投稿日 2026/01/26

シロカ 「おうちシェフ BLENDER」 。専用調理家電の "一発屋" の宿命を打破したスタメン化への戦略

#マーケティング #ジョブ #想起

高機能で魅力的なはずが、いつの間にかお客さんに使われなくなる…。

うまく使えるかという不安、使用後の片付けの面倒さ、そして、そもそも存在を思い出してもらえないこと。こうした要因を先回りして対処できているでしょうか?

今回は、ある調理家電を事例に、お客さんの日常に自然と溶け込み、長く愛される製品となるための秘訣を考えます。

シロカ 「おうちシェフ BLENDER」 



2024年11月に発売されたシロカの 「おうちシェフ BLENDER SM-S151」 が、わずか7カ月で約3万台を出荷する異例のヒットを記録しました (参考情報) 。

これまでヨーグルトメーカーやスープメーカーといった専用調理家電は、消費者の健康志向や時短ニーズを捉え、たびたびブームを巻き起こしてきました。しかし、その多くは長続きしませんでした。

専用調理家電の使いづらさ

例えばヨーグルトメーカーです。ヨーグルトの発酵に適した温度を自動で保て、自宅で牛乳から簡単にヨーグルトができるのは魅力です。加えて、市販のヨーグルトを1回買えば、それを種菌 (しゅきん) にして好きなだけヨーグルトを作れるというお得感もありました。

しかし、雑菌の混入による失敗を防ぐために本体容器や使うスプーンの煮沸消毒が必須だったり、使う菌の性質や発酵環境のわずかな違いが影響し、ヨーグルトの味や食感が安定しにくいという問題がありました。

いつしか嫌気が差して市販品のヨーグルトに戻り、せっかく買ったヨーグルトメーカーをキッチンの片隅や戸棚の中で眠らせてしまう人も多かったのではないでしょうか。

スープメーカーはというと、材料を入れてスイッチを押すと自動でかき混ぜて加熱し、最後まで仕上げてくれる便利さがあります。共働き世帯や高齢者層に支持され、新型コロナウイルス禍により盛り上がった 「おうちごはん」 の需要でスープメーカーが広がりました。

多くのスープメーカーは、熱伝導を高めるためにステンレス製の容器を採用し、ヒーター部分の本体と一体化した構造が主流です。

そのため、調理中の中の様子が見えません。「さあ、食べよう」 と皿に盛り付けて初めて、「野菜や豆がペースト状になっておらず、粒が残っていた」 とか、「具の中心まで火が通っていなかった」 と調理の失敗に気づくケースも少なくありません。

スープメーカーは使用後の手入れもやっかいです。本体と一体化した容器を持ち上げて洗うのは面倒で、容器底の汚れを確認しにくいのです。調理の手軽さは購入前の期待通りでも、後片付けに意外と手間がかかる点は想像していなかった人も少なくなかったでしょう。

仕上がりの安定度や洗いやすさを含めて総合的に判断すると、「結局、これまでの鍋の方が良かった」 という不満の声につながります。

このように、消費者は便利そうだと思い購入したものの、いつしかキッチンの片隅で眠ってしまう。これが専用調理家電が持つ 「一発屋」 という宿命と言えました。

スタメン家電を狙う

そんな中、シロカは17,820円 (税込) という一般的なブレンダーやスープメーカーより高めの価格設定にもかかわらず、電子レンジや電気ケトルのような日常的に使われる家電を目指して 「おうちシェフ BLENDER」 を発売しました。

ブレンダーとヒーター機能を1台に統合し、透明ガラス容器の採用。本体と容器の分離構造、高温洗浄モードなど、使い勝手を徹底的に追求し、従来の専用調理家電の弱点を克服した製品です。

電子レンジや電気ケトルのように、「おうちシェフ BLENDER」 はキッチンに置きっぱなしで使われ続ける "スタメン家電" 入りを狙っています。

* * *

では、シロカの 「おうちシェフ BLENDER」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

従来の専用調理家電が越えられなかった壁を、製品設計とマーケティングも含めての工夫から打破した事例です。

学べること


おうちシェフ BLENDER がヒットした理由を5つの観点から分析し、製品開発やマーケティングに応用できる学びを抽出していきます。

頻度の壁を越える 「複数のニーズ」 への対応

ヨーグルトやスープなどの専用調理家電が陥る問題は、使用頻度の低下です。

ひとつの料理メニューを作るという単機能ゆえに特定の用途でしか使われず、やがてキッチンの片隅で眠ってしまいます。

シロカの 「おうちシェフ BLENDER」 はこの問題に対し、従来は別々の家電が担っていたスープメーカーとブレンダーの機能を1台に統合するという解決策を提示しました。

温度調整ができるヒーター機能の搭載により、夏場は冷たいスムージー、冬場は温かいスープ、さらにヨーグルトやジャムなどの発酵・調理メニューまで幅広いメニューへの対応ができるようになりました。

マーケティング観点で言えば、消費者の複数のニーズの統合を実現したということです。

専用調理家電はひとつのニーズに特化した存在ですが、一方の 「おうちシェフ BLENDER」 は、季節や気分に応じてこんなメニューが食べたい、自宅で手軽にさっと一品を作りたいといったいろいろなニーズに対応します。

単機能の家電では実現できない通年での稼働率を実現し、キッチンに常設される状況をつくり出します。

ひとつの用途に特化する道を選ばず、関連する複数の用途をカバーすることによって、消費者の生活の中に自然に組み込まれる製品となることを目指しています。

可視化による失敗体験 (残念体験) の防止

製品への信頼は、初期段階での使用体験で左右されます。調理家電では、最初の失敗体験が 「もう使わない」 という判断につながりやすいと言えるでしょう。

従来のスープメーカーがステンレス製容器のため、使っているときの調理過程が見えませんでした。もしうまく調理ができていなかったとしても、途中で気づくことはできず、終わった後に判明し後の祭りとなってしまいました。

それに対し 「おうちシェフ BLENDER」 は透明ガラス容器を採用し、調理中の状態を見えるようにしました。

これにより 「野菜がペースト状になっていない」 といった失敗を事前に防げるだけでなく、食材が徐々に変化していく様子を見ることでブレンダーがどのように調理をしているのかへの理解と安心感も深まります。

調理過程が見えることによって、このメニューの調理にはなぜこれくらいの時間が必要なのか、どのタイミングで止めるべきかが直感的に理解できることでしょう。

また 「おうちシェフ BLENDER」 には、蓋がきちんと閉まっていないとアラームで知らせてくれる機能があります。うっかり蓋を閉め忘れて作動させた結果、キッチンが大惨事になってしまうといった事態を防いでくれます。

このように、初回の使用時から調理の成功体験を得やすくなる製品設計です。製品への信用が早いタイミングでつくられ、利用者は 「また使ってみよう」 という気持ちにつながります。

後工程での使い勝手の良さ

商品を買ってもらうためには、いかに購入につなげるかに意識が向きます。

しかし、買ってもらった後の継続利用を左右するのは購入後の体験です。顧客体験には、使用後の 「後工程での使い勝手」 も大事な要素です。

シロカの 「おうちシェフ BLENDER」 は、製品を使わなくなってしまう要因となる 「後工程の問題点」 を解決します。

具体的には、本体と容器の分離構造により洗いやすさを確保し、透明ガラス容器で汚れの確認を容易にしました。最大75度の高温洗浄モードは、油汚れや動物性たんぱく質など落としにくい汚れへの対応力を高めます。

従来のスープメーカーの利用者が感じていた洗うのが面倒という不満は、製品レビューや口コミで必ずと言っていいほど挙がる問題でした。そこでシロカの 「おうちシェフ BLENDER」 では、蓋の閉め忘れ防止アラームなどの安全機能も含め、日常使いにおけるストレスを取り除くことで、継続使用への心理的ハードルを下げたのです。

顧客体験の設計において、購入前の期待値だけでなく、使用中や使用後の体験まで含めたトータルな設計の重要性を示します。継続使用が前提となる製品では、使うのをやめてしまう理由に対処することが長期的な継続利用につながります。

レシピとコンテンツで継続利用を促す

商品は売って終わりでは決してなく、使い続けてもらうための仕組みづくりが重要です。

シロカの 「おうちシェフ BLENDER」 は付属の専用レシピブックがあります。

レシピブックでは、スムージー、スープ、デザート、調味料といった定番メニューに加え、季節野菜を使った季節ごとメニューや薬膳・発酵メニューまで幅広く掲載されています。「今日はこれを作ってみよう」 という気持ちが高まることを狙ってのものです。

管理栄養士監修などの付加価値も含め、製品を使いたくなるきっかけを継続的に提供し続ける仕組みです。季節や体調、気分に応じた提案により 「おうちシェフ BLENDER」 が日常生活の中で自然に想起される機会を増やしているわけです。

優れた道具があっても、その使い方を知らなければ宝の持ち腐れです。製品を通じて得られる豊かな食生活という 「コト」 を提案することで、ユーザーとの長期的な関係を築こうとしています。

置きっぱなしで思い出してもらう

どんなに良い製品も、収納されて見えなくなれば使われなくなります。

シロカの 「おうちシェフ BLENDER」 は、幅約 18cm という電気ケトル程度のスリムな設計により、キッチンカウンターに常設しても邪魔にならないサイズ感を実現しました。

出しっぱなしでキッチンに邪魔なく置いておけるという利便性は、専用調理家電によく見られた、使わないときに収納されそのまま忘れられる存在という問題を解決します。

普段から視界に入ることで、自然と存在を思い出させます。朝食の準備中にスムージーを作ろうと思い立ち、夕食の支度でスープを作ることを思いつく。こうした日常の中での自然な想起が、製品を使う機会を増やします。

電子レンジや電気ケトルのような 「スタメン家電」 を目指すというシロカの開発方針が、製品デザインの細部にまで反映された結果と言えます。物理的な存在感とデザイン性のバランスを取ることにより、キッチンに置き続けられる製品となれます。

マーケティングでは消費者やお客さんの頭の中でのポジション取りが重要になりますが、物理的な製品では実際の生活空間でのポジション取りも同じく大事です。

見える場所に置き続けられる製品は、ブランドの想起率を高めるシンプルで効果的な方法です。

まとめ


今回は、シロカ 「おうちシェフ BLENDER」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 複数の利用用途を束ねて使用頻度を最大化する。ひとつの機能だけではなく関連する複数のニーズやジョブにも対応することで、お客さんに使ってもらう機会を増やす

  • 購入後の 「使わなくなる要因」 を先回りして解決する。例えば、洗いにくい、片付けが面倒といった使用後のストレスを取り除き、継続使用のハードルを下げる

  • 利用プロセスを可視化する。お客さんが使用しているときの製品の状態を見えるようにすることで、顧客の不安を解消し、成功体験を促す

  • コンテンツで 「使うきっかけ」 を継続的に提供する。例えばレシピや使い方の提案から、消費者の日常生活の中で自然に製品を想起させる環境をつくる

  • 物理的な存在感で 「思い出されやすさ」 を維持する。製品が収納され忘れてしまわないようにするなど、使用する機会を自然に思い出してもらう


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。