#マーケティング #パーセプションチェンジ #ブランド構築
自社の商品や技術が 「時代遅れだ」 と思い込んでいませんか?市場が成熟したり縮小する中で、従来の価値観にとらわれていると、新たな成長の機会を見逃してしまうかもしれません。
今回ご紹介するのは、かつて 「古くてダサい」 とまで言われた工業用のひし形金網を、デザイナーとの協業によって 「心地よさを生み出すアート素材」 へと生まれ変わらせた共和鋼業の事例です。
この事例からは、商品が持つ価値のイメージを書き換えるマーケティングである 「パーセプションチェンジ」 の本質が見えてきます。
共和鋼業のひし形金網
出典: 共和鋼業
共和鋼業は、工事現場や高速道路で使われる緑色のネットフェンスなど、ひし形金網を専門に製造する BtoB メーカーです。
ひし形金網は、ひし形に編まれた金網で、耐久性と衝撃吸収力が特徴です。高速道路の落下物防止柵、落石防護柵などの公共事業向け土木資材として使われてきました。
しかし2000年頃から、インフラ工事の減少と競合の増加により、新市場開拓が急務となっていました。
業界では 「古くてダサい」 と言われ、共和鋼業の社長自身もそう思っていたという金網。しかし、協業するデザイナーや設計士からは 「ひし形金網はおもしろい」 「新しいことに使えそう」 という評価を受けたことで、状況が変わり始めます。
従来は 「言われたものを作る」 ことが仕事で、素材の価値や魅力について深く考えたことがなかったという共和鋼業。外部のデザイナーとのやりとりを通じて、自分たちの見過ごしている点に気づき、ひし形金網を見つめ直すことになりました。
そして、金網の持つ剛性の高さと柔軟性、視界を遮らない透過性、色・太さ・網目の自由な組み合わせといった特性を活かし、建築や家具などの意匠用素材として展開していきました。
近畿大学の校舎外装材、有明体操競技場の外装・内装材への採用、デザイナーとの協業によるネットベンチや室内用ハンモックの開発など、新たな価値創造に取り組んでいます。
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では、共和鋼業のひし形金網の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
この事例からは、マーケティングの概念である 「パーセプションチェンジ」 の観点で学びが得られます。
パーセプションチェンジ
パーセプションは、日本語に訳すと認識や知覚を意味しますが、マーケティングの文脈では 「お客さんが商品やサービスに対して抱く価値イメージ」 のことです。
商品への価値イメージをお客さんにとってどんな価値があるのかという切り口で再定義し、打ち出していくことが 「パーセプションチェンジ」 です。価値イメージをより良い方向へ書き換えていくわけです。
お客さんにとって魅力的なイメージを持ってもらうには、機能説明で終わらせず、商品・サービスがお客さんの生活やビジネスにどんな意味があるのかを具体的に伝えることが大事です。意味合いや価値を伝えるにあたって、顧客目線での価値提案が重要になります。
お客さんの持つ価値イメージが変わると、購買基準もアップデートされます。つまり、お客さんにとっての 「良い商品とは何か」 という定義が変わるのです。
パーセプションチェンジは一度の施策で終わるものではありません。継続的なお客さんへのコミュニケーションが、パーセプションチェンジでは重要です。
マーケティングの役割は、お客さんが持つカテゴリーや自社商品への価値イメージをより良いものに変え、「お客さんから選ばれる理由」 をつくり出すことです。
「工業資材」 から 「心地よさを生み出すデザイン素材」 へ
共和鋼業の事例は、パーセプションチェンジのプロセスを体現しています。
価値イメージを書き換え、新たな購買基準を生み出し、それを継続的な活動で市場に浸透させていきました。
順番に見ていきましょう。
変更前のパーセプション (価値イメージ)
ひし形金網は、もともと高速道路のフェンスや工事現場の囲いなどに使われる 「工業用資材」 でした。
社内ですら 「古くてダサい」 という認識があり、その価値は安心・安全という機能的な側面に限定されていました。
価値の再定義とパーセプションチェンジ
共和鋼業は、デザイナーから 「ひし形金網はおもしろい」 「何か新しいことに使えそう」 と評価されたことをきっかけに、この固定観念を見直すことができました。
金網が持つ柔軟性、光を通す透過性といった特徴にあらためて着目し、心地よさを生み出すものであり、可能性は無限大であると捉え直したのです 。「心地よさを生み出す」 「空間を豊かにするアート素材」 として金網の価値を再定義しました。
顧客目線での具体的な価値提案
価値の再定義に伴い、共和鋼業は顧客への価値提案も変えました。
機能説明 (耐久性・衝撃吸収力) だけで終わらせていません。金網が 「建築やアート、家具などの意匠用素材として、人々の生活にどのような意味をもたらすか」 を具体的に提案する、顧客目線での価値提案を行いました。
具体的には、デザイナー協業プロジェクトで生まれた 「茶室インスタレーション」 、「ネットベンチ」 、「グラフィックフェンス」 、「floate ハンモック」 などです。
茶室インスタレーション (出典: 日経クロストレンド)
グラフィックフェンス (出典: 共和鋼業)
他には 「実際の空間で金網がもたらす体験」 を見せることによって、人々が自分の空間に取り入れたときの価値を具体的にイメージできるようにしました。
購買基準の変化
パーセプションチェンジによって、顧客 (デザイナーや建築家など) にとっての 「良い金網」 の定義が変わりました。
従来は 「強度や価格」 といった工業製品としての基準が主でしたが、新たに 「デザイン性」 「空間演出への貢献」 「素材としてのおもしろさ」 といった視点が生まれたのです。
パーセプションチェンジへの継続的な施策
パーセプションという商品やサービスへの価値認識を書き換えるためには、一度の施策で終わらせない継続的なアプローチが重要です。
共和鋼業は様々な活動を続けています。
1つ目はデザイナーとの協業です。先ほども触れた 「ネットベンチ」 や室内用ハンモック 「floate」 といった、これまでの金網のイメージを覆す商品を共同開発し、展示会などで発表しました。
2つ目の施策は産学連携です。近畿大学の校舎で外装材・内装材として採用されるなど、具体的な実績をつくりました。
3つ目はアートプロジェクトへの参加です。展示会で茶室をテーマにしたインスタレーションを発表するなど、アート素材としての可能性を発信し続けています。
これらの活動は、単発のプロモーションではなく 「金網 = 心地よさを生み出すデザイン素材」 という新しい価値イメージを世の中に定着させるための継続的な活動です。
まとめ
今回は、共和鋼業のひし形金網を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 価値イメージの再定義では、従来の固定観念や社内の常識にとらわれず、外部などの新たな視点を取り入れ、商品やサービスが持つ本質的な価値を見つめ直す
- 価値提案には顧客目線を入れる。商品の機能的な側面を説明するだけではなく、商品を使うことで消費者や顧客の生活、ビジネスにどのような 「うれしさ」 や 「意味」 をもたらすのかを具体的に提案することが重要
- 価値認識の書き換えというパーセプションチェンジが成功すると、お客さんにとっての 「良い商品とは何か」 という定義そのものが変わる。従来の基準に加え、例えばデザイン性や体験価値といった新しい基準で選ばれるようになる
- 新しい価値イメージは、一度の施策で市場に定着するわけではない。展示会への出展や協業プロジェクトなど、多様な顧客接点を通じて継続的に新しい価値を発信し続けることが大事


