#マーケティング #知識創造 #SECIモデル
職場で、現場で得た貴重な経験や感覚が、共有されないまま埋もれていないでしょうか?
ベテランの知見が若手に継承されなかったり、せっかくの優れたアイデアも組織の壁に阻まれては宝の持ち腐れです。
サントリー食品インターナショナルは、この課題に真正面から向き合い、「インサイトフルな組織」 という独自の仕組みを構築しました。その背後には、知識創造理論 「SECI モデル」 を徹底的に実践する組織づくりがありました。
今回は、サントリー食品インターナショナルの事例をもとに、暗黙知から形式知へ、そして再び個人の力へと循環する知識創造の方法を、SECI モデルというフレームを使って読み解いていきます。
サントリーの 「インサイトフル組織」
サントリー食品インターナショナルは、「Always Together with Seikatsusha」 を行動指針に掲げ、生活者の豊かな生活文化を創造することを目指しています。
直面していた解決すべき問題は明確でした。
サントリーの創業者精神は根付いているものの、組織的な育成体制が整っていないこと。人材の固定化による経験の多様性不足。そしてミドル層や価値創造を担う人材の不足でした。
そこでサントリー食品インターナショナルは、生活者のリアルな本音や真実を起点に価値を創造できる 「インサイトフルな組織」 の実現に向け、開発体制や人材育成の仕組みを抜本的に見直しました。
では、サントリー食品インターナショナルの組織開発の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
組織内で各メンバーの知識やノウハウをどのように組織知に昇華させるか、価値創造をダイナミックに実践するかについての示唆がある事例です。
知識創造のフレームワークである SECI (セキ) モデルに当てはめて解説します。
SECI モデル
SECI モデルは、暗黙知と形式知の間の相互作用を通じて、知識がどのように創出され、組織内で共有されるかを説明するフレームです。
暗黙知とは個人の経験や感覚に根ざした知識であり、まだ他人に説明ができるほどのレベルにはなっていない状態です。一方の形式知は言語化がされ、説明できる知識を指します。
SECI モデルは次のような図で表されます。
SECI モデルには4つの段階があります。
- 共同化 (Socialization) : 共同の場づくり
- 表出化 (Externalization) : 形式知にする
- 結合化 (Combination) : 形式知の結合
- 内面化 (Internalization) : 自分のものにする
SECI モデルのプロセスを順番に見ていきましょう。
共同化 (Socialization) : 共同の場づくり
共同化では、個々人の経験や感覚、技術などの暗黙知を共有する場をつくります。
直接の経験の共有、模倣や実演を通じて知識が伝達される仕組みがあり、たとえば、職人の人がその弟子に技術を伝授する機会をつくったり、ビジネスの場ではチームメンバーが集まる時間やレビューをする会議がこれに該当します。
表出化 (Externalization) : 形式知にする
表出化は、暗黙知を形式知に変換する過程です。
個人の中にあった暗黙知が、言葉や図表、文書などの形で外部に表現されることを指します。他にもメタファーやアナロジーなどの表現を用いることもあります。暗黙知が言語化されることで形式知に変わり、組織内でより広く共有されやすくなります。
結合化 (Combination) : 形式知の結合
結合化では、様々な形式知が集められ、分析や整理がされて新たな知識が生み出されます。バラバラにあった形式知が結合することで、形式知がさらに進化します。
文書化された情報を組み合わせたり、データベース内で情報を分類・再構成することで、新しい知識に発展します。ビジネスでは新しい商品への開発や、マーケティングや営業などのアイデアにつながります。
内面化 (Internalization) : 自分のものにする
内面化は、形式知が個々人の暗黙知として取り込まれる段階です。
文書や会議で共有された他者からの知識 (形式知) を各自が取り入れます。そこから実際に活用した経験から学び、得た知識を自分の暗黙知として吸収していきます。
経験や教訓が個人のスキルや価値観に組み込まれ、それがひいては組織全体の能力の向上に貢献します。
サントリーが実践する SECI モデル
サントリー食品インターナショナルの組織づくりは、個人の経験や感覚といった暗黙知を、組織全体で共有・発展させ、新たな価値を創造するフレームワーク 「SECI モデル」 で解き明かすことができます。
共同化 (Socialization) 、表出化 (Externalization) 、結合化 (Combination) 、内面化 (Internalization) という4つのプロセスが、組織内で有機的に機能しています。
[共同化] 暗黙知を共有する場づくり
共同化は、個々人の経験や感覚、技術などの暗黙知を共有する場をつくります。
サントリー食品インターナショナルの 「現場100回」 は共同化の実践例です。
コーヒーのボスブランドのチームは、南は佐賀県・鳥栖市から北は青森県の漁港まで、トラックドライバーの現場を直接訪問しました。時にはお酒を酌み交わしながら語り合い、相手の生活空間に入り込んで暗黙知を吸収していきます。
スクラム型開発チームでも、暗黙知の共有が日常的に行われています。ブランド担当・中味開発・デザイン担当の3人を中心に、加えて各セクションの上長や主幹も含めておおよそ7 ~ 8人規模のチームで動きます。
ベテランの持つ 「勘所」 や 「これはうまくいきそう」 という直感を、若手がそばで見て学ぶ。道場のような環境で、言葉では説明しきれない暗黙知が伝承される場ができているのです。
[表出化] 暗黙知を言語化し、形式知に変える
SECI モデルの2つ目の表出化は、共同化で得られた暗黙知を、言葉やコンセプト、図などを用いて誰もが理解できる形式知に変換するプロセスです。
サントリー食品インターナショナルでは 「アドバリュー (Add Value) 」 と呼ばれる文化がこの表出化を支えています。
ディスカッションでは、各担当者がそれぞれの目線から得た気づきや視点を、具体的な提案や建設的な批判という形で言語化します。意見を出し、価値を上乗せする議論を奨励することによって、暗黙知の形式知化を促します。
フィードバックの質も重要です。
議論の場では、提案に対して他のメンバーが専門的な視点から熱量の高い本気のフィードバックを返すことが重視されます。対話を通じて、個人の漠然としたアイデアが、具体的なコンセプトや改善案へと磨かれていくことでしょう。
さらに半期に1回、ディスカッションの在り方自体を振り返る機会をつくり、サントリーでは議論の質を継続的に向上させる仕組みも整えています。
[結合化] 形式知を組み合わせて、新たな知識を創造する
SECI モデルの結合化は、複数の形式知を組み合わせ、分析・整理することで、新しい知識体系や戦略を創造します。
サントリー食品インターナショナルの組織体制は、異なる形式知を結合させる仕組みがあります。
スクラム型チームでは、ブランド担当者の戦略的知識、中味開発担当者の技術的知識、デザイン担当者の視覚表現の知識が、フラットな立場で結合されます。単一の専門領域では生まれない新たな商品開発のアイデアが創出されるわけです。
戦略的人材育成プログラムも知識結合の場として機能します。
新任向けには基礎知識を体系化し、2 ~ 3年目には事業部合同でのコンセプトづくりを通じて異なる事業部の知識を結合。中堅・リーダー層にはクリエイティブと経営知識を結合させる研修を提供します。
バリューチェーン全体を俯瞰する取り組みも重要です。
企画、開発、販売、コミュニケーションの各領域の形式知を統合し、ブランド経営の視点で全体最適を図っています。
[内面化] 実践を通じて形式知を自分のものにする
内面化は、組織の形式知を個人が実践を通じて学び、自身のスキルや感覚といった暗黙知として体得します。
サントリー食品インターナショナルでは形式知を個人の暗黙知として血肉化する仕組みが整っています。
開発チームでは、若手が実際のプロジェクトを通じて学んだことを体得していきます。
インサイトの捉え方、コンセプト設計、チーム運営などを実践の中で身につける。サントリー食品インターナショナルでは 「この1人だけは必ず育てる」 という覚悟での個別指導に力を入れています。
日常業務での 「くせ付け」 も重要です。
フィードバックを研修だけでなく日常業務で実践することによって、本気で良くしたいという姿勢が自然に身につきます。上司から部下へのリスペクトが組織文化として定着し、それがさらなる知識創造のサイクルを生み出すことでしょう。
このように、サントリー食品インターナショナルの組織づくりは、SECI モデルの4つの段階が有機的に連携し、知識創造が絶えず行われる 「インサイトフルな組織」 を実現しています。
現場での暗黙知獲得を起点とし、それを組織全体で形式知化・結合・内面化するサイクルが、サントリー食品インターナショナルの競争力の源泉となっているのです。
まとめ
今回は、サントリー食品インターナショナルの組織開発の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- SECI モデルは、個々の暗黙知を形式知に変え、組織全体で共有する知識創造プロセス。共同化、表出化、結合化、内面化の4段階から、暗黙知と形式知が相互作用し、新たな価値を生み出す
- 現場起点で暗黙知を共有する 「共同化」 。サントリー食品インターナショナルは現場訪問やスクラム型チームでの対話により、生活者のリアルな感覚や経験を組織で共有する場をつくっている
- 議論と提案による 「表出化」 。アドバリューの文化のもとで、得られた気づきを積極的・建設的なフィードバックや提案を通して言語化し、形式知に変換
- 多様な知の融合による 「結合化」 。専門領域を横断する開発体制や人材育成プログラムによって、異なる形式知を結びつけ、新たな知識やアイデアを創出する
- 実践と習慣化による 「内面化」 。プロジェクトや日常業務に落とし込み、形式知を個々の暗黙知として体得。組織文化として定着させている
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