投稿日 2026/01/24

「問い」と「多様決」で生み出すイノベーション。リサーチ・ドリブン・イノベーションの実践方法

#マーケティング #リサーチ #本

イノベーション――。この言葉に、私たちはどれだけ多くの期待を寄せ、そして同時に課題を感じてきたでしょうか。

企業が市場調査やデータ分析に力を入れても、出てくるのはどこかで見た似たようなアイデアばかり…。

そんな閉塞感を打ち破る一冊が、今回ご紹介する "リサーチ・ドリブン・イノベーション - 「問い」 を起点にアイデアを探究する (安斎勇樹, 小田裕和) " です。


この本から、リサーチを起点にした新しいアイデアの生み出し方、イノベーションにつなげる実践的な方法を考えていきます。

本書の概要



企業には、リサーチを行っても、ありきたりなアイデアしか生まれず、イノベーションに結びつかないという問題意識があるのではないでしょうか?

本書は、その原因をリサーチの方法にあるとし、「問い」 を起点に探究を進めることによって、本質的な課題発見と創造的なアイデア創出を促すアプローチを提示します。

著者は、MIMIGURI 株式会社の共同 CEO である安斎勇樹さんと小田裕和さんの二人です。

この本には、シチズンやサッポロビール、資生堂、京セラといった大手企業との数百回にわたるワークショップから導き出された実践的なノウハウが詰まっています。

4段階のイノベーションプロセス


本書の中核となる方法論が 「問い → データ → 解釈 → 合意形成」 という4段階のプロセスです。

このサイクルを回すことで、イノベーションの種を見つけ、育てていきます。

4つのステップを順番に見ていきましょう。

[STEP 1] 問いを立てる

イノベーションはまず 「良い問い」 から始まります。

この本では、問いのデザインには 「課題解決型」 と 「価値探究型」 の2つのアプローチがあるとし、特に後者の価値探究型の問いを重視します。

前者の課題解決型は、すでに顕在化している問題の解決を目指すアプローチです。一方で本書が光を当てる価値探究型とは、解くべき問題が明確ではない中で、人間や社会の本質に迫る洞察を得るための問いを立てる手法です。

例えば、「これからの時代の "豊かさ" とは何か?」 「若者にとっての "つながり" とは何か?」 といった、唯一の正解がない根源的なテーマを探究します。

問いの質を評価する基準として、本書では3つのチェックポイントを提示しています。3つとは、① 明らかにする価値があるか、② ステークホルダー起点に立てているか、③ 探究的衝動がかき立てられるかです。

[STEP 2] データを集める

良い問いが立てられたら、次はその問いを探究するためのデータを集めます。

本書は 「わかるためのデータ」 と 「つくるためのデータ」 の両方を重視します。

わかるためのデータとは、市場調査や統計データといった客観的な情報です。それに対して、つくるためのデータとは、自分たちの経験や主観、組織の歴史や原体験といった、創造の源泉となるデータを指します。

重要なのは、データに答えを求めすぎないこと。というのも、データはあくまで、次の解釈フェーズで主体的に意味を見いだすための 「足場」 だからです。

著者らは 「データという錨 (いかり) があることにより、創造プロセスに安心感と安定感がもたらされる」 と述べます。リサーチが創造的な自信を支える土台になります。

[STEP 3] データを解釈する

集めたデータを、多様な視点を持つメンバーとのワークショップ形式で読み解き、対話を通じて解釈を深めます。

ここでは、ひとつの正解を求めるのではなく、様々な解釈の可能性を探ることが大切にされます。

本書では、データ解釈を深めるための 「6つの観点」 が紹介されています。6つは、「内から or 外から」 か、「現在 / 過去 or 見えていないこと or 未来」 の 2 × 3 での組み合わせからです。

  • 内から外 & 現在 / 過去: 自分たち (組織) の現在の価値観は何か
  • 内から外 & 見えていなかったこと: 自分たちが囚われている思い込みは何か
  • 内から外 & 未来: これから自分たちはどうありたいか
  • 外から内 & 現在 / 過去: 社会やユーザーの現在の価値観は何か
  • 外から内 & 見えていなかったこと: 社会や人々が気づいていない本質は何か
  • 外から内 & 未来: 社会やステークホルダーの未来の理想像は何か


大事なのは 「対話 (ダイアログ) 」 によって解釈を共有・拡張する姿勢です。

また、データ解釈には 「曖昧さへの耐性」 も不可欠です。明確な答えがすぐ得られない状況を楽しむ資質、すなわち心理学でいうネガティブ・ケイパビリティ (不確実さを受容する力) をチームで育む大切さも説かれます。

[STEP 4] 合意形成する

4つのステップの最後は、チームの方向性を合意するステップです。

ここで合意するのは最終的な 「答え」 ではありません。答えで合意しようとすると、安易な妥協に陥ったり、一度決めたことに固執してしまったりするからです。

本書が提唱するのは、「答え」 ではなく 「新たな前提」 で合意すること。つまり、「これから探究を進める上での、仮の方向性や視座」 をチームで共有するイメージです。

この前提さえ合意できれば、その後のアクションは柔軟かつ主体的に進めることができます。

そして、この合意形成で重要な概念が 「多様決 (たようけつ) 」 です。

多様決とは多数決の逆をとる考え方です。「多様な解釈や賛否が分かれるものに着目して合意する」 というユニークな手法です。

多様決を重視する理由は、未来の当たり前になるようなイノベーティブなアイデアは、生まれた瞬間には常識外れに見えるため、多数決では決して選ばれないであろうことからです。

多数決ではなく、多様な意見によって賛否両論が巻き起こるものにこそ、新しい価値の芽が潜んでいると捉えるわけです。

 「リサーチ × イノベーション」 の実践


本書からの学びを日々の仕事に活かすには、どうすればいいのでしょうか?

最後のパートでは、3つのポイントに絞って見ていきます。

まず 「問い」 から始める

本書がすすめるのは、「自分にとって不思議で知りたい "問い" から始める」 というアプローチです。

誰しも 「なぜだろう?」 と思う探究心は本来持っています。問いを立てること自体は本来、自然な行為です。

そこで、問いを起点にすれば組織の隠れた 「探究的衝動」 を解放できるというわけです。

本書に出てくる保険業界の事例では、一般的な 「どんな保険が欲しいか」 ではなく 「悟り世代にとって "安心" や "つながり" とは何を意味するか」 という問いに転換しました。

もうひとつの事例として紹介されたコンビニ業界では、「どんなサービスが欲しいか」 から 「コンビニ利用者にとって "便利" とは何を意味するか」 へと問いを再設定し、根本的な価値観の探究によるアイデア創出につなげました。

 「多様決」 を取り入れる

メンバー間で議論がまとまらない時こそ、安易に多数決に頼るのではなく、少数意見や違和感の背景にある価値観を探るというのが、この本から学べる方法です。

イノベーションの芽を摘まない合意形成の手法として、本書が提唱するユニークな方法が 「多様決」 でした。

ビジネスのシーンでは、例えば複数のアイデアからどれかに決める会議においてです。賛成をする人が一番多いアイデアではなく、むしろ賛否両論が割れたアイデアを選ぶといった意思決定を行うというのが多様決のやり方です。

このとき重要なのは、そのアイデアに対する解釈や感じ方の違い (違和感) がなぜ生じたかを掘り下げる対話です。

多様決は手段がユニークなだけでなく、「そもそも何について合意するのか」 を再定義するアプローチでもあります。すなわち、「皆が納得する答え」 ではなく 「皆がおもしろがれる問い (前提) 」 に合意するというイメージです。

本書では 「多くの人にとってはピンと来ないが、自分たちには確信がある真実」 をリサーチから得ると述べていますが、多様決によってそれをつかみにいくわけです。

ワークショップを活用する

データの解釈やアイデア創出のプロセスでは、多様なバックグラウンドを持つメンバーを集めたワークショップが効果を発揮します。

本書では、その具体的なノウハウも紹介されています。

例えば、「まずデータから読み取れる “事実” と、それに対する自分の “解釈” を分けて書き出し、共有する」 といった手法です。事実と主観を切り分けながら、多様な視点を安全に交換できます。

ファシリテーションのコツもポイントです。

結論を急かしたり、「なぜ?」 と相手を詰問したりするのではなく、参加者の発言の背景にある価値観や前提に耳を傾ける 「対話」 の場をつくること。付箋の貼り方ひとつ、質問の順番ひとつにまで気を配ることにより、チームの化学反応を最大限に引き出すことができるでしょう。

まとめ


今回は、書籍 "リサーチ・ドリブン・イノベーション - 「問い」 を起点にアイデアを探究する (安斎勇樹, 小田裕和) " を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • イノベーションの出発点は、いきなり答えを探すのではなく、本質に迫る 「価値探究型の問い」 を立てることから始める

  •  「問い」 を探究するためには、客観的な市場データだけでなく、自分たちの経験や組織の歴史といった主観的なデータも創造の源泉として活用する

  • 集めたデータはひとつの正解を求めるのではなく、多様なメンバーとの対話を通じて多角的に解釈し、新たな洞察を深める

  • 合意形成では一般的に使われる多数決ではなく、あえて賛否が割れる案に着目する 「多様決」 によって、ユニークなアイデアの芽を育てる

  • リサーチからのイノベーションには 「問い → データ → 解釈 → 合意形成」 の4ステップを回す。リサーチをチームの創造性を引き出す探究プロセスへと変える


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。