投稿日 2026/01/19

医療介護向けの花王 「パワフル消臭ストロング」 。顧客の本質的な課題を捉えるマーケティング

#マーケティング #問題設定 #価値実現

ビジネスにおいて、自社の商品やサービスがお客さんから選ばれ続けるためには何が必要なのでしょうか?

ヒントを与えてくれるのが、花王が介護・医療施設向けに展開する業務用清掃用品 「パワフル消臭ストロング」 の事例です。

この事例を紐解くと、お客さんの表面的な悩みだけでなく、その裏に隠された本質的な問題にまで向き合い、解決策を提示し、さらにはその解決策を誰もが無理なく使えるように設計するという一貫したマーケティングの姿が見えてきます。

今回は花王の事例をもとに、お客さんから信頼され、選ばれる存在になるためのマーケティングの役割について考えます。

医療介護向けの花王 「パワフル消臭ストロング」 


出典: 花王

花王プロフェッショナル・サービス (KPS) が開発した 「パワフル消臭ストロング」 は、介護・医療施設向けの消臭機能強化製品シリーズです。

製品ラインナップは全5種類。消臭芳香剤 (200ml, 約940円) は置くだけで最大2ヶ月効果が持続し、トイレ用洗剤 (4.5L, 3,270円) は汚れ除去と同時に臭いの原因物質を分解します。

拭き掃除用洗剤、フロア用掃除シート、衣料・空間用消臭剤と、医療施設内のあらゆる場所に対応できる製品群となっています。

いずれも花王独自の 「悪臭ガードハーモセント技術」 と 「尿臭ブロッカー」 を搭載し、短時間の清掃でも高い消臭効果と持続性を誇ります。そして、既存の清掃業務に組み込めるよう工夫がされ、医療従事者は追加の手間なく臭いケアまで完結できます。

* * *

では、花王のパワフル消臭ストロングの事例から学べることを掘り下げていきましょう。

問題設定のレイヤーを上げ、顧客の 「本当の課題」 を捉える


花王の 「パワフル消臭ストロング」 の事例が示す重要な示唆は、問題設定についてです。

想定する注力顧客が抱える問題の本質をいかに深く捉えるか、その視点にこそ学ぶべきポイントが隠されています。

 「現象」 ではなく 「原因」 に向き合う

一般的な捉え方では 「介護や医療施設の臭いの問題を解決する」 という課題に対して、「もっと強力な消臭剤を作ろう」 「もっと良い香りの芳香剤を開発しよう」 という、問題と解決が同じレイヤーで考えられるでしょう。

もちろん、それも一つのアプローチとして間違いではありません。しかし、花王の取り組みは、その一歩先に進んでいました。

花王は介護施設の現場を深く理解しました。介護業界では、2026年までに約25万人、2040年までに約57万人もの追加人員が必要とされる一方、有効求人倍率は3 ~ 4倍という厳しい人材獲得競争が続いています。

この状況下で介護施設が直面している現実は、限られた人員で多くの業務をこなす必要がある、新しい作業を追加する余裕がない、職員の教育・研修時間も限られている、それでも施設の衛生環境は維持しなければならないといった、切実なものです。

花王はこうした医療施設や介護現場の状況を理解し 「なぜ、医療施設では臭いの問題が解決しにくいのか?」 という問いを深く掘り下げました。

表面的な臭いという事象の裏に、慢性的な人手不足という、より深刻で構造的な経営課題が存在することを見抜いたのです。

これは、問題設定のレイヤーを 「現象 (臭い) 」 から 「原因 (人手不足) 」 へと引き上げたことを意味します。

顧客の事業課題や経営課題を自社のテーマにする

医療施設や介護施設では人手が足りないため、一人の職員が多くの複数の業務を抱えています。

清掃にかけられる時間は限られており、消臭のためだけの新たな作業を追加する余裕はありません。いくら効果が高くても、手間が増える製品は現実的ではないわけです。

花王はこの顧客の現実、つまり 「人手不足という制約の中で、いかにして快適な環境を維持・向上させるか」 というより本質的な課題を、自社が解決すべきテーマとして設定しました。

そこから 「消臭という付加価値」 にとどまらず、「業務効率化による人手不足対策」 として自社製品を位置づけたわけです。

顧客の事業課題を共に解決するパートナーとなる姿勢を見て取れます。こうした意欲的な問題設定こそが、事業の成功の起点となります。

導入ハードルを極限まで下げる解決策


どんなに優れた解決策も、お客さんに使ってもらえなければ意味がありません。

花王の 「パワフル消臭ストロング」 の事例から学べる2つ目のポイントは、お客さんが無理なく使えるようにするための徹底した配慮をし、導入ハードルを低くする工夫です。

宝の持ち腐れを防ぐ設計

画期的な製品でも、お客さんが 「使えない」 「使うのが面倒」 と感じてしまえば、それは存在しないのと同じで、いわば宝の持ち腐れです。

新しいツールやサービスを導入する際には、「使い方を覚えるのが大変」 「マニュアルを読む時間がない」 「従業員に研修するコストがかかる」 といった壁が立ちはだかります。人手不足に悩む多忙な現場であれば、なおさらです。

パワフル消臭ストロングは、導入障壁をなるべくゼロに近づける工夫が凝らされました。

その工夫とは 「いつもの作業を変えずに、使うモノを変えるだけ」 という、シンプルなものです。

例えば、トイレ掃除をする職員は、特別な研修を受けたり、新しい清掃方法を覚えたりする必要はありません。ただ、今まで使っていたトイレ用洗剤を 「パワフル消臭ストロング トイレ用洗剤」 に持ち替えるだけでいいのです。

フロア掃除も同様に、普段使っているシートを専用シートに変えるだけで、洗浄と消臭・防臭が一度で完結します。

物理的・心理的な障壁を取り除く

花王がパワフル消臭ストロングでとったアプローチは、導入における物理的・心理的な障壁をうまく取り除いています。

物理的障壁の低減として、新たな設備投資や、作業スペースの変更は一切不要としました。普段の業務フローを何一つ変える必要はありません。

また、心理的障壁の低減は 「新しいことを覚えるのが大変」 「また仕事が増えるのか」 といった、人手不足の現場が抱える心理的な負担を増やしていません。

ただ変えるだけで、日々の業務効率が上がり、施設の環境が劇的に改善される。手軽なのに効果絶大というのは、多忙な医療従事者とって魅力的であり、製品を継続的に利用してもらえることが期待できます。

マーケティングの役割


では最後のパートでは、ここまでの内容をつなぎ合わせ、お客さんに価値を提案し、価値を実現させる役割を見ていきましょう。

問題から価値実現へとつなぐストーリー

今回の事例は、マーケティングの本来の役割を体現しています。

  • 深い問題定義: 顧客の表面的な悩み (臭い) の奥にある、本質的な経営課題 (人手不足) にまで踏み込んで問題を定義する

  • 本質的な解決策: その課題を、自社のコア技術 (化学技術) を活かして解決する製品 (時短と高効果を両立) を開発する

  • 徹底した導入への配慮: 顧客が 「すぐに」 「簡単に」 使えるように、導入の障壁を極限まで下げる


こうした 「問題定義 → 解決策 → 導入への配慮」 までが、顧客目線で一気通貫しているからこそ、製品のメリットやうれしさがストレートにお客さんに伝わります。

もし、このうちのどれかひとつでも欠けていたらどうでしょうか。

例えば、素晴らしい製品でも、売り込み方が 「消臭効果が高いですよ」 という一点張りでは、「でも、うちは忙しいから」 と敬遠されたかもしれません。また、人手不足という課題を理解していても、製品が使いにくければ 「理想は分かるけど、現実的じゃない」 と判断されたでしょう。

 「自分のための製品だ」 と感じてもらう

問題定義から解決策、そして導入への配慮までの一貫性があるからこそ、お客さんは 「この会社は、自分たちの現場のことを本当に分かってくれている」 「この製品なら、私たちの問題を本当に解決してくれる」 と感じることができることでしょう。

顧客ニーズにグサッと刺さる瞬間であり、数ある商品の中から自社が選ばれる決定的な理由となるのです。

花王はお客さんの本当の課題に真摯に向き合い、問題への解決策をつくり、それが確実に使われるまでの道筋を丁寧に設計しました。

モノを売るための活動に終始するのではなく、顧客の問題解決に貢献し、その結果として自社が選ばれる存在になる。これこそがマーケティングに求められる役割であると、この事例は教えてくれます。

まとめ


今回は、医療介護向けの花王の 「パワフル消臭ストロング」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 表面的な現象だけではなく、根本原因を探る。注力顧客が訴える事象の奥にある本当の問題を見抜き、問題設定のレイヤーを上げることで、より本質的な価値提供が可能になる

  • 顧客の業務プロセス全体を理解する。お客さんがどのような制約条件の中に置かれているかを把握し、顧客文脈の中で自社製品・サービスがどう位置づけられるべきかを考える

  • 物理的・心理的な導入障壁を取り除く。どんなに優れた解決策もお客さん使われなければ意味がない。すぐに簡単に使える状態までつくり込む

  • 問題定義から価値実現まで一貫したストーリーを描く。お客さんの本当の問題や課題への理解 → 自社技術での解決策 → スムーズな導入支援という流れを一気通貫させることにより、お客さんに自分たちのための製品だと感じてもらい、選ばれる状態をつくる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。