#マーケティング #状況とジョブ #ワーカー
今回は、ヤマダデンキが Google 広告の P-MAX を導入し、新たな需要を発掘して EC の売上を倍増させた事例を取り上げます。
この事例をマーケティングの 「ジョブ理論」 のレンズで読み解くと、示唆に富みます。
ヤマダデンキの Google 広告運用
全国に949店舗 (2025年3月末時点) を展開するヤマダデンキですが、EC 事業の規模では競合の後塵を拝していました。
そこで、EC サイト 「ヤマダウェブコム」 の売上を5年で約2倍の1900億円に引き上げるという高い目標を掲げ、ネット広告の強化に乗り出しました (参考情報) 。
課題となったのは、限られた社内リソースで、2倍以上に増やした広告費の効果をどう最大化するかです。従来の広告代理店任せの運用では、社内にノウハウが蓄積しにくく、コストも時間もかかります。かといって、全てを自社で運用するには専門人材の確保が難しい状況でした。
このジレンマを解決するためにヤマダデンキが導入したのが、Google の AI 広告サービス 「P-MAX」 です。
P-MAX の特徴は、YouTube 、ディスプレイ、検索、Discover 、Gmail 、マップなどの Google の様々な全広告枠に一括で配信し、コンバージョン (CV) 数やコンバージョン率 (CVR) を自動で最大化できることです。
P-MAX は広告用の画像やテキストを登録するだけで、AI が入札から予算配分、オーディエンス選定、クリエイティブ生成、配信までを自動で最適化してくれます。
広告主は P-MAX を活用し、広告用の画像や商品情報を登録すれば、あとは入札や配信などを任せられ最適化してくれるので、ほぼノータッチで広告運用できることが期待できます。
ヤマダデンキはセルフでの広告運用に切り替えたことで、ヤマダデンキのオリジナルエアコン 「RIAIR (リエア) 」 の販促では前年を大きく上回る販売額を達成。さらに、広告データから競合が気づかなかった需要の変化を発見し、売上を伸ばすことにも成功しました。
では、ヤマダデンキの事例から学べることを掘り下げていきましょう。
この事例は、P-MAX を広告主の 「ジョブ」 を解決する最適な 「ワーカー」 とみなすことで、具体的な事例から汎用的な示唆を得ることができます。
ジョブ理論
ジョブ理論は消費者や顧客の 「ジョブ」 に焦点を当てるマーケティング理論のひとつです。
ジョブとは
ジョブの定義は、「ある特定の状況で人が遂げたい進歩 (progress) 」 です。
ジョブには 「人が置かれた状況をどう変えたいか・より良く進歩したいか」 という視点が含まれます。
商品・サービスはジョブを完了させる 「ワーカー」
ジョブ理論で特徴的なのは、商品やサービスのことをジョブを終わらせるために 「雇うもの」 と捉えることにあります。お客さんが商品を働き手である 「ワーカー」 として雇い、ワーカーに働いてもらうことでジョブが完了し、顧客の状況が進歩するという考え方です。
お客さんが商品を買って期待するのは進歩であって、商品そのものではありません。この認識が大事です。
ジョブが生じる 「状況」 の理解
ジョブを捉えるためには、ジョブがどのような 「状況」 で生じているかを理解することが大事です。状況という原因があってジョブという結果が表れるという因果関係です。
お客さんが心から雇用したいと思い、そして繰り返し雇用したくなる働き手である 「ワーカー」 となるためには、お客さんの片づけるべき 「ジョブの文脈」 まで深く理解することが重要です。
代わりに何が "解雇" されるかという視点
ジョブを完了させるワーカーには、通常は複数の雇用候補がいます。
よって、「当社の商品が新たにワーカーとしてお客さんに雇用されるためには、今雇用している何が解雇されなければいけないか?」 という競合を捉える視点が大事になります。
既存の他のワーカーでは解決されていない未充足なジョブを捉え、自分たちが新たにワーカーになり、その代わりに何が解雇されるかというリプレイス (置き換え) の視点を持ちます。何らかの選択を行う瞬間には、お客さんの頭の中でワーカーを選ぶための綱引きが行われていることがイメージしやすくなります。
ヤマダデンキに当てはめるジョブ理論
では、ヤマダデンキのマーケティング担当者がどのような 「状況」 に置かれていたかを見ていきましょう。
ジョブは特定の状況下で生まれるため、状況への理解が大事になります。
ヤマダデンキの置かれた状況
1つ目の状況の要素は高い事業目標です。EC サイト 「ヤマダウェブコム」 の売上高を5年で約2倍 (1019億円 → 1900億円) にするという高い目標が設定されていました。
2つ目は広告戦略の転換です。目標達成のため、それまでの広告費を抑えて高効率化するという方針から、客数を増やすことを目的に広告費を2倍以上に増やす戦略に切り替えました。
3つ目にリソースの制約がありました。広告費を増やしても、社内のマーケティング担当者のリソースは限られています。
4つ目の要素は広告運用の課題感をヤマダデンキは持っていたことです。
ネット広告の運用は作業が多く、社内ノウハウが乏しいと広告代理店に任せがちになります。しかし、それでは社内に知見が溜まりにくく、コストや時間もかかります。一方で、完全に自社で運用するには専門人材の確保が難しいというジレンマがありました。
こうした状況から、ヤマダデンキは 「限られた人的リソースで、拡大した広告予算を効果的・効率的に運用し、EC 売上を倍増させなければならない」 という課題に直面していたことがわかります。
ヤマダデンキが遂げたい進歩 (ジョブ)
置かれた状況から、ヤマダデンキが片付けたかった 「ジョブ (遂げたい進歩) 」 は、どういった内容だったのでしょうか。
ジョブは、限られたリソースで最適なターゲットに、最適なタイミング・チャネルで広告を配信し、潜在的な需要や新たな需要をも発掘して売上を最大化したいというものです。
もう少し解像度を上げると以下のようになります。
- 広告運用にかかる工数を削減し、業務を効率化する
- 多様な広告チャネルを横断して、コンバージョンを最大化する
- データにもとづいた新しい需要を発見し、販売機会を増やす
- これまでのセオリーという固定観念を打ち破り、競合よりも高い成果を上げる
- データドリブンなマーケティングを社内に定着させ、組織として成長する
- 高い事業目標を達成し、社内で評価される
最適なワーカー 「P-MAX」 によるジョブの解決
ジョブ理論を活用すると、自社の商品やサービスが 「どんな状況にいるお客さんの、どのようなジョブを解決しようとしているのか」 を、より具体的かつ多面的に考えられます。
- お客さんは誰か [顧客定義]
- お客さんはどんな状況でどのような進歩を求めているか [状況とジョブの理解]
- 既存の商品や方法では何が解決しきれていないのか [未充足ニーズ]
- どのような設計であれば、よりスムーズにジョブを終わらせられるか [ジョブスペックの開発]
ヤマダデンキが直面していたジョブを解決するために、どのようなワーカーが候補となり、なぜ P-MAX が最適なワーカーとして選ばれたのかを見ていきましょう。
既存のワーカーと未充足ニーズ
従来の選択肢として、広告代理店への外注がありました。
広告代理店は専門的な運用ノウハウを持ち、複雑な設定も代行してくれます。しかし、ヤマダデンキが抱えるジョブを完全に解決するには課題がありました。
まず意思決定の遅さです。外部とのやり取りに時間がかかり、スピーディーな改善サイクルを回すことが困難でした。また、代理店手数料というコストの問題もあります。さらに深刻なのは、ノウハウがブラックボックス化してしまうことです。
社内に広告運用の知見が蓄積されず、データをリアルタイムで把握することも難しい状況でした。
もうひとつの選択肢は完全内製化です。
しかしこれにも大きな課題がありました。専門人材の確保は難しく、仮に確保できたとしても運用工数は膨大になります。複数の広告チャネルを統合的に管理するのは、社内リソースだけでは現実的ではありませんでした。
P-MAX が最適なワーカーになった理由
ヤマダデンキは、これらの未充足ニーズを解決できる最適なワーカーとして 「P-MAX」 を雇用しました。
P-MAX は、ヤマダデンキのジョブを解決するための優れた 「ジョブスペック」 を備えています。
1つ目のジョブスペックは広告運用を自動化し、工数を削減する能力です。
P-MAX は、入札、予算配分、オーディエンス選定などを Google の AI が自動化します。広告運用をほぼ自動化した状態で運用でき、運用工数を削減するというジョブを解決します。
多様なチャネルで効果を最大化する機能もあります。
Google の全広告枠に一括で広告を配信し、コンバージョンを自動で最大化します。広告主はチャネルごとの細かな調整に頭を悩ませることなく、EC 売上を伸ばすというジョブに集中できます。実際にヤマダデンキは、オリジナルエアコン 「RIAIR」 の販促では、前年を上回る販売額を達成しました。
また、データから新たな需要を発見できる点もワーカーとして魅力的な要素です。
P-MAX の広告データから、ヤマダデンキは 「引っ越し需要の時期のズレ」 という、従来の常識では見逃していた新しい需要を発見できました。競合が広告を停止する中で配信を継続し、ヤマダデンキの広告だけが表示されるという状況をつくりだし、売上を伸ばすという進歩を遂げたのです。
最適なワーカーになるためのポイント
ヤマダデンキの事例は、自社の商品やサービスを顧客にとっての 「最適なワーカー」 にするためのヒントを教えてくれます。
1つ目は、状況をしっかりと把握することです。従来の固定観念やセオリーを疑い、新たな需要を発掘するきっかけが生まれます。
次に、未充足ニーズに焦点を当てます。顧客が本当に困っている部分を的確に捉え、そこに特化したソリューションを提供することが求められます。
また、導入の敷居を下げる工夫も欠かせません。P-MAX はアセット自動生成機能や統一された UI により、多様なチャネルを一気通貫で扱えるよう設計されています。専門知識がなくても使いこなせる設計により、より多くの企業が恩恵を受けられるようになります。
そして、リプレイス対象を明確にすること。既存のワーカーである 「代理店運用」 や 「従来の内製」 と比較して、速度・コスト・発見力といった面で、新しいワーカーを導入するメリットを明確化することが、社内の意思決定を後押しします。
ヤマダデンキは P-MAX を 「最適なワーカー」 として雇用し、社内リソースの限界を超えて 「売上倍増」 というジョブを完了しています。
まとめ
今回は、ヤマダデンキの Google 広告ツールの P-MAX 活用の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 顧客の 「ジョブ (遂げたい進歩) 」 に焦点を当てる。お客さんが本当に求めているのは 「ある特定の状況で遂げたい進歩」 。商品やサービスは、ジョブを完了させるために顧客に 「雇われるワーカー」 として捉える
- ジョブが生まれる 「状況 (顧客文脈) 」 を理解する。ジョブは特定の状況という原因があって生まれる結果。お客さんに最適なワーカーとして繰り返し雇ってもらうためには、ジョブが生じる背景となるジョブの文脈を把握する
- 既存のワーカーの 「未充足ニーズ」 を見つける。新しい商品やサービスが選ばれるのは、既存の解決策 (ワーカー) では満たされていない 「未充足ニーズ」 があるから。自社の商品が新たに雇用されるためには、今ある何が解雇されるのかというリプレイスの視点を持つ
- お客さんにとっての最適なワーカーとなるために、「誰が顧客か」 「どんな状況でどのような進歩を求めているか」 「既存の方法の何が未充足か」 「どうすればジョブをスムーズに終わらせられるか」 という視点で商品やサービスを具体的に設計する
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