#マーケティング #価値観の変化 #弱みから強みへ
モノの価値は絶対ではない――
この言葉を 「ミニ野菜」 の事例は鮮やかに証明しています。
かつては注目されず、むしろ 「小さい野菜 = 育ちが悪い」 とさえ思われていた特徴が、なぜ今、多くの消費者から 「これが欲しかった」 と支持されるようになったのでしょうか?
今回は、ミニ野菜の事例からマーケティングに学べることを掘り下げます。
ミニ野菜
野菜は、その名の通り、通常よりも小さいサイズで収穫される野菜のことです。
注目したいのは、普通の品種を大きく育つ前の段階で早く収穫したわけではなく、食べ頃のサイズが小さい品種であるという点です。
ミニ野菜は、食材宅配サービスで知られる Oisix (オイシックス) が、消費者の隠れたニーズを捉え、生産者に働きかけたことから本格的に始まりました。キャベツ、大根、白菜、ロメインレタスなどです。
単身世帯や二人暮らしの家庭が増える中で、「大きな野菜は使いきれない」 「冷蔵庫で場所をとる」 といった消費者の声に応える形で登場しました。小さくて使いやすく、無駄がないという特徴が支持されているようです。
では、ミニ野菜の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
この事例からは、社会情勢や構造の変化によって、人々の価値観 (何に価値を見出すかの基準) が変わり、今までは光が当たらなかった商品や特徴が、消費者にとってほしいと思える存在になるという観点で示唆があります。
以前の価値観
かつての日本社会、特に昭和の時代を思い浮かべてみましょう。
社会構造は、親と複数の子ども、時には祖父母も同居する 「4人以上の世帯」 が社会の半数近くを占める標準でした。食卓には多くの料理が並び、食材は大量に消費されていました。
こうした時代での人々の価値観はどんなものだったのでしょうか?
コストパフォーマンスの観点では 「同じ値段なら、少しでも大きい方がお得」 というものでした。このように少し前の時代では、野菜は大きさが価値を決めている要素だったわけです。
家計を支える上で合理的で、当然の判断基準でした。スーパーの店頭で、同じ価格のキャベツが二つ並んでいれば、誰もが自然と大きい方に手を伸ばした時代です。
大量消費を前提とした量の確保という価値観も重視されました。大人数分の食事を作るため、大きなキャベツや白菜は一度に多くを調理できる効率的な食材だったのです。日々の食事の準備において、量は正義でした。
見た目の立派さも大事な要素でした。大きく、ずっしりと重い野菜は 「豊かさ」 や 「生命力」 の象徴であり、良い野菜の基準そのものだったわけです。よって、野菜のサイズが小さいという特徴は 「未熟」 「物足りない」 「割高」 といったネガティブな意味合いを持ち、光の当たらない 「弱み」 でしかなかったのです。
社会構造の変化
しかし、この50年で日本の社会構造は変わりました。
「個」 の時代の到来
社会構造の変化に目を向けると、1970年には4人以上世帯が 48.3% だったのが、2020年には17.3%まで減少し、4人以上世帯は少数派となりました。
一方で1人世帯と2人世帯の合計は1970年の 34.1% から2020年には 66.1% へと倍増。主流は単身・二人暮らし世帯となり、全体の3分の2を占めるようになりました。世帯の主役が集団から個人へとシフトしたわけです。
ライフスタイルの多様化
女性の社会進出、共働き世帯の増加により、家事、特に調理にかけられる時間は限られるようになりました。
働き方の変化が生まれ、時短ニーズとして共働き世帯の増加で調理時間の短縮を重視し、家族でも食事時間が異なる生活パターンとなり個食化という事象が見られるようになりました。
住環境の制約
都市部のコンパクトな住居、小型化する冷蔵庫など、限られた空間をいかに有効に使うかが意識されるようになりました。
その結果、例えば大きな野菜は場所をとる邪魔なものへと人々の認識が反転したのです。
価値観のシフト
社会構造の変化は、人々の価値観に地殻変動とも言える変化をもたらしました。人々がモノに求める価値の基準そのものが変わるという価値観のシフトです。
「コスパ」 から 「スペパ」 や 「タイパ」 へ
具体的な価値観の変化として、「コスパ」 から 「スペパ」 「タイパ」 へのシフトが挙げられます。
スペパ (スペースパフォーマンス) では、都市部のコンパクトな住居や小型化する冷蔵庫など、限られた空間をいかに有効に使うかが重要視されるようになりました。
タイパ (タイムパフォーマンス) の視点では、調理の手間や後片付けの時間をいかに短縮できるかが問われます。忙しい現代人にとって時間は貴重な資源であり、効率の良さが新たな価値基準となっているのです。
「大量消費」 から 「最適消費」 へ
大量消費から最適消費へという変化も起こりました。
食品ロスへの意識が高まり、「お得だから」 と大きな野菜を買っても、使い切れずに捨ててしまう罪悪感や、鮮度が落ちた野菜を食べることへの不満が生まれました。
必要な分だけを、最も美味しい状態で無駄なく使い切るという最適化に価値を見出すようになりました。
「画一的な豊かさ」 から 「私にとっての丁度よさ」 へ
「画一的な豊かさ」 から 「私にとっての丁度よさ」 へという価値観も生まれています。
社会の標準に合わせるのではなく、自分のライフスタイルに合ったものを選ぶことが、新しい豊かさの基準となったと言えます。これにより、例えば 「大きなキャベツ丸ごと」 ではなく、「私に丁度いいサイズの新鮮なキャベツ」 が求められるようになります。
野菜の 「小ささ」 への再評価
新しい社会構造と価値観の変化を通して 「ミニ野菜」 を見たとき、かつての弱みは、消費者にとって 「ほしい」 と思える強みへと転換しました。
弱みから強みへの転換
野菜へのかつての弱みが、新しい価値観での強みとして再解釈されます。
小さくて物足りないと思われていた特徴は、使い切れるサイズで食品ロスが出ず、いつも新鮮な状態で消費できるという価値に変わりました。
物理的な野菜の小ささは、冷蔵庫に収まりやすくスペースパフォーマンスが高いという利点に転換されました。
また、調理が面倒だと思われがちだった小さなサイズは、実際には丸ごと使えて調理が楽になり、タイムパフォーマンスが高いという評価を得ます。割高に見えるという印象は、無駄なく使えるので結果的に経済的だという認識に変わりました。
カット野菜との差異化
スーパーでよく売られている 「1/2 カット野菜」 などのカット野菜とミニ野菜を比較してみましょう。
カット野菜は便利ですが、「切り口から鮮度が落ちる」 「変色が気になる」 という弱点があります。
一方のミニ野菜は、野菜が丸ごとであることによる新鮮さと、小さいことによる利便性という、消費者が求めていた二つの価値を両立させる存在です。ミニ野菜はカット野菜と違った魅力を持っています。
生産者側のメリット
立場を変えると、ミニ野菜は消費者だけでなく、生産者にとってもメリットがあります。
野菜のサイズが小さいからこそ、同じ面積でより多くの個数を栽培できます。1個当たりの売価は普通の品種と比べて安くても、栽培できる量が多いため、収穫などの手間は若干増えるものの、売上が増えるメリットは大きいことでしょう。
消費者は小さくてうれしく、生産者はたくさん作れて儲かるのでうれしいという、消費者と生産者の両方に Win-Win の関係が成立しています。
新しい競争軸の誕生
このように、ミニ野菜の事例は、社会の変化が人々の価値観を更新し、それまで光が当たらなかった商品の特徴に新たな光を当て、消費者が買いたいと思う 「価値あるもの」 へと変貌させるダイナミズムを、具体的に示してくれる好例です。
従来の野菜の競争軸は味、見た目、栄養価でしたが、ここに 「サイズの小ささ」 という新たな競争軸 (選ばれるための大事な要素) が生まれたのです。
ミニ野菜の事例は、「社会構造の変化 → 価値観の転換 → 商品評価の逆転」 という一連の流れを示しています。
小さいという特徴が、社会状況の変化と人々の価値観の変容により 「弱み」 から 「強み」 へと逆転した例として、マーケティングへのヒントを与えてくれます。
まとめ
今回は、ミニ野菜の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 社会の変化を機会と捉える。例えば、世帯構造、ライフスタイル、住環境などのマクロな社会変化は、既存の常識や人々の価値観を覆す要因となる。ビジネスチャンスの源泉になる
- 価値基準のシフトを見抜く。消費者がモノを選ぶ基準は、お得さ (コスパ) だけではなく、時間的な効率性 (タイパ) 、省スペース (スペパ) 、最適化 (丁度よさ) なども重視されるように。こうした新しい "物差し" をいち早く見抜くことが重要
- 弱みを新しいレンズで再評価する。かつては野菜は小さいなどとネガティブとされた特徴も、変化した社会の価値観という新しいレンズを通せば、他にないユニークな強みに変わり得る
- 価値の再定義で新たな市場を創造する。眠っていた特徴に新しい意味やストーリーを与えて価値を再定義することによって、これまで存在しなかった新たな需要や競争軸をつくり出すことができる
- 関係者全員のメリットを設計する。新しい価値は、消費者だけでなく生産者や提供者など、関わる全ての人々にとってメリットがある Win-Win の構造を設計することで、より持続可能で強固なものになる
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