投稿日 2026/01/05

エアークローゼットに学ぶ、新規事業を成功に導く4つのステップ

#マーケティング #新規事業 #インサイト

新規事業の立ち上げは、多くの企業やビジネスパーソンにとって大きな挑戦です。

しかし、成功への道筋が見えず、何から手をつければ良いのか悩むことも少なくありません。

今回は、月額制ファッションレンタルサービスで独自の地位を築いたエアークローゼットの事例から、成功する新規事業の創出プロセスを学んでいきましょう。

エアークローゼット


エアークローゼットは、プロのスタイリストが利用者の好みや悩みに合わせて選んだ洋服が毎月届く、サブスクリプション型のファッションレンタルサービスです。

起業の原点は、創業者である天沼聰 (あまぬまさとし) 氏が掲げた 「顧客の時間価値を高める」 というビジョンにあります。

コンサルティングファームや楽天での経験を持つ天沼氏は、人生を豊かにするためには、人々が平等に持つ 「時間」 の質を高めることが重要だと考えました (参考情報) 。

特に、仕事や結婚、出産といったライフステージの変化によって、ファッションに時間をかけられなくなる女性の課題に着目。「今の生活リズムを変えなくても、新しいファッションにたくさん出会えるサービス」 をつくることで、洋服選びの面倒な時間をワクワクする時間に変えようとしたのです。

しかし、その道のりは平坦ではありませんでした。

サービス開始前、ファッション業界の関係者100人に意見を求めたところ、9割から 「うまくいかない」 と反対されたと言います。

それでも天沼氏は諦めませんでした。否定的な意見の裏にある 「なぜ?」 を徹底的に深掘りし、それを乗り越えることによって、ビジネスモデルを強固なものにしていきました。

* * *

では、エアークローゼットの事例から学べることを掘り下げていきましょう。

新しい事業をどのように立ち上げるかに示唆があります。

新規事業の創出プロセス


新規事業を生み出すプロセスは、大きく次のように進みます。

  1. 事業領域の選定
  2. 事業インサイトの発見
  3. 事業能力の獲得
  4. 事業の拡大


このフレームが今回の骨子です。

では順番にエアークローゼットに当てはめて、具体的に詳しく見ていきましょう。

事業領域の選定


新規事業の成否を分けるのが、どこで戦うかという 「事業領域の選定」 です。

エアークローゼットの場合、「ライフスタイルの豊かさにつながるもの」 という大きな方向性から始めました。

その中で BtoC 領域、さらに衣食住の中でもファッションが 「一番ワクワク体験をつくれそうだ」 と判断したとのことです。

エアークローゼットが注力顧客を女性に絞ったのも戦略的でした。

一般的に女性の方が朝の準備に時間がかかり、ライフステージの変化でファッションへの時間が削られやすいという困りごとに注目しました。仕事が忙しくなる、結婚する、子育てが始まるなど、人生の節目でファッションを諦めてしまう女性が多いことを見抜いたわけです。

事業インサイトの発見


インサイトとは 「背景知識に基づいた現象解釈による戦略」 を指します。

勝利のカギとなる洞察

客観的な市場データだけではなく、自分たちが持つビジネスの経験や業界の歴史、顧客心理などの 「背景知識」 と照らし合わせます。

そこから 「この戦い方なら勝てるはずだ」 という戦略のカギを発見できるかが、新規事業の成否を分けます。

事業インサイトとは、例えば、顧客の行動や本音から新たな事業アイデアを導く洞察、既に成功している事業者が使っている能力やノウハウから、自社の得意分野や勝ち筋を再構成するための洞察です。

こうしたインサイトを発掘するために、想定するお客さんの潜在的な 「困りごと」 や 「欲しいけれど手に入らない不満」 などの顧客文脈を深く理解します。競合がまだ捉えていない顧客ニーズに応えていきます。

また、既に伸びている企業のビジネスモデルや購買決定要因 (その企業が顧客から選ばれている理由) を分析して得られる洞察です。先行者プレイヤーを理解することでインサイトを手に入れ、自社ならもっと高い水準やうまい方法で対応できることを見出します。

インサイトにもとづき、既存プレイヤーが十分に応えられていない 「能力や提供商品・サービスにおける需給ギャップ」 を、自社なら埋められるという確信を得ることを目指します。

ただし、インサイトは簡単に手に入るわけではありません。インサイトの発掘は偶発性に支配されることも多いものです。

偶発性の確率を高めるには事業領域の 「背景知識」 を増やし、現場の一次情報を直接拾うことが近道です。インサイトを 「背景知識に基づいた現象解釈による戦略」 としたように、目の前に起こっている事象と背景知識を結びつけられるかがカギを握ります。

エアークローゼットが発見したインサイト

エアークローゼットの成功は、事業インサイトの発見にありました。

つかんだ顧客インサイトは、「本当はオシャレを楽しみたいが、時間がないために同じような服ばかり買ってしまう」 という女性たちの声なき声でした。こうした "我慢" を解消し、「今の生活を変えずに新しいファッションに出会える」 という価値を提供すれば、必ず受け入れられるはずだという確信が、事業の根幹を成しています。

さらに、業界関係者からの 「うまくいかない」 という否定的な意見も、エアークローゼットにとってはインサイトの宝庫でした。

例えば 「ブランドが服を卸さない」 というアパレル業界の人の意見には、なぜかを深掘り裏側の理屈を知る機会に変えました。

また、「エアークローゼットのビジネスは小売の邪魔になる」 といった声には、自分たちは小売の邪魔をしようとするのではなく、洋服との出合いが生まれると、そのブランドのファンも増え、小売にもプラスの影響が起きるという発想に至りました。

これらのひとつひとつのインサイトは既存の常識を覆す 「現象解釈による戦略」 であり、エアークローゼットが新たに事業を推し進める原動力となりました。

サービス立ち上げの初期段階で、広告費ゼロで実施したティザーサイトに3ヶ月で2万5000人もの事前登録があったという事実は、見出したインサイトが消費者ニーズを的確に捉えていたことの何よりの証拠です。

事業能力の獲得


いかにインサイトを的確につかんでも、実行する能力がなければインサイトは宝の持ち腐れです。

ここで言う事業能力には、次のようなものが想定されます。

  • 営業やマーケティング: 他社より売る能力や価値提案の力が強い
  • 製品企画・開発: 他社より優れた製品を企画しデザインできる
  • 製造・サービス提供: 他社より安定的かつ大規模に商品を製造したり、サービスを提供し続けられる
  • マネジメント: 他社より大規模かつ効率的な組織を形成し運用できる


成長市場や儲かっている領域を模倣という形でもいいので小さく試し、そこで徐々に能力を獲得するというアプローチが有効です。

新規事業においてはいきなり大きな収益を求めすぎず、あくまで業界の慣習や顧客の声、競合他社のサービス内容などのリアルな経験値を得る段階と捉えるわけです。

エアークローゼットの事業は、他社が容易に真似できない3つのコアな能力によって支えられています。それは、「在庫」 「物流」 「スタイリング」 です。

特に、返却された無数の洋服を一点一点検品し、クリーニングして次の顧客へ届けるという高度な物流オペレーションと、AI だけでなくプロのスタイリストが介在してパーソナライズされたコーディネートを提案するスタイリングの能力は、エアークローゼットというサービスの心臓部にあたります。

もちろん、エアークローゼットは最初からこれらの能力が完璧だったわけではありません。

かつてサービス開始後に人気が殺到し、最長で1年半もの入会待ちが発生した時期がありました。この時、焦ってテレビ CM を打つような急拡大を選ばず、まずは地道にオペレーション能力の向上に努めました。

いきなり事業拡大に舵を切るのではなく、お客さんに十分なサービスを提供できる体制を整えるという 「能力獲得フェーズ」 を着実に経たことが、その後の安定成長の礎となりました。

事業の拡大


ここまで来て、さらなる成長が見込めるならアクセルを踏み込み、事業を拡大させます。

ビジョンにもとづく 「やる・やらない」 の判断

拡張領域の判断軸には、例えばエアークローゼットのように、ビジョンにもとづく 「やる・やらない」 判断というものがあります。

また、得意領域やリソース保有の有無だけではなく、「時間価値を高めるか否か」 で参入を判断するという考え方もあります。

エアークローゼットは 「時間価値を高める」 というビジョンを徹底的に守っています。高級バッグのレンタルなど、経済価値は高くても時間価値向上につながらないサービスには参入しません。

一方で、ドレスレンタルサービスは開始しました。急な結婚式への参加で慌てて服を探し回る時間を削減できるからです。さらに 「スペアドレス」 システムを導入し、サイズ違いのリスクも回避。徹底的に顧客の時間価値を考えています。

エアークローゼットは 「得意領域だから、リソースを持っているからやるのではなく、我々がやるべきだからやる」 という考え方をとります。

土台があってこその事業拡大

2025年、エアークローゼットは前期売上40億円を超える規模まで成長しましたが、エアークローゼットが目指しているのは、ファッション業界全体の 10 ~ 15% がキュレーションやレンタルで成立する世界観です。まだスタートラインという認識です。

いずれにしても大事なのは、事業領域の選定、インサイトの発掘、事業能力の獲得などの下地を整え、土台があってこその事業拡大というステージに登れることです。

しっかりとした土台と、ブレない判断軸。この両輪があってこそ、事業は健全に拡大していく。エアークローゼットの歩みは、そのことを雄弁に物語っています。

まとめ


今回は、エアークローゼットの事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 事業領域の選定: 巨大市場を漠然と狙うのではなく、特定の顧客が抱える具体的な課題や、まだ解決されていないニッチな領域を見極め、戦う場所を戦略的に絞り込む

  • 事業インサイトの発見: 顧客自身も気づいていない本音(顧客インサイト)を洞察し、既存プレイヤーが応えきれていない需給ギャップから、新しい価値提供の方法を見出す。業界の常識や否定的な意見を鵜呑みにせず、新しい価値の解釈をする

  • 事業能力の獲得: インサイトにもとづく事業アイデアを実現するためには、それを支える専門的な能力 (技術力, 企画力, オペレーション) が不可欠。事業拡大を急がず、まずはサービス品質を担保できる組織能力を着実に構築し、磨き上げる

  • 事業の拡大: 判断軸から 「やる・やらない」 を決め、目先の利益や得意領域だけでなく、自社が提供すべき価値に合致するかで拡張を判断する


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。