観念を徹底的に見直し、その逆に意図的に振ることによって、ただの本屋でもただのカフェでもない、全く新しい体験価値をつくり出しました。
バイアスブレイクにより、本を買うことも、コーヒーを飲むことも、待つことさえも、すべてが特別な体験として再定義されたのです。
まとめ
今回は、異色の本屋さんの 「本と珈琲 梟書茶房」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- バイアスブレイクには、業界の 「当たり前」 を言語化することが第一歩。長年の慣習や成功体験にもとづく固定観念を可視化し、それらが本当に必要なのか問い直すことから始める
- あえて 「逆」 を選ぶことで新たな着想や突破口が生まれる。効率性や合理性といった常識的な判断基準を捨て、意図的に非効率や非合理を選ぶことにより新しい価値が創出される
- 複数の要素を同時に逆転させると強力な独自性になる。単一の要素だけでなく、複数の固定観念を組み合わせて壊すことによって、模倣困難な新しいビジネスモデルが構築できる
- 一見非効率なことが最大の強みになりうる。長時間滞在、低い回転率、手間のかかるサービスなど、通常避けるべきとされる要素が、顧客ロイヤリティや話題性を生む源泉となる可能性も
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