投稿日 2026/01/25

ローソン "具なし" カップ麺 「スープ激うま!」 に学ぶ戦略の本質 - やらないことを決める勇気

#マーケティング #戦略 #やらないこと

自社の戦略が、単なる 「やることリスト」 で埋め尽くされていないでしょうか?

ビジネスでは日々、限られた時間とお金の中で 「あれもこれも」 と手を広げてしまいがちです。新しいことを始めるのは簡単でも、何かをやめる決断は難しいからです。

ローソンが発売した 「具なし」 カップ麺が累計180万個のヒットを記録しました。チャーシューもメンマも、ネギすら入っていない。一見すると手抜きに見えるこの商品が、なぜ消費者の心をつかんだのか。

その答えは、戦略の本質である 「引き算の発想」 にありました。

ローソンの具なしカップ麺


コンビニのカップ麺売り場といえば、有名ラーメン店とのコラボ商品、いわゆる 「名店系」 が長らく主流のひとつでした。しかし、その状況が長く続いたことで、消費者の間には目新しさの薄れや、若干の食傷気味な空気が生まれていたのも事実です。

そんな中、ローソンから登場したカップ麺が、「スープ激うま!」 シリーズです。日清食品との共同開発によるカップ麺です。

最大の特徴は、カップ麺の常識とも言える 「具材」 を一切入れなかったことです。


2024年10月に第1弾が登場し、「スープ激うま!激辛味噌ラーメン」 と 「スープ激うま!濃厚豚骨ラーメン」 の2種類でした。続く第2弾は、2025年1月発売の 「スープ激うま!札幌味噌ラーメン」 と 「スープ激うま!京都背脂醤油ラーメン」 です。

具なしのカップ麺を開発した背景には、ローソンの課題感がありました。

カップ麺では、麺とスープの味を追求したナショナルブランド (NB) 商品が人気ですが、コンビニでは300円台と高価格帯です。一方で、従来のプライベートブランド (PB) のカップ麺は100円台後半と手頃ですが、味のクオリティには限界がありました。

そこでローソンは、この価格と品質のギャップを埋めるべく、高品質なスープのカップ麺を250円未満で提供するという挑戦に乗り出しました。

ローソンが事前に行った消費者調査からは、カップ麺に求める要素である、麺・スープ・具材の3つのうち、消費者が重視するのはスープと麺でした。具材を挙げる声は相対的に少なかったわけです。

ここから、カップ麺の具材をなくし、浮いたコストをスープの品質向上に振り分けるという発想から、ローソンは 「スープ激うま!」 シリーズを世に送り出しました。

* * *

では、ローソンの具なしカップ麺の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

この事例は戦略とは何かについて示唆があります。

戦略の本質


戦略とは目的を達成するための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごとです。

もう少しだけビジネス的な表現にするなら、戦略とは目的達成のリソース配分の方針です。リソースとは人・物・金です。個人でも同じで、何に時間やエネルギーを使うかです。

目的達成への 「やること」 と 「やらないこと」 において、戦略の肝は後者の 「やらないこと」 にあります。何をやらないかが明確だからこそ、残ったやることにリソースを注力できるわけです。この意味において、戦略をつくるのは 「やらないこと」 を明確にするためと言ってもいいくらいです。

戦略としてやることを 「あれもこれも」 と考えうる全てのことに手を出すのは、戦略的ではありません。戦略の要諦は意思を持って何を捨てるかだからです。

戦略では 「あれもこれも」 ではなく、「あれかこれか」 という A or B です。算数で表現すれば足し算でやることを積み上げるのではなく、引き算の発想をします。

具なしカップ麺 「スープ激うま!」 に学ぶ戦略の要諦


ではここからは、ローソンの具なしカップ麺の 「スープ激うま!」 の事例を、戦略の観点でポイントを順番に見ていきましょう。

目的の明確化

ローソンの目的は 「NB (ナショナルブランド) のような高品質なカップ麺を、コンビニでもスーパーやドラッグストア並みの250円未満という価格で提供し、新たな需要をつかむこと」 でした。

目的を達成するために、限られたコストというリソースをどう配分するかが課題でした。

リソースの把握

戦略は配分の話なので、前提として今あるリソースはなにか、どの程度あるのかを把握することが大事になります。

カットまず 「お金」 という原価構造です。    

具材コストを削減し、最終的にはなるべくゼロに近づけることにより、その分をスープの原材料と調味料配合に再配分できるようになります。

また、スープ量を増やすために丼型容器を採用することによって、製造ラインコストは増加しましたが、具材削減によって相殺する構造を作り出しました。

次に 「物」 の観点では、製品仕様や棚幅、パッケージの最適化を図りました。

具材の物量を持たないことで、物流や在庫管理の複雑性を大幅に低減。さらに PB 統一デザインルールをあえて逸脱し、ブランドシステムの整合性というコストを犠牲にしてでも、棚前での視認性という注意獲得資産に振り替える選択をしました。

また、「人」 においては、開発や社内意思決定のキャパシティを再配分しました。

具材選定・調達・品質管理に費やすはずだった開発人時を、スープ設計と味の試作検証に集中投下。また、名店コラボにおける交渉やロイヤリティ調整といった社外調整リソースを使わないことによって、スピード感のある商品投入を可能にしました。

 「やらないこと」 を決める

リソースを把握し見直した上で、ローソンは明確に 「やらないこと」 を定めました。

大きくは5つあります。

① 具材を盛る、② 有名店とコラボする、③ 300円前後の高価格帯で売る、④ PB の統一パッケージルールに従う、⑤ 商品種類を一度に増やす、これらを 「やらないこと」 としました。

1つ目は、具材を盛らないことでした。

普通に考えれば 「具がないカップ麺など売れるはずがない」 となりますが、そこを敢えてゼロにしました。引き算によって大きなコストを解放し、スープの品質と価格の魅力度へと転換させたわけです。

2つ目は、名店 (有名ラーメン店) コラボに乗らないことです。

コンビニのカップ麺棚で長年使われてきた勝ち筋をローソンは自ら捨てました。「名店系には少し疲れた」 という潜在的な消費者心理を捉えようとしたわけです。

ブランドの権利使用料や交渉にかかる時間といったコストを削減する効果もありました。

3つ目のやらないことは、コンビニのプレミアム価格帯 (300円前後) にいかないことです。

高品質を追求すると価格は上昇しますが、値頃感を最大の武器とするため、高単価帯を狙うことをやめました。価格というシグナルを 「手が届く高品質」 というメッセージに正確に合わせました。

4つ目は、PB の統一パッケージルールに従いすぎないこと。ブランド全体の整合性という価値よりも、棚の前での個別の勝利を優先しました。

そして、やらないことの5つ目は、SKU (商品種類) バリエーションをむやみに増やさないことです。

 「スープ激うま!」 シリーズの第1弾を2種類に絞って投入し、商品ラインナップの拡張を急ぎませんでした。

リソースを集中投下することで、一つひとつの商品の収益性と話題の密度を高め、そこから得られる顧客データを次の展開に活かすというアプローチをとりました。

残った 「やること」 への注力

 「やらないこと」 を明確にしたことによって、ローソンは残ったリソースを5つの 「やること」 に集中投下できました。

まず、スープの味への徹底集中です。

ローソンは調味料量を確保するために丼型容器を採用。味の奥行き・濃厚さ・まろやかさで PB の期待値を再定義し、商品名に 「スープ激うま!」 と書き込んで味の価値を正面から掲げました。

次に、価格レンジの戦略的ブリッジです。

NB 商品のコンビニ売価である300円台と、PB 商品の価格帯でなる100円台後半の中間となる238円という価格としました。さまざまな商品が値上げされる状況において、「できるだけ節約しつつ、今日くらいはちょっと贅沢をしたい」 という消費者心理に刺さる価格を実現しました。

視覚的なインパクトのあるカップ麺の商品パッケージも重要な要素でした。

 「スープ激うま!」 シリーズは、スープをすくったれんげのアップというビジュアルで、具なしを見せつつ、カップ麺の主役はスープであると宣言した形です。

さらに、カスタマイズ余白を残すという発想も功を奏しました。

具なしというプレーンゆえに、冷蔵庫の残りものの食材で自分好みにアレンジできるというカップ麺にし、SNS でのアレンジ投稿から話題拡散、そして再購入誘発という好循環を生み出しました。

ローソンは、限定投入から完売、再販という流れで希少性と話題を維持することを目指しました。

第1弾の即完売から第2弾投入、そして再販売という流れで勢いを保ち、棚前での期待を継続的に喚起。売り切れ短期集中で在庫リスク管理とニュース性確保を両立させました。

引き算の戦略の成果

興味深いのは、ここまで見てきた 「引き算の戦略」 によって、予想外の価値を生み出したことです。

具体的には、カップ麺から具材を削ったことにより、消費者は自由にトッピングを楽しむ自分好みのアレンジというカスタマイズの価値を発見しました。これは 「足し算」 の発想では生まれなかった価値でしょう。

さらに、長らく続いた名店系コラボという今までのコンビニのカップ麺の成功パターンを 「やらないこと」 としたことによって、新鮮さと話題性を獲得しました。カップ麺市場が飽和状態にある中で、あえて逆を行くことで差異化に成功したといえるでしょう。

戦略の一貫性


ローソンの具なしカップ麺の 「スープ激うま!」 シリーズは、具材という要素を 「やらない」 と決めました。

その分の浮いたリソースをスープの品質向上と手に取りやすい価格の実現という 「やること」 にリソースを集中させました。

ローソンの事例で大事なことは、やらないことを最後まで貫いた一貫性にあります。

社内から 「見た目が寂しい」 「具材がないラーメンは考えられない」 という反対意見があったことと思われますが、ローソンの戦略はブレませんでした。

もし、少しだけ具材を入れるというような妥協をしていたら、スープの品質も中途半端になり、価格競争力も失われ、結果として特徴のないカップ麺になっていたことでしょう。

シリーズ累計180万個という販売実績は、明確な 「やらないこと」 の設定と、それによって可能になった 「やること」 への集中投資が、市場に新しい価値を提供できることを証明しています。

戦略とは、意思を持って何を捨てるかにその要諦があります。

やらないことへの決断によって、初めて独自の価値創造につながるという教訓を、ローソンの事例は示しています。

まとめ


今回は、ローソン PB の具なしカップ麺の 「スープ激うま!」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 戦略とは、目的達成のための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごと。リソース (人, 物, 金) を配分する方針となるもの

  • 戦略の大事なのは 「やらないこと」 を明確にすること。やることを 「あれもこれも」 と全てに手を出すのではなく、意思を持って何を捨てるかを決める。足し算ではなく引き算の発想

  • 意思を持って 「やらないこと」 を定めることで、初めて限られたリソースをやるべきことに集中させることができる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。